8話 レア素材
勇者の神剣『カリバーン』。
大魔術師の杖『ヨルムンガンド』。
剣聖の魔剣『グランダウザー』。
以上が過去、実際に存在した魔王を退治した勇者達の代表的な武器だ。
『精霊使い』は大精霊を使役していたため、彼らのような伝説の武器は所持していない。
神剣『カリバーン』は神が作り勇者に与えた伝説の剣のため、スキル『勇者』に付随しているらしい。
剣という物質ではなく、スキルで作られた武器に近いようだ。
大魔術師の杖『ヨルムンガンド』は、『北の魔女』が持つとされている。
剣聖の魔剣『グランダウザー』だけは勇者教総本山の宝物庫に保管されていた。
キリリの勘では今回の決闘に剣聖の魔剣『グランダウザー』を持ち出してくるのではないかというのだ。
前世日本で言うなら、草薙の剣を持ち出してくるようなものである。
「いやいやまさか、魔剣『グランダウザー』はただの武器じゃない。勇者教にとって自身の権威を示す大切なモノだろう。いくら剣聖でも、魔王が復活したならともかくただの決闘に持ち出してくるはずが……」
この指摘にオレは頬を引きつらせて否定しようとしたが……否定しきれなかった。
決闘に勝てばオレはアビスの部下になる。
魔剣グランダウザーを持ち出す代わりに『勇者教が好きなスキルを作らせる』という対価を差し出せば持ち出す可能性は高い。この決闘はただの決闘ではない、リスクに見合う明確なリターンがあるのだ。
そう考えれば、むしろ出てくることを考慮して動くべきだろう。
「魔剣『グランダウザー』の能力って、物語だと確か……」
「切った相手に呪いをかけ、切れば切るほど相手を弱体化させる能力ですね」
オレが子供の頃よく聞いた物語を思い出そうとすると、キリリが補足してくれる。
確かにそんな感じの能力だった。
魔王には効果がなかったが、他の魔物には効いて勇者の露払いとして非常に役に立ったらしい。
「……例え魔剣『グランダウザー』が出てきても問題ない。全部の攻撃を回避すれば弱体化しない。それに切られたら弱るのは普通の剣でも当然のこと、切られなければ全く問題ない」
アリスがオレ達の話を聞いて自信満々に脳筋的な解決策を提示してくる。
言わんとすることは分かるが……。
キリリは流石に長年一緒にいるだけあり、慣れている様子でフォローする。
「姫様のお言葉も的外れではないんですよね……。それにグランダウザーは当時、最高峰の鍛冶師が稀少な材料を惜しみなく注ぎ込み作り出した魔剣。あくまで人の手で作られた剣ですから……。神剣『カリバーン』が相手じゃないだけマシだと考えましょう」
魔剣は魔物の魔石を粉にして、金属へ混ぜて作り出す。
故に『魔』剣と呼ばれている。
これが極基本的な魔剣の作り方だ。
魔石と一緒に骨、血液、体液なども混ぜて作るとより高品質な魔剣を作り出すことが出来るが、指数関数的に製造が難しくなるとされている。
そのため配合比は秘伝扱いされる。
なのでただでさえ低レベルな魔剣でも作り出すのが難しいため、魔剣を作り出すことが武器職人の到達点だと言われているのだ。
さらに高品質な魔剣を作り出そうと鍛冶師達は切磋琢磨しているのだ。
「オレも自分で作った魔剣があるが『グランダウザー』に対抗できるとはほどではないんだよな。単純に切れ味をアップさせるだけの力しかないし……。魔剣『グランダウザー』を持ち出されると想定して、新しく魔剣を作った方がいいな」
「なにさらっと鍛冶師の到達点をあっさり作ったといっているんですか、この人は……。本当に何でも出来すぎでしょ」
キリリのいつものツッコミを無視して話を進める。
新しく魔剣を作るとして問題一つ……材料が無いことだ。
「大森林で倒した中で、最もレアな魔物の魔石や骨、血を使って作ったのが手元にある魔剣だからな。手持ちで作っても品質はそこまで変わらないんだよな」
「姫様のアイテムボックスに私達にとってレアな魔物素材や魔石はありますが、シュート様のと比べると一段落ちますからね」
「……皇帝陛下に頼んで宝物庫を開けてもらう? あそこならレアな素材が一杯ある。賢者シュート様の頼みなら皇帝陛下も喜んで素材を譲ってくれる」
「いや、それはちょっと気後れするというか、申し訳ない気持ちになるから遠慮したいかな」
アリスの言う通り皇帝陛下なら快く了承するだろう。
とはいえ帝国が長い年月をかけて集めてきた素材を一方的に譲られるのは、根が一般庶民の自分としては非常に落ち着かなくなる。
オレが剣聖に負けて勇者教に取り込まれるぐらいなら帝国は喜んで素材を提供するだろうが……。
心情的に出来るなら避けたい。
「なら今から稀少な魔物を狩りに行きますか? シュート様と姫様が協力すれば大抵の魔物は倒せますから」
「オレもそう思うが、稀少な魔物が住む場所までの移動時間もあるし、本当に出会えるかも分からないからな」
「あぁぁ~……」
オレの指摘にアリスが納得したような声音を上げる。
決闘まで約1ヶ月。
それまでの間に『稀少な魔物と出会い倒して、魔剣を作り、決闘会場まで戻って来られるか』と言われたらちょっと微妙だ。
時間さえかければ解決できる問題なのだが、決めた日付をずらすのは避けたい。剣聖側に余計な指摘を受ける部分を作りたくないからだ。
出来ればもっと身近にレア素材があればいいのだが――うん?
「……この世界で一番レアな素材ってもしかして『オレ』じゃないのか?」
「「?」」
アリス、キリリが揃って『意味が分からない』と首を傾げる。
オレは思い付いたアイデアを2人に分かるように説明したのだった。
スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!
正直、スキルマスターは明鏡的にも色々実験的、挑戦的な作品になっているので、皆様に受け入れられるかどうか心配しておりましたが、大勢の方に読んで頂けて本当に嬉しいです!
なるべく毎日更新できるよう頑張りますので応援のほどよろしくお願い致します!
ちなみに次の話は本日17時にアップします(本日2話更新)。こちらも是非チェックして頂けると嬉しいです。




