29話 お礼
『ドラゴンの牙』&凶化暴走水精霊の問題も解決し、ようやく平和な時間を取り戻したと思ったら……また厄介事が目の前に登場した。
オレが飲んでいたカップを置くと、容量以上の水が天井まで立ち昇り人の形を作ったのだ。
発声器官が無いにもかかわらず、『こんにちはー。助けてくれてありがとー。水精霊だよー』と声さえかけてきた。
キリリの表情、声音からも絶対に厄介な案件だと簡単に推測できる。
とはいえ、放置する訳にもいかず、取り出した武器を一度しまい席に座り直す。
自称、水精霊もカップに入るサイズまで戻ってもらい、皆で囲って話を聞く。
「えーと、まず名前やお礼から推測するに、水精霊さんは、ダンジョン内部でオレ達が倒した『凶化暴走水精霊』でいいのかな?」
『そうだよー。正確に言えばあの子もまた水精霊で、水精霊もまたあの子なんだよー』
「……?」
アリスが水精霊の説明に首を傾げる。
彼女だけではなくレムやキリリも似たような反応を示していた。
この場で彼女の説明を理解しているのはオレだけのようだ。
とりあえず皆に分かり易いようフォローする。
「つまり、あのダンジョンで倒した『凶化暴走水精霊』は、目の前に居る水精霊自身でもあったんだよ」
喋りながら、ティーポットに入っているお茶をアリスとキリリのカップに注ぐ。
「今、ティーポットに入っていたお茶を2つに注いだが、元々は一つの存在だっただろ? だから元を辿れば『凶化暴走水精霊』は、目の前に居る水精霊自身でもあるってことなんだよ」
「……?」
「……なるほど。不思議なお話ですね」
「レムも、なんとなく、わかった」
レム、キリリは『なんとなくだが理解した』ようだが、アリスは一向に首を捻っている。
うん、まぁアリスだしな……。
一方、オレの説明にカップに収まった水精霊が興奮気味にパタパタ動く。
『凄いのー。水精霊の存在をそこまで理解した人に初めて会ったのー』
オレが飲んでいたカップに小人サイズの水精霊が賞賛を贈ってくる。
見た目透明の人型だが、やはり手放しで褒められるのは嬉しいものだ。
『水精霊はずっと封印されていて、封印がなぜか解けたけど、倒してくれたお陰で水精霊が戻ってくることができたのー。だからそのお礼をしに来たんだよー』
「わざわざありがとう。別に気にしなくてもいいのに」
オレ達の胃ダメージ的に、気にせずそのままスルーしてくれた方が嬉しかった。
さすがに口には出せないが。
オレ達の会話に首を傾げ続けていたアリスがようやく復帰する。
「……つまり目の前の水精霊は、自分達が倒した水精霊ってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
「……あんな凶暴な怪物と目の前の水精霊は似ても似つかない。一体何があってあんな凶暴になったの?」
「「!?」」
アリスが何も考えず疑問を口にする。
オレとキリリが絶対に危険な案件だからと口にしなかった話題に踏み込んだのだ。
オレ達が止めるより早く水精霊が説明する。
『あのね魔王っていう魔物が居た頃ね――』
彼女の話を要約すると……。
魔王全盛期、勇者と剣聖と大魔術師がパーティを組み戦いを繰り広げていた。
『このままではいつまで経っても魔王を倒せない』と考えた勇者が、水精霊を対魔王兵器とする案を出す。
水精霊という存在は、この世界に水が存在する限り滅びることはない。
他精霊も似たような存在だが……。
ほぼ無敵の存在ゆえに、一部だけを切り離しダンジョンで手に入れたブラックオーブ『スキル暴食』を無理矢理覚えさせ、魔王&配下の魔物達にぶつけて敵戦力を削ろうとしたらしい。
結果、水精霊が暴走。
魔王戦力にぶつける前に、人類側を襲ってスキルを奪い続けた。
勇者達は凶化暴走水精霊に手も足も出ず、なんとかダンジョン奥地に誘導し封印するのがせいぜいだった。
しかも、凶化暴走水精霊を誘導し、ダンジョンに封印したのが精霊使いという名の初代『スキル創造』者だった。
『最初のスキル創造者は水精霊達と仲が良かったけど、勇者達とは仲良くなかったのー。水精霊を作り替えようとする案にもずっと反対していたんだー。凄く優しいでしょー』
最後まで反対していた初代『スキル創造者』の力を使い、この計画が実行され、失敗。
最終的に『スキル創造者』が実験の尻ぬぐいをしたようだ。
オレが思い付いた『ブラックオーブ作戦』は取らず、封印した理由はいまいち分からない。
単純に思い付かなかっただけか?
『勇者達はね、折角スキル創造者が頑張って問題を解決したのに怒っていたのー。「自分達でどうにか出来た。出しゃばるな」って。そしてね、勇者達だけで魔王を退治するって言って行方不明になったんだよー』
「「けっぷぅ」」
オレとキリリの口から異音が漏れ出る。
水精霊が無邪気に過去を暴露するせいで、オレ達の胃にダメージが与えられた。
彼女は話を続ける。
最終的に勇者、剣聖、大魔術師が死にかけていた所を精霊使い――改めスキル創造者が助け出す。
そして、勇者、剣聖、大魔術師に足を引っ張られながらも、最終的にほぼスキル創造者1人で魔王&敵軍勢を撃破。
勇者達がこの件で逆恨みをしているのを察知して、面倒事になる前に初代スキル創造者は彼らの前から姿を消したらしい。
(2代目スキル創造者が、初代の情報を碌に探し出せなかった理由って勇者達が情報を消したからってことか? さらに『酷い目に遭い続けた』というのも……もしかして勇者関係?)
これはオレの勘だが、ほぼ正解のような気がする。
勇者教が、魔王を倒したのが勇者、剣聖、大魔術師、スキル創造者――ではなく、精霊使い&大精霊にしているのもそういう理由なのだろう。
(まさか過去の真実をこんな形で知ることになるとは……)
アリス、レムはともかく、キリリは知りたくもなかった歴史の真実を聞かされて頭を抱えていた。
もう『けっぷぅ』と異音を漏らす気力さえない追い込まれっぷりである。
一方、水精霊はマイペースに話を続けた。
『だから何度も助けてくれたスキル創造者にお礼をしに来たのー』
水精霊はカップから立ち上がると再び、水を伸ばしオレへと触れてくる。
水精霊のお礼とは――。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
やってねシュート君&キリリちゃん!
まだまだ胃が痛くなる話が続くよ!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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