34話 番外編 レムの1日 前編
レムの1日はまずアリスのベッドで目を覚ますことから始まる。
「……レム、おはよう」
「おはよう」
レムは普段、アリスのベッドで寝起きしていた。
彼女に抱きしめられながら、柔らかな胸、布団にくるまり眠っている。
最初は『ぱぱといっしょがいい』と主張したが、キリリに却下された。
『レム様も、既に大きいですからシュート様と一緒には眠れないんですよ』と。
レムは意味が分からず『?』と首を傾げた。
年齢だけなら産まれたばかりのためまだ0歳であるが、彼女達に言わせれば『見た目はそうではないから、ダメ』とのことだった。
結果、帝国首都の離れでも、ダンジョン都市『ノーゼル』領主館でも、レムはアリスと一緒の布団で眠っていた。
レムにとってアリスは最初は『まま』だった。
『まま?』と最初、問いかけたら。
『……そう、自分がママ』とアリスが口にした。
だからレムにとってアリスは最初『ママ、母親』という認識だった。
しかし、紆余曲折合って最終的にアリスは、
『……まま――お姉ちゃん』というようになったせいで、『まま? おねえちゃん? まま?』とやや認識が曖昧になり、未だに落ち着いていなかった。
結果、『ままお姉ちゃん』とやや認識がズレているが、好きな存在なことには変わらない。
起きるとまずアリスに抱きつき頬を擦りつける。
「んんぅー」
「……ふふふ、レムは甘えん坊。ちょー可愛い」
アリスも嬉しそうに受け入れ、髪を撫でつつ自らも頬を擦りつけてくれた。
「おはようございます、姫様、レム様、湯浴みの準備が整いましたよ」
アリスの次に顔を合わせるのは従者のキリリだ。
キリリの声を聞くと、レムはベッドから抜け出し彼女の元へと向かう。
「おはよう」
「はい、おはようございます。レム様は今日も元気ですね」
レムにとってキリリこそ『姉』という認識が強い。
なので迷いなく甘えることが出来た。
レムは両手を伸ばし、抱っこをせがむ。
キリリもニマニマしながら、レムを抱き上げた。
「レム、きょうもげんき」
「元気なのは良いことです。早く湯浴みをして、食堂へ行きましょうね。シュート様をお待たせする訳にはいきませんから」
レムが返事をしつつ、キリリにも愛情表現として頬を擦りつける。
キリリは嬉しそうに彼女の行為を受け入れつつ、準備をうながす。
レムにとってキリリは優しく、時に厳しい姉という印象が強かった。
「……むぅ、キリリ、自分の方がレムと仲が良い」
「姫様、朝からアホな張り合いは止めてくださいよ。ほら、早く湯浴みしてください」
アリスの嫉妬を軽く受け流し、キリリは母親のように湯浴みを急かす。
アリスの場合スキル『ウォッシュLV8』が有るため極論すれば湯浴みなどしなくてもいいのだが、
「淑女として嗜みです。レム様がマネするから拒否とかしないでくださいよ……」
キリリが呆れ半分、頭痛半分の表情でアリスを諭した。
レムとしては温かいお湯に入るのは気持ちが良いので、湯浴みは好きだった。
なので苦痛ではないが、
『まま? おねえちゃんはゆあみ、にがて?』と何となく気付いていた。
苦手な理由までは分からない。
しかし、レムと一緒なら渋々ながら入るため、キリリに押し切られ湯浴みするのが朝の恒例行事になっている。
レムも湯船に浮かんだ花を食べようとして、キリリに怒られたのは今では良い思い出だ。
湯浴みを終え、朝食を取り終えると――ダンジョン都市『ノーゼル』まで来た目的を果たすための行動を開始する。
☆ ☆ ☆
『グゴォオオオオォォォォォオォォォオォッ』
ダンジョン25階層。
雄叫びを上げ、角が生え、赤茶の肌をした1体のオーガが突撃してくる。
レムはアイテムボックスに入っている装備を、スキル『早着替えLV5』によって素速く切り替える。
「ねこみみもーど」
レムは猫耳型ヘッドフォンを頭に装着する。
手足などにある球体関節を隠す部分以外の装備は極力排除され、静音性、速度を追求したスタイルだ。
装備は腰に下げているナイフ型ゴーレムのみ。
レムはすぐさまナイフ型ゴーレム×2を抜き取り、突撃してくるオーガに対して自ら走り寄った。
『グゴォオオオオォォ!』
「まけない、にゃん」
互いにほぼ全速力だっため間合いはすぐさま詰まる。
当然、背丈、手足のリーチが長いオーガが先手を取った。
オーガは雄叫びを上げ大木のような棍棒を振り下ろしてくる。
レムは怯えることなく、さらに加速!
棍棒が虚しく地面を打ち、周囲に散弾のごとく砕いた石、土などを撒き散らす。
本来ならかすり傷一つくらいは負う所だが、レムはオーガを盾にするかのように背後に回り込み破片を全て回避。
回避する所か、彼女が装備する手袋、靴型ゴーレムにはスキル『吸着』を覚えさせている。そのスキルを使い倍以上あるオーガの背丈を一瞬で昇り、首をナイフで切断。
血が吹き出るより早く、体を蹴って距離を取る。
時間にして数秒の早技だ。
空中で本物の猫のようにひらりと一回転してから着地すると、ナイフをしまいトテトテとシュートへ駆け寄る。
そのまま足に抱きつき、見上げた。
「ぱぱ、どう?」
「よくやったレム。凄いぞ!」
シュートに頭を撫でられると、レムは嬉しそうに自らも手のひらに擦りつける。
レムにとってシュートは『ぱぱ』であり、彼に褒められたり、抱きしめられたりするのが一番嬉しい。
なぜかシュートの側にいると安心し、『大好き』という気持ちが強くなるのだ。
レムとしてはアリス、キリリも好きだが、やはり一番はシュートなのである。
彼女は顔を上げ素直に口に出す。
「ぱぱ、大好き」
「ははは! ありがとうレム。オレも大好きだぞ!」
シュートはレムの発言に相好を崩しさらにわしゃわしゃと頭を撫でる。
一通りレムを褒めると、『猫耳シーフモード』の考察を始めた。
「レムの敏捷が高いのもあるが想像以上に速度があるのと、身長差がある相手ならスキル『吸着』はかなり有効っぽいな。問題はやっぱり防御能力が低いことか……」
今回はレベルアップの他に、普段使用していないモードのテストをおこなっていたのだ。
よく使用するのは遠距離タイプの『ウサギ耳集音装置ゴーレム&バックパック給弾式PKM(擬き)』だ。
次が『犬耳型ヘッドフォン&ゴーレム×5体』である。
意外と熊耳重騎士と猫耳シーフの使い所が無く、実戦テストのため今回はわざわざ使用していた。
猫耳シーフは諜報や軽快な移動を優先している。
故に球体関節部分を隠す以外、極限まで音を鳴らさない、重量軽減のためどうしても装甲が薄くなってしまっているのだ。
シュートの考察にアリスが声をあげる。
「……装甲だけじゃなく、前も指摘した通り、薄着過ぎる。シュート様のデザインセンスと猫耳レムは可愛いけど、露出が多いのは駄目、はしたない」
エッチな話題が苦手なアリスは、『猫耳シーフモード』の露出に不満を漏らす。
最初、見た時もデザインの可愛さは褒めていたが、露出の多さを気にしていた。
肩回り、ヘソ、太股も遠慮無く露出している。
「レム、きにしないよ。あつい、さむい、へいき」
レムが声を上げ主張する。
実際、レムは元々ゴーレムから産み出された新種族(?)だ。
そのせいか外気の温度変化には異常に強い。
例え裸のまま雪山に放り出されても凍えないし、日中の砂漠でも問題なく活動が可能だ。
しかしアリスが問題にしているのはそこではない。
「……レムが平気でも駄目。はしたないから駄目」
アリスは地面に膝を突き、レムと視線を合わせた状態で再度繰り返す。
レムとしては『なぜ肌を出すとはしたないから駄目なのか』が分からないが、駄目なモノは駄目なのだと雰囲気で察していた。
アリスの主張にシュートが考え込む。
「ならいっそのこと魔法繊維でピッタリと覆う肌着を作るか? 魔力を流せば並の鎧より硬くなるようなヤツで。そうすれば軽量化しつつ防御能力が向上、露出も減って良いことずくめだ! ……資金はかなりかかりそうだがな」
「……さすが賢者シュート様、天才。お金なんてレムのためなら余裕!」
シュート、アリスは仲良く意見を交換しあう。
レムはもっと構って欲しいと、シュートの足に自分の頬を擦りつけ訴えてみた。
「はいはい、お喋りはそこまでですよ。新しいオーガがこっちに向かって来てますから。どうするか決めて頂けないと」
「今度は3体か……。レム、そのまま向かってくるオーガ3体と戦ってみてくれないか? 複数だった場合の戦闘を見ておきたいから」
「やー」
「……レム、頑張って!」
大好きなシュートにお願いされて、レムは名残惜しげに足から手を離す。
アリスの声援を背中に受けながら、駆け出し背後から再びゴーレムナイフを2本抜く。
そのまま向かってくるオーガ×3体を倒すため突撃したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
今回はレム編!
レムの1日を書かせて頂きました……ということで今回は前半部分、明日が後編です。
最近、気付くと書く文章量が増えてしまって……。
レム編は明日で終わりますので続きを是非読んで頂ければ嬉しいです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
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