9話 血
鍛冶師が作り出す魔剣はレアな魔石や素材であればあるほど製造難度は高くなるが、高品質で優れた力を持つ魔剣を作り出すことが出来る。
魔剣『グランダウザー』は当時の最高峰の腕を持つ鍛冶師が、潤沢な予算&素材を注ぎ込み作り出した魔剣だ。
そんな魔剣に対抗する剣を作り出そうとしたら下手な素材では太刀打ち出来ない。
出来るならなるべく稀少、レアな素材でなければ対抗する魔剣は作り出せないだろう。
だが稀少な素材を準備しようとしたら約1ヶ月後におこなわれる予定の決闘まで間に合わない可能性がある。
大抵、稀少な素材となる魔物は人が早々立ち入れないダンジョン、大陸、大森林奥地に居るためだ。また場所に辿り着いても運良く出会えるかは未知数である。
だがそんな奥地まで行かなくても、身近なレア素材に気付く。
それはオレ自身だ。
「自慢ではないが、この世界でオレより珍しい存在は早々いないだろう。それこそお伽噺に出てくる大精霊や勇者、神様、魔王ぐらいじゃないか? そんな伝説の中の伝説である『スキル創造』所有者を素材として使えば魔剣『グランダウザー』にも対抗できる魔剣が作り出せると思うんだよ」
「り、理屈や理論は分かりますが……普通、自分を素材にして魔剣を作り出すとかいいますか?」
「……自分を粗末にしては駄目。賢者シュート様が素材になるのなら自分が代わりになる」
キリリはオレのアイデアにドン引きしていた。
アリスはオレ自身を丸ごと魔剣素材にすると勘違いしたらしく、ウルウルと大きな瞳を潤ませ制止してきた上、自分が素材になると告げてくる。
オレは2人を落ち着かせるため、手のひらをひらひらさせる。
「キリリがドン引きするのも分かるが、『素材』として考えた場合これ以上のは存在しないのも確かだろ? アリス、大丈夫だ。別にオレ自身を丸ごと素材に使うわけじゃなく、血液をちょっと混ぜる程度だから」
「いや、まぁそれなら確かに危険は薄そうですが……」
「……賢者シュート様が危険なことをしないなら良かった」
キリリは一応納得し、アリスもオレの説明が効いて落ち着きを取り戻す。
レア素材を発見したため、とりあえず検証を含めて実際に魔剣開発作業へと着手する。
まずオレは自身の指を切って、小瓶に血液を溜める。
指を治癒した後は、離れ裏手の一角に森で使っていた工房をアイテムボックスから取り出し設置した。
「あ、アイテムボックスに鍛冶場を丸ごと入れて出し入れ可能とか……大森林からの引っ越しの際も見ましたが本当に常識外な光景ですよね」
再び驚愕するキリリに微苦笑を漏らし、手持ちのアイテムボックスに入っている手持ちの最高品質素材を惜しみなく取り出し使う準備をする。
「それじゃ早速、魔剣作りを始めるか。ちょっと時間がかかるけど、2人はどうする?」
「……自分は賢者シュート様の側に居る」
「私も見聞を広めるためお側で見ていますね」
別に完成するまで別の事をしてもらってもいいのだが、2人が側に居たいと言うなら拒否する理由はない。
オレは軽く返答した後、早速魔剣作りに着手する。
工房の火を魔力を使用して最大火力まで押し上げる。
『鍛冶LV8』に従い採取したオレの血が入った小瓶や鋼鉄、最高品質の魔石、他素材を使って魔剣製作をおこなう。
カンカン! コンコン! ゴンゴン! ジュワァー!
離れの裏庭に鍛冶工房で良く耳にする音が響き渡る。
離れは皇城から距離があり、広さも十分あるため騒音で近所迷惑になることはない。
――魔剣作製に取り掛かり、1時間ちょっと。
魔法も駆使したお陰で無事に完成することが出来た。
オレが『中央大森林』で最初に作って愛用している黒曜鉱石、ビックベアーの魔石、骨を混ぜて鍛冶スキルで鍛えた黒い大剣より刃の幅が少しだけ狭いが、基本の出来は一緒だ。
しかし色は血を混ぜたせいか、真っ赤なルビーのような深い深紅の色をしていた。
深い深紅のせいか、太陽光を反射するせいか……まるで宝石で作り上げた剣のように輝いている。
剣というより一種の芸術品のような魔剣が誕生する。
「鍛冶職人が目指す到達点を楽々突破するとか!? ひ、非常識過ぎますよ!」
キリリからツッコミを受けつつも、オレは気にせず出来をスキル『鑑定LV9』でチェック。
クリムゾン・ブルート――『スキル創造』所持者シュートの血を混ぜ製造された準亜神剣。
「?」
この赤い剣の名前が『クリムゾン・ブルート(深紅の血)』というのが分かった。
オレの血を混ぜて作ったのも鑑定テキストに書かれているため理解できる。
しかしこの『準亜神剣』ってなんだよ……。
スキル『鑑定LV9』がすぐさま疑問を鑑定してくれる。
準亜神剣――準亜神の一部を素材にして作られた剣。『神剣』、『亜神剣』、『準亜神剣』、『魔剣』と上に進むほど格が高い。
準亜神――亜神、一歩前に位置する存在が準亜神。亜神の次は神へといたる。
「けっぷぅ」
思わず久しぶりに奇声をあげてしまう。
『神剣』とは勇者が手にした伝説の剣。神が作り出し、スキル『勇者』に付与している剣のことである。
つまりオレは神の2つ前の準亜神的存在で、その血を材料にしたせいで『クリムゾン・ブルート』は魔剣の一つ上の『準亜神剣』を作り出してしまったらしい。
自身のステータスを改めて注意深く確認すると――。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:51
体力 :10000/10000
魔力 :6000/6000
筋力:2800
耐久:3000
敏捷:1000
知力:700
器用:900
スキル:『スキル創造』『剣聖』『時間操作LV1』『騎士LV8』『光魔法LV8』『気配遮断LV8』『隠密LV8』『気配察知LV8』『健脚LV8』『逃走LV8』『韋駄天LV8』『直感LV8』『剣術LV8』『格闘LV8』『火魔法LV8』『水魔法LV8』『風魔法LV8』『土魔法LV8』『闇魔法LV8』『身体強化LV8』『HP強化LV8』『MP強化LV8』『頑強LV8』『魔力耐性LV8』『物理耐性LV8』『精神耐性LV6』『鑑定LV9』『ステータス擬装』『スキル経験値増大』『LV経験値増大』『裁縫LV8』『皮加工LV8』『鍛冶LV8』『生産技能LV8』『抽出LV8』『索敵LV8』『槍術LV8』『斧術LV6』『回復LV8』『超回復LV8』『MP回復速度LV8』『攻撃魔法強化LV8』『アイテムボックスLV8』『魔力ボックスLV7』etc――。
称号:廃嫡貴族(準亜神)←new
よく確認するとキリリのように『廃嫡貴族(準亜神)』という隠し称号が存在していた。
まさか自分にこんな隠し称号が付いていたとは……。
「……? 賢者シュート様、どうかしたの? 何か問題でもあったの?」
「問題ではないんだが……」
「――すみません、私、ちょっと急用を思い出しました」
逃がさん! オマエだけは!
厄介事の気配を敏感に感じ取ったキリリが、慌てて席を立って逃げようとしたがその腕を掴み引き留めつつ、『鑑定LV9』で確認した情報を2人に伝えた。
「……凄い! 賢者シュート様、凄い、凄い、凄い!」
「けっぷぅ」
この事実を聞いたアリスが子供のように『凄い』とはしゃぎ、キリリが久しぶりに奇声を吐き出す。
キリリがお腹を押さえつつ、絞り出すように声音を漏らす。
「ま、まさか魔剣を作っていたら、魔剣の一つ上の剣を作り出すとか……。これ下手したら『スキル創造』より厄い話になりますよ。正直もう剣聖の決闘とかどうでもよくなってきたんですが……」
「だよな……で、でも前向きに考えればこれで魔剣『グランダウザー』に対抗できる剣が出来たと考えればいいんだよ!」
「そうとでも考えないとやってられないですね。シュート様、『クリムゾン・ブルート』を使う場合はガチガチにステータス擬装してくださいね」
「もちろん、分かっているって」
「……?」
アリスだけがオレ達の危惧している意図が分からず首を捻る。
とりあえず問題は多々起きたが、こうして無事に魔剣『グランダウザー』に対抗できる剣を作り出すことに成功したのだった。
スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!
この準亜神剣を作ったシーンは個人的に面白く書かせて頂きました。
こうしてどんどん主人公が成長していくのがいいですよね~。




