11話 装備色々
『グオオォオォォオオオォォォォォォオッォォッ』
30階のボス部屋一杯にオーガロードの雄叫びが木霊する。
オーガロードは他オーガより肌の色が赤い。
まるで原色の赤絵の具を肌に直接塗っているかのようだ。
どうもオーガの強さは肌の色が赤ければ赤いほど強いようである。
「シュート様! お気を付けて。オーガロードは当時の姫様でも苦戦した相手ですから!」
「……キリリ、心配し過ぎ。賢者シュート様なら余裕」
「ぱぱ、がんばって」
オーガロードを取り巻く、オーガ達を魔法で一蹴。
オレとオーガロードの1対1の状況を作り出す。
アリス、キリリ、レムは完全に観戦モードに切り替え、応援してくる。
オレは彼女達に微苦笑を漏らしつつ、軽く手を上げ声に答えた。
ゴーレム・ソードを手にオーガロードと対峙する。
『グオオォオォォオオオォォォ』
部下達を開幕早々に魔法で一蹴されたにもかかわらず、迷わず大剣を手に襲いかかってくる。
オレは振り下ろされた大剣をあえて正面から受けた。
「っと、思った以上に一撃が重いな!」
『グオオォ!?』
ゴーレム・ソードで受けとめた後、ステータス差で無理矢理押し返す。
オーガロードの身長は2m半はある。
頑強な筋肉を覆う金属製の鎧。手に持つ大剣は単純に大きいだけではなく、細部にしっかりと装飾が施されている一品だ。
とはいえ非常に重く、人が手にしたらLVがそこそこ高い者でも持ち上げるのも難しいだろう。
そんなオーガの力で振り下ろされた大剣を正面から楽々受け止めるどころか、押し返されたのだ。
戦意の高いオーガロードも流石に困惑した表情を作った。
オレは構わず剣を振るい攻め立てる。
「ふぅ!」
『グオオォ!』
オーガロードも困惑した気持ちを切り替え、対応してくる。
重い大剣を器用に操り、オレの剣を受け止め、さらには切り返しもしてきた。
(オーガの癖にしっかりと技術体系に基づいた剣術を身に付けているようだな。単純にLVを上げた冒険者が挑んだら、普通に負けるんじゃないか? 当時のアリスが苦戦しただけのことはあるな)
例えば寄生プレイや金で無理矢理LVを上げた冒険者がこのオーガロードに挑んだとしよう。
オーガロードより多少LVが高くても、その剣術、技術の前に敗北する可能性がある。
逆説的に言えば、死ななければこのオーガロードのお陰で『技術の大切さ』を学ぶことが出来るだろう。
(アリス達の話し通り、これはレムの装備テスト、戦闘訓練に適した相手だな)
オレはオーガロードの有効性に満足し、確認も終えたのでさっさと倒す。
「ほいっと」
『グガァアッ!』
確かに強いがオレの敵ではない。
他オーガ同様、首をあっさりと飛ばし絶命させる。
オーガロードの巨体が倒れた所で、剣をしまいアリス達へと向き直る。
「……ね? 賢者シュート様の敵じゃなかったでしょ?」
「わ、私も予想はしていましたが、まさか他オーガのごとくあっさり勝つとは……」
「ぱぱ、かっこいい」
「ありがとう、レム」
パチパチと小さな手を拍手してくるレムが可愛くてついつい頭を撫でてしまう。
オーガロードを倒したことで30階への扉が開く。
倒したオーガロードをアイテムボックスに回収後、オレ達はそちらへ向かわず引き返す。
ボス部屋扉前に他冒険者が待っていないのを確認してから、再びオーガロード復活まで扉前で待機する。
なぜオーガロード復活まで扉前で待機するのか?
理由はレムの新しい各種装備の戦闘実験をおこなうためだ。
思いの外、ウサギ耳集音装置ゴーレム&バックパック給弾式PKM(擬き)の性能が高かった。
ゴーレム式装備の汎用性の高さ、またレムはゴーレム種の頂点のようなポジションのせいか相性が非常に良い。
創作意欲が刺激され、『獣耳シリーズ』をつい作ってしまったのである。
ではどんな装備シリーズを作ったのか?
熊耳重騎士。
熊耳型ヘッドフォンにゴーレム式パワードスーツ型甲冑に、レムの背丈を余裕で越えるハルバートを作った。
防御性能と一撃の重さに特化した装備だ。
猫耳シーフ。
猫耳型ヘッドフォンで音をとらえ、手足、球体関節を隠す部分以外の装備は極力排除し静音性、速度を追求した。
武器はナイフ型ゴーレムだ。
手袋、靴型ゴーレムにはスキル『吸着』を覚えさせている。これで壁、天井、木々、扉だろうが、窓だろうが地面を歩いているかの如く立っていることが出来る。
問題があるとすれば――音を出さないため薄着にし過ぎたせいで、アリスから少しだけ苦情が入った。
『……可愛いのは認めるけどレムはまだ幼いのに露出が多すぎる。物凄く可愛いけど』と。
最後は犬耳騎士だ。
犬耳型ヘッドフォンに軽鎧、手にはゴーレム・ソードを持たせている。一見すると今までと変わらないように見えるが――最大の違いはレムの他に5体のゴーレムが手に剣を握っている点だろう。
約3mの一般的ゴーレムに犬耳が付き、直立不動で剣を掲げている。
彼らの手にしている剣もオレ特製のゴーレム・ソードだ。
レム、ゴーレムに犬耳を付けることで互いにリンクさせ、彼女が直接操作で5体のゴーレムを動かすことが出来るのである。
現状の操作限界が5体らしく、これを越えるとキャパシティーを越えるようだ。
将来的に、LVが上がったらか慣れればなのかは分からないが、操作可能ゴーレムが増えたら面白いことになるだろうな。
ちなみにアンテナになるなら、どんな形でも良かったが可愛いので犬耳を採用した。
ウサギ耳型を合わせて現状4つのタイプを作り出した。
レムは現在対オーガ・ロードのため犬耳騎士に着替えている。
彼女の側に剣を掲げ従う5体のゴーレムが並ぶ様は異様な光景でもあり、神秘的でもあった。
犬耳騎士装備のレムを前に改めてアリス、キリリが異なる感想を述べる。
「……賢者シュート様のデザインセンスは相変わらず天才的。レムをこんなに可愛いく、凛々しく、格好良くするなんて賢者シュート様しかできない」
「デザインセンスやレム様が可愛いのは認めますが……。個人的にこの短期間にこれほどの装備を作り出す製造速度が凄すぎて怖いぐらいなんですが……。いくらなんでも早すぎませんか? それにレム様の側に立つゴーレムの剣1本ですら下手しなくても魔剣以上の代物なんじゃないですか!?」
魔剣は魔物の魔石を粉にして、金属へ混ぜて作り出す。
故に『魔』剣と呼ばれている。
切れ味向上、斬りつけた相手のステータスを下げる、剣先から炎を吐き出すなど種類は多々ある。
魔剣の製作は非常に難しい。
魔剣を作り出すことが武器職人の到達点だと言われているほどだ。
一方ゴーレム・ソードは……ゴーレムにスキルを覚えさせて魔剣とほぼ同じことを実現できる。むしろそれ以上の機能も簡単に付け加えることが出来た。
これも『スキル創造』を持つオレだからこそ出来る芸当だが。
「装備も武器もアイデアさえあれば後はゴーレムにスキルを覚えさせるだけだから、開発速度が早いのは当然といえば当然だよ」
「武器職人の到達点と言われる魔剣と同等の武器を簡単に作り出せるとか……本当にシュート様は規格外ですよね」
キリリは頭が痛そうにこめかみを片手で押さえた。
『けっぷぅ』と奇声を上げなくなっただけ進歩している。
「……ん、オーガロードが復活した。レム、準備はいい?」
「やー(はい)」
閉まっていた扉の鍵が開く音が響く。
倒したオーガロード達が復活した知らせだ。
レムは改めて剣を握り直し、5体の犬耳型ゴーレムを従え扉の前に立つ。
オレ達も一緒に中に入るが、基本戦闘はレム&ゴーレム任せだ。
もし危険に陥ったらいつでも動けるように準備しておく。
2体のゴーレムが扉を開く。
中にはオーガロード、同じく5匹の肌色がかなり赤いオーガが待ち構えていた。
「レム、頑張れ」
「レム様、大丈夫だと思いますが危なくなったらすぐに助けを呼んでくださいね」
「……レムに少しでも傷を付けたら、自分がオーガロードを殺すッ」
オレ、キリリがレムを応援し、アリスが奥で待ち構えるオーガ達を睨み呟く。
アリスの殺気に怯えたのか、ゴーレム5体の規律よい動きに驚いたのか分からないがオーガ達がややたじろぐ。
……前者の可能性が非常に高い気がする。
レムは応援に小さく頷くと、剣を片手にオーガへと向けゴーレムに指示を出す。
「前進! わん」
「語尾が可愛い」
「……語尾の『わん』、可愛い。レム、ちょー可愛い」
「2人そろって親馬鹿ぽいマネ止めてくださいよ」
オレとアリスがレムの語尾に反応すると、キリリがツッコミを入れてくる。
その間にもゴーレム5体は剣を手に前進。
オーガ達も『グオオォオォォオオオォォォ』と雄叫びを上げ迎え撃つのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
オーラ、威圧、受付嬢さん――うっ頭が!
と、とりあえず元となった短編でも書いた通り、アリス、キリリはシュートが責任を取っていましたから、彼女と口約束の結婚を取り付けても問題ないですよね?
さて、今回はレムの装備が増える話です!
獣耳+武器で考えさせていただきました。現在はウサギ耳+PKM(擬き)と犬耳+ゴーレム騎士達だけなので、今後の展開次第で他装備も出していければと考えております。
その際は、どうぞお楽しみに!




