閑話1 エイトの進退
1話はラスト部分以外、短編とほぼ内容は一緒です。
1話はそのために長いですが、次の閑話1、2章1話などは普通の長さになります。
また短編を読んで頂いた読者様は、『閑話1 エイトの進退』以降がスキルマスターの新作部分になります。
「ば、馬鹿なあのスキルゼロの偽貴族が『スキル創造』所有者だと!?」
エルエフ国、オーリー子爵家屋敷の執務室でエイト・オーリーは思わず絶叫を上げる。
廃嫡した元息子であるシュートが『スキル創造』所有者だとアイスバーグ帝国が発表。
この発表はすぐさま全世界を駆けめぐった。
縁を切った父親、エイトの耳に入るほど素速くだ。
エイトは顔面蒼白で頭を抱え込む。
「もしその話が本当ならエルエフ国は――保身能力が高いあの王なら私に罪を被せ、処刑し、シュートにオーリー子爵家を継がせることで許しを得ようとするだろう。この国の上層部は栄光は自身で掠め取り、失敗は下に押しつけるのが病的に上手いからな」
故に彼は失敗を押しつけられ、足下を掬われないように上へ媚び諂ってきた。
兎に角上に気に入られて、失敗を犯さず、押しつけられず切り抜けるのがこの国での生き方だった。
だからこそ、少しでも好感ポイントを稼ぐため、エルエフ王国懇親会パーティーで余興として、スキルゼロの偽貴族シュートの廃嫡騒動を見せ物として許可の下おこなった。
人の不幸は蜜の味。
あの後、国王陛下や王妃だけではなく、侯爵、伯爵とも『シュート廃嫡』という共通の話題で盛り上がることが出来て、上からの覚えもめでたくなった。
しかしシュートが『スキル創造』所有者だと発表されたため、エイト自身の評価は一転。
シュートを呼び戻すための生け贄となる未来しか見えない。
「帝国を貶めようとする敵国の奸計か? いや、皇帝自身が跪き頭を垂れたと複数の人物が目にしているという話だ。実際、皇帝が跪かなければここまで話が広がらんだろう。真実と考えるべきなのだろうな……」
『だとするなら自身の命はもう長くない』
彼は自身の置かれた状況を顧みるとすぐさま行動に移す。
「くそ! このまま生け贄代わりに殺されてたまるか! 私は絶対に生き延びてみせるぞ! 例え妻、息子、部下、領民――貴族の身分を捨ててでも!」
エイトは貴族生活に見切りをつけ、執務室の本棚をひっくり返す。
本棚の裏には代々子爵家当主しか知らされない隠し扉がある。隠し扉を開くと地下室に続く階段が存在した。
階段を下ると一室があり、そこには脱出に必要な資金、武器、旅に必要な道具一式などが準備されていた。
小心者のエイトは、この隠し扉&地下室の存在を知ってからはさらに準備を強化。
換金性の高い宝石類を増やし、怪しまれず購入できるレベルの魔術道具、ポーションを備蓄。本来存在しなかった平民用の薄汚れた衣服類まで準備する徹底ぶりだ。
エイトの臆病さが今回は功を奏した形となる。
彼はすぐさま豪奢な衣服を脱ぎ捨て、準備していた平民用衣服に着替えマントを被る。
纏められた荷物を手に部屋から抜け出し、そのまま地下道を駆け出した。
エイトは地位を顧みず恥も外聞も投げ捨て、自身の命だけに拘った結果、タッチの差で彼は助かることとなる。
エイトが脱出してから約1時間後、彼を捕らえるためエルエフ国から派遣された兵士達が、使用人達の抵抗を無視してオーリー子爵家執務室に押し入ってきた。
彼があと少しぐだぐだと迷っていたら、兵士達に踏み込まれ逃げ出すことは叶わなかっただろう。
『大罪人エイト捕獲失敗』の報告はすぐに国王へと伝わり、彼は青い顔で気を失った。
この結果にシュートが大罪人エイトをわざと見逃した、または自分達が『何かに使えるかも』と隠し立てていると疑われてもおかしくないからだ。
こうして元貴族エイトとエルエフ王国の受難は始まったのだった。




