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13話 報告

 領主館に戻り、夕飯を食べ終えた後、アリスの姉ミーリスに声をかけた。

『今日ギルドで「ドラゴンの牙」に因縁を付けられた。ギルドマスターに報告したいから都合の良い日を教えて欲しいと連絡が取りたい』と。


『ドラゴンの牙』と揉め事が起きたら、ギルドに一報して欲しいとは言われていたが連絡方法は聞いていなかった。

 オレが直接冒険者ギルドに乗り込み『ギルドマスターと連絡を取りたい』なんて言ったら目立って仕方がない。

 なのでミーリスを通して、連絡を取ろうと考えたのだが……。


 オレの話を聞いたミーリスが眼鏡越しに瞳を細める。


「へぇ、そう……この前の一件はあたいの仕切りで『多くの人が一時的に気絶したが回復し、問題は解決。遺恨無し』になったはずなのに賢者殿にちょっかいを出す奴がいたんだ。へぇ……」


 オレの方がミーリスよりステータス的に圧倒している。

 なのに彼女の声音を聞くと、背筋が冷たくなった。


「了解したわ。後はあたいの方でギルドマスターと話をつけておくから」

「あ、あの……ギルドマスターからは『自分で解決しようとせずギルドに相談して欲しい』と言われていて。オレも別に事を荒立てるつもりはないんで、なるべく穏便に……」

「了解したわ。後はあたいの方でギルドマスターと話をつけておくから」

「あっ、はい。ヨロシクオ願イシマス」


『Yes』と言わない限り、ループする選択肢のようにミーリスが繰り返す。

 彼女は話を聞き終えると『用事が出来たからあたいは抜けるわ』と一言断り老執事を連れて、夕飯後のんびり皆とお茶をしていた部屋を出て行く。

 オレはただ黙って彼女の小さな背中を見送ることしかできなかった。


「大丈夫かな……」

「……大丈夫。ミーリス姉様に任せておけば問題無し」

「姫様の言う通りここまできたらミーリス様にお任せするしかありません。第一、ミーリス様の仕切りで事を治めた問題をほじくり返した『ドラゴンの牙』と、下を抑えられなかったギルドマスターの自業自得です。シュート様が気にすることではありませんよ」

「それはそうなんだが……。接触してきた『ドラゴンの牙』リーダーはプライドが高いというか、傲慢なタイプだったから、今回の一件で拗れないといいんだけど」


 ギルドでの態度を見ていると、頭ごなしに注意されたら余計反発しそうで嫌な予感がする。


「ぱぱ、ぎゅー」


 心配し眉根を寄せていると、レムが励ますため抱きついてくる。

 彼女の体温がオレの中にある不安を和らげる。

 また何より心配してくれるレムが可愛い。


「……まま――お姉ちゃんもギューってして欲しいな」

「ぎゅー」


 レムの可愛さにほっこりしていると、アリスも両手を広げ彼女に要求する。

 レムはとくに躊躇わず、オレから離れるとアリスをぎゅっと抱きしめた。

 しかし本当にアリスはレムにメロメロだな。


 そんなオレ達の様子をキリリは、穏やかに眺めていた。


「胃が痛くならない平和な時間って最高ですね。あぁお茶が美味しい」


 オレやアリスによく胃を痛められる彼女らしい台詞に、つい微苦笑を漏らしてしまう。

 確かにキリリの言葉通り、こういう平和な時間は最高である。


(……何事もなければいいんだがな)


 しかし頭では嫌な予感が拭えず、つい思考がそちらへと流れてしまった。




 お茶を飲み、尿意を覚えてトイレへ向かう。

 途中、遠目だがなぜかギルドマスターが青い顔で廊下を歩いていた。

 ……どうやらすぐさま彼は呼び出され、ミーリスから抗議を受けたようだ。


(今回の胃痛枠は彼だったのか……)と、ついどうでも良い事を考えてしまう。




 ☆ ☆ ☆



 ギルドマスターは『ドラゴンの牙』が問題を起こしたら自分達で解決せずギルドに知らせて欲しい』とシュート達には伝えていた。だが、まさかダンジョン都市『ノーゼル』のトップであるアイスバーグ帝国次女ミーリス経由でそれを知らされるとギルドマスターも想像していなかった。


『ドラゴンの牙』から抗議を受けたその日のうちにギルドマスターは呼び出され、領主館へと向かう。

 老執事に案内され通された領主部屋には、すでにミーリスが待ち構えていた。


 彼女は1人掛けソファーに座り、足を組み、笑顔でギルドマスターを出向けた。

 目にする者全員に寒気を覚えさせる冷たい笑顔でだ。


 彼女の話を要約すると――。


『賢者殿が事件に関して、冒険者達とギルドには通常の2倍以上の見舞金をご厚意で下さった。それに感激してギルドマスターも納得し、他冒険者達を納得させる、問題は起こさせないと言ったのにどういうこと? 帝国のメンツを潰す積もりなの?』


 シュートは問題解決に動いてくれたミーリスへの分も含めて、多額の見舞金を冒険者達とギルドに渡している(シュートの懐具合から見れば大したお金ではないが)。

 しかし彼女は自分の分を一切取らずに、その賠償金を全て冒険者とギルドの見舞金へと回していた。今後のトラブル防止のためだ。


 想定の倍以上の資金支払いにギルドマスターは、『今回の件はこれ以上問題にしない』と約束。

 彼の言葉を信用し、ミーリス側も納得し『解決した』とシュート達に報告した。


 なのに『例の一件で絡まれた』と報告を受けたら、『メンツを潰された』と考えるのが当然である。

 何より可愛い妹達、帝国の恩義がある賢者の前で恥を掻かされた。

 ミーリスが内心で何を考えているのか?


 例え抗議を受けるギルドマスター以外でも簡単に想像が付くだろう。


 青い顔で領主館を辞去したギルドマスターは、すぐに『ドラゴンの牙』リーダーを冒険者ギルドへと呼び出す。

 例え夜が遅くても、直接釘を刺すためにだ。


『ドラゴンの牙』リーダーのアイゼンが顔を真っ赤にして怒鳴る。


 ギルドマスターは席に座り、正面に立たせたアイゼンの睨みを余裕の態度で受け流す。

 元A級冒険者ギルドマスターにとって彼の睨みに恐怖など一切感じない。

 先程まで相対していた、ミーリスの目が笑っていない笑顔の方が怖いぐらいだ。


「『今後スキルマスターへの接触を禁止する。破ったら罰を与える』とはどういう了見だ! ギルドマスターが一個人を贔屓するってか?」

「ああ、そうだ。シュート殿は『スキル創造』という規格外の力を持つ、世界の宝と呼ぶべき人物だ。謂われのない因縁を付ける輩を排除しようとするのは当然だろ」

「謂われのないって、こっちはメンバーを2人も離脱させられているんだぞ!」

「その分の見舞金は本人達が納得して受け取っている。オマエ達もその見舞金をそのまま本人達から受け取っていることはこちらも把握しているぞ?」


『だからこれ以上、余計なちょっかいを彼らに出すな』と言外に告げる。


「金は受け取ったが、それとこれとは別だろうが!」

「別ではないだろう。受け取った時点でこの件はお終いだ。もしこれ以上、引っ張るならギルドとしても相応の対応を取らせてもらうぞ。それでもいいのか?」

「……『ドラゴンの牙』はダンジョン最前線を走るトップギルドだぞ。俺達に罰を与えたら魔石、魔術道具、魔物素材が減るぞ? アイスバーグ帝国を支えている俺達が手を引いてもいいのか?」

「お主達とシュート殿、どちらを選べと言われたら、シュート殿に決まっているだろう。なによりオマエ達が手を引くのは確かに痛いが、致命傷ではない。ダンジョン産の素材を扱っているのはノーゼルだけではないからな」

「ッゥ……!」


『自分達がアイスバーグ帝国を支えている』と自負してきたアイゼンにとって、ギルドマスターの一言はどんなに鋭い刃よりプライドに刺さる。

 しかし、これ以上、抗議すれば自分達が不利になることも残った冷静な部分が告げていた。


「……分かった。これ以上『ドラゴンの牙(俺達)』は手を出さない」


 怒りで顔を真っ赤にしながらも、約束を口にする。


(俺様達は手を出さないと言ったが、『下部組織』や『第三者』に指示を出さないとは言っていないがな)


 アイゼンは面従腹背しつつ、部屋を辞去する。

 冒険者ギルドを出て、冒険者ギルドから十分な距離を取った所で怒りを露わにした。


「クソクソクソが! 昨日の今日どころか、今日の忠告に早速告げ口してやって……。先達の俺様達『ドラゴンの牙』に恥を掻かせた罪は絶対に償わせてやる。ダンジョンの洗礼をタップリと味わわせてやるぞ……ッ」


 アイゼンはシュート達への復讐、恥を掻かされた仕返しのため早速動き出す。

 ダンジョンの洗礼に必要な準備を整えるため、まずは自身のチーム本部へと足早に帰宅したのだった。


スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!

シュート達は平和な時間を過ごしていましたが、裏では――というお話です。

アイゼンはこれからどう動くつもりなのか?

その辺りを是非お楽しみに!


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタンがあります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] ボクちゃん親子といい、アイゼン氏といい、クズばかりですな… もう、キリリさんの『けっぷぅ』だけが癒しですよ(酷)
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