6話 命名
アリスを落ち着かせて、ゴーレム(?)幼女について話をする。
オレ達はいつもの裏庭テーブル席につく。
ゴーレム(?)幼女はアリスの膝の上に座り、抱っこされていた。
各自の前にキリリが淹れた紅茶が並ぶ。
「『準神話級魔力回復ポーション』経由とはいえオレの血を引いているのは間違いないんだ。酷い扱いはしないから安心してくれ」
「……分かった。賢者シュート様を信じる」
「ありがとう、アリス。とりあえず便宜上、オレが拾った孤児、義理の妹として扱うつもりだ。……彼女が未だ『ぱぱ』と『まま』しか言っていないから、他の呼び方に変更できるかどうかは分からないが……」
「……自分は別に『まま』のままでもいい」
「姫様、だから駄目ですって」
キリリがツッコミを入れるが驚愕イベントの大量発生にいまいちキレがない。
一時は剣聖に決闘を挑まれた時以上に混迷したが、なんとか落ち着きを取り戻す。
オレは背もたれに体を預けながら、紅茶を口にした。
紅茶を口にしているとキリリが質問してくる。
「彼女をシュート様の義妹にするのはいいのですが、今後何とお呼びすればいいのでしょうか? 元ゴーレムだから『ごーちゃん』とかでしょうか?」
「キリリ……いくら何でも女の子にその名前はないだろ」
「……可愛くない」
ゴーレム(?)幼女はオレのマネなのか、両手を毛布から伸ばし紅茶カップを手に取ろうとする。
アリスが『……熱いから気を付けて』と世話を焼きつつ、名前に不満を告げてきた。
確かに彼女の指摘通り、女の子に付ける名前ではない。
オレ、アリスに駄目だしを受けたキリリが、唇を突き出し拗ねる。
「ならお2人で名前を考えてくださいよ! それだけ言うなら私より可愛い名前を付ける自信があるんですよね?」
「別に自信があるわけじゃないが……ゴーレムから名前を取るなら後半部分の『レム』から取ればいいんじゃないか。女の子の名前っぽくて可愛いし」
「ぐぎぎぎぃ! た、確かに女の子っぽくて可愛いです。シュート様はスキルが創れて名前付けのセンスも有るなんて狡いですよ!」
「別にセンスなんて無いよ。ただ思い付いた名前を口にしただけだって」
『むしろキリリの名付けセンスが微妙なだけでは……』と追い打ち台詞は言えなかった。
オレの名前案にアリスも気に入ったらしく、嬉しそうに微笑む。
「……賢者シュート様、名案。今日からこの娘はレム。レム、良い名前を付けてもらえてよかった――!? レム!? ペッして! 口の中のペッして!」
「?」
ゴーレム(?)幼女『レム』と名付けられた彼女はお茶を飲み干すと、カップをまるで煎餅か、砂糖菓子のごとくバリバリと噛み砕き、食べ始めたのだ。
抱っこしていたアリスが慌てて彼女の両手を止める。
涙目で吐き出すように指示するが両手は、さらに食べようとするレムの手を押さえるため離すわけにはいかない。
レムは『?』と首を傾げ『ガリゴリ』とカップを噛み、咀嚼する。
キリリも突然のことでフリーズしてしまう。
オレだけが冷静に状況を分析し、落ち着かせる。
「落ち着けアリス、レムは元ゴーレムだ。破片を食べたぐらいじゃ怪我はしないよ」
耐久力も元ゴーレムだからなのか、LV30前後の戦士並にある。
さらに『鑑定LV9』で確認すると――。
「鑑定曰く、レムは大気中にある魔力だけじゃなくモノからも魔力を取り込めるようだ。お茶を飲んだのも、カップを食べるのも込められている魔力を取り込もうとしているからっぽいな」
この異世界で森羅万象、魔力を持たないモノは存在しない。
腐敗した死体、骨、石ころにも魔力は微量ながら篭もっている。
レムはそれらを口にすることで、魔力を取り込むことが出来るらしい。
ある意味、究極の雑食である。
オレの説明を聞いてアリス、キリリが落ち着きを取り戻す。
「レム様に危険が無いのであれば良かったです。突然、カップを食べるから驚きましたよ……」
「……一緒にご飯を食べられるのは嬉しい。でも、今後は変なモノを食べちゃ駄目。いい?」
「(こくり)」
アリスに叱られたと理解したのか、小さく頷き食べかけのカップから手を離す。
「とりあえず今日はレムについて調査しよう。彼女にとって何がよくて、駄目かしっかり把握しないと……。気付かないうちにレムを傷つけ、最悪の事態に陥らせていたら目も当てられないからな」
それ以上に今後はオレの血『準亜神の血』を不用意に使用しないように気を付けようと誓った。
オレが想像するよりずっと自分の『準亜神の血』はヤバイ代物のようだ。
この意見にアリス達は、
「……賛成」
「右に同じです」
「やー」
オレ達のマネをして、レムまで声をあげる。
嫌がっておらず、前向き、肯定的な意味だというのが声音から理解できた。
こうして本来であれば『ゴーレム製武器製造』にかかるはずが新種族(?)レムについて調査することが決定したのだった。
☆ ☆ ☆
その日の夜。
珍しくアリスの父であるアイスバーグ帝国皇帝が離れに顔を出す。
オレと『2人っきりで話し合いたい』との申し出に『何か緊急的な問題でも起きたのか』と戦々恐々しつつ、リビングソファーに座り向き合う。
彼は正門で顔を合わせた以上の真剣な雰囲気でオレに対して切り出す。
「アリスに……娘に手を出し、既に子供が出来たという話を耳にしたのですが……」
「ぶふっ!?」
あまりの内容に唾液が気管に入り噎せてしまう。
噎せて上手く返事が出来ない間に皇帝が淡々と話を纏める。
「賢者様はまだお若い。それ故、子供ができる責任、将来に対する恐れを抱いているのでしょう。ですが娘共々責任を求めることは絶対にさせません。ですからどうか娘に幸せを分けて頂けないでしょうか? もし娘に幸せを頂けるのであれば、我が首を差し出させて頂ければ。なのでどうか一つ寛大なご配慮を頂きたい! 何卒! 何卒!」
世界の3割を支配するアイスバーグ帝国がテーブルに額が突くほど頭を下げる。
どうやら昼間の騒動が曲解して伝わってしまっているらしい。
オレは片手で噎せる口元を抑えつつ、弁明する。
「ちが、ゲホ、違います! ご、げほ、ごほ、誤解です!」
「安心してください! 責めるつもりは毛頭ありません。ただ娘に子供を産む許可を頂ければ、それ以上は求めません!」
「だから、げほ、ごほ、ち、がう!」
このやりとりはオレの喉が落ち着き、アリス、キリリ、レムを連れて弁明するまで続いたのだった。
☆ ☆ ☆
余談だが、『ゴーレム製武器の製造』は『準神話級魔力回復ポーション』――オレの血さえ混ざらなければスキル『空気中に漂う魔力吸収』のお陰で特に問題なく動き、開発することに成功した。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
沢山感想を頂きありがとうございます!
この6話の後、閑話3で3章が終わり、新しい4章へ入らせて頂きます。
明日の閑話3で久々に剣聖が登場し、さらに彼の母親も顔を出す予定です。
なので剣聖ファン(?)の方は是非是非お見逃し無く!




