6話 PKM(擬き)
オレとアリス、キリリ、レムの4人でダンジョンに潜る。
10階のボスはゴブリンナイト、20階のボスはオークキング。
どちらもオレ達の相手にならず楽々と突破した。
2時間ちょっとで目的地の25階層へと到達する。
周囲を警戒しつつ、遅めのお昼ご飯を食べた。
ダンジョン内部にもかかわらず、空が存在し森や草原、川まで流れている。
周囲の警戒が無ければ、のんびりピクニックに来たと錯覚するほど長閑な時間だった。
昼食を終えた後、早速LV上げにとりかかる。
25階層まで来て狙う魔物とは――。
☆ ☆ ☆
『グゴォオオオオォォォォォオォォォオォッ』
雄叫びを上げ、角が生え、赤茶の肌をしたオーガの集団が突撃してくる。
背丈が2mを越えて、がっしりとした筋肉、手には金属製の棍棒、剣、斧などを持っている。骨と筋肉の重さにだけで100kg以上は軽く越えているはずだ。
そんなオーガが100体近くで突撃してくる。
常に震度2前後の地震が襲ってきているように地面がぐらぐらと揺れていた。
そんなオーガ達の突撃を前に、レムが1人立ち向かう。
彼女は黒いゴシックロリータ服に革製胸当て、ブーツにウサギ耳ヘッドホン――背中にはレムの背丈近くあるバックパックを背負っている。
そのバックパックから小さな銃弾型ゴーレムがレールのように繋がり、彼女が手にするロシア軍も使用している汎用機関銃、PKM(擬き)に供給されていた。
「ふぁいあー」
レムが可愛らしい声で告げ、トリガーを絞ると発射される銃弾――正確には短い矢の形をしたゴーレムが飛び出す。
速度も音速には届いていないため、ソニックブームが発生せず大きな音は起きない。
だからと言って威力が低いわけではないが。
先頭を走っていたオーガに短矢型ゴーレムが刺さる。
敵内部に突き刺さるとスキル『火魔法LV1』を自動的に詠唱。自分もろとも敵内部で自爆する。
当然オーガは内側から爆砕、即死した。
PKM(擬き)から発射される銃弾型ゴーレムは1発、2発ではすまない。
スペック上、1分間に600発以上は連続で発射できる。
レムが背負うバックパックには、約500発の銃弾型ゴーレムしか入っていないため弾が続かず発砲し続けられないが、向かってくる約100体のオーガを倒しきるのは難しくない。
ちなみにこうしてバックパック+汎用機関銃を組み合わせた給弾式システムは、前世のアメリカ、ウクライナなどで実際に存在されている技術だ。
それを思い出し、ゴーレムに応用してレム専用の武器を作りだしたのである。
オーガも左右に逃げたり、迂回して接近すれば勝機はあったが、まるで自ら銃弾に当たりに行くようにレムに向かって突撃しかしなかった。
彼らの異常行動はオレがスキルを使っているためだが。
「みっしょん・こんぷりーと」
レムは10分前後で約100体のオーガを倒しきる。
『ミッション・コンプリート』なんてどこで覚えたんだ?
オレはレムの言葉に首傾げていると、彼女はアイテムボックスに『バックパック給弾式(擬き)』をしまい駆け寄ってくる。
『ぱぱ褒めて、褒めて』と言わんばかりに足に抱きつき頭を擦りつけて来るので、オレは彼女を抱き上げ頭を撫でた。
「よく頑張った、偉いぞ」
「……さすがレム、強い、凄い、可愛い」
アリスも混じってレムを褒め撫でる。
レムはオレの手に自ら擦りつけ、アリスの手にも自ら擦りつけ忙しそうだが、どこか楽しげに動いていた。
一方、キリリはというと……。
呆然とした様子でぎこちなく、オレ達に向き直り質問してくる。
「しゅ、シュート様……今のレム様が遣っていたぶ、武器はなんですか?」
「『ゴーレム・ソード』の応用で、ちょっと代わったクロスボウ(1分間に約500発発射可能)が出来ちゃたんだよ」
「あんなクロスボウがあってたまりますか!」
『あってたまりますか』も何も、実際出来て目の前に現物&惨状があるのだからそんなことを言われても困る。
キリリの言い分も理解できるが。
まず『ゴーレム・ソード』を開発した際、すぐ利点に気づいた。
『ゴーレム・ソード』自体がスキルを覚えているため、敵生物内部に突き刺した後、『火魔法』や『風魔法』などを使うと敵を内部から破壊することが出来る、と。
「ならゴーレムを銃弾の形にして発射。突き刺さったら魔法を使うようにすれば凄い武器が作りだせるんじゃないか?」
思い付いたら開発せずにはいられなかった。
前世の記憶・知識にあった『バックパック給弾式(擬き)』を採用し、銃器などは『スキル創造』で創りだした『生産技能LV8』、他開発技能のお陰であっさりと完成。
レムの武器にちょうどいいと与えた結果が目の前の惨状である。
「とはいえ『バックパック給弾式(擬き)』がオレの想像以上に破壊力が高かったのもあるが、オーガ達を効率よく倒せたのも新しいスキル『デコイ』と『誘き寄せ』の力があったからだよ。仮にこの2つのスキルが無ければ、オーガ達も途中で逃げ出してこれほどの成果は出せなかったはずだ」
「確かに仰る通りですが……。やはりそれ抜きでもレム様の新武器は強すぎます。下手したらこれまでの戦争が根本から覆されかねませんよ」
『頭が痛い』と言いたげにキリリは、自身のこめかみをグリグリと押す。
彼女の心配も分かる。
仮に『バックパック給弾式(擬き)』――ゴーレム式銃器がこの異世界でも運用できればキリリの指摘通り今までの戦争概念を根底から覆すだろう。
しかし、そのためには安定した『魔法スキル』を得られる環境が必要だ。
そんな環境を整えられるのは世界広しといえど『スキル創造』を持つオレだけである。
なのでそこまで心配する必要はない。
ちなみに新スキルのフレーバーテキストは以下となる。
『デコイ』――相手の敵意を使用者の方へ向けるスキル。
『誘き寄せ』――上空に誘き寄せの光弾を上げることで目にした魔物達を誘き寄せるスキル。
以上だ。
わざわざ自分達で探し回らずとも、敵があちらから来て、どれだけ倒しても逃げない。
レムも向かってくる敵に対してトリガーを絞るだけで済んだ。
まさにLV上げにはもってこいのスキルである。
「……2人とも難しい話はそれぐらいにしてレムがどれだけ成長したのか教えて欲しい」
「悪い、悪い。それじゃ早速見てみようか。レム、そのまま動かないでくれ」
「やー(はい)」
アリスの指摘にオレも気になっていたので、早速レムのステータスをチェックする。
名前:レム
年齢:0歳
種族:新種族?
状態:正常
LV:30
体力 :600/600
魔力 :600/600
筋力:100
耐久:150
敏捷:120
知力:50
器用:50
スキル:『空気中に漂う魔力吸収』『光魔法LV5』『火魔法LV5』『水魔法LV5』『風魔法LV5』『土魔法LV6』『闇魔法LV5』『身体強化LV5』『MP強化LV5』『頑強LV5』『魔力耐性LV5』『物理耐性LV5』『回復LV5』『超回復LV5』『MP回復速度LV5』『攻撃魔法強化LV5』『アイテムボックスLV5』『魔力ボックスLV3』etc――。
称号 :イレギュラー存在
オレ達に比べるとまだまだが、LV1から一息に30まで上がったのは喜ばしい。
ステータスもスキルのお陰で、並のLV30前後の戦士より上の数値だ。
「……レム、強くなって自分も嬉しい」
「つよくなると、ぱぱもうれしい?」
「ああ、レムが強くなってくれてオレも嬉しいぞ」
「ぱぱ、うれしい。れむもうれしい」
レムの疑問に、オレは頭を撫で笑顔で答える。レムも頭を撫でられると、嬉しそうに自分から擦りつけてくる。ウサギ耳なのにまるで子猫のようだ。
そんな様子をアリスが羨ましそうに眺めてくる。
一通りレムと触れ合った後、真面目な顔を取り戻す。
「確かに強くはなっているが、もう少しLVを上げたいな。とはいえ連戦はキツイだろうから、次はオレ達のLV上げをするか。2人とも準備してくれ」
「……了解」
「今更ながら、あの数のオーガを相手にするとか……。昔は姫様と私の2人で1、2体相手にどうにか勝つ相手だったんですけどね」
レムは元ゴーレムのため疲労という概念は無いが、無理をさせる意味もないため次はオレ達のLV上げをおこなう。
オレがレムを地面に下ろしつつ、アイテムボックスから『ゴーレム・ソード』を取り出す。
アリスも淡々と準備してオレ特製の巨大ゴーレム・ソードを取り出す。
キリリは過去を振り返りつつ、同じようにアイテムボックスから杖を取り出した。
レムの倒したオーガ達をアイテムボックスに入れた後、スキル『誘き寄せ』を上空へと放つ。
今度はより遠くまで見えるように高く飛ばす。
現在位置からでも分かるほどオーガ達の雄叫びが聞こえてくるのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
PKM(擬き)についてもっと詳しく知りたい方は、明鏡の1作目『軍オタが魔法世界で~』をチェックして頂ければと。
スキルマスターの場合、軍オタと違ってそういう銃器、軍事がメインではないのでさらっと流して書いた次第です。
個人的にも今回はこういう銃器の紹介が出来て楽しく書けたんですけどね。




