23話 もう一つのスキル
新たに取得したスキルの一つがこの『スキル剥奪』だ。
詳しい効果は以下になる。
『スキル剥奪』――自身のステータス、LV以下の相手が所持するスキルを『スキルオーブ』の形で剥奪することが出来る。
以上だ。
最初は『スキル奪取』、『スキル消失』、『スキル封印』などを取得しようとしたが、出来なかった。
スキルを与えることは出来ても、『与えたスキルを無効化させる』ことは非常に難しい。
その行いは一部例外を除き、スキルを司る神的存在達も安易に許可を出すわけにはいかないのかNGを出されまくった感覚を覚える。
試行錯誤の結果、なんとかいくつかの条件を付けることで『スキル剥奪』を得ることが出来た。
魔力1万で取得できた。
時間操作、転移などに比べれば格安である。
ちなみに条件は――。
ひとつ、自身のステータス、LV以下の相手のみ。
ひとつ、スキルオーブの形に戻す。
ひとつ、直接相手に触れ、1分間動かず制止し続けなければならない。この時、スキル使用者の全能力が低下する。
格上や同格相手には使えず、1分間動けなくなる。
さらに『この時、スキル使用者の全能力が低下する』。防御能力はほぼ0となり、ただのナイフ1本で殺害が可能だ。
大きなデメリットだが、『相手のスキルを剥奪』出来る神のごとき力と考えれば割り切るしかないだろう。
実際、スキルを奪われたアイゼンだけではない。
「あっ、えぇ……」
相手からスキルを奪う――なんて神のごとき力を前にミーリスですら限界まで目を広げて驚愕し、口から異音を漏らす。
オレが新たに得たスキル『スキル剥奪』を使いアイゼンから4つのスキルを剥奪する。
両手に光が集束し4つのピンポンサイズの球が出現する。
鑑定で確認すると『格闘LV6』、『怪力LV5』、『身体強化LV5』、『韋駄天LV5』だ。
彼のステータスを確認する。
名前:アイゼン
年齢:25歳
種族:ヒューマン
状態:衰弱・中混乱
LV:45
体力 :250/250
魔力 :15/15
筋力:45
耐久:45
敏捷:30
知力:5
器用:10
スキル:
称号 :『ドラゴンの牙』リーダー
無事、スキルを奪えたことを確認した
ステータスの数値も以前見たより明らかに低くなっている。
「ま、まさか相手からスキルを奪うなんて……。そ、そんなマネ、神以外、勇者ですら討伐し切れなかった伝説の怪物ぐらいしかいないのに。なのに、それをこんなあっさり実現させるなんて……ッ」
動けないアイゼンはともかく、ミーリスはオレから無意識に距離を取った。
『スキルを剥奪される』
この世界においてそれがどれほど恐ろしいことか……。
この世界に産まれて運良くスキルを得る。
成長し、そのスキルを鍛えるため時間をかけ、努力し、時には命を懸けて成長させていく。
その人生の大半を掛けて成長させたスキルを第三者に無理矢理取り上げられるのだ。
前世日本人としての感覚をオレは持っているが、同時にこの世界で14年間生きてきた記憶もある。
自分の努力で育て上げてきたスキルが、奪われる絶望感はとてつもなく深く、激しいモノだということは理解できている。
大切に育ててきた我が子を取り上げられる以上の苦痛、絶望、悲しみ――といえば分かるだろうか?
だからアイゼンに対する罰の一つとして、『スキル剥奪』を選んだのだ。
アイゼンもステータスを確認せずとも、自身の肉体が以前より弱くなったのを体感で理解する。
オレの手のひらに乗る4つのスキルオーブを前に、我が子を取り上げられた母親のように激怒してくってかかる。
「そ、それは俺様のスキルオーブ……? か、返せ! 巫山戯るな、スキルマスター! 返しやがれ!」
ステータス能力が落ち、鎖に『隷属の首輪』をつけられているためまともに動けない。
それでも必死の形相でオレの手から自分が長い年月かけてきたスキルを奪い返そうと、血を吐く勢いで繋がれた鎖を鳴らす。
オレは冷たくアイゼンを見下ろす。
「それは俺様のスキルなんだぞ! 返せ! 返さないとブチ殺すぞ!」
「…………」
オレは黙って見下ろし続ける。
さすがのアイゼンも事態が差し迫っているのを感じ、勢いを増し叫んでくる。
「巫山戯るな! 確かに俺様はスキルマスターの命を狙った! だがそんなのは当然のことだろう、俺様のお陰でこの街は成り立ってるんだぞッ! 俺様がこの帝国を支えてやっているんだ! 皆が俺様の意見に従うべきなんだよ! 俺様のお陰でオマエ達、皆が生活できているんだから当然だろうが! だから返せ! 俺様のスキルを返せぇぇえええッッ!」
アイゼンが自分勝手な理屈で咆吼してくる。
しかし、当然だが彼への罰はまだ終わらない。
オレは冷たく彼を見下ろし、新たに取得したもう一つのスキルを使用する。
「スキル『スキルオーブ破壊』」
「!!!!???」
アイゼンの目の前で4つのスキルオーブに罅が入り、亀裂が広がり、最終的に粉々に砕け散ってしまう。
『スキルオーブ破壊』――スキルオーブを破壊するスキル
取得するために必要な魔力は1000だ。
本来スキルオーブを破壊することは不可能だと言われている。
実際にスキルオーブを破壊しようとする者などほぼ居ないだろうが。
一般的によくオークションにかけられる『騎士LV1』で最低金額が白金貨10枚(10億円)する。
スキルオーブを作り出す研究をして、結果が全く出ていないこの世界で誰がそんな稀少なオーブを壊そうと考えるか?
また一部では『スキルオーブは神がお作りになったアーティファクト』と主張する者もいる。
そんな神から与えられた物を破壊しようと考えを思い付く方が可笑しいのだろう。
最初は取り上げた後、再利用も考えたのだが……。
子供を利用する外道のスキルオーブなど他の第三者に与えるのも、アイテムボックスに入れているのも嫌で結局は破壊を選択した。
そしてアリス、キリリがドン引きし、怯えたのも『スキル剥奪』より、この『スキルオーブ破壊』についての方が強かった。
だが、お陰で効果は覿面である。
「や、止めろ! 止めてくれ! あぁぁぁぁ……あぁぁあ、ぎゃぁぁああぁぁぁぁぁああぁッ!!!」
アイゼンが狂ったように声音を上げる。
人生を懸けて育ててきたスキルを強制的に奪われ、目の前でオーブを粉々に破壊されたのだ。
ただ奪われただけなら、再び奪い返すなり、取り戻す可能性があっただろう。
しかし、そのスキルオーブを目の前で二度と使えないように粉々に砕いて破壊した。
彼が狂ったような悲鳴を上げるのは必然である。
「無力な子供を利用し、オレ達を殺そうとした罪はスキルの剥奪、破壊を持ってオレからの罰とする。他人を安易に殺そうとしたんだ、人生を失う覚悟が出来ていないとは言わせない。自分がそれだけのことをしたんだと自覚しろ。……ミーリスさん、後は煮るなり焼くなり好きにしてください」
「おっ、おお、あ、あたいが責任を持って処分を下すよ」
「彼の扱いが決まり、ミーリスさんの時間が出来たら一声お願いします。ちょっとお願いしたいことがあるので」
「わ、分かった。すぐに終わらせて時間を作るよ」
ミーリスは目の前でスキルを剥奪、破壊する場面を見せられ心底ドン引きしていた。
魔物コレクションで拷問をしようとしていたミーリスですらだ。
この世界の住人からすればどんな拷問より残酷な仕打ちを目の辺りにしたのだから、当然と言えば当然の反応だ。
オレは軽く一礼し、尋問室から外へ出る。
重い鉄扉の扉が閉まると、アイゼンのか細い悲鳴は途切れ、二度とオレは彼の声を聞くことは無かったのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
もうひとつのスキルは『スキルオーブ破壊』でした。
単純に剥奪だけでは罰にはならなそうなイメージだったので、目の前で大切なモノを破壊し、心をへし折る形にさせて頂きました。
アイゼンが心を折られるシーンを楽しんで頂ければ幸いです。
さて、一昨日(3月27日)にアップさせて頂きました新作短編――『信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ』します!』
https://ncode.syosetu.com/n7378gc/
明鏡自身が想像していた以上に大好評で嬉しい悲鳴を上げさせて頂いております。
正直、『無限ガチャ』はノリと勢いで書いた作品だったので、続きをまったく考えておりませんでした!
ですが感想等で温かい応援メッセージ&『続きが読みたい』という嬉しいお声を頂き、ここまで応援してくださった皆様に応えて是非連載版を書かせて頂ければと思います!
『無限ガチャ』連載版のアップ時期としては来月4月前半~中頃にアップさせて頂ければと考えております。
少々お待たせする形になりますが、『無限ガチャ』連載をアップする際、『無限ガチャ』短編最後に追記、また他連載作品(スキルマスター等)の後書きなどに告知させて頂ければと思います。
もちろん、早めに書けたらより早く前倒しでアップさせて頂ければと思います。
その際は是非応援のほどよろしくお願い致します!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




