24話 正体不明の怪物、その正体は?
地下『尋問室』から地上へ上がり、つい先程までいた客室リビングへと戻る。
リビングでは変わらずアリス、レム、キリリがお茶会を開き、オレが戻るのを待っていた。
オレがリビングに戻るとまずレムが駆け寄り抱きついてくる。
彼女を抱き上げると、グリグリと額を擦りつけ、愛情表情を示す。
一方でアリス、キリリの表情は落ち着いていた。
彼女達はオレが『スキル剥奪』、『スキルオーブ破壊』スキルを所持していることを話し済みだ。だから地下で『ドラゴンの牙』が制裁を受け、オレ達に二度と危険を及ぼさなくなったことも理解している。
オレはレムをアリスに預け、キリリが改めて淹れてくれたお茶に口を付けつつ『ドラゴンの牙』が起こした問題を口にする。
「……『意味不明な怪物』を『ドラゴンの牙』が復活させた?」
「またろくでもないことになっていますね。スライムのような見た目で魔法も使い、切っても再生し声を出すとか本気で意味不明な怪物ですね……。不幸中の幸いは彼ら以外に被害を出さないうちに冒険者達を引き上げ、ダンジョンを閉鎖できたことですか」
「とはいえいつまでも封鎖している訳はいかないだろう? その『意味不明な怪物』を放置する訳にもいかないから、ミーリスさんから許可を取り次第、オレ1人でちょっとその怪物の偵察をしてくるよ」
「「!?」」
この提案にアリス、キリリが驚愕の表情を作る。
レムはマイペースにお菓子を食べ続けていた。
「ちょ!? 何を言っているんですか!? シュート様は『スキル創造』という伝説中の伝説のスキル持ちで、世界の宝的存在なんですよ!? シュート様がそんな意味不明な怪物の偵察をして万が一があったらどうするですか!? 姫様じゃないんですから、わざわざ自分から危険に突撃しないでくださいよ!」
「……キリリの言う通り、賢者シュート様が危険を冒す必要はない。もし偵察が必要なら自分が行く」
キリリが反対し、アリスが『自ら行く』と言い出すのも予想通りだ。
地下室から上がるまでに考えていた台詞を口にする。
「2人の気持ちは嬉しいが、今回の偵察にオレほどの適任者はいないぞ? 鑑定持ちで、転移でダンジョン内部ならある程度瞬時に移動できる。ダンジョン都市『ノーゼル』で一番強くて、どんな状況だろうと対応できる自信があるし」
オレほどの適任者もおらず、流石に2人も黙り込む。
さらに駄目押しを告げる。
「他冒険者に任せたら確実に死者が出る上、下手したら情報を持ち帰ることすら出来ない。情報も得られず、指をくわえている間に『意味不明な怪物』がダンジョンから溢れ出たら街にどれほどの被害が出て、人が死ぬか……。だったら確実に情報を得られる、場合によってはその場で倒す事が可能なオレが偵察に行くのが効率的で、安全で、一番被害が出ないだろ?」
「……だったら自分も一緒に行く」
アリスの顔に『最悪自分が楯になっても賢者シュート様を助ける』と書かれてあった。
オレはすぐさま却下する。
「駄目だ。相手の情報はほぼ無しで、どんな状況になるか分からないから、身軽に動ける1人で行った方がいいと思う。大丈夫、無理はしないから」
「……自分は足手まとい?」
「違うよ。役割分担をしようって話さ」
眉根を下げるアリスに、オレは微笑みを浮かべ慰めの台詞を返す。
アリスは膝に乗せたレムをギュッと抱きしめる。
アリス、キリリはそれ以上の反論が出来ず黙り込むしか出来なかったのだ。
やや強引だが、2人から強行偵察の許可をもぎ取る。
後は地下で『ドラゴンの牙』アイゼンへの対処をしているミーリスに対して同じような話をして許可を取るだけだ。
ややぬるくなってしまったお茶に口を付けて、オレはミーリスが地下から戻ってくるのを待ち続けたのだった。
☆ ☆ ☆
予想通りミーリスもオレ単独での強行偵察を最初は反対した。
『帝国の恩人で、今回の被害者、迷惑をかけた賢者殿に危険な役目を押しつける訳には……』
しかし、アリス、キリリにした話を再度すると、彼女もぐうの音も出ず渋々ながら許可を出す。
ミーリスから許可を得ると、すぐさま武装を整え、閉鎖されたダンジョンへと移動する。
ダンジョン周辺は警備兵士&冒険者達で溢れていた。
日銭を稼がなければ生活できない下級冒険者にとっては死活問題のため、一部警備兵士に食ってかかる勢いだ。
そんな彼らのやりとりを一般人が野次馬として見物している。
オレ達は馬車から降りると、その溢れかえった群衆を掻き分けてダンジョン入り口に到達しなければならないのだが……。
「ひぃ!?」
「す、スキルマスターだ!」
「そ、尊厳解放マスターが来たぞ!」
「に、逃げろ! 尊厳を解放されるぞ!」
「馬鹿野郎、早く道を空けろ! 人前で尊厳を解放されてもいいのか!?」
下級冒険者だけではない。
一部、噂を耳にした一般人ですら怯えて道を空けてくれた。
(……逆に考えるんだ。人混みを掻き分けダンジョン出入口まで行く苦労をしなくてもよかったと)
内心で『尊厳解放マスターってなんなんだよ』と思いつつ、ミーリスから受け取った許可書を警備兵士責任者に提出。
オレ達だけが固く閉ざされていたダンジョン出入口の扉、内側へと足を踏み入れる。
普段ダンジョン出入口は、冒険者の入場列、外出列で混雑している印象が強い。
今回は封鎖されているため、数名の警備兵士達は居るが、がらんとした空間だけが広がる。
オレはここまで見送りに来てくれたアリス、レム、キリリへと向き直る。
「それじゃチャチャっと中に入って『意味不明な怪物』の偵察をしてくるよ」
「ぱぱ、がんばって。ちゃんと、かえってくる?」
「もちろん、こんな可愛いレムが居るんだ。オレが戻ってこないはずないだろ?」
オレはレムの頭を撫でると、彼女も自ら擦りつけてくる。
「シュート様、少しでも危険を感じたら戻って来てくださいね。冗談やフリじゃなくて本気で言ってますからね」
「分かっている。絶対に無理はしないから安心してくれ」
キリリは心底心配そうな瞳で訴えてきた。
オレは微苦笑を漏らしつつ、断言する。
「……賢者シュート様、ご武運を」
「アリスもオレがいない間、皆を頼む。何も無いと思うが一応な」
最後にアリスが心配を押し殺し、それでも夫を見送る武士の妻のような態度を取る。
オレは少しでも彼女の心配を払拭するように笑顔を浮かべ、不在中の後を託す。
皆に挨拶を終えると、オレ1人でダンジョン内部へと足を踏み入れた。
(考えて見れば1人でダンジョンに入るのは初めてだな)
いつもならアリス、レム、キリリの4人と一緒に入っていたため、一抹の寂しさを覚える。
だが寂しさに浸っている訳にはいかない。
(さっさと『意味不明な怪物』の位置を特定して、情報を得て戻ろう。アリス達を心配させ続けるのも申し訳ない気分になるからな)
気持ちを切り替え、オレはすぐさま移動を開始する。
まずは5階層へ。
次に10階層、15階層、20階層、25階層と区切って移動していくつもりだ。
途中、移動痕跡があったら、その後を追いかける予定である。
索敵方法を決めると、オレは早速5階層へと転移した。
☆ ☆ ☆
結論から言うと『意味不明な怪物』は25階層で捕捉した。
『ピギィギィィィポビィアイィリアィジョアイガアバワギィッギ!』
スライムのような粘液生物の癖にどこから声をあげているか分からないが、気色悪い雄叫びをあげてオーガ達を貪り喰っていた。
オレはその間に『意味不明な怪物』を『鑑定LV9』で確認する。
名前:凶化暴走水精霊
年齢:■■■■■■■■
種族:水精霊
状態:凶化、暴走、狂乱
LV:80
体力 :50”0=/50<?>
魔力 :10@3b00/1000#%
筋力:bなおいhgは/がばもうhぐhぐg
耐久:¥00*b/¥00`@
敏捷:あぽおjg@いq/を@4いjgみ
知力:>*POJ*O/ぼいmwふぁw
器用:l@bそk/q@あががわw
スキル:『スキル暴食』『火魔法LV8』『水魔法LV8』『風魔法LV8』『土魔法LV8』『闇魔法LV8』『身体強化LV8』『回復LV8』『超回復LV8』『MP回復速度LV8』『攻撃魔法強化LV8』『再生LV8』『生命感知LV8』etc――
称号 :なれはての精霊
「『スキル創造』を得てから初めて自分よりLVが高い存在を目にしたぞ。そのせいか『鑑定LV9』でもほとんどまともに確認できないとか……。本当に『ドラゴンの牙』はろくでもないの存在を復活させやがったな」
オレは愚痴を漏らしながらも背中に冷たい汗を思わず流してしまうのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
一つ前の話で、アイゼンの処遇に不満が出ず安堵しております。
『どうやってアイゼン達に落とし前をつけるのか?』と考えたら、『スキルオーブ破壊』&『スキル剥奪』を思い付きました。
『スキル剥奪』はともかく、『スキルオーブ破壊』はこの世界の住人からすると下手な拷問より辛い罰です。ですが『読者様にそれが伝わるのか』とちょっと不安でしたが、問題無くてよかったです。
さらに今回はシュート以上の強敵出現! この怪物にシュートがどう戦うのか? 是非お楽しみに!
また3月27日に『信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ』します!』
https://ncode.syosetu.com/n7378gc/
29日、30日総合日間ランキング1位にランクインしました!
これも皆様の応援のお陰です!
本当にありがとうございました!
これからも頑張って書いていくので応援のほどよろしくお願い致します!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
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