14話 決闘 剣聖の本気
皆様にご好評だったので、今回は2つ(14、15話)を12時、17時連続でアップします!(本日2話目)
闘技場は一般席と貴賓席に分かれている。
各国のトップ陣が座る貴賓席は、俯瞰し見やすい位置に設置されている。出入り口も一般人とは区分され、その気になれば誰とも会わず出入り可能だった。
残る席は見やすい場所から上流階級者に押さえられ、最後に一般人が前席を埋めている。
まさに満員御礼。
立ち見席ですら人がこぼれ落ちそうなほど集まっていた。
碌に娯楽が無い世界のため『スキル創造』所有者vs剣聖など、大金を払ってでも見逃せないイベントなのだろう。
「ようやく来たね。僕ちゃんを待たせるなんて、相変わらず礼儀がなっていないガキだね」
小学校グラウンドのように広く硬い土の地面を歩きながら、周囲を観察していると先に来ていた剣聖が嫌味を飛ばしてくる。
運営スタッフに呼ばれてすぐ出てきたから、礼儀を問われるほど遅かった訳ではないんだが……。
オレが反論するより早く、第三者が口を開く。
「今回の決闘を見届ける大役を賜った冒険者組合の副ギルド長、カーンだ。冒険者組合の副ギルド長として、私自身の良心に従い公平な見届けを務めることを誓わせてもらう」
冒険者組合の副ギルド長カーンは、細身だが筋肉ががっしりと付いていて、身長も高く180cmを越えている。
立ち振る舞いから魔術師ではなく、剣士、戦士系のタイプだと推測できた。
左こめかみ、頬にかけて魔物に抉られたような爪傷が残っており目つきも鋭く、まるで前世のインテリヤクザ系の雰囲気を醸しだしていた。
カーンは改めて今回の決闘ルールについて触れる。
「この決闘は急所への攻撃、武器、マジックアイテム全て使用可能とする。私が『これ以上、戦えない』と判断したり、気絶した場合敗北とする。当然、命を落とした場合もだ。敗者は勝者の要求を一切合切全て呑む。また決闘した際、どのような問題が起きても、意義を申し立てないと双方誓えるか?」
「誓います」
「僕ちゃんも誓いま~す」
「……双方の合意を確認した」
カーンは返答を確認すると、貴賓席へと視線を向けて頷く。
貴賓席に居るアイスバーグ帝国、勇者教トップ達も先程と似たようなやりとりをおこなったことを確認したようだ。
互いに了承が取り終えた後、カーンがオレ達から距離を取る。
「私の掛け声の後に試合を開始する。双方構え」
彼の言葉に従いオレは腰に下げている準亜神剣『クリムゾン・ブルート(深紅の血)』を抜く。
アビスも背中に装備していた魔剣『グランダウザー』を抜いた。
オレとアビスの距離は10m前後。
互いにその気になれば一息で縮められる間合いだ。
オレ達が構えたのを確認してから、カーンが手を上げ――。
「それでは決闘を開始する。始め!」
手を振り下ろすと、会場は爆発したような歓声を上げた。
歓声とは裏腹にオレ達はすぐに仕掛けず互いに剣を構えたまま動かない。
アビスが何を考えているかは分からないが……オレは混乱しすぐにしかけることが出来なかったのだ。
混乱している理由は――剣を構えているアビスが驚くほど隙だらけだったからだ。
(いくらステータス差があるとはいえ、これほど隙だらけなんて……。もしかしてわざと隙を見せて何か罠にひっかけようとしているのか?)
オレが猜疑の視線を向けていると、
「ようやくこの時が来たよ。僕ちゃんに対して調子に乗った態度を取ったクソガキを合法的に躾てやれる時間がね!」
アビスが気持ちよさそうに朗々と語る。
この瞬間、切り伏せられるほどの隙の見せようだが……。
「どうした? 今更、後悔しているのかにゃ? だとしたらもう遅いぞ。スキルを創らせるから殺しはしないが……地獄のような痛みと絶望は覚悟しろ!」
「!?」
剣聖アビスはよく滑る舌で会話後、一息で間合いを詰め魔剣『グランダウザー』を振り下ろす。
オレは冷静に『クリムゾン・ブルート』で弾く。アビスはその流れに逆らわず、魔剣『グランダウザー』を再び振り上げ、今度はより力を込めて振り下ろしてくる。
オレはすぐさま回避するが、アビスは手首を返して切り上げ追撃してくる。
オレ達はまるで舞台の演目のような剣戟をおこなった。
オレ達からすると軽い肩慣らし程度だが会場からは歓声ではなく、高度な剣戟を目の前にして感嘆の溜息を漏らす。
「おいおい、最初からそんな逃げ腰でどうする!? 僕ちゃんに勝つ気はあるのかにゃ~?」
(むしろそれはこっちの台詞だ! いくらなんでも弱すぎないか? いくら本気ではない軽い打ち合いとはいえ剣速は遅いし、力も弱い。なによりスキル『剣聖』の力で、相手の大凡の力量は把握できる。にもかかわらず彼に怯えや驚きの感情が一切無いのが不気味過ぎるぞ)
オレとアビスのステータス差は隔絶しているほど広がっている。
具体的に数値で見ると――。
まずオレの現在のステータスはこんな感じだ。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:51
体力 :15000/15000
魔力 :9000/9000
筋力:4200
耐久:4500
敏捷:1500
知力:1050
器用:1350
スキル:『スキル創造』『剣聖』『時間操作LV1』『騎士LV8』『光魔法LV8』『気配遮断LV8』『隠密LV8』『気配察知LV8』『健脚LV8』『逃走LV8』『韋駄天LV8』『直感LV8』『剣術LV8』『格闘LV8』『火魔法LV8』『水魔法LV8』『風魔法LV8』『土魔法LV8』『闇魔法LV8』『身体強化LV8』『HP強化LV8』『MP強化LV8』『頑強LV8』『魔力耐性LV8』『物理耐性LV8』『精神耐性LV6』『鑑定LV9』『ステータス擬装』『スキル経験値増大』『LV経験値増大』『裁縫LV8』『皮加工LV8』『鍛冶LV8』『生産技能LV8』『抽出LV8』『索敵LV8』『槍術LV8』『斧術LV6』『回復LV8』『超回復LV8』『MP回復速度LV8』『攻撃魔法強化LV8』『アイテムボックスLV8』『魔力ボックスLV7』etc――。
称号:廃嫡貴族(準亜神)
次に決闘開始の声が掛けられる前に確認したアビスのステータスは以下となる。
名前:アビス・シローネ
年齢:24歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:50
体力 :6000/6000(+2000UP)
魔力 :100/100
筋力:2500(+1500UP)
耐久:800
敏捷:300(+180UP)
知力:50
器用:250(+150UP)
スキル:『剣聖』『身体強化LV7』『頑強LV7』『アイテムボックスLV5』『回復LV7』『物理耐性LV7』『魔力耐性LV7』『怪力LV7』『気配察知LV7』『気配遮断LV7』
称号 :勇者教聖人
アビスは以前に比べると体力、筋力、敏捷、器用が約1.5倍に増えている。
恐らくステータスをアップする魔術道具を装備しているのだろう。
1.5倍もステータスを上げる魔術道具は非常に高価で稀少だ。
アビス本人が4つも持っているとは考え辛い。
恐らく勇者教か、どこかの大貴族、大商などが支援として貸し出しているのだろう。
しかし、数値を見てもらえると分かるが、ステータス差は圧倒的にオレの方が上だ。
(魔剣『グランダウザー』の力でオレを弱らせるのが狙いなのか、とも考えたが……)
『鑑定LV9』で確認した魔剣『グランダウザー』の能力を思い出す。
『グランダウザー』――使用者のLV以下か、ステータス数値(一部でも可)が低い相手に傷を負わせる事にランダムでステータス異常を引き起こさせる。魔剣。
つまり、アビスよりLVとステータス数値が高いオレにはただの剣でしかないのだ。
オレが作り出した準亜神剣『クリムゾン・ブルート(深紅の血)』と比べるのは可哀相だが、ただの剣として考えれば切れ味等の性能はそれなりに良い。だが、能力が封じられていることを考えれば切れ味が多少良くてもあまり意味は無い。
そんな魔剣『グランダウザー』の性能を所有者である彼らが、知らない筈がない。なのに怯えたり、脅威に感じたりする態度を一切見せない。
演技……と考えるにはあまりにも自然な態度だった。
「さて、そろそろ肩慣らしもお終いにして本気でいこうかな」
アビスが魔剣『グランダウザー』を担ぐように構え、深く身を落とす。
まるでスタートダッシュ前の陸上選手のようなクラウチングスタートを取る。
「せいぁあぁぁぁッ!」
気合一閃!
地面が爆発し抉れるほどの踏み込みと共に、魔剣『グランダウザー』を全力で振り下ろす。
オレはクリムゾン・ブルートで受け止めると、流れるようにアビスが2度、3度気合を吐き出し剣を振るう。
その全てをオレは軽くいなす。
つばぜり合いで正面から向き合う形になると、アビスが嬉しそうに褒めてくる。
「僕ちゃんの本気の剣を3合以上も受けられたのは久しぶりだよ! なかなか頑張るじゃないか『スキル創造』所有者くん!」
(……今のがアビスの全力なのか? 最初の軽い打ち合いとたいして変わらない程度なのに?)
速度が遅いだけではない。
フェイントも、虚実もなくただ剣を振るわれただけだ。
速度や腕力は別だが、根本的に子供が棒きれを持って振り回しているのと同じである。
逆に低レベル過ぎて呆れるほどだ。
(こちらを油断させて、罠に嵌めるのかと疑っていたが……いつまで経ってもそんな素振りも見せないし……。軽く攻めて相手の様子を窺ってみるか?)
オレは力任せにつばぜり合いをしていた剣を押し返す。
その後、軽く剣を振るうが――最初の1合で余裕の笑みをニタニタ浮かべていたアビスの顔色が明らかに変わる。
なんとか剣を受け止めるが、2合目は地面を転がり無理矢理距離を取りなんとかギリギリ回避した。
彼は地面に片膝を突き、転がったのと冷や汗を流したせいか、顔中にべったりと土が付いている。
しかし、アビスはそんなことを気にする素振りも見せず、怪物でも前にしたかのように両目を限界まで開き問いつめてくる。
「い、一体どういことだ! 急に強くなって! どんな魔法を使ったんだ!?」
「……どんな魔法も何も、ちょっと軽めに攻めただけなんだが」
「か、軽く攻めただけだと……剣聖である僕ちゃんが無様に回避しないといけない攻撃のどこが軽くなんだよ! 強さ的にどう考えても僕ちゃんの方が強いはずなのに! そんな訳あるはずないだろうが! 本当のことを言えよ!」
「本当のことも何も事実しか……あっ」
ようやく気付く。
なぜスキル『剣聖』を持つはずのアビスが、これほどステータス差があるにもかかわらず余裕の態度をとり続けていたのか。
演技なのか、何か罠をしかけているのかと疑っていたが……。
「もしかしてスキル『ステータス擬装』のせいでオレの実力をちゃんと理解していないだけだったのか?」
「は、はぁ? 『ステータス擬装』? そんなスキルに何の意味があるっていうんだ?」
オレの独り言にアビスが胡散臭そうな視線を向けてくる。
彼の言葉に反応せず、オレは『ステータス擬装』を解除した。
「!?」
結果、アビスの顔色が先程以上に悪くなる。
まるで自身に終わりを告げる死神を目の前にしたようにだ。
スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!
ヒャッハー! 決闘だぁぁぁ!
どうしてこれだけステータス差があるのに剣聖が余裕だったのか――。構成や展開を色々考え、こんな形になりました。
ステータス擬装が凄すぎたんだ……慢心は本当に危険ですね……。
また活動報告に感想返答を書かせて頂きました。
よろしければご確認くださいませ。




