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1話 剣聖と勇者教

1話はラスト部分以外、短編とほぼ内容は一緒です。

1話はそのために長いですが、次の閑話1、2章1話などは普通の長さになります。

また短編を読んで頂いた読者様は、『閑話1 エイトの進退』以降がスキルマスターの新作部分になります。


「ふわぁぁぁ……」


 1人の青年が退屈そうに欠伸を噛み殺す。

 身長は高く190cmほどはあるだろう。肩幅もあり、しなやかに鍛えられた筋肉が付いていることが衣服の下からでも分かるほどの偉丈夫だ。

 髪の毛は長く肩まで伸び、顔立ちも非常に整っていた。背丈と鍛えられた筋肉がなければ、女性と見間違うほどの美貌の持ち主である。

 彼の右手には模擬戦で使用される木剣が握られ、退屈そうに軽く肩を叩いている。


 本来であれば決して欠伸をかみ殺せる状況ではないのだが……。


『…………』


 彼の周囲を同じように模擬戦で使用される木剣を手にした10人の騎士が囲み、真剣な表情でジリジリと間合いを計り、詰めていた。


「でやああぁぁぁぁッ!」


 背後から距離を縮めていた騎士の1人が作戦通り、間合いに入ったのと同時に声をあげて斬りかかる。

 彼に遅れてタイミングをずらし、他9人も同時に斬りかかった。

 最初に踏み込んだ騎士は囮だ。


 彼の声や気配に紛れ、他9人で青年を切り伏せようと突撃する――が、


「はぁ……」


 心底退屈したような溜息を吐くと、背後から襲いかかってきた騎士の剣を一瞥もせず回避。

 すれ違いざま、手にした木剣で襲いかかってきた騎士の胴を薙ぎ潰す。


 しかし他9人の騎士からすれば、この程度は予想済みだ。

 9人それぞれが模擬戦とは思えない気迫で、最初の1人を倒し隙が生まれた青年に対して斬りかかる。


 実戦だった場合、同士討ちで死亡してもおかしくない勢い、躊躇の無さだった――が、青年にとってこの程度は脅威どころか、遊びにすらならない。


 彼は詰まらなそうな顔で残った9人を木剣で切り伏せてしまう。

 10人いた騎士達を彼は実質1分もかからず倒してしまったのだ。


 青年は落胆した顔で、自身の手で叩き伏せた騎士達を苛立った声音で詰る。


「ああ……つまらない。君たち程度じゃ、訓練の足しにもならないよ」

「せ、聖人様……ぐぐぁッ!?」


 苛立ちを紛らわせるため、近くに倒れている騎士の胸に片足を乗せ、喉を木剣で押さえ込む。

『聖人様』と呼ばれた彼が、さらにほんの少し力を込めるだけで、木剣は簡単に喉を潰し人1人の命をあっさり奪うことが出来る。

 それほど危険な行為をしているにもかかわらず、彼の目はまるで地面を這う虫を見るような冷たい色をしていた。


「君たちは将来誕生するかもしれない魔王に対して、勇者と共に戦う勇者教教会聖騎士だろう。なのにこのていたらく。才能が無いにもほどがあるだろう。僕ちゃんの練習相手にもなれないとか、もう生きる意味ないんじゃない?」


『勇者教』とは?

 この世界で最もメジャーな宗教の一つだ。


 この異世界には凶悪な魔物が跋扈している。

 そんな魔物に対抗するため神々が与えた力が『スキル』だと言われている。

『スキル』所持者達が、持たぬ者達を守り魔物達と戦い人類生存圏を拡大、維持してきた。

 そんな『スキル』持ちがいつしか貴族となり、守られる側が平民となり支えるようになった。


 しかし神々から『スキル』を与えられ、順調に生存圏を拡大していたが、途中で魔王が誕生。

 拡大の歩みを止める所か、生存圏を縮小するほど人類は追いつめられてしまう。


 そんな人類の危機に『勇者』というスキルを持った人物が姿を現し、仲間達――剣聖、大魔術師、精霊使い&大精霊達と共に魔王討伐の旅へと出る。

 結果、勇者達は多数の困難を乗り越え、最終的に魔王を退治。

 人類は再び生存圏を拡大し、平和を手に入れたのだった。


 その際、誕生したのが魔王から人類を救ってくれた勇者を崇める『勇者教』である。


 魔王の危機から人類を救ってくれた『勇者』への感謝を忘れず、崇めるのが基本的な教義だ。

 他にも将来、再び魔王が誕生した際、『勇者』がスムーズに討伐できるように支援、援助、サポートすることを教義に掲げている。

 その一環として『勇者教教会聖騎士団』と呼ばれる独自戦力も抱えていた。


 この『勇者教教会聖騎士団』に入団するにはスキルを5つ以上所持していなければ入団テストすら受けられない。

 さらに『将来、誕生するかもしれない魔王に対抗する騎士団』を標榜しているため、団員達の士気も高く、練度も他国騎士団と比べて頭一つ抜けている。

 故に『勇者教教会聖騎士団』の騎士達はエリート中のエリートと呼んで差し支えのない人物達だ。


 そんな騎士団員達を訓練とはいえ、青年は塵芥のように倒し、あまつさえ木剣で喉を潰し殺害しようとしている。

 他団員達は体の痛みを堪えつつ、青い顔でわたわたと制止の声音をあげる。


「あぁあっぐぅ……ッ!」

「け、剣聖さま! お止め下さい、それ以上はもう本当に命を落としてしまいます!」

「我々が訓練の足を引っ張っているのは重々承知しておりますが、どうかお怒りをお鎮めくださいませ!」

「死ねよ。僕ちゃんの――剣聖さまの役に立たない奴なんてこの世に必要ないだろう?」


 騎士団員達が同僚が殺害されようとしているにもかかわらず、下手に出てなんとか止めようとする。

 なぜ彼らがこれほど下手に出ているのか?


 青年――アビス・シローネこそ、過去に勇者に付き従い、剣を振るい魔王討伐に貢献した者が持っていたスキル『剣聖』の所持者である。


 勇者教にとって『勇者』と肩を並べて戦った『剣聖』、『大魔術師』、『精霊使い』スキル所持者は一段劣るが聖人として崇められ、大切に保護されることになっていた。

 また実際に過去、世界を救った勇者の仲間と同じスキルを所持しているため、下手な国家、国王より権威も高い。


 さらにアビスはこの異世界で10個もスキルを持つ、公式最多スキル保有者でもある。

 スキル『剣聖』の力も加わっているせいで、彼ら程度では満足に訓練の相手も務まらないのはある意味、仕方のないことだった。


 故に熱心な信者である勇者教教会聖騎士達にとって、聖人の生まれ変わりであるアビスの行動を咎めることは憚れた。

 例え一緒に何年も訓練を重ねた同僚が、まるで虫を潰すかのように殺されようともだ。


 エリート中のエリートとされる勇者教教会騎士団員達が許しを請うように声をあげ、縋るように視線を向けるしか出来ない。

 彼らの情けない態度に興が冷めたのか、アビスは詰まらなそうに騎士から足と木剣をどける。


「げほッ! ごほ! げっほっ!」


 解放された騎士は空気を求め激しく咳き込み、喉の痛みに瞳を潤ませていた。

 そんな騎士に目を暮れず、アビスは再び退屈そうに木剣で肩を叩きながらぼやく。


「無駄な時間を過ごしちゃったな。これならまだ女の子達といちゃいちゃしたほうがマシだったよ……」


 アビスは同じ人間ではなく、遊びあきた玩具を見るような視線を向けていたが、


「……まぁいいさ。こんなつまんない時間ももうすぐおさらばだ。聞いたかい、帝国に『スキル創造』っていう規格外のスキルを持った所有者が誕生したって。僕ちゃんと同じ選ばれた存在が、ママ以外にようやく姿を現してくれたんだよ」


 彼は先程までの不機嫌が嘘のように明るい声音で告げる。


「凄いよなスキルを好きに作り出せるなんて。『スキルを作り出す』スキルが存在するのも驚きだが、そんな奴がこの世に居ること自体が信じられないよ! 早く会ってみたいな。そして僕ちゃんのために色々なスキルを作ってもらいたいよ!」

「で、ですが帝国の発表曰く『老若男女問わずスキル創造を願うことを禁じる』と発表し、本人も拒否しているという話ですが……」

「? それはオマエ達のような凡俗達が羽虫の如く集まりスキルを強請るのを避けるためだろう。僕ちゃんは聖人、剣聖様だぞ。断れるわけないだろうが? 第一、『スキル創造』所有者は僕ちゃんと同じ選ばれた存在だ。互いに選ばれた存在同士、きっと気が合うはずだ。そんな僕ちゃんのお願いを断るわけないだろうが。少し考えれば分かることだろ」


 アビスは拒絶されるなど微塵も考えず、意見した騎士に対して『こいつ何を言っているんだ』と心底言いたげな瞳をしていた。

 他騎士達も彼の発言に対して何も言えず黙ることしかできなかった。


「さっさと旅の準備が終わって、出発許可が出ないものかね。こういう時、聖人、剣聖の立場が面倒になるよ。気軽に外に出られないんだから」


 剣聖とはいえ毒殺、暗殺などを完全に防げるわけではない。

 なので基本勇者教総本山から外に出る際は多数の護衛と許可を得ないと出ることは禁じられていた。

 傲慢なアビスとはいえ、後ろ盾になってもらっている勇者教のメンツを潰す訳にはいかないため、すぐさま帝国へと向かわず旅の準備が出来るのを待っていたのだ。


「早く準備が終わればこんな暇潰しに手を出さなくても済むのに……」


 彼は木剣をその場に投げ捨て、訓練場を後にする。

 アビスは再び欠伸を噛み殺し、アイスバーグ帝国に居着いている『スキル創造』所有者と早く顔を合わせたいと願うのだった。


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[気になる点] 『賢者言行録』とかが帝国には伝えられてて怪しい人間を常時リストアップしている、あとは鎌かけ、とかはありそう。  賢者の令嬢救出率は異常に高い、とか。(外れても勇者の類だしな!)
[一言] この剣聖に弱体化のオーブをプレゼントして欲しい。 ステータスオール0とか(笑
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