27話 対凶化暴走水精霊討伐作戦2
ブラックオーブとは?
使用すればスキルを得ることが出来るが、その対価として代償を必要する。
代償の内容も様々で精神異常、体の魔物化、殺人衝動の強化など――マイナス効果が付随するスキルオーブのことだ。
ブラックオーブの名前通り、見た目も黒いので見分けるのは容易い。
ダンジョン都市『ノーゼル』ですら滅多に出ない代物だが、発見した場合、ギルドに報告&提出する義務がある。
仮に違反して提出せず使用したり、外部に持ち出そうとした場合、例えS級冒険者ですら厳罰の対象となるほどだ。
それだけ危険で安易に使用するにはリスクが大きいのである。
とはいえダンジョン都市『ノーゼル』で今まで発見されたブラックオーブは4つ程度だとか。
別の見方をすれば、普通のスキルオーブより貴重ともいえた。
オレはこの『ブラックオーブ』を大量に作り出し、凶化暴走水精霊へ取り込ませて弱体化させようと考えたのだ。
『スキル創造』を持つ者がいなければ絶対に出来ない討伐方法である。
当然、バッドステータスだけで、有用なスキルを付与はしない。
問題は2つあり――まず一つは『ブラックオーブ』を『スキル創造』で創れるのか?
ミーリスに凶化暴走水精霊討伐許可を得た後、早速『スキル創造』で『ブラックオーブ』を創ってみた。
一応、創れたは創れたが……。
『なんだこの禍々しいオーラというか、気配のするオーブは……』
試しに一つのバッドステータス『自壊』を付与したオーブを創り出した。
『自壊――取得すると自身の肉体、精神などが徐々に崩壊していく』というスキルオーブだ。
これを一般人が取り込んだら、数分も持たず肉体、精神がクズクズとなり死亡するだろう。
自分で創っておきながらアレだが……非常に怖いバッドステータスだな。
手のひらに出現したオーブは普段の光るのとは違って、黒色をしていた。
さらにオーラというか、気配というかが非常に禍々しい。
手に持っているどころか、時間が停止しているはずの『アイテムボックスLV9』の中に入れていてもぞわぞわとした怖気、寒気が止まらなかった。
正直、手元に置き続けるのは勘弁して欲しいレベルである。
とりあず一番問題だったブラックオーブを創れることが判明。
コストパフォーマンスも非常によく魔力1で創り出せた。
後は大量に創り出し、凶化暴走水精霊に与えるだけだ。
そして最後の問題は――こんな危険物を凶化暴走水精霊が取り込むのか?
オレ自身、最後の問題についてはあまり心配していなかった。
理由として、最初の一戦で凶化暴走水精霊は何も考えず、攻撃をし続けていただけ。
魔法もただ乱発し、触手槍を伸ばしていただけだ。
理性も、本能も無いただ動くだけの怪物。
故に禍々しいオーラを放つブラックオーブも難なく取り込むと予想していたのだ。
オレ達に向かってくる凶化暴走水精霊へ向けて、ブラックオーブを一つ投げつけると――。
「予想通り取り込んだな」
「あんな見るからにヤバイ物を躊躇いなく取り込むとか……シュート様の仰る通り凶化暴走水精霊に理性も、本能も無いっていうのは本当なのかもしれませんね」
「……知力がゼロの自分でもブラックオーブは危険だと分かる」
「レムも、わかる」
アリスが自身の『知力ゼロ』をネタに断言した。
彼女が自身を例に上げるほどブラックオーブは危険な雰囲気を漂わせていているのだ。
アリスの言葉を横で耳にしながら、転移で迫り来る凶化暴走水精霊の直上へと移動。
残りのブラックオーブを全て吐き出し、アリス達が待つ場所へと戻った。
凶化暴走水精霊は躊躇いなくブラックオーブを全て呑み込み『スキル暴食』によって自動的にバッドステータスを取り込んでいく。
『自壊』に『毒耐性無効化』、『毒化』、『猛毒化』、『異常耐性無効化』、『身体強化無効化』、『HP強化無効化』『HP半減』、『HP減少』、『精神耐性無効化』、『MP強化無効化』、『魔法耐性無効化』、『物理耐性無効化』、etc――。
とにかく思い付く限りのバッドステータスをブラックオーブにした。
さらに凶化暴走水精霊の持つ『スキル暴食』は『補食した相手から一定の確率で所持しているスキルを奪い取ることが出来る』スキルだ。
漏れがないように各種かなりの数を用意した。
そんなブラックオーブを余すことなく取り込んだ凶化暴走水精霊はというと……。
『ビギバィjバbヲwjゴmバ!?』
つい先程まで猪の如く猪突猛進していたが、悲鳴を上げるとカタツムリほどの速度まで落ちる。
動きだけではない。
バッドステータスを取り込んだ後、巨体が波打ち大、中、小に分裂すら始める。
分裂してバッドステータスから逃れようとでもしているのだろうか?
スキルは分裂したからと言って分離できる物ではない。
このまま放置すれば、自滅しそうだが……。
「折角だし、アリス達のLV上げに使わせてもらおうか。どうやら戦う気力どころか、反撃する力も残っていないようだし」
もちろん危なくなったら助けに入るつもりだ。
しかし放置してLV上げの機会を失うのも勿体ない。
しっかりと有効活用させてもらおう。
オレの提案にアリス達はというと、
「……無駄に苦しませるのは可哀相」
「レム、れべる、あげる」
「えぇぇぇ……私があの勇者様すら倒せなかった伝説的魔物の止めを刺すなんて……恐れ多すぎて胃が痛くなるんですけど」
アリス、レムは前向きな声をあげ、キリリは自身が得た機会に気後れしていた。
キリリの気持ちも理解出来るが、気後れよりはLV上げの機会の方が重要である。
オレは彼女達をうながし、凶化暴走水精霊への止めを刺しに発破をかける。
「キリリ、気持ちは理解できるが、諦めてくれ。むしろ、小さな塊でも見逃して後々変な問題にならないよう心してくれよ」
ここまで弱り切り、バッドステータスで苦しんでいる凶化暴走水精霊だが、一部見逃して奇跡的にバッドステータスを克服し再び力を取り戻された場合、厄介事にしかならない。
ほぼほぼそんな事にはならないと思うが……世の中、絶対は無い。
なので遠慮せず、確実にここで仕留めておきたいのだ。
オレの説明にキリリも表情を引き締める。
「確かにシュート様の仰る通り、その可能性は極わずかですがありますね。申し訳ありません。そこまで気が回らず、恐れ多いなどと口にしてしまい……」
「気にしないでくれ。キリリの気持ちも理解できるからさ」
「……さすが賢者シュート様、そこまで頭が回るなんて凄い!」
「ぱぱ、すごい、えらい」
キリリは申し訳なさそうに頭を下げ、アリスとレムは尊敬の眼差しを向けてくる。
オレは照れくさく微苦笑を漏らしながら、皆に改めて告げる。
「それじゃ凶化暴走水精霊の止めを刺そうか。小さな塊も見逃さず確実に仕留めてくれ」
この指示にアリス達は元気な返事をしてくれた。
アリス、レム、キリリの頑張りで凶化暴走水精霊は小さな塊も見逃さず炎に飲まれて煙すら残さず消えてしまった。
最後にオレが凶化暴走水精霊の居た広範囲を準亜神剣『クリムゾン・ブルート』で焼き払う。
「全てを深紅に染めろ! クリムゾン・ブルート!」
極太レーザーが草原の地面を抉る。
1度では終わらない。
二度、三度、四度――と、何度もクリムゾン・ブルートを繰り返し凶化暴走水精霊が存在した場所から広範囲にかけて抉り、削り、消失させていく。
30回を越えた時点でさすがに止めた。
凶化暴走水精霊が居た場所から数百mの草原だった場所は、草1本残さず抉られ、地面を露出させた。
さすがに凶化暴走水精霊も生き残ることは出来ないだろう。
こうして勇者すら倒しきることが不可能だった凶化暴走水精霊を、オレ達は倒すことが出来たのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
無事、凶化暴走水精霊戦終了!
最初はもっと派手なバトルをする予定でしたが、あれだけバッドステータスを受けて『激しく動く元気があるか?』と疑問を感じてこんな風になってしまいました。
とりあえず無事に凶化暴走水精霊戦を最後まで書けてよかったです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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