15話 決着
「ば、馬鹿な!? 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! ありえない! お、オマエ、なんだよ、その力は……ッ!」
「ああ、やっぱりか。『ステータス擬装』が仕事をし過ぎたせいでずっとオレの実力を勘違いしていたのか……」
決闘中の剣聖アビスが悲鳴のような声音を上げて地面に尻餅をついて後退る。
『ステータス擬装』を解除したことでスキル『剣聖』の力が正常に働き、現在の実力差をようやく把握したようだ。
「考えてみれば初対面の時から圧倒的に実力差があった。にもかかわらず喧嘩を売ってくる時点で気付けばよかったな……」
普段、オレは常に『ステータス擬装』で自身のステータスを誤魔化していた。
スキル『鑑定』持ちに、『スキル創造』所有者と気付かれないため、多数有るスキルを誤魔化すためにも使用していた。
いつしか常に『ステータス擬装』で誤魔化すことが当たり前になっていた。
当然、アビスと初めて顔を合わせた時も、『ステータス擬装』で誤魔化していた。
オレのLV、ステータスが高すぎたせいで、スキル『剣聖』の力を持ってしても『ステータス擬装』を見抜けなかったのだ。
故にアビスは『こいつ程度なら自分が勝てる』と錯覚させ、決闘なんて挑ませてしまったのだ。
結果論だが、もし最初からオレが『ステータス擬装』を使わず剣聖アビスと顔を合わせていたら、スキル『剣聖』が仕事をして実力差を理解させて、決闘騒ぎなど最初から起きなかったかもしれない。
言い出しても切りはないが。
「悪い。ステータスを誤魔化すのが癖になっていたんだ。お陰で余計な恥を掻かせてしまったが……。今更、引くわけにもいかないし、運が悪かったと思って諦めてくれ」
「ひぃッ!」
悲鳴を上げ、アビスが後退る。
だが直ぐに魔剣『グランダウザー』を握り締め、立ち上がった。
『勝てないまでも一太刀』や『武人として最後まで抗う』などと言った高尚な精神で立ち上がった訳ではない。
現実逃避した濁った瞳で唾を撒き散らし喚く。
「ぼ、僕ちゃんは剣聖なんだ! 勇者教が認めた聖人なんだぞ! 魔術道具でステータスも大幅に上げているんだ! そ、そんな僕ちゃんが負けるはずがない! ないんだぁぁぁぁあッ!」
喚き散らしながらイノシシのように突進し、勢いに任せて剣を振るう。
がむしゃらに剣を振るうが、さすがスキル『剣聖』持ちだけあり、一応最適解の剣を振るうが、ただのスキル任せに剣を振るうだけのため逆に受けきるのは非常に楽だった。
なのに『心底分からない』と言った表情でアビスが叫ぶ。
「なんで剣聖の剣を受けられる! 大人しく斬られろ凡人が!」
「ただスキル任せに剣を振るわれたら、斬られる方が難しいって。第一、オレもスキル『剣聖』を持っているからスタートラインは一緒だ。後は互いのステータス差、剣術の腕次第だが――」
「ちょ、ちょっと待って! 今なんて言った!?」
アビスは現実逃避した濁った目に理性の光を宿す。
態度の急変にオレも思わず剣を止めて素直に答えてしまう。
「だから、スキル任せに斬りかかられても、剣筋が丸わかりだから斬られる方が難しいんだって」
「違う! その後だ!」
「? ……オレもスキル『剣聖』を持っているからスタートラインは一緒だってところか?」
「そうだ! 『剣聖』は天によって選ばれた者にしか得られないスキル! なのになぜオマエのようなガキが何でスキル『剣聖』を所持しているんだよ!?」
「なぜもなにも……『スキル創造』で作りだしたに決まっているじゃないか」
「ば、馬鹿な……『スキル創造』は『剣聖』まで創り出すことが出来るというのか……ッ!?」
アビスは手にしている魔剣『グランダウザー』を落としそうなほど驚いていた。
どうやら彼は『スキル創造』にも限界、条件があると考えていたようだ。まさかスキル『剣聖』を創り出すほどの力は無いだろうと楽観視していたのだろう。
(確かにスキル『剣聖』を創り出すのに魔力が100万も必要だから、その指摘も的外れって訳でもないんだが……)
仮にオレのオリジナルスキル『魔力ボックス』がなければ魔力100万など到底確保することは不可能だった。
とはいえ、時間操作系や転移系の1億に比べれば大した量ではない。
わざわざ教えてやる理由も無い。
オレは余裕な態度を取り続ける。
「『スキル創造』なんだから『剣聖』ぐらい創れて当然だろう。別に驚くことじゃない」
ちなみにこれは完全に蛇足だが、スキル『剣聖』同士が剣を交えて分かったことがある。
「スキル『剣聖』とステータス差を除外して考えても、お前の剣の腕は大したことないな。オレより剣の才能がないと思うぞ」
「ッゥ!?」
アビスがこの指摘に怒りで顔を真っ赤に染めるが、何も言えず黙り込む。
これは煽りでも、挑発でもない。
剣術に関するスキル、ステータス差を取り除き純粋な技量を比べた場合、アビスの剣の腕はたいしたことがなかった。
恐らくスキル『剣聖』にあぐらを掻いて碌に訓練してなかったのと、元々本人に剣の才能が無かったせいだろう。
仮にスキル無し、ステータス同一なら問題なくオレが勝利する。
この事実のお陰で一つの仮説が成り立つ。
『同スキル、ステータスが相手の場合、純粋に今まで鍛えてきた技術、実力が勝敗を分ける』というものだ。
『スキル創造』に目覚める前、オレはずっと努力してきた。
その努力が決して無駄ではなかったと証明されたのだ。
アビスとの決闘は色々面倒だったが、その仮説を得られたことだけは手放しで喜べる。
……だが、それ以外は本当に面倒事でしかない。
「さて、これ以上は特に得るモノもなさそうだし、終わりにしようか」
「く、来るな! 来るな化け物め! た、たた、助け――」
アビスが逃げ腰で剣を振るうが、それでもしっかりスキル『剣聖』は仕事をしている。
お陰で軌道が丸わかりだ。
オレは振り回される魔剣『グランダウザー』を『クリムゾン・ブルート』で弾き散歩でもするように歩き、距離を縮める。
ガキィン!
途中、オレのステータスと準亜神剣『クリムゾン・ブルート』に耐えきれず、魔剣『グランダウザー』が耐えきれずに真っ二つになってしまう。
まさか『グランダウザー』が斬られて真っ二つになってしまうとは想像していなかったアビスが呆然と、半ばから斬れてしまった剣を見下ろす。
その隙を逃すほどオレはお人好しではない。
『クリムゾン・ブルート』を振るい、左肩から右脇腹に沿って切り裂く。
「ごぶぅ!」
血を吐き出すアビスの顔面を最後は、蹴り飛ばし意識を奪って地面に転がす。
「――勝者、『スキル創造』所有者シュート!」
審判の冒険者組合の副ギルド長カーンが、オレの勝利を大声で告げると、静まりかえっていた闘技場は爆発したような歓声と声援、拍手によって埋め尽くされる。
こうして『スキル創造』所有者シュートvs『剣聖』アビス・シローネの決闘が終決したのだった。
スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!
決闘決着!
無事、剣聖を倒すまで書けて嬉しいです!
皆様が少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。




