4話 味噌と醤油と予想外
皆様にご好評だったので、今回は2つ(3、4話)を12時、18時連続でアップします!(本日2話目)
ゴーレムに新しく創り出したスキル『空気中に漂う魔力を吸収する』を使用。
次の朝まで停止せず稼働するか実験するため、しばらく放置することになった。
ちょうど区切りがよかったので、アリスとキリリにお昼を振る舞う。
オレはアイテムボック内に入っている料理を裏庭のテーブルへと並べる。
今回の献立は『鶏肉の照り焼き』、『肉じゃが』、『豚汁』、『麦飯』だ。
下手に凝った料理より、シンプルな方が良いだろうと以上の料理を作った。
「ちょっと独特な匂いがしますね」
「……そう? 美味しそうな匂いだと思うけど」
キリリは味噌の匂いが気になったのか及び腰に。
逆にアリスは気にならず、むしろ食欲をそそる匂いだと評価するのがなんだか面白かった。
オレは微苦笑を漏らしながら勧める。
「口に合わなかったら言ってくれ。アイテムボックスに料理長が作ったのも入っているから」
「ありがとうございます。シュート様のそういう細かい心遣いは本当に美徳ですよね。普通、シュート様ぐらいのお立場なら気なんて回さなくてもよろしいのに」
キリリが安堵しつつお礼を告げる。
彼女はまず最初に口にし易い汁物へと手を伸ばす。
「んぅ……あっ、美味しい。初めて食べるのに心に染みるというと、ほっとする味ですね。私、この味好きかも」
「口に合ってよかったよ。苦手なのがあったら遠慮せず言ってくれよ」
「……賢者シュート様」
アリスに声をかけられ視線を向ける。
彼女は『鶏肉の照り焼き』を口にしてナイフとフォークを手に、大きな瞳をさらに広げていた。
「……これ、美味しい。凄く美味しい。なんて料理なの?」
「それは鶏肉の照り焼きだよ。醤油と砂糖などで味付けした料理だよ」
「……テルヤキ?」
「テリヤキ。『ル』じゃなくて『リ』な」
「……テリヤキ……テリヤキ……テリヤキ、美味しい。テリヤキ、美味しすぎる」
「アリス?」
「姫様?」
オレとキリリが声をかけるが、アリスは反応せず余程口にあったのか一心不乱に『鶏肉の照り焼き』を集中して食べる。
『……テリヤキ、テリヤキ、神の食べ物』と呟きながら、他の豚汁、肉じゃがには手を出さずにだ。
その様子を見てキリリがドン引きしながら尋ねてくる。
「しゅ、シュート様……テリヤキに何か妖しい魔法か、クスリでも混ぜましたか?」
「2人に食べさせるのに妖しい魔法もクスリも混ぜるわけないだろ。多分だけど、アリスの口に照り焼きがよっぽど合ったんだろうな」
「こんな姫様初めて見ますよ……」
「……賢者シュート様、テリヤキおかわり」
「あっ、はい」
敵対した剣聖に向けるような真剣な瞳に気圧され、オレは素直にアイテムボックスから追加の『鶏肉の照り焼き』を出す。
その後、アリスは豚汁と肉じゃがは普通に美味しく食べたが、麦飯と『鶏肉の照り焼き』を6回もお代わりしたほど気に入った。
キリリも『鶏肉の照り焼き』は美味しいと評価してくれたが、『むしろ私としては優しい味がする肉じゃがの方が好みですね』と感想を漏らす。
味噌、醤油を使った料理は2人に受け入れられてよかったが……アリスに至っては、その日の晩ご飯にも『鶏肉の照り焼き』を所望するほど気に入ったようだ。
正直、気に入りすぎてちょっと引いてしまった。
と、とりあえず味噌、醤油の試食会は好評だったと前向きにとらえよう。
☆ ☆ ☆
味噌、醤油試食会の翌朝。
オレ達は朝食を終えて、裏庭へと集まる。
朝からアリスがテンション高く感想を漏らす。
「……まさかテリヤキがパンに挟んで食べても美味しいなんて。何にでもあうテリヤキは神の食べ物。テリヤキを作りだした賢者シュート様はまさに神様!」
朝、彼女にせがまれて照り焼きを出した。
昨日と同じでは芸がないため、サンドイッチにして提供したが、これもアリスには大好評だった。
お陰で朝からテンションが異常に高い。
「食べ物でここまではしゃぐ姫様を初めて見ました。好き嫌いが無い変わりに、味もあまり頓着しないタイプだったのに……。シュート様、本当にあのテリヤキには変な魔法とかクスリとか入れてませんよね? 姫様だけに効果あるみたいな」
「そんな魔法やクスリある訳ないだろ」
キリリが主の異常な変化に再度ツッコミを入れてくる。
オレはすぐさま否定したが……もしかしたら『ウナギ+梅干し』の食い合わせが体に悪いのと一緒でアリスの体質的に『醤油+砂糖』味が、異常な興奮を刺激する組み合わせだったのかもしれない。
(『鑑定LV9』で食べた際の変化を観察しておいたほうがいいのか……?)
オレはアリスの体調を気にしつつ、裏庭に置かれたゴーレムの側に辿り着く。
昨日、『空気中に漂う魔力を吸収する』スキルを使用した。
注ぎ込んだ魔力量から普通なら翌朝までゴーレムが存在し続けることは出来ないが、魔力消費よりスキルの魔力吸収能力が高ければ問題なく動かすことが出来る。
もし動かすことが出来たら実験は成功だ。
実験が成功したら、新しくゴーレムでスキル付属武器を創り出すことが出来る。
オレはゴーレムに手を伸ばし触れて、魔力を通す。
無事に魔力が通れば、実験は成功である。
「どうですか?」
キリリが興味深そうに尋ねてくる。
「うん、問題なく魔力が流すことが出来る。実験は成功だ! これで新しいスキルが付属した武器を――」
バキィッ!
オレの台詞が破砕音で遮られる。
音の発生源はゴーレムからだった。
人型の約3mのゴーレム胴体部分に亀裂が入った音だ。
亀裂と破砕音は一度では終わらない。
『バキィッ! バキィッ! ガリガリ』とまるで雛が内側から卵の殻を破るように鳴り響き続ける。
オレ達はすぐには反応できず、見入ってしまう。
『ドンォン』と胴体が割れて、上半身が地面に落ち、下半身も崩れて音と振動が響く。
軽い土煙が晴れた先に――1人の幼女が破片に紛れて座り込んでいた。
黒い髪の毛が顎先まで伸び、身長は130cmほどだろうか。大きな瞳に睫毛は長く、血色の良い肌に影を作る。
一見すると顔立ちが整った美幼女のようだが細い手首、足首、股関節などが球体関節になっていた。
人間ではない。
人間の形をした人形だ。
ゴーレムが壊れて内側から現れた人形、または文字通り人の形をしたゴーレムなのだろうか?
ゴーレム(?)幼女が地面にぺったりと座ったまま、オレを見上げてくる。
薔薇色の唇を動かし、真っ白な真珠のような歯を覗かせ言葉を紡ぐ。
「ぱぱ……」
「……けっぷぅ」
オレは胃がキュッと締め付けられ、喉から異音が漏れ出る。
ゴーレム(?)幼女は紅葉のような小さな両手のひらを伸ばし再度告げてくる。
「ぱぱ……!」
「……可愛い」
アリスがゴーレム(?)幼女の姿に頬を染め両手で頬を押さえて感想を漏らす。
キリリは立ったまま白目を剥いていた。
『鑑定LV9』を使用しなくても分かる。
これはどう考えても――やってしまった、というやつだろう。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
やったね、シュートくん! 新しい仲間(幼女)が増えるよ!
ちなみに厄介事も増えるけどな!(愉悦的表情を浮かべつつ)




