14話 ジャングル
30階層のオーガロード相手に装備の実戦テストを終えると、31階層へと足を踏み入れる。
31階層はアマゾンのジャングルのような場所だった。
木々が鬱蒼し視界が悪く、蔦が這い、地面も木の根がぼこぼこ姿を現し、泥も合わさり非常に歩きにくそうだ。
空を奇怪な声をあげつつ、見た目派手な鳥が飛んでいる。
移動が大変そうだが、何より蒸し暑かった。
「暑い……」
「暑いですね……話には聞いていましたがここまで暑いとは……」
「……レム、暑くない?」
「だいじょうぶ」
オレとキリリは暑さに愚痴をこぼし、アリスはレムの心配をする。
「でも41階層は火山や溶岩がメインって聞くし、それに比べればまだマシだな」
「これ以上、暑くなるとか……。41階層は行くの止めてもいいかもですね」
「いや、LVアップを考えたらもっと階層を深くしないと。それにドラゴンを見てみたいし」
キリリの後ろ向き発言をオレは却下する。
50階層はボスの『レッドドラゴン』が守っているらしい。
現在このレッドドラゴンが倒せず階層攻略が進んでいないとか。
折角、異世界で記憶を取り戻したのだ。
レッサードラゴンは見たことがあるが、本物のドラゴンぐらい見てみたい。
またLV60を越えると非常に上がり辛くなるようだ。
初日はオーガでポンポン上がっていたのに、現在はかなり上がりが渋い。LVを上げるためにも階層を深くして、魔物を倒したかった。
「と、言うわけで30、40階層の攻略のため暑さ対策のアイテムを準備しておいたんだ。『冷却魔法スキル搭載ゴーレム型腕輪ぁ~』」
『冷却魔法スキル搭載ゴーレム型腕輪ぁ~』部分は、前世著名なアニメのロボットの声を連想して欲しい。
品物自体は、名前通り風、水魔法スキルを覚えさせたゴーレムを腕輪にしただけだ。
最大限魔力を注げば1日涼しくいられる優れ物である。
「……何で名前部分だけ声音を変えたの?」
「アリス、気にしないでくれ、ただのお約束だから」
「……?」
アリスはツッコムが、オレの返答に意味が分からず首を傾げる。
困惑している彼女達を放置して、さっさと人数分の腕輪を渡す。
「装備品としては規格外もいいところですが、周囲の空気が涼しくなっていいですね」
「……さすが賢者シュート様、これは凄く便利」
アリス、キリリは手放しで褒めてくる。
実際、オレ自身、良い品物を作ったという自負があった。
腕輪型で邪魔にならず、風、水魔法で周囲の温度を下げる。魔力も一度補充すればダンジョン内部の魔力濃度が濃いのもあり、『空気中に漂う魔力吸収』も合わさって、ほぼ1日使用可能だ。
問題があるとすれば、『冷却魔法スキル搭載ゴーレム型腕輪』を作るためには『スキル創造』が必須のため、大量生産に向かないということだろう。
一方レムはというと……。
「レムは必要ないのか?」
「やー(はい)」
元々ゴーレムのため温度変化に耐性が高いようだ。
彼女の体温が人肌なのも、あくまでオレ達が触れやすくするため。
逆に必要なければ、冷たくてもなんら問題ないようだ。
鑑定ですら把握し切れず未だに『新種族?』扱いだけはある。オレ達の知らない秘密がレムにはまだまだありそうだ。
とりあえず無事、涼しくなった所で31階層攻略を開始する。
☆ ☆ ☆
「グオオォオォオオォッ!」
階層の隅々にまで広がりそうな雄叫び。
体長6m、体重15トンはある体躯の『ビックベアー』が巨大な腕を全力で振り下ろす。
「……ふぅッ!」
しかし、相対するアリスは一歩も引き下がらず、『ゴーレム・ソード(大)』を振り抜く。
小細工抜きで正面からアリスの『ゴーレム・ソード(大)』とビックベアーの一撃がぶつかりあう。
「グオオォォォオオォォォォオオォッ!」
ビックベアーの悲鳴。
その声と連動するように、ビックベアーの腕が遠くのジャングルへと斬り飛ばされる。
アリスは正面からビックベアーの腕を切り裂き、吹き飛ばしたのだ。
彼女はこのチャンスを逃さず、さらに前へと出る。
「……ヤァァァァアァッ!」
「グオオォォ――ッ!」
気合一閃。
地面から露出している木の根っこ踏み抜き砕き、その力を体全体に走らせ『ゴーレム・ソード(大)』に送り、ビックベアーの首を一撃で切り落とす!
首を切り落とされたせいで、ビックベアーの悲鳴は途中で寸断させれてしまった。
首を失ったビックベアーの巨体は、地面に落ちた頭の後、遅れて地へと沈む。
初めてアリスを目撃した時も彼女はビックベアーと戦っていたが、苦戦の上での勝利だった。
あれから彼女は成長し、今回は2手で倒した。
圧勝と断言してもいいだろう。
彼女は敵が完全に沈黙したのを確認してから、オレ達へと振り返る。
「……ありがとう、賢者シュート様。我が儘を聞いてくれて。でもお陰で自分が強くなっているのを実感した」
「姫様……自分の強さを確認するならもっと違う方法もあったでしょう。わざわざビックベアーと1対1、正面から戦わなくてもいいじゃないですか」
従者のキリリは頭が痛そうにこめかみを押さえる。
オレはレムを抱っこしつつ、微苦笑を漏らす。
どうもこの31階層は『中央大森林』に似た魔物で構成されているようだ。
そのせいで移動途中、ビックベアーと遭遇。
『現在の自分の実力を確認したい』とアリスが申し出て、ビックベアーとの1対1の戦いをした。
結果はご覧の通りである。
アリスはあまり表情筋は動かないが、嬉しそうな表情、声音で告げる。
「……前は苦戦したビックベアーに圧勝できたのも賢者シュート様がスキルオーブや武器、鍛えてくれたお陰。前より強くなれてとっても嬉しい」
「アリスに喜んでもらえてオレも嬉しいよ」
美少女であるアリスが宝石や流行の衣服などではなく、巨大モンスターに圧倒できたことを心底喜んでいる。
『少女としてそれはどうなんだろうか……』と思わなく無い。
まあ本人が喜んでいるなら、よしとしよう。
ちなみに出会った当時のアリスのステータスはこんな感じだ。
名前:アリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグ
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:50
体力 :2000/2000
魔力 :15/15
筋力:1000
耐久:750
敏捷:100
知力:0
器用:50
スキル:『アイテムボックスLV5』『超怪力LV7』『直感LV7』『マルチウェポンLV5』『頑強LV6』『身体強化LV5』『超回復LV6』『ウォッシュLV8』『大食いLV4』
称号 :アイスバーグ帝国3女
次に現在はこんな感じである。
名前:アリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグ
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:60
体力 :5000/5000
魔力 :30/30
筋力:3000
耐久:2500
敏捷:400
知力:0
器用:400
スキル:『アイテムボックスLV6』『超怪力LV7』『直感LV7』『マルチウェポンLV6』『頑強LV7』『身体強化LV6』『超回復LV6』『ウォッシュLV8』『大食いLV6』『騎士LV5』『剣術LV5』『格闘LV5』『怪力LV5』『気配遮断LV5』『隠密LV5』『気配察知LV5』『健脚LV5』『逃走LV5』『韋駄天LV5』『HP強化LV5』『回復LV5』『魔力耐性LV5』『物理耐性LV5』『精神耐性LV5』『スキル経験値増大』『LV経験値増大』
称号 :アイスバーグ帝国3女
知力は以前と変わらずゼロだが、他数値は驚くほど伸びている。
LV上昇もだがやはりスキル補正の力が大きい。
知力は相変わらずゼロだが……。
倒したビックベアーをアリス自身のアイテムボックスに入れつつ、弾むような声音で告げる。
「……この調子でもっと、もっと強くなって賢者シュート様、レム、皆を守れるようになりたい。だから、魔物をもっと倒す」
「姫様、お気持ちは分かりますが女性としては如何なものかと……」
「……?」
流石に堪らずキリリが苦言を呈するが、アリスは心底『意味が分からない』と言いたげに首を傾げた。
「血生臭い魔物退治だけではなく、女性としての意識をもってくださいよ! 貴女は帝国の姫なんですから!? それにいくら容姿が整っていても勇ましい姿だけではなく、可愛らしい面を見せないと殿方に女として見られなくなりますよ? 姫様はそれでもいいんですか?」
ちらっとキリリがオレを一瞥してくる。
アリスも彼女の言葉に息を呑み、オレを盗み見た。
「姫様がそれでいいなら構いませんよ。姫様がそれでよろしいのなら。幸い私は嫁ぎ先を確保していますから」
「……い、いや。ちゃ、ちゃんと女性として見られたい」
「なら、もう少し配慮しましょうよ。姫様は見た目はいいんですから、見た目は。なので次のお休みに色々お店を見て回りましょう。シュート様、お付き合いよろしいですか?」
「も、問題無いよ。喜んで荷物持ちでも、何でも付き合うよ」
この流れで断れるほどの勇気は持ち合わせていない。
こうして休日の買い物が決定したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
初期アリスと現在を比較するお話を書かせて頂きました。
初期に比べるとまさに圧倒的伸び!
そして次話はデート回です。どうぞお楽しみに!




