10話 引きこもり?
ダンジョンに潜った当日。
LV上げのためオーガを1000体ほど倒した。
『アイテムボックスLV8』のお陰で綺麗に素材化。数も多かったため白金貨2枚、金貨600枚の高値が付く。
前世日本円で約2億6000万だ。
魔術道具、スキルオーブ無しでこの値段である。
受付嬢が『オーガ討伐1000体』に驚き、金額が金額だったのと、『白銀の怪力姫』で注目を集めたせいで、金目当てで因縁を付けられそうになった。
なので剣聖アビスの教訓から、『オレ達は強いから手を出さない方がいいですよ』とアピールするため、ちょっと威圧したつもりだったが……。
ダンジョンでLVが上がったのと、初めての威圧のため加減が分からずオレが殺気を伴って睨みつけると――その場に居た冒険者、受付嬢などが全員気絶してしまう。
口から泡を吹き、下から人としての『尊厳』を放出してだ。
無事だったのはLVと実力が高いアリスと、オレの血を引いているレムだけだった。
つい先程まで賑わっていた冒険者ギルドは一転、悪臭と静寂に満ちた地獄と化す。
気絶者の介護や内部の掃除のため、この日、冒険者ギルドは緊急閉鎖された。
幸い死亡者、怪我人は出ずオレに対する罰も閉鎖による損失、冒険者達に対する見舞金などでなんとか済む。
この程度の罰で済んだのもダンジョン都市『ノーゼル』を治めるアイスバーグ帝国次女、アリスの姉であるミーリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグのお陰だ。
事件後、領主館でミーリス本人から、軽いお説教を受けた。
ミーリスは眼鏡に白衣姿で頭が痛そうに片方のこめかみを押さえる。
「あたいも『問題が起きたら言ってくれ』とは口したが、まさかダンジョンに潜った当日、冒険者ギルドを閉鎖に追い込んだあげく、老若男女問わず人の『尊厳』が解放されるとは……。威圧した理由も理解できるから強く言わないが、賢者殿……出来ればもう少し加減を覚えてくれよ」
「は、はい、以後気を付けます」
オレは大人しく謝罪し、頭を下げるしかなかった。
この態度にミーリスは微苦笑を漏らす。
「ならこの話はお終いだ。始末はあたい達側でつける。一応、賢者殿に罰を与えるポーズとして罰金を請求するが、金額的に厳しければあたいの個人資産で支払ってもいいがどうする?」
「いえ、問題なく支払えるので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
罰金の他に、ミーリスに手を回してもらったお礼を兼ねて多目に罰金を支払おうと心に決める。
これで『冒険者ギルド威圧事件』の問題は一応の終息を得た。
唯一、問題があるとするなら……。
「あー……キリリに関してだが……さすがのあたいでもどうしようもない。そっちは賢者殿が頑張ってくれ」
「は、はい……」
オレは後ろめたさ、怯えで思わずどもってしまった。
キリリに何があったのか?
彼女はオレ達の中では2番目にLVが低く、魔術師のため魔力、知力以外はそれほどでもないため、受付嬢達と同じく余波で気絶してしまったのだ。
その際、口から泡を吹き、下は人の『尊厳』を放出してしまう。
結果、彼女は引きこもってしまったのだ。
うら若き乙女が人前で強制的に『尊厳』を解放されたら、引きこもるのは当然である。
正直、可哀相っていうレベルではない。
『冒険者ギルド威圧事件』から3日。
今日もオレは客室に引きこもったキリリの扉の前に来た。
ノックした後、扉越しに声をかける。
「キリリ、ごめん。悪気がなかったとはいえ、酷い目に遭わせて」
『…………』
「せめて皆を安心させるため部屋から出て、ちゃんとご飯を食べてくれないか? キリリも1人で食べるのは寂しいだろ?」
『……寂しいですがそれ以上に気まずいですよ』
キリリの返答。
その気持ちが分かりすぎて辛い。
ていうか、いくら『スキル創造』者でLVが高くても、人前で『尊厳』を解放させた女性に対してどうすればいいか分からないって!
オレが途方に暮れていると、アリスがレムの手を繋ぎ顔を出す。
「……キリリはまだ部屋に?」
「ああ、一応返答してくるようになっただけ、前進しているが」
3日前などいくら声をかけても、部屋から泣き声しか聞こえなかった。
それに比べれば前進である。
アリスがオレに代わり扉をノック。
キリリへ声をかけた。
「……キリリ、気持ちは分かるけど過去は変えられない。そろそろ気持ちを切り替えるべき」
『姫様は無事だったから、そんなことが言えるんですよぉ! 人前であんな……あんなぁ~うわぁぁぁぁぁッ、もうお嫁に行けません!』
「……むぅ」
アリス自身、ギリギリだが気絶せず済んだ。
そのため『尊厳』を放出したキリリの気持ちは分からないと指摘されたら黙るしかなかった。
オレは改めて頭を下げ、扉越しに語りかける。
「キリリ、改めてごめん。オレもやったことがないのに安易に『威圧』なんてマネしたから巻き込んじゃって……。もしキリリが嫁ぎ遅れたら、嫌じゃなければお、オレがお嫁さんにもらってもいいから……」
「……!?」
『!?』
側に居るアリス、扉越しのキリリの空気が変化した。
アリスと手を繋いでいたレムが、手を離し、トテトテとオレに駆け寄り足にしがみつく。
「ぱぱ、レムとけっこんは?」
「レムがもっと、も~と大きくなったらな。今はキリリとお話しているから、もう少しだけ静かにしててくれるか?」
「やー(はい)」
幼い娘が『大きくなったらパパと結婚する』と言い出すような可愛らしい場面だが、今はやや状況的にそぐわないため、笑顔を浮かべ頭を撫でつつ誤魔化す。
レムはオレの言葉に頷き、足にしがみついたまま無言で額をグリグリと押しつけてくる。恐らく愛情表現なのだろう。
こういう何気ない仕草が非常に可愛らしい。
……レムが実際、普通に成長するか分からないが。正直このまま幼女状態がずっと続くんじゃないのか? 例え成長できても血がある意味繋がっているため結婚など出来るはずがない。あくまで方便だ。とはいえ、本当に彼女が成長するかどうかは時間が過ぎてみないと分からない。
(娘を持ったらこんな感じだったのかな……)
前世、今生とも子供を持った経験が無いため比較できないが。
レムとそんなやりとりをしていると、扉が静かに開く。
小さな隙間から3日ぶりに見るキリリが頬を染めつつ、顔を出す。
「ふ、ふ~ん、そうですか。嫁ぎ遅れたらシュート様が貰ってくださるんですか。ま、まぁその時はお願いします。これは大きい貸しですからね」
「ああ、大きな借りだ。許してくれてありがとう」
「い、いつまでも引きずるような子供じゃありませんから。ええ、わ、私もいい歳ですからね」
キリリは先程まで地の底に沈んだ声音と違って、上機嫌で返答してくる。
彼女とは反対に今度はアリスが不機嫌そうな瞳で、オレの袖を摘んでくる。
「……むぅ~」
彼女がオレに対してどういう感情を持っているのか。
鈍感系主人公ではないため、理解しているつもりだ。
(キリリだけじゃなくて、アリスに対しても責任を取らないとな……)
照れ隠しでつい胸中でそんなことを漏らす。
実際、アリスを『責任だから~』と娶るつもりはない。彼女にはしっかりと好意を抱いているから、将来的には結婚したいと思っている。
「ひ、姫様まるで泥棒猫を見るような目で私を見ないで下さいよぉ~」
「……別にそんな目はしていない。キリリの気のせい」
アリスは不機嫌そうな瞳を今度は従者のキリリへと向けていた。
オレは足にじゃれつくレムを抱き上げ、2人の様子に微苦笑を漏らす。
とりあえず無事にキリリの許しを得ることが出来た。
これでまた再びダンジョンに潜ってLV上げをすることが出来そうである。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
『作者名から飛べない問題』について、解決方法をお教え頂きありがとうございます!
お陰で無事に作者名から飛べるようになりました!
まさか、あんな方法で飛べなくなっていたとは……。
本当にありがとうございます!




