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32話 番外編、アリス編1

 朝、起きて仕度を終えて朝食を摂るため食堂へと顔を出す。


「おはようござ――!?」


 オレが食堂に入ってほんの少し経つとアリス、レム、キリリ達も顔を出す。オレは振り返って、皆に朝の挨拶をしたが途中で止まってしまう。


「……賢者シュート様、おはようございます」

「ぱぱ、おはよう」

「おはよう、ございます……」


 アリス、レムはいつも通り挨拶をしてくる。

 キリリだけは両手で顔を押さえ項垂れながら、掠れた声音で挨拶をした。

 彼女が顔を押さえ項垂れる理由にオレ自身、すぐ気が付く。

 途中で朝の挨拶が止まったのも、それが原因である。


 その原因とは――。


 アリスの着ている私服が可笑しかったのだ。

 正確に言うならいつもの清潔なブラウスに、ロングスカートだが着方が可笑しいのだ。

 いつもはボタンをキッチリ留めて、ロングスカートも足首が隠れる長さだった。

 なのに今日に限ってはなぜかボタンを胸元まで開けて背丈の割りに大きな胸の谷間を露出。右肩だけブラウスを下げて肌面積を増やしていた。

 さらにロングスカートを折り曲げているのか、真っ白な足を露出させている。


 なぜか今日に限ってアリスの私服の着こなしがだらしなくなっているのだ。


(アリスの甲冑も両肩を露出しているが、あれは防御より肩の可動を重視したデザインだからだ。決して今のようにだらしなく露出するためのものじゃない。いったい彼女に何があったんだ?)


 恰好自体はだらしないが、アリスは非常に整った美少女で、男性なら誰しもが夢中になるほど蠱惑的な体つきをしている。

 正直、オレ自身、目のやり場に困る。


 アリスを直視しないよう気を付けつつ、キリリに対して『何があったんだ』と訴えかける視線を向けるが、彼女は顔を両手で覆ったままだ。

 時折、キリリの口から『けっぷぅ……』という異音が漏れ出る。


 その異音だけで理解してしまう。


(ああ……いつもの胃が痛くなる案件なのか……)


 オレ自身、状況を理解し思わず遠い目をしてしまった。

 その視線を何と勘違いしたのか、アリスが突然、しなを作る。

 まるで場末に居る娼婦が誘惑するような態度だ。


「……うっふ~ん」

「けっぷぅ」


 オレの口からキリリ同様の異音が漏れ出る。

 前世、日本時代の記憶を思い出したオレ自身、アリスの誘惑(?)は色気より居たたまれない、黒歴史製造を目の前で見せつけられている気分だ。

 出来ることなら『イタタタタタタタタッ』と叫び声を上げたいぐらい痛い!


(オレは一体、なんの罪でこんな目に遭わないといけないんだよッ!)


 あまりの出来事に思考がフリーズ。

 レムがアリスのマネをしてシナを作って、『うふん』と遊んでいるのを止めさせるタイミングすら失う。

 メイド達もさすがにアイスバーグ帝国三女の奇行を止める勇気はない。

 朝から食堂がカオスな空気に包まれてしまう。


 しかし、そこに救世主が欠伸をしながら食堂に顔を出した。


「ふわぁぁぁ~おはよう。完徹したが、折角だから寝る前に一緒に朝食でも食べようと思っ――!?」


 アリスの姉ミーリスが、食堂に顔を出す。

 どうやら昨日からずっと研究に没頭していたらしい。

 タイミングが良いからと朝食を一緒に摂って、寝るつもりだったようだが、妹の奇行を前に眠そうだった目が一気に冴える。

 冴えるどころか、眦が般若の如く吊り上がった。


 ミーリスはすたすたとアリスへと歩み寄ると、ずり下がった右肩ブラウスをずり上げる。

 さらに怒り顔を近づけ、地獄の底から響くような声音で問う。


「おい、愚妹。朝から何をしている。オマエはいつ冒険者から場末の娼婦に転職したんだ? あん?」

「……べ、別に転職なんてしていない。第一これはいつもの私服。姉様に非難される覚えはない」

「無いわけないだろうが! このアホが! キリリ! 従者としてどうして諫言しなかった!」

「私も頑張ったんです……頑張ったけど止められなかったんですよ……」

「ああ、もう……」


 いくらキリリでも、アリスが強行したら止めるのは至難だ。

 立場、腕力的にアリスに敵うはずがない。

 ミーリスも理解しているため、キリリの発言を聞いて二日酔いになったかのように頭を抱える。


「あー、分かった。キリリ、この件は不問とする。レムちゃんも愚妹のマネをしちゃ駄目だぞ。アホが移るから」

「やー」


 ミーリスは今後の対応を素速く脳内でまとめまずキリリに責任が無いことを明言した。 次にアリスのマネをしているレムを抱きかかえ、教育に不適切な行為を止めさせ、やんわりと釘を刺す。


「レムちゃんは意外と重いんだな。でも温かくて癒されるわ。あー、本当に可愛い」

「んー」


 ミーリスはまるで子猫を可愛がるようにレムを抱きしめ、彼女の頬に自身のを擦りつける。

 レムも嫌がる様子を見せず、ミーリスに返答するかのように自身から頬を擦りつけ始めた。


 一通りレムを可愛がった後、床に下ろす。

 先程までレムに癒されとろけていた表情を、再び般若顔に戻しアリスの耳を掴んだ。


「愚妹、オマエは今から説教だ。付いて来い」

「……姉様、痛いッ。耳を引っ張らなくても自分で歩ける!」

「いいから黙って付いてこいアホ娘め! 騒がせて悪かったな。賢者殿達はあたし達に構わず朝食を食べてくれ」


 ミーリスは返事を聞く前に、アリスの耳を引っ張り食堂を後にする。

 食堂にオレ、レム、キリリだけが残された。


「「…………」」

「ぱぱ? おなか、いたい?」


 アリス達が退出した後も、微妙な空気が残る。

 オレとキリリは居たたまれない雰囲気のまま暫し動けずにいた。

 心配したレムが足に抱きついてくる。

 彼女のお陰でオレは再起動することが出来た。

 レムの頭を撫で、抱き上げる。

 レムは子猫のように頬を擦りつけてきた。

 彼女なりの愛情表現にほっこりしながら、キリリへと声を投げる。


「キリリ、食事が終わったら詳しい話を聞かせてくれ」

「了解しました……」


 朝から予想だにしないトラブルに見舞われたが、とりあえずオレ達は朝食を摂るため席へと着いたのだった。




 ☆ ☆ ☆




 今日はダンジョンに潜る予定だったが、アリスの奇行とミーリスの説教、そして説明を聞くため中止とした。

 微妙な話になりそうだったため、レムをメイド達に預けてオレとキリリは2人っきりで私室リビングで向き合う。


 つい昨日『2人っきりになるのは珍しいな』的発言をしたのに、昨日の今日で2人っきりになるとは……。

 微妙に気まずい。


 キリリがお茶を淹れて、テーブルを挟んだ向かい側のソファーへ座る。

 軽くお茶を口にした後、彼女から話を聞き出したのだった。


スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!

次はアリス編!

ちょっと長くなったので分割しました。続きは明日!


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] INT0の姫さまが暴走しとる…(汗) まあ、従者に先越されて行き遅れ警戒するのは仕方ないにしても… 明後日の方向に行きすぎや…(笑) なお、色気が皆無という残念賞(酷)
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