15話 嵐の前の――
今日はダンジョンでのLV上げを休みにして、街へ買い物に出かける。
「姫様、姫様。レム様には髪の毛と同じ黒も似合うと思いますが、こっちの爽やかな青い色や白も似合うと思いませんか?」
「……キリリ、確かにそういう爽やかな色合いも似合う。でも、ピンク系統の可愛いのもレムには最高に合う」
「ピンクも可愛いですね。けど、もう少しフリルというか、リボンの飾りが欲しいです」
オレ、アリス、レム、キリリの4人で西貴族街の出入口側にある洋服店にお邪魔していた。
アリスとキリリは、自分達の衣服ではなく、レムを着せ替え人形に色々衣装を引っ張り出し喧々囂々と楽しげに意見を交わしている。
レムも嫌がらず、2人にされるがままの状態だ。
こんな平和に買い物が出来るのも、店が西貴族街の出入口側にあるお陰である。
(何度か休日でダンジョン都市を見て回ったが、西貴族街以外は本当に治安が悪いからな……)
一攫千金を狙い集まった冒険者達、親がダンジョンで命を落とし路頭に迷ったストリートチルドレン、魔物やトラップにより手足、目などを失った元冒険者、命を懸ける気概もなく農村から追い出された棄民など。
問題を抱えた人々がこれだけ集まれば、治安も悪くなるというものだ。
一度、オレ達は休日に南、東街へと行ってみたが……。
(孤児達がすぐ目に付くし、オレ達相手にスリをやろうとする命知らずもいたぐらい治安が悪いんだよな)
正直、あまり近付きたくない。
現在オレ達がこの洋服店に来ているのも、西貴族街がすぐ近くのため警備兵士が見える位置に居るからだ。
お陰で不審者が激減し、比較的安心して見て回ることが出来るのだ。
(治安は人が集まっているのと、こういう世界だから仕方ないとはいえ……孤児達やダンジョン出入口に屯するストリートチルドレン達を何とかしてやりたいんだよな)
レムと見た目同年代の子供が、小銭を稼ぐため荷物持ちでダンジョン出入口に待機する姿を毎回見るたび気分が落ち込む。
だが、キリリに『ダンジョン都市が出来て以来1度も解決していない問題』だと力説されている。
ミーリスにも確認したが、キリリの言葉通り、子供が荷物持ちで待機するのはどこのダンジョン都市でも存在する光景らしい。
彼女に溜息混じりに告げられた。
『あたい達も解決しようと色々議論や行動をしているが……。どうしても解決方法が見つからなくてね。孤児院の数を増やそうにも土地や資金が足りないし、炊き出しにも限界があるからね』
いくらアイスバーグ帝国でも予算は有限である。
また一時的にお金を出したからといって、全てが解決する問題でもない。
キリリが『安易に手を出さないように』と釘を刺してきたのは当然といえば当然だ。
(それに問題といえば『ドラゴンの牙』が静か過ぎるんだよな……)
ミーリスに報告後、彼女がノーゼルギルドマスターを呼び出し抗議。
ギルドマスターは胃が痛そうな、青い顔をしていたため、すぐに対応したはずだ。
『ドラゴンの牙』リーダー、アイゼンはプライドが高そうでメンツを傷つけられたら、黙っていられない性根のようだったため色々警戒していたのだが……今の所なんのアクションもない。
(冒険者ギルドで睨み付けられるぐらいはあるかもと思っていたけど……。『ドラゴンの牙』は何のアクションも起こさず再び50階層攻略に出たって話だし。ダンジョンに篭もるなら最低でも1ヶ月ぐらいは顔を合わせることはないだろうし)
オレには『転移LV4』があるため、ダンジョン1階から一度行った場所まで一瞬で移動出来る。
しかし普通は食料、水、武器・防具の予備、修理道具、テント、他消耗品などを大量に抱えてダンジョンを1階1階移動しなければならない。
アイテムボックス持ちが居れば、楽なのだが……。
早々、有効なスキル持ちなどいない。
居てもLVが低ければ内部に入れられる量もそこまで大きくないため、結局大量の荷物を抱えて移動しなければならないのだ。
それだけダンジョン深部を探査するのは大変なのだ。
(ギルドマスターに注意を受けたから頭を冷やすために、ダンジョンに篭もったとか?)
アイゼンの顔を思い出す。
あれはそんな殊勝な態度の持ち主ではない。
メンツを汚されるのが何よりも大嫌いで、絶対に報復を考え、実行してくるタイプだ。
(どんな嫌がらせか報復をしてくるかは分からないが、アリス達の安全も考えてしばらくは警戒を続けた方がいいな)
「ぱぱ」
彼女達の買い物を待っている間に、色々思考を巡らせていると――白いワンピースに麦わら素材のような帽子を被ったレムが駆け寄ってくる。
どうやらシンプルなコーディネートに落ち着いたようだ。
「れむ、かわいい?」
「ああ、可愛いぞレム。どこかのお嬢様のようだぞ?」
「いやいや、どこかのお嬢様って……。帝国がバックに付いている人の義理娘ですよ。下手な王侯貴族より上の立場になりますからね」
キリリがツッコンで来るが流す。
オレに褒められて嬉しかったのか、レムがその場で一回転。
白いワンピースの裾がくるりと広がる。
次にレムは麦わら帽子を取ると、オレへと差し出す。
「ぱぱ、これ被って」
「? 被ればいいのか?」
言われた通り被る。
手触り、広いツバなどまさに麦わら帽子である。
オレが被ると、レムが手を叩き褒めてくる。
「ぱぱ、かわいい」
「あははは、ありがとうレム。でもオレが被るよりレムやアリス、キリリが被った方が可愛いぞ、ほら」
レムの言葉に微苦笑を漏らし、麦わら帽子をアリスへと譲る。
「うん、やっぱりアリスの方がオレより似合うよ」
「おねえちゃん、かわいい」
「……に、似合う。か、可愛い。う、嬉しい、です」
「あら~」
アリスは恥ずかし過ぎたのか両手でツバを押さえると、帽子を深く被って顔を隠してしまう。
その様子をキリリはニヤニヤと楽しげに眺めていた。
普段のダンジョン内部での戦闘に比べると、非常に平和な時間が過ぎる。
☆ ☆ ☆
しかしシュート達は知らない。
『ドラゴンの牙』が既に彼らへの報復準備を着々と進めていることを。
また『ドラゴンの牙』側もこの報復がシュートの逆鱗に触れ、彼を激怒させる事実を今はまだ知ることはなかったのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
こういうアリス達が乙女な感じになるデート回も書いていて楽しいですね。
しかし、こんな平和も束の間!
次の話でついにドラゴンを倒したことのない『ドラゴンの牙』が動きます!
さて、どのような手を使ってくるのか?
次話も是非是非お楽しみに~!




