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13話 魔剣『グランダウザー』

皆様にご好評だったので、今回は2つ(14、15話)を12時、17時連続でアップします!(本日1話目)

 帝都首都から程近い勇者教の力が強い街。

 その最高級宿屋の最上階を我が物顔で占拠しているのが勇者教聖人、スキル『剣聖』を所持するアビス・シローネだ。


「ようやく来たのか、待ちわびたよ」


 彼は上機嫌でリビングテーブルに置かれた棺桶のように長い鋼鉄製の箱を前に笑みを零す。

 鋼鉄製の箱には、闇を切り取ったような黒い上等な布が中央に巻かれている。

 その布には血より赤い文字で魔法陣と長大な文章が記されていた。別に箱を装飾するための飾りではない。

 この異世界でも考えられる限り上位に入る封印、盗難防止などを施した魔術だ。


 下手に触れれば例えアビスでも無傷では済まないほど、高度な魔術がほどこされている。

 今回輸送を担当した勇者教神官の1人が、手順に従い布を取る。

 さらに箱に両側6つ付けられた鍵を外す。

 この鍵と鍵穴にも魔術的措置が施され、盗賊などが使うピッキングツールを入れただけで死亡するレベルの呪いが懸けられているのだ。


 完全に開封作業を終えた後、蓋を取る。

 中に入っていたのは1本の大剣だった。

 アビスが大剣を見下ろし身震いする。


「これが過去、勇者と一緒に魔王討伐へ向かった『剣聖』が愛用していた魔剣『グランダウザー』か。まさか僕ちゃんの代で、魔剣『グランダウザー』を拝める日が来るとは……」


 彼の言葉通り、通常ならば例え聖人である『剣聖』でも魔剣『グランダウザー』は使うことは無い。

 なぜなら魔剣『グランダウザー』は勇者教の教義を支える神器に等しいのだ。

 おいそれと表に出して、無駄に盗難リスク上げる意味はない。


 だが、今回は『スキル創造』所有者との決闘のため、特別に許可が下りたのだ。


 アビスを護衛するより多い勇者教教会聖騎士達を従えつつ、魔剣『グランダウザー』を運んできた神官が言付けを口にする。


「教皇様のお言葉をお伝えします。『魔剣グランダウザーを持ち出した以上、確実に勝利して頂きたい』とのことです」

「魔剣『グランダウザー』を手にした以上、『剣聖』に敗北の2文字はない。『スキル創造』所有者にどんなスキルを作らせるか、誰にどれだけのスキルを与えるか、今の内に計算しておいたほうがいいと伝えてくれ」

「畏まりました」


 彼らのやりとり通り、勇者教は確実に『スキル創造』所有者を取り込むため、アビスに対して魔剣『グランダウザー』の使用許可を下した。

 他にも大商や他国貴族達が、こぞってステータスが上がる魔術道具や資金の提供、他雑務の請負などを申し出ている。

 全てアビスが『スキル創造』所有者に勝利した後、自分達の意図するスキルを彼経由で創らせるための投資だ。


 アビスは魔剣『グランダウザー』を手に取ると、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「剣聖として魔剣『グランダウザー』を振るえるだけじゃなく、勝利すれば『スキル創造』所有者や帝国3女の皇女、さらなる名声、権力まで付いてくるなんて。僕ちゃんはなんて幸運なんだろう! 楽しみだ。早く決闘日になればいいのに!」


 彼は舌なめずりして、下卑た笑い声をあげる。

 その声音には自分が敗北するなど微塵も考えていなかった。




 ☆ ☆ ☆




『スキル創造』所有者シュートvs剣聖アビス・シローネの決闘当日。

 帝国のみならず、世界中がこの決闘に熱い視線を向ける。


 当然、各国の首脳陣から『観戦許可』を相次ぎ求められ、帝国側は受け入れ体制を急遽作るのに四苦八苦していたらしい。

 しかし、オレの元母国であるエルエフ王国からも依頼を受けたが、当然拒絶。

 拒絶されたことで、オレと直接顔を合わせて謝罪し、再度取り込む機会を失いエルエフ王国国王は、再び胃を痛めのたうち回ったとか。


 その話を耳にして『可哀相』とはまったく思わず、むしろ『ざまぁ』という気持ちの方が強かった。

 自分で考えている以上に、エルエフ王国を恨んでいたようだ。


 また決闘がおこなわれる場所は、帝国首都にある闘技場だ。

 普段は祭りや兵士達の訓練、試験会場、武器・武具大型販売や試験など民間にも貸し出されている。

 闘技場という名前だが、前世日本で言う夏と冬におこなわれる会場のような扱いだ。


 今回の決闘は帝国臣民にも広く知られ闘技場は満員御礼。

 賭け事の対象にもなり、大規模な祭りのような盛り上がりを見せている。

 前評判は五分と五分。

『剣聖』が強いのは一般常識だが、スキルを好きに創り出すことが出来る『スキル創造』所有者という存在が未知数過ぎて、人気が分かれてしまったようだ。


 帝国臣民達にも広く宣伝し、決闘を公開するよう希望したのも勇者教側からの要望だ。

『多くの人々に今回のような類い希な戦いをお見せしたい』と綺麗事並べているが、本音は剣聖が勝利しても帝国側に誤魔化されないようにするための処置である。


 さらに審判役も第三組織として冒険者組合に依頼する徹底ぶりだ。


 お陰で割と広い控え室にはオレ、アリス、キリリの姿しかない。

 下手にスタッフを入れて、暗殺者に早変わりしたり、飲み物、食べ物などに毒物を入れられたりしないよう注意した結果だ。


 暫くすると、遠くから地鳴りのような歓声が聞こえてくる。


「凄い歓声だな。どれだけ人が集まっているんだよ」

「……それだけ皆が、賢者シュート様と剣聖との決闘に注目している」

「姫様の言う通りではあるんですが……これから始まるのは一方的な戦いですけどね」


 キリリは剣聖がいるであろう方角へ同情の視線を向けながら呟く。


「確かにスキルやステータス、武器もオレが有利だが、他の要素もあるし勝負は何が起きるか分からないから。油断せず全力で挑むよ」

「……賢者シュート様、良い心がけ。ドラゴンはウサギを狩る時も全力を尽くすもの」


 オレの心構えにアリスが『うんうん』と満足そうに頷く。

 そんな会話をしていると、扉がノックされる。

 声をかけると、冒険者組合から派遣されたスタッフが顔を出す。


「シュート様、お時間です。会場まで向かってください」

「分かりました。すぐに行きます」


 椅子から立ち上がり、最後に装備を確認する。

 防具は『中央大森林』で作ったレッサーブラックドラゴンで作った革鎧だ。防具にも手を回そうと考えたが、現在使っているので十分なのと下手に金属鎧にして動きが阻害されたくなかったたため使い回すことにした。

 腰には準亜神剣『クリムゾン・ブルート(深紅の血)』。


 鞘も深紅で非常に目立つが、スキル『ステータス擬装』でただの魔剣と誤魔化している。

 こんな大勢の人が居るなかで、『準亜神剣』など爆弾になりそうな名前をそのまま晒す気は微塵もない。

 他にもアイテムボックスにいざという時の各種アイテムが入っているのを確認する。


(よし、準備に漏れはないな)


 オレは一通りの確認を終えると、スタッフの後へ続き会場出入口へと向かう。

 アリス、キリリも一緒に後へと続いた。


 控え室を出て数分――トンネルのように光が差し込む出入口が見えてくる。

 そこから歓声だけはなくヒリヒリするほどの熱気まで伝わってきた。


「ここから先はシュート様のみお進み下さい」


 スタッフの声にアリス、キリリが足を止める。

 オレは2人に振り返り、笑みを浮かべ声をかけた。


「それじゃ行ってくるよ。オレが戦うところをちゃんと見ててくれよな」

「……賢者シュート様の勝利を願って」

「シュート様が負けるとはこれっぽちも考えていませんが、怪我もなるべくしないでくださいね。勝利しても大怪我しましたなんて笑い話にもなりませんから」


 アリス、キリリそれぞれの声援を受け、オレは頷きで答え2人に背を向ける。

 まっすぐトンネルを抜け出るように光と音、決闘の舞台に足を踏み出したのだった。


スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!

次はいよいよ剣聖との戦いです!

どんな戦いになるのか是非お楽しみに!

また活動報告に感想返答を書かせて頂きました。

よろしければご確認くださいませ。


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