19話 キリリのニヤニヤ
皆様にご好評だったので、今回は3つ(17、18、19話)を12時、15時、18時連続でアップします!(本日3話目)
私の名前はキリリ・マルチネル。
アイスバーグ帝国の3女、アリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグの従者をしている。
アリス様――姫様とは子供の頃からの付き合いのため、彼女のことは父親である皇帝陛下より深く知っている自信がある。
そんな姫様がシュート様と出会い、良い意味で変わった。
昔は戦闘一辺倒だったせいで、帝国皇帝の3女にもかかわらず身だしなみは適当。
一般的なご令嬢のようなお茶会や刺繍、ドレスデザイン、宝石、詩を読むことに一切興味を示さず、強くなるための訓練、生き残るためのサバイバル技術、美食――というより体を作るためなのか『質より量』の食事を摂ることに傾倒していた。
他者に対してもあまり興味を示さず、まるで自身をアイスバーグ帝国守護の剣、武器の一つとして扱っている気さえした。
(このまま放置したら最後、結婚もせず、子供も産まず、最後は万の軍隊に突っ込むか、勝てないと理解している強大な魔物と戦って死ぬかの二択しかない!)
姫様にそんな悲しい人生を送って欲しくないのと、その場合、私自身が彼女に付き合って結婚も、出産もせず、万の軍隊か強大な魔物に突撃して死ぬしかない!
そんな人生は嫌過ぎる!
……最悪の場合、子供の頃からの付き合いだから、最後まで姫様にお付き合いしますけど。出来ればそんな悲しい結末は迎えたくないのが人情。
胸中で姫様と自身の将来にハラハラしていると、『スキル創造』所有者シュート様と出会った。
最初こそ姫様が突然、シュート様の奴隷になって頭を抱えたが……。
姫様は本当に昔から『自分が正しい』と信じたら、どれほど危険な行為、周囲に問題が発生するのも厭わず突き進む癖はいい加減直して欲しい!
姫様が起こした問題の後始末は、全部私に降りかかり七転八倒しながらも解決に尽力しなければならないんですから!
でも結果的に、後から考えると姫様の直感的行動が最善のため、強く言えないのがもどかしいんですよね……。
――話を戻しましょう。
シュート様と出会ってから、彼の視線を気にしてか3日に1回しか入らなかったお風呂にちゃんと毎日入ってくださり、身だしなみもしっかりと整え、気を付ける様になってくださいました。
昔の姫様曰く『お風呂に入ると隙だらけになるから好きじゃない。それに自分には汚れを落とすスキルがあるから、お風呂に毎日入らなくても問題は無い』と真顔で言ってくるのだ。
確かに姫様には汚れを落とす『ウォッシュLV8』というスキルがありますが……帝国三女以前に女性としてその発言は如何なものかと。
本当に当時の姫様は、野生の獣というか、幼い頃から付き合っている私にもよく分からない思考をしていたんですよね……。
他にもシュート様と会話をして以前よりよく笑うようになったり、彼の言動を気にして頭を悩ませたり、私とも訓練や実戦以外の話をするようにもなりました。
シュート様と剣聖アビス・シローネが決闘で剣戟を繰り広げている時など、完全に恋する乙女の表情を彼に向けていました。
姫様の『恋する表情』なんて一生見ることは無いかもしれないと、心配していましたが……。
あの姫様を惚れさせるなんて『流石シュート様』と手放しで褒め称えるしかありませんよ。
ただ予想外だったのはシュート様が剣聖に勝利後、姫様にするお願いが『エッチな内容』ではなく、『スキルオーブを使って自身を強化して欲しい』という物だったことです。
私の予想では九分九厘『エッチなお願い』だと思っていたのですが……。
(シュート様ぐらいの年齢の男性は、常に頭の中でそういうエッチなことを考えていると本に書いてあったし、メイド達もそう話していたのに……はっ!? まさかシュート様は男色の気が! なんて流石にその線はありませんね)
私は思わず肩をすくめて、首を左右に振る。
断言できる理由としてシュート様はよく姫様の胸や足、露出した肩、私の胸などにもチラチラと視線を向けていた。
女性に興味が無い訳ではないはず。
(だとしたらシュート様は恋愛ごとに疎いだけ? 姫様も戦闘ならともかく色恋沙汰は経験不足ですから、私が2人の仲を取り持たない限り数年かかって手を握る程度しか進まなそうですね……)
まったくヤレヤレ。
恋愛下手、奥手の主を持つと部下が苦労しますねぇ~。
シュート様、姫様の幸せのためなら、これぐらいの苦労は喜んでしますが。
我ながら私は従者の鑑ですね。
あと予想外といえば……姫様だけではなく、ただの従者である私にまでシュート様がスキルオーブを授けて下さったことです。
私はあくまで姫様の従者で、オマケのようなモノなのに……。
そんな私にまで気を遣わなくてもいいのに。
本当にシュート様はお人好しというか、優しすぎるというか。
でも、なぜかスキルオーブを授けて下さった以上に、その心遣いが嬉しくてつい口元が緩んでしまいます。
正直、あまりにも緩みすぎて姫様にツッコミを受けてしまったほどです。
「……キリリ? どうしたのそんなにニヤニヤして」
「ごほん。なんでもございませんよ。むしろ、姫様の気のせいでは?」
「……? そうかな?」
姫様は可愛らしく小首を傾げました。
いけない、いけない。
自身の立場を忘れてにやけるなど従者失格。
私は自分の頬がこれ以上緩まないように両手でムニムニと解し、元の形に戻そうと努力しました。
(私の役目はシュート様と姫様の仲を取り持つこと。ちゃんと自分の役目を全うしないと!)
胸中で気合を入れ直す。
なのにちょっと気を抜くと、再び口元が緩みだしてしまいました。
こうして私の口元が普段通りになるまで暫くの時間を要したのでした。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
キリリから見たシュート、アリスの様子を書かせて頂きました。
またキリリ本人が『シュートをどう思っているのか?』と触れさせて頂きました。
こういう一歩引いて周囲を視るキャラクターは動かしやすいですね。




