26話 対凶化暴走水精霊討伐作戦1
「『意味不明な怪物』の正体は、勇者ですら倒しきれず封印した『スキルを吸収する魔物』だって!?」
「はい、ステータスや所持するスキルなどから考えて、間違いないかと」
ダンジョンを出た後、心配そうに出入口で待っていたアリス達と合流。
領主館に帰還し、リビングでダンジョン都市『ノーゼル』のトップであるミーリスに報告する。
ミーリスは報告を聞いて頭を抱えた。
「どこかの地に封印されていると記録されていたけど、まさかうちのダンジョンだったとは……。こんなの想定外にも程があるわよ」
これはあくまでオレの勘でしかないが、『水精霊』という名前から勇者が火山地帯に封印したのではないか?
所詮ただの勘で、現状を好転させる要素でもなんでもないが。
頭を抱えていたミーリスが顔を上げると、トップに立つ人物らしい表情で決断を下す。
「賢者殿、偵察ありがとう。賢者殿の指摘通り、ただの冒険者に任せていたら死者が出るだけでまともな情報は得られなかっただろう。お陰で腹が決まった。ノーゼル領主として街を放棄する。伝説の魔物を相手じゃ分が悪い。今すぐアイスバーグ帝国皇帝――父上に連絡をとって、討伐軍を編成してもらわないと……。賢者殿はアリス達を連れて帝都に避難してくれ」
「ミーリスさん、ちょっと待ってください」
彼女は凶化暴走水精霊討伐を帝国軍に任せると決断後、オレ達だけではなく、街住人の避難や1秒でも長く敵を足止めし時間を稼ぐ方法を考え出す。
しかしオレは彼女の考えに待ったをかけた。
「伝説の魔物――凶化暴走水精霊退治はオレに任せてくれませんか?」
「駄目だ。賢者殿は帝国の恩人で、世界の宝でもあるんだ。賢者殿の命は、あたいや妹達も含めこの街の住人全員でも釣り合いが取れない。そんな賢者殿を足止めに使うつもりはないよ」
彼女はオレの提案を一蹴する。
住人の避難、帝国軍が到着するまでの間、オレが自身を犠牲に凶化暴走水精霊の足止めを買って出たと勘違いしているようだ。
ミーリスの気遣いが嬉しくて、つい笑みを浮かべてしまう。
オレは真面目な話のため、表情を整えてから切り出す。
「安心してください、ミーリスさん。別に自己犠牲で命と引き替えにして凶化暴走水精霊の足止めを買って出ている訳じゃありません。オレならある意味、簡単に奴を倒すことが出来ると考えているんです」
「いやいや賢者殿、相手は勇者様ですら倒しきれず封印するしかなかった伝説の魔物でしょ? いくら賢者殿でも簡単に倒すのは無理でしょう……」
「まだ実験していないので絶対ではありませんが――」
オレは訝しがるミーリスに思い付いた『対凶化暴走水精霊討伐作戦案』を聞かせる。
一通り案を聞いた後、ミーリスは片手で顎を押さえ考え込む。
「確かに賢者殿の案が上手くいけば倒せそうだけど……」
「はい、なので再度、ダンジョンに潜る許可を頂けると助かるのですが」
「…………」
ミーリスはアイスバーグ帝国次女として恩人である『スキル創造』者の身の安全、ダンジョン都市『ノーゼル』領主として街の安全を天秤に掛ける。
とはいえオレはスキル『転移』のお陰で余裕を持って凶化暴走水精霊から逃げ切ることが出来た。
逃げるだけならそう難しくない。
さらに倒せる可能性が存在するのだ。
どちらを選択するのかは明らかだろう。
ミーリスが顎から手を離し、改めてオレへと向き直り頭を下げる。
「……賢者殿、ノーゼル領主として凶化暴走水精霊討伐を依頼する。どうか街を、皆を救ってくれ頼む」
「こちらから申し出たのですから、喜んで」
返事を聞くと、ミーリスが頭を上げて安堵の表情を作る。
オレは彼女に断りを入れると、早速『対凶化暴走水精霊討伐作戦』に必要な物の準備に取り掛かった。
その『物』とは――。
☆ ☆ ☆
「うわぁ……あれが勇者様ですら倒せず封印したという伝説の魔物『凶化暴走水精霊』ですか……。動きが気持ち悪いですね」
「あれ、たべられる?」
「……あんなの食べたら駄目。いくらレムでもお腹を壊すから絶対に食べちゃ駄目ッ」
キリリが遠目から凶化暴走水精霊を目視すると、感想を漏らす。
続いてレムが子供らしくなんでも口にする発言をした直後、アリスが厳しい口調で諫めた。
アリスの指摘通り、カップや団子の串を食べてもお腹を壊さないレムでも、さすがに凶化暴走水精霊を食べたらお腹を壊すどころか、逆に食べられかねない。
アリスではないが、食べようとしたらオレでも全力で止める。
「おっ、オークの群を食べ尽くしたから、そろそろこっちに気付いて襲ってきそうだな」
25階層で氷漬けにした凶化暴走水精霊だが、やはり足止めはしきれずいつの間にか復活。
そのままダンジョンを逆走し、現在はオークメインの15階層草原で暴れ回っていた。
今回はオレだけではなく、万が一の場合に備えてアリス達も同行する。
どうやら数日前、オレが1人で偵察をしに行っている間、ずっと心配でヤキモキしていたため『今回はどうしても同行したい』と押し切られてしまったのだ。
彼女達の気持ちも理解できるのと、今回は凶化暴走水精霊退治中に他魔物の横槍が入らないようにして欲しかった。
なので彼女達に護衛兼横槍防止要員として同行してもらったのである。
「シュート様の予想通りこちらに向かって動き出しましたね……って、想像以上に動きが速い! 気持ち悪い!」
オークの群を食い尽くした凶化暴走水精霊が、遮蔽物の無い草原をオレ達目掛けてうねうねと走り寄ってくる。
キリリ的に気持ちが悪い動きだったらしく、思わず声に出したようだ。
一方でアリスとレムは気にせず戦闘態勢を取る。
オレはというと、凶化暴走水精霊が攻撃をしかける前にさっさとこのために準備した『対凶化暴走水精霊用トラップ』――ブラックオーブをアイテムボックスから取り出し、全力で相手に向かって投げつけたのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
バトルシーンまで行けると思ったのですが、そこまで進めませんでした。
中途半端に正解が出てしまいましたが、正解は『ブラックオーブを使用する』でした。
本当なら『ブラックオーブを使用した』戦闘シーンまで行きたかったのですが……どこまで到達できす申し訳ありません。
明日こそバトルシーンがあるので、是非是非お楽しみに!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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