12話 接触
無事、レムの戦闘実験が終わり、30階から1階へと転移する。
ダンジョンを出て、冒険者ギルド裏手倉庫へ。
いつも通りアイテムボックス内部にある素材を下ろし、ノーゼル冒険者ギルドで査定金額を得るため中に入ると――。
「す、スキルマスターだ!」
「ひぃ、そ、尊厳解放マスターが来たぞ!」
「しィ! 静かにしろ! 目を合わせるな尊厳を解放させられるぞ!」
アイスバーグ帝国では剣聖との決闘後、『スキルマスター』という2つ名がついた。
ダンジョン都市『ノーゼル』では『尊厳解放マスター』なんて変な2つ名をつけられてしまう。
例えどれほど恐ろしい魔物相手でも勇敢に立ち向かう冒険者達が一様に怯え出す。さらには受付嬢すら目を合わせようとはしない。
剣聖に因縁を付けられた経験から、彼らに舐められないように威圧をした。
結果、冒険者ギルド内部にいた冒険者、受付嬢、身内すら無差別に気絶させてしまったのだ。
お陰で未だに『冒険者ギルド威圧事件』としてオレは恐れられている。
『冒険者に舐められない』という目標は達して、一目どころか、下手に手を出されない恐れられる存在になってしまったが……。
(自分がイメージしていたのと違い過ぎて釈然としないけどな……)
格好いい意味で『ちょっかいを出したらただでは済まない』存在を目指したのに、受付嬢さえ怯え『名前すら口にしてはいけない禁忌』的扱いを受けてしまう。
なのでオレだけ微妙に居心地が悪い。
自業自得のため文句も言えないが……。
キリリが空気を読み提案する。
「では私と姫様でお金の受け取りを済まして来ますので、シュート様はのんびりお待ち下さい」
「ああ……頼んだ」
オレが受け付けに行ったら、受付嬢さんが涙目になるからね。しかたないね。
若干ショックを受けつつ、オレは大人しく冒険者ギルドの隅へと移動する。
移動する際、モーゼの如く人波が割れるため、最短距離で移動できた。
もう逆にここまでくると便利である。
大人しく隅へ移動し、待っていると再び冒険者ギルドに平穏が戻る。オレの周囲数メートルに人は居ないが……。
(……今日の夕飯なんだろうな。照り焼き系のおかずは絶対に出てくるだろうけど)
ダンジョン都市『ノーゼル』で活動している間はずっと街の領主屋敷で寝泊まりしていた。
食事は基本料理長が手がけ、醤油&味噌とレシピを渡しているためプロが美味しく作ってくれている。
そしてアリスの姉、帝国次女ミーリスもなぜか照り焼きを気に入り、毎晩一緒に食事をする際、必ず一品照り焼き料理を作らせていた。
(醤油と砂糖の甘じょっぱい味には帝国姫様の味覚を虜にする物質でも含まれているのだろうか?)
もしくはアリス、ミーリスが姉妹だから好みが似ているだけの可能性もある。
ちなみにミーリスは魔物研究のため、いつ起きていつ寝ているのか分からない。確実に時間が分かるのが夕飯時だけだ。
ミーリスも妹と顔を合わせる、語らいの時間を取りたいのか夕飯だけは共にするべく時間を調整しているようだ。
(ミーリスさんって口ではアリスをからかうけど、彼女のことを可愛がっているよな。レムのことも親戚の子供のように可愛がるし……。レムは別にアリスとの間に出来た子供じゃないから、そういう扱いされると戸惑うんだが)
まさかミーリスに『レムは別にアリスとの間に出来た子供じゃないので可愛がらないでください』とは言えない。
単純にレムが可愛くて甘やかしているだけなのかもしれないからだ。
「オマエがスキルマスターっていうガキだな?」
「……はい、そうですが。貴方は?」
ノーゼル冒険者ギルドでオレに声を掛けてくる奴など居ないと考えていたため、反応が遅れる。
顔を上げると、オレより背が高い禿頭の男が見下ろし、睨んでいた。
背丈は2mを超えているだろう。
ノースリーブの上着に、ズボン。手っ甲のような武具、胸当て、立ち振る舞いから拳を主体とした格闘家タイプと予想する。
反射的に『鑑定』をおこなう。
名前:アイゼン
年齢:25歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:45
体力 :500/500
魔力 :30/30
筋力:120
耐久:100
敏捷:100
知力:10
器用:15
スキル:『格闘LV6』『怪力LV5』『身体強化LV5』『韋駄天LV5』
称号 :『ドラゴンの牙』リーダー
予想通り、格闘家タイプだ。
LV45とやや低いがスキルは4つもあり、一流とされるLV50に引けを取らないステータスになっている。
特に敏捷は一般的に考えるとかなり高い。
レムとキリリは敏捷は190だが……。
オレ達の場合、『スキル創造』でいくらでも強化できるため、比較にならない。
他2人が彼の後ろに控えているが、鑑定でチェックしてもたいしたLVでも、注意する点もないためスルーする。
問題があるとするならアイゼンの称号である。
『ドラゴンの牙』リーダー。
ノーゼル冒険者ギルド長が注意勧告していたチームのリーダーである。
不機嫌そうな態度から、オレに敵意があるようだが彼とは初対面だ。
オレは彼に敵意を与えるようなことをしたのか?
アイゼンが『ゴキリィ』と威嚇するように首の骨を鳴らす。
「俺様はこのダンジョン都市でトップチームを率いる『ドラゴンの牙』リーダーのアイゼンってもんだ。若いのが世話になったな」
「?」
本気で意味が分からず首を捻る。
ノーゼル冒険者ギルド長に注意された手前、『ドラゴンの牙』には関わらないようにしていたはずだ。
彼らのメンバーに手を出したことなんて無いぞ?
「おいおい、誤魔化すのは無しにしようや。オマエが睨みつけたせいでうちの若いのがこの街から逃げ出したんだ。『ドラゴンの牙』リーダーの俺様に何の断りもなくな」
「す、すみません」
思わず頭を下げる。
関わっていたよ!
そりゃあれだけの数、冒険者が居れば1人、2人ぐらい『ドラゴンの牙』メンバーが居るのは当然だ。
さすがにこちらに非があるため素直に頭を下げる。
アイゼンは苛立ちながら、声を荒げる。
「すみませんじゃねぇだろうが、すみませんじゃ!」
(こ、こいつ! 調子にノリやがって! 『尊厳』を解放させてやろうか!)
一瞬、熱くなるがすぐに冷静さを取り戻す。
『威圧』したら、アイゼン達だけではなく冒険者ギルド全体に影響を与えて気絶、尊厳を解放させてしまうかもしれない。
短期間で一度ならず二度までやったら、オレ自身の悪評となる。
なにより今回の件はこちらが悪い。
ここは素直に頭を下げる場面だ。大人になれオレ!
顔を上げるとアイゼンは睨みつけながら告げる。
「いいか新入り。ここにはここのルールがあるんだ。ギルドじゃ教えられない暗黙のルールってヤツがだ。……今回は新入りってことで大目に見逃してやるが次に調子に乗ったら『ドラゴンの牙』が敵に回ると思えよ」
「…………」
「はんッ! よく覚えておけよ。じゃあな」
尊大な態度でアイゼンが吐き捨てると、『言いたいことは言った』とギルド出入口に向かって歩き出す。
背後に居る部下達も習って外へと向かった。
「……賢者シュート様、絡まれていた?」
ほぼ入れ違いで受け付けを済ませ、金銭を受け取ったアリス達が戻ってくる。
レムを抱っこするアリスが、剣呑な視線をアイゼン達の背へと向けるが――。
「いや、何でもない。ちょっと世間話をしただけだよ」
冒険者ギルドで揉め事を起こすのを避けるため誤魔化したが『一応「ドラゴンの牙」と接触したことは報告すべきだろう』とオレは胸中のメモに記す。
これ以上、冒険者ギルドに居る理由も無いため、早々に後にして領主館へと向かったのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
レムの獣耳装備が好評で大変嬉しです!
ウサギ、犬、猫、熊以外にも、感想で頂いた獣耳シリーズを本編で書かせて頂ければと思います!
またついに『ドラゴンの牙』リーダーと接触!
この後、いったいどうるのか!? 是非是非お楽しみに~。
一部本編修正しました。




