9話 ドラゴンの牙
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「リーダー、お疲れ様です!」
「お、お疲れ様です!」
ダンジョン都市『ノーゼル』の最前線攻略を進めるチーム『ドラゴンの牙』のリーダーを務める禿頭のアイゼンが、自身のチーム本部へと帰宅する。
彼の帰宅に気付いたメンバー達はすぐさま廊下の壁端に寄って挨拶をした。
アイゼンは速度重視の格闘家だ。
背丈は高く2mを越え、筋肉がガチガチにつき縦にも横にもデカイ。
こめかみから頬にかけて走る傷跡が、体格も合わさってより彼の迫力を強調していた。
そんなアイゼンが、最近入った新人メンバーをギロリと睨みつける。
「おい、新入り声が小さいぞ! 気合が足りないようだな、ちょっと教育してやる!」
「ッゥ!?」
言うか早いかアイゼンの拳が走り、新人メンバーの頬を抉る。
新人メンバーは廊下を転がり、口から血を流す。
アイゼンは倒れた新人メンバーに追い打ちの声をあげる。
「おら、早く立て! 軽く撫でただけだろうが!」
「ッゥ……は、はい。可愛がってくださりありがとうございます!」
「おう、次から怠けずもっと気合を込めて声を出せよ!」
新人メンバーはフラフラと立ち上がり、『気合を入れてもらった場合の挨拶』を口にする。
アイゼンは満足げに頷き、再び奥へと歩み出す。
チーム『ドラゴンの牙』では上下関係が絶対だ。
チームトップであるアイゼンが絶対的権力者で、彼に逆らうことは許されない。
故に先程のように新人メンバーが殴られたとしても、誰一人疑問を表に出さないし、口を挟めない。
ある意味、悪質な体育会系的チームである。
アイゼンが執務室に顔を出す。
副リーダーを務める魔術師エリットが、黙々と事務作業を続けていた。
細めの狐顔だが、見方によってはハンサムかもしれない人物だ。
アイゼンは細かい事務仕事が苦手なため、それら一切をエリットが担っている。2人とも同郷出身の幼馴染みで、唯一トップであるアイゼンに意見出来るのはエリットだけだった。
アイゼンが不機嫌そうに客用のソファーへと乱暴に体を預ける。
それを合図にエリットが書類から顔を上げた。
「おいおい、どうしたアイゼンリーダー。随分ご機嫌が悪いじゃないか」
「エリット! チームメンバーが2人も辞めたらしいな。俺様に断りもなくだ!」
アイゼンが最も嫌うことの一つが、自身を軽く見られることだ。
今回のチームメンバーの離脱は、彼に断りがなかった。
辞めたチームメンバーが自分を軽く見ているということだ。頭に血が上るほど腹が立ち、途中で新入りメンバーに因縁をつけて『可愛がって』しまったほどである。
辞めたチームメンバーからすれば、許可を取ろうにもアイゼンが自分達の知らない娼館などに入り浸っていたため、連絡の取りようがなかったからなのだが……。
アイゼンからするとそんなことは自分に挨拶をしなかった理由にはならない。
エリットはカッカするアイゼンとは対照的に冷めた様子で肩を竦める。
「気持ちが分かるが落ち着けリーダー。辞めた奴等は貯金、武器、防具を売り渡し最低限の金を手にしただけで街を出た。筋は通しているさ」
「筋は通していないだろうが! 『ドラゴンの牙』リーダーである俺様に何の挨拶もなかったんだぞ! 今すぐ奴等の首根っこを捕まえて俺様の所まで連れてこい! このままじゃ俺様の名に傷がつくし、下に示しが付かないだろうが! 第一、なぜ離脱の許可を与えたエリット! ことと次第によっては……」
アイゼンの声が低くなる。
自分の許可がなければチームを辞めることはもちろん、縦の物も横にしてはならないとアイゼンは頭から信じ切っていた。
エリットは特に慌てた様子も見せず『まぁまぁ落ち着け』と手のひらで合図する。
「気持ちは分かるが落ち着け。辞めた奴等としては一刻も早く街から出たかったんだと。なんでもあの剣聖を倒したスキルマスターに睨まれたとか、『あんな怪物の側に居るぐらいなら何もかも投げ出して逃げ出す』って聞かなくてな。だったら、さっさと得られる物を得て逃がした方が賢いってもんだ」
「スキルマスター? 剣聖を倒しただ?」
アイゼンの怒りがやや落ち着く。
エリットは余裕の態度を崩さす情報を伝える。
「リーダーも耳にはしているだろ? 帝都首都であの剣聖アビス・シローネが決闘に負けたって。その相手がスキルマスターって呼ばれる黒髪のガキで、嘘か真かスキルを好きに創れる『スキル創造』なんて力を持っているらしい。そいつが冒険者ギルドで、冒険者達と揉め事になって……スキルマスターが睨んで冒険者達を黙らせた。それで怖くなって逃げ出したんだとさ」
他にも『帝国三女「白銀の怪力姫」を奴隷にして連れ回したり、黒髪の子供を連れて今この街でダンジョンに潜っている』と噂があることを付け足す。
「つまり……抜けた奴等はその剣聖に勝ったスキルマスターにビビって逃げ出したってことか? そんなクソのような理由で俺様に断りもなく辞めて、逃げ出すとは……」
「剣聖が負けたのは事実だ。ちょっと手を出すには厳しい相手じゃないか?」
「馬鹿野郎! どうせ剣聖に勝ったのもマグレか、卑怯な手を使ったに決まっているだろうが! むしろ将来、俺様が剣聖を倒して越えるつもりだったんだ。なのに俺様に断りもなく剣聖に手を出しやがって……ますます許せねぇ」
アイゼンの奥歯が怒りと悔しさでギリギリと鳴る。
「気持ちは分かるがスキルマスターの小僧と事を構えるのは考えるべきだ。知力ゼロの三女とはいえ娘を奴隷として扱われても帝国が文句を言わない以上、『スキル創造』なんて規格外の力、あながち間違いないのかもしれないぞ」
「ふざけるな! なにが『スキル創造』だ! はったりに決まっているだろうが! 何より俺様達はダンジョンに潜って稀少な魔術道具、魔物素材、魔石を集めているんだぞ。俺様が帝国を支えてやっているんだ! なのにケチ付けられて黙っていられるかよ!」
「分かってる、分かってる。だが、スキルマスターにちょっかいを出して帝国に睨まれるのも面白くないのは事実だろ? ここはダンジョン攻略の先輩として器を見せて注意ぐらいに留めておくべきじゃないか? それでもスキルマスターが調子に乗っていたら――」
「乗っていたら?」
エリットが細い目をさらに細め断言する。
「ダンジョン攻略の先輩として後輩を指導してやればいいんだよ」
「ははははははは! さすがエリット! そうこなくっちゃな!」
エリットの言葉に怒り心頭だったアイゼンが上機嫌に笑う。
「ただ懸念として……はったりや運良く剣聖に勝ったのではなく、スキルマスターが実力で勝利していた場合、ちょっと面倒だがな」
「何を心配しているんだ、エリット!」
彼の懸念にアイゼンが、
「例えスキルマスターの小僧が、本当に剣聖に実力で勝つほど強くても俺様達の敵じゃない。俺様達は何時だって自分達より強い怪物達を相手に戦い勝利してきただろう?」
親指で自身の頭を指した後、最後に胸を指し男臭く笑う。
エリットも釣られて笑った。
「ああ全くだ。さすが『ドラゴンの牙』リーダー、頼もし過ぎるぜ」
「ああ、俺様に任せておけ!」
執務室で2人が男臭く笑い会い、スキルマスターことシュートに対して注意することが決定したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
ギルドマスターの口にも上がっていた『ドラゴのの牙』登場!
さて彼らはどんな風にシュート達に絡んでいくのか!
是非是非お楽しみに!
また感想でご指摘を受けたのですが『明鏡シスイの名前タグを押しても作品一覧へ行かない』と。
確認すると確かに作品一覧に行かないのですが……自分、別に何か弄ったわけじゃないのに。
これってどうすればいいんですかね?
ちょっと解決方法が分からないので、他明鏡作品に行く場合はお手数ですが検索等をご使用して頂ければと思います。
一応、解決するため動くつもりですが……この手の作業は苦手なので長期的な目で見て頂ければと。




