33話 番外編、アリス編3
こちらの世界でも指輪は『婚約者に贈る物』というのが一般的な考えだ。
そのため、今の手持ちにある材料ではさすがに中途半端な物しか作れないので指輪は却下。
指輪以外でアリスにどんなプレゼントを贈ればいいだろうか……。
オレは客間リビングテーブルに『中央大森林』で取れた宝石の原石、鉱物、他材料を並べて腕組みしながら考え込む。
「ペンダントはどうだろうか?」
ペンダントなら今ある材料でもそこそこの物が作れるし、普段も付けられて服の下に入れておけば邪魔にもならない。
割と悪くないアイデアだと思う。
「うん、ペンダントは悪くないな。そうするとあまりゴテゴテした成金のような物じゃなくて、シンプルなデザインで作った方がいいな」
アイデアが纏まれば後は作るだけだ。
アクセサリーなど前世と今生含めて作ったことはないが、オレには『スキル創造』がある。
既に『鍛冶LV8』、『裁縫LV8』、『皮加工LV8』、『生産技能LV8』、他にも生産にかかわるスキルは習得済み。
他に必要なスキルがあればすぐに『スキル創造』で作ることが出来る。
オレは早速腕をまくって、アリスに贈るプレゼント製作に取り掛かった。
☆ ☆ ☆
アリスが私服を着崩し、場末の娼婦のように誘惑してきた当日の夜。
オレは彼女が使用している客間を尋ねた。
アリスは姉ミーリスから説教を受けた後、『今日1日部屋で反省しているように』と指示を受けた。
当然、食事は抜き、普段はレムと同じ部屋だが、今回は反省をうながすため彼女はキリリの部屋で一晩過ごすことになっている。
アリス的には食事を抜かれるより、レムとの交流を経たれた方が辛いのではないだろうか?
そんなことを考えながらノックすると、返事がする。
オレは扉を開き中へと入る。
アリスはオレの姿を確認すると、驚きで目を見開いた。
「……賢者シュート様?」
「アリスと話がしたくて。ちゃんとミーリスさんからは許可を取っているから安心してくれ」
さすがに説教が効いたのかアリスはいつも通りの私服姿で、声も普段に比べて暗い。
オレはしっかり許可を取っていることを伝え、リビングソファーへと移動する。
テーブルを挟んで向かい側に座るのではなく、一緒に同じソファーへと腰を下ろす。
「…………」
アリスの顔色が優れない。
どうもミーリスだけではなく、オレにまで説教をされるのかと身構えているようだ。
正直、ここまで怯え、落ち込んでいるアリスを見るのは初めてである。
戦闘になるとビックベアー相手にも引き下がるどころか、前に出る勇敢な彼女からは想像もつかない姿だ。
少女を怖がらせる趣味は無いため、さっさと用件を切り出す。
オレは昼間1人で製作したペンダントの入った木箱を取り出し、アリスへと差し出す。
「アリスにこれを受け取って欲しいんだ」
「……? これを自分に? 開けてもいい?」
「ああ、もちろん」
お説教ではなく、なぜか木箱を差し出されたことにアリスが戸惑いつつ、蓋を開く。
「……!? 賢者シュート様、これって」
「オレの手作りで悪いんだが、アリスのために頑張って作ったんだ。よかったら受け取って欲しい」
鎖は銀で、中心に据えられたアリスの赤い瞳をイメージして大粒のルビーを加工し、普段付けていても邪魔にならないようシンプルなデザインを意識して作った。
個人的にもそこまで見た目は悪くないペンダントだと自負する出来だ。
「……迷惑をかけている自分に、どうしてこんな素敵なペンダントを?」
「迷惑なんて思っていないよ。むしろ、そういう意味ならオレの方がアリス達にかけているしね」
実際、剣聖騒動もオレの『スキル創造』が原因で、他に準亜神剣『クリムゾン・ブルート』や準亜神、レムなど――迷惑ならオレの方がアリスの何倍もかけている。
オレは軽く咳払いして、頬が赤くなるのを自覚しつつ素直に気持ちを伝える。
「今はまだ色々あってドタバタしているけど、もう少し落ち着いたらアリスに贈るための指輪を作るつもりだったんだ」
「……指輪ッ」
『指輪を贈る』と聞いてアリスの頬がオレ同様に赤くなる。
この世界の常識として結婚、婚約したい相手に指輪を贈るのが一般的だ。
オレは羞恥心から逃げ出したくなるのを堪えつつ、気持ちを伝える。
「お金を出して指輪を買うより、気持ちを込めるならオレ自身が作ろうと考えていたんだ。けど、納得出来る材料が無いから中途半端な物しか作れそうになくて……。だから、もっと状況が落ち着いて、オレ自身が納得できる物を作れたら渡そうと考えていたんだよ」
一呼吸、置く。
軽く息を吸い、吐いてから続けた。
「だから、もう少しだけ待って欲しい。落ち着いたらちゃんとアリスにオレの気持ちを伝えるから」
「…………」
「そのペンダントは今まで待たせてしまったお詫びの品だ。どうか受け取って欲しい」
「……嬉しい。今まで生きてきて一番嬉しい」
アリスは大きな瞳から喜びの涙をこぼし、ギュッとペンダントを愛おしそうに大切に両手で胸に抱きかかえる。
アリスは溢れ出る気持ちを言葉にするように告げた。
「……待ち続ける。例え、命が尽きて生まれ変わったとしても待ち続ける」
「そこまで待たせるつもりはないよ」
オレは微苦笑しながら、取り出したハンカチで彼女の嬉し涙を拭う。
アリスはされるがまま嬉しそうに微笑みを浮かべた。
そんな彼女の笑みはどんな宝石よりも美しかった。
☆ ☆ ☆
「姫様、おめでとうございます!」
「きれー」
「……ありがとうキリリ。レム、見るだけ。引っ張ったら壊れるから駄目」
翌朝、起きていつも通り食堂へ行くと、すでにアリス、レム、キリリが顔を出していた。
アリスは早速いつもの私服に、昨日贈ったペンダントを身に付けていた。
全体的に白を基調としたアリスの衣服に赤ルビーはピンポイントで目立つ。
既に彼女から『オレの手作りプレゼント』と聞いているのか、キリリが自分のことのように声をかけ、レムは物珍しいのか、手を伸ばし触れようとしている。
昨晩はキリリの部屋で寝ていたため、レムは彼女に抱きかかえられ、アリスのペンダントには腕を伸ばしても触れられない。
オレが食堂に顔を出し、朝の挨拶をする。
皆からも返事をもらった後、キリリに抱きかかえられていたレムがじたばたもがき始めた。
キリリは逆らわず素直に床に下ろすと、レムがとてとて歩きオレの足に抱きつき、見上げてくる。
「ぱぱ、レムのは?」
「あぁぁ……」
アリスのプレゼントしたペンダントを指さし、コテンと首を傾げる。
その仕草は可愛いが、流石にレムのペンダントは準備していない。
レムからの催促に弱っていると、再びキリリが彼女を抱き上げる。
「駄目ですよ、レム様。淑女が直接プレゼントを強請るなんてはしたないですよ。それに甲斐性があって、女性の気持ちの機微に聡いシュート様なら可愛いレム様に何もしないなどありえませんよ。ええ、姫様だけプレゼントを贈るなど」
オレに背を向けキリリはレムを諭す。
諭しながらも、キリリ自身、オレからのプレゼントが欲しいと背中越しにありありと伝わってくる。
別に彼女も高価な品物が欲しいわけではない。
『シュート様からのプレゼントが欲しいのだ』と雰囲気から伝わってくる。
前世日本時代、女性の恨みを買わない方法は、『平等にする』ことらしい。それが男の甲斐性だとか。
(まぁ別にまだ材料はあるし、キリリやレムのを作るぐらい余裕なんだが)
オレは微苦笑をひとつ漏らし、近日中に2人のペンダントも作るためデザインアイデアを脳内で考えるのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
と、言うわけでアリス編でした。
次はレム編をアップさせて頂ければと思います!
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