1話 スキル創造
1話はラスト部分以外、短編とほぼ内容は一緒です。
1話はそのために長いですが、次の閑話1、2章1話などは普通の長さになります。
また短編を読んで頂いた読者様は、『閑話1 エイトの進退』以降がスキルマスターの新作部分になります。
『シュート、今夜限りでオマエをオーリー子爵家嫡男から廃嫡とする!』
オレはずきずきと痛む頭に片手をあてながら、王城から退出し、暗い貴族街の夜道を1人歩いていた。
先程までオレことシュート・オーリー……廃嫡が決定したので家名を名乗れないため、改めてシュートは、エルエフ王国主催の懇親パーティーに父、婚約者と共に参加していた。
エルエフ国王陛下の挨拶後、参加貴族達が順番に陛下へ挨拶に向かっていた。
オレ達の番になると、父エイト・オーリーと共に国王陛下に挨拶へ向かった直後――父が陛下の前で先程の台詞を宣言したのだ。
オレはすぐに父を止めた。
(国王陛下の前で、貴族である子爵家がお家騒動を起こすなど前代未聞過ぎる! 父上は何を考えているのだ)と、内心で焦る。
しかし、国王の前で突然オレが廃嫡されるという騒ぎに、タイミング良くオレと婚約しているシューラー子爵家長女、『エイミー・シューラー』も婚約破棄を申し出てきた。
14歳で同い歳のエイミーは、栗毛色の髪を丁寧にクルクルと巻いた縦ロールが特徴的な少女だ。
目つきが鋭く、そばかすが散っているが、全体の印象は『可愛い』系と言える。
彼女曰く『スキルも持たない偽貴族との婚約は最初から苦痛でしたの。それにわたくしにはもっと相応しい相手、ライン様という運命の人がいるのです。なので陛下どうぞこの偽貴族との婚約解消をお認めくださいませ』と訴えたのだ。
ちなみにラインとは、オレの腹違いの弟のことだ。
またこの異世界では、貴族は基本皆が『スキル』を所持している。
では『スキル』とは何か?
この異世界には凶悪な魔物が跋扈している。
そんな魔物に対抗するため神々が与えた力が『スキル』だと言われている。
『スキル』所持者達が、持たぬ者達を守り魔物達と戦い人類生存圏を拡大、維持してきた。
そんな『スキル』持ちがいつしか貴族となり、守られる側が平民となり支えるようになった。
故に基本貴族は『スキル』を持って産まれてくる。
つまりこの異世界で人の優劣を単純に決めようとすれば『スキル』の数、質が全てになる――ということだ。
ちなみに平民だからと言って『スキル』を所持していないという訳ではない。
平民の中からも普通に『スキル』所持者は産まれる。
単純に貴族と比べると圧倒的に少ないだけだ。
しかしオレは貴族にもかかわらず『スキル』はゼロ。
ひとつもない。
逆に後妻から産まれた弟は、有能なスキル『騎士LV1』、『剣術LV1』、『馬術LV1』を3つも所持していたのだ。
しかも質、バランス共に騎士の理想と言ってもいい。
弟のラインは今年で10歳になる。
オレを疎む後妻の影響のせいで、顔を合わせるたびに『スキルゼロの偽貴族』と罵られ、言い争いが絶えなかった。
オレは今年で14歳。
1年後に15歳の成人として正式に家督が認められる年齢になる。
正式に家督を認める前に、スキルゼロの息子を廃嫡し、有能な弟に切り替えたい父親。将来の見込みのないオレと別れたい婚約者エイミーとその家シューラー子爵家の心情も理解は出来るが……。
わざわざ国王の前でする話ではない。
エルエフ王国のトップである国王陛下、王妃、王子、王女達が勢揃いしているのだ。
他にも周囲には国の重鎮達が集まっている。
こんな中で家の恥をさらすなど正気ではない!
しかし国王陛下含めたその場にいる全員が、愉快そうな意地の悪い笑みを浮かべていた。
この時点でオレはようやく気が付く。
(父上は自分を売ったのか!? パーティーを盛り上げる演出、前座としてこの茶番劇を事前に打ち合わせしていたのか!)
父、エイトは自分と同じ黒髪でオールバックに固めて、外見は渋く、体躯も立派で一見すると非常に有能な子爵家貴族に見える。
しかし内面は小心者で、『自身の利益になるか、ならないか』で物事を判断する癖がある。
オレが産まれた後、オレの母を『スキルゼロの子供を産み、貴族の名誉を傷つけた』と非難し、自分自身には責任が無いという態度を取った。
結果として母は心労が溜まり、オレが幼い頃に亡くなってしまう。
そんな父は、上からの覚えをめでたくするため、今回の廃嫡騒動をパーティーの見せ物として内々で提案。
『他人の不幸は蜜の味』ということで国王陛下、重臣達が認め余興として扱われたのだ。
人の不幸を間近で眺めながら飲むワインはさぞかし美味いだろう。
でなければ小心者の父上が、国王陛下の前でこれほどの騒ぎを起こせるはずがない。
また国王陛下、重臣達が叱責、諫めないはずがないのだ。
オレだけが何も知らず、ノコノコ懇親パーティーという名の屠殺場に顔を出した間抜けな生け贄、ピエロである。
『エイト子爵、シューラー子爵長女の訴えいちいち尤も。スキルゼロの偽貴族をこれ以上のさばらせてはエルエフ王国の恥というもの。2名の訴えを全て認めよう。異論がある者はおらぬか?』
国王陛下が父、婚約者の訴えを全面的に認めた。
当然、この意見に反対する者達などこのパーティー会場に誰1人としていない。
むしろ周囲も散々、こき下ろし、2人を持ち上げる。
この瞬間、あまりのショックに視界が暗くなる――同時に、前世、日本時代の記憶をオレは思いだしてしまったのだ。
シュートの14年間の人生と、前世日本時代30代半ばまで過ごした記憶が入り交じり頭痛を覚える。
さらになぜか勝手に『ステータス画面』が開き、オレの視界をかすめる。
『ステータス画面』とは、本人しか見えない画面で、そこにレベル、状態、体力、魔力、筋力、耐久、敏捷、知力、器用、スキル、称号が表示される。
そのスキル欄は本来空欄だったはずなのに新しくスキルが表示されていたのだ。
しかもスキルの内容が規格外過ぎて、さらに頭痛を加速させる。
あまりの痛みに立っているのも辛いが、これ以上こんなクズ達の前で醜態を晒すのも嫌で、
『……ッゥ、わ、分かりました父上。では失礼します』
『うむ。二度と我がオーリー子爵家領に踏み居ることも、敷居を跨ぐことも許さぬからな』
(廃嫡したとはいえ自分の息子に告げる最後の言葉がそれかよ……)
内心でげんなりしながらオレは頭を押さえつつ、無理矢理足を動かしパーティー会場を出る。
城からしっかりと出るのを兵士達に監視されながら、オレは行きは馬車だったが、帰りは徒歩で門を抜けて城外へと出た。
その様子を見送り兵士達がパーティー会場へと戻る。
どうせオレの最後を会場に居る皆に伝えに行ったのだろう。
外に出たオレは兎に角、城から少しでも距離を取るため歩を進める。
――ある程度進み、頭痛も治まった所で、目立たないように一軒の貴族屋敷の塀の影に滑り込み背中を預けた。
貴族廃嫡、国王許可の茶番劇、前世の記憶復活……たった数時間で、頭が痛くなるイベントが多々あれどオレが得た新スキルは、軽々とその上を行く。
「ステータスオープン」
声に従い半透明な『ステータス画面』が表示される。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:微混乱
LV:15
体力:180/180
魔力:50/50
筋力:30
耐久:20
敏捷:25
知力:15
器用:20
スキル:『スキル創造』
称号:廃嫡貴族
シュートの記憶が確かならば……この異世界は『スキル』の数、LV、組み合わせが人間の価値を決める。
一般人で平均0~2個。
多くて3~4個。
表沙汰になっている現在の最高数が10個。
記録上確認されている最多スキル保有数は、勇者の15個だ。
しかし、オレの新たに誕生した『スキル創造』スキルが表記通り、『自分の好きなスキルを作ることができるスキル』だとしたら……。
「好きなスキル、構成、数、組み合わせでスキルを得られるということじゃないか……ッ」
考えただけで震えるほどチートスキルだ。
この異世界の常識を根底から覆すほどである。
「お、落ち着けオレ……本当にそうなのかまだ分からないじゃないか。とりあえずステータス画面で詳細を確認しよう」
口では否定的なことを口にしているが、オレの胸中では予感が渦巻いてる。震える指でステータスで『スキル創造』をチェックする。
『スキル創造』の詳細はというと――。
「…………」
オレはステータス画面の『スキル創造』に意識を向ける。
フレーバーテキストが表示された。
『スキル創造』――魔力を消費し、好きなスキルを作製することが出来るスキル。創造したスキルは自身、他者に使用可能。
「やっぱり予想通りか!」
試しに1度使ってみる。
目を瞑り『スキル創造』スキルに意識を向けると、本能的に使用方法を理解する。
使い方はそれほど難しくない。
「『騎士LV1』スキル作製」
手のひらから光が生まれて集束し、ピンポン球サイズの玉が姿を現す。
オレはそのピンポン球を握り締め、
「『騎士LV1』スキル取得」と告げる。
ピンポン球は初めから無かったように消えてしまうが、再びステータス画面を確認すると――。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:微混乱
LV:15
体力:180/180
魔力:49/50
筋力:30
耐久:20
敏捷:25
知力:15
器用:20
スキル:『スキル創造』『騎士LV1』
称号:廃嫡貴族
新たに『騎士LV1』が追加されていた。
「ッッッッッ!」
この異世界の男子が将来なりたい人気職業のひとつが『騎士』である。
オレも幼い頃、周囲の男子同様『騎士』に憧れた。
しかし自分にはスキルが無く、『騎士』には成れないと知って絶望してしまう。
さらに腹違いの弟ラインが所持しているスキルのひとつが『騎士LV1』なことを知り、『なぜスキルが自分にはないのか』と嫉妬し、羨望したりもした。
そんな夢に視るほど憧れた『騎士LV1』を得られたことに、オレ自身は声にならない歓喜の声音を思わず上げてしまったのだ。
「お、落ち着けオレ……あまり騒ぎ過ぎると、見回りの警備兵が駆け寄って来るぞ」
貴族を廃嫡された今、揉め事は避けたい。
オレは数度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「とりあえず状況を整理しよう」
『スキル創造』スキルは、どうやら本当に好きな『スキル』を作り出すことが出来るようだ。
オーブの形のため、自分だけではなく、他者に渡して使用させることもできる。
ちなみに『オーブ』とは?
先程の光るピンポン球サイズの玉が一般的に『オーブ』、または『スキルオーブ』と呼ばれている。
スキルを得る方法は大きく分けて2つある。
ひとつは産まれながら所持しているかどうか。
もうひとつが『スキルオーブ』で後天的にスキルを得るかだ。
『スキルオーブ』はダンジョンや遺跡などの宝箱で極々稀に見つかる。
人工的に『スキルオーブ』を作製する研究はされているが、1000年かかっても現状とっかかりのひとつすら出来ていないのが現状だ。
一部研究者曰く『スキルオーブは神がお作りになったアーティファクト。人のみで作り出すのは永久に不可能だ』と論文を発表しているほどである。
故に『スキルオーブ』は非常に高値で売れるため、一攫千金を狙いダンジョンや遺跡などに潜る冒険者達が一番狙っているお宝だと言われている。
「確か……一般的によくオークションにかけられる『騎士LV1』で最低金額が白金貨10枚で、回復が使える『光魔法LV1』で白金貨100枚だったな」
白金貨1枚=1億円ぐらいの感覚だ。
『騎士LV1』で10億円、『光魔法LV1』で100億円になる。
シュートの記憶を漁ると、オレは小さい頃から『騎士LV1』のスキルオーブを手に入れたくて、子爵家嫡男にもかかわらず時間を作っては森へ行って、ゴブリン、スライムなどの魔物を倒してお金を貯めていた。
「だから年齢の割にLVが15もあるのか。てか、オーリー家の敷居をまたげないから家にある貯金も取り戻せないじゃないか。あのクソオヤジ、オレの貯金目当てで『二度と敷居云々』とか言ったんじゃないだろうな」
外見の割りにケチで、せこい父ならありうる。
溜めた貯金は惜しいが……。
「……『光魔法LV1』スキル作製」
オレの意思に従い再び、手のひらに光が生まれて集束し『光魔法LV1』のスキルオーブが姿を現す。
最低金額、白金貨100枚(100億円)の『光魔法LV1』がだ。
「しかも魔力が1しか減っていないし、コスパ最強かよ……ッ」
オレの魔力が50あるので、1日最大『光魔法LV1』オーブを50個作り出せる。
元手ゼロで白金貨5000枚(5000億円)を得られる計算だ。
元実家に溜めていた貯金など無視していいほどの金額である。
「この『スキル創造』スキルを公表すれば、廃嫡されたオレの地位も回復して、再びオーリー子爵家嫡男に戻ることができるだろうな……」
それどころか陞爵され、伯爵へ。
最終的に囲い込むため、王女との婚姻も絶対に持ち上がる。
シューラー子爵家長女エイミーとの婚約も間違いなく復活するが、彼女は自動的に第二夫人扱いされるだろう。
(父親には売られパーティーの見せ物として貴族を廃嫡、婚約者から婚約破棄を突きつけられ、忠誠を捧げていた国王からも『偽貴族』、『国の恥』と罵られた……そんな奴らの元にまた戻りたいか?)
無意識に奥歯が悔しさで噛みしめ、鳴る。
「あんなクズ達の元になんて戻りたくない! 絶対に嫌だ……ッ」
思い出すだけで心臓が物理的に止まりそうなほど強いショックを受けた。
脳味噌の血管がブチ切れそうな怒りを覚えるが、一部冷静な部分が『スキル創造』が誕生した経緯を考察する。
(恐らく、その強いショックのせいで前世日本時代の記憶を思いだしたのが、ある意味『産まれ変わった』から、新たにスキルが追加されたんだろうな……)
再び冷静さを取り戻すため、呼吸し、冷たい夜の空気を肺に、血管に、脳味噌に行き渡らせる。
「……愛想が尽きたのもあるが、これほど有用なスキルの存在を知ったらろくでもない扱いを受ける可能性もあるからな」
嫡男として戻されるならまだマシで、最悪、廃嫡した一般人として力ずくで取り押さえられ監禁。
一生彼らが望むスキルオーブを作らされる可能性だってあるのだ。
想像してブルリと震えてしまう。
ありえなくない未来だから困る。
ではオレはこれからどうするべきか?
「……パーティー会場に『鑑定スキル』を持つ奴が居たら、オレに『スキル創造』が新しく誕生したことに気付いて秘密裏に身柄を取り押さえようとしてくるかもしれない。今のステータスじゃ一般兵士並だから襲われたら一溜まりもないな」
取り押さえられる前にさっさと逃げ出し、LVとスキルを上げて強者が相手でも負けない、最低でも逃走できる実力を付けるべきだ。
ここから無事に逃げ出して、オレを見せ物にしたことを絶対に後悔させてやる!
オレを見せ物にして、嘲笑した奴らに復讐するためにもまずはここから抜け出し、強者が相手でも抗える力を付けるのが必須だ。
ステータスを確認する。
魔力は48。
これならスキルオーブを最高で48個作ることが出来る。
オレは手のひらで弄んでいた『光魔法LV1』を取得後、改めてこの場から逃走するために必要なスキルを羅列し次々に作り取得していく。
「まず隠れるための『気配遮断LV1』、『隠密LV1』は必須だな。あとは尾行や周囲の敵に気付くため『気配察知LV1』も必要だろう。他には『健脚LV1』、『逃走LV1』、逃走経路に迷った際にすぐさま逃げ道を選べるように『直感LV1』は欲しいな。追いつめられた場合、戦えるスキルが『騎士LV1』だけだと心許ないから、『剣術LV1』、『格闘LV1』。魔法スキルもとっておくか『火魔法LV1』と『水魔法LV1』は当然として、『風魔法LV1』、『土魔法LV1』、『闇魔法LV1』もいるな。他には……」
思い付くままスキルを取得して、ふと気付く。
『闇魔法LV1』を取得した時点で、過去に存在した勇者が持つ公式最多スキル保有数15個を越えてしまう。
たった数分でオレのスキルは16個になってしまった。
ステータスだとこんな感じだ。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:15
体力:180/180
魔力:35/50
筋力:30
耐久:20
敏捷:25
知力:15
器用:20
スキル:『スキル創造』『騎士LV1』『光魔法LV1』『気配遮断LV1』『隠密LV1』『気配察知LV1』『健脚LV1』『逃走LV1』『直感LV1』『剣術LV1』『格闘LV1』『火魔法LV1』『水魔法LV1』『風魔法LV1』『土魔法LV1』『闇魔法LV1』
称号:廃嫡貴族
以上だ。
「『スキル創造』、マジでヤバイわ……」
この異世界では、スキルの有無によって人間の価値が決まる。
そんな『スキル絶対主義』の世界で、オレは『スキル創造』のお陰で簡単にスキルを得ることが出来る。
自分自身だけではなく、他者にすら与えることが出来るのだ。
「このスキルがあればただの一般人をステータス的に過去の記録上、人類種で最も強いとされる勇者より簡単に強くできるんじゃないか?」
改めてとんでもないチート能力だと理解してしまう。
オレは自身の能力に戦慄しながらも、取得したスキル『気配遮断LV1』、『隠密LV1』、『気配察知LV1』などが問題なく機能するか確認し、早速王都から姿を消すため行動を起こす。
スキルのお陰でオレは目撃者も無く、門から出た記録すら残さず、完璧に姿を消すことに成功したのだった。
☆ ☆ ☆
「ていっ!」
深い深い森の中――オレは蔦を両手で掴み、木々に飛び移る。
身を包む衣服は、約1ヶ月前に着ていた華美なパーティー衣装ではない。
熊型モンスターの毛皮をメインにスキル『裁縫LV7』や『皮加工LV7』、『鍛冶LV7』、『生産技能LV7』を使用し、自分の手で作り上げたバーバリアン仕様の装備だ。
最近のマイブームは、バーバリアンの恰好をして、雄叫びをあげつつ、木々を移動することだ。
前世日本時代、一時1人カラオケを趣味にしていた。
人の目を気にせず、全力で声を上げてストレス解消するのが気持ちよかったのだ。
貴族から解放された反動もあるのかもしれない。
「ひゃっはーッ!」
自然豊かな森の空気を肺一杯に吸い込み、声をあげながら、体を動かす。
こんなに騒いでモンスターが近寄ってこないのか?
当然、気配も消さず、やかましく騒ぎ、移動すればモンスターに気付かれ襲いかかってくる。
しかし、問題無い。
エルエフ王都からスキルを駆使して抜け出して、約1ヶ月――オレは『中央大森林』と呼ばれる巨大な大森林内部で生活をしつつLV上げに勤しんでいた。
『スキル創造』のお陰で冒険者なら一流と呼ばれるLV50を突破済み!
現在キャンプ地としている『中央大森林』中腹にいるモンスター程度なら、オレの相手にならない。
ちなみに現在のステータスはこんな感じだ。
名前:シュート
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:51
体力 :4000/4000
魔力 :2500/2500
筋力:1200
耐久:1000
敏捷:425
知力:350
器用:200
スキル:『スキル創造』『騎士LV8』『光魔法LV8』『気配遮断LV8』『隠密LV8』『気配察知LV8』『健脚LV8』『逃走LV8』『直感LV8』『剣術LV8』『格闘LV8』『火魔法LV8』『水魔法LV8』『風魔法LV8』『土魔法LV8』『闇魔法LV8』『身体強化LV7』『HP強化LV7』『MP強化LV7』『頑強LV5』『魔力耐性LV4』『物理耐性LV6』『精神耐性LV2』『鑑定LV8』『ステータス擬装』『スキル経験値増大』『LV経験値増大』『裁縫LV7』『皮加工LV7』『鍛冶LV7』『生産技能LV7』『抽出LV7』『索敵LV8』『剣術LV7』『槍術LV6』『斧術LV4』『アイテムボックスLV8』『魔力ボックスLV6』etc――。
称号:廃嫡貴族
体力、魔力、筋力、耐久が四桁を突破。
他も3桁を軒並み突破している。
スキルに至っては既に50以上取得していた。
シュートの記憶が確かなら、彼が耳にしたLV50の戦士系、魔術師系の一般的なステータスは……。
戦士系
LV:50
体力 :500/500
魔力 :40/40
筋力:100
耐久:100
敏捷:60
知力:10
器用:20
魔術師系
LV:50
体力 :400/400
魔力 :300/300
筋力:40
耐久:40
敏捷:30
知力:50
器用:20
以上があくまで一般的なステータスだ。
ここに個人が所有している『スキル』によって、数値が上下するらしい。
この一般的なステータスと比べて、たった1ヶ月程度で自分がどれほど規格外になったか理解できる。
取得しているスキル数に至ってはいわずもがな……。
「スキルの有無によって、これだけ差が出るんだから『スキル絶対主義』になっても仕方ないか……」
木から降り、現在キャンプ地にしている自宅へと帰り着く。
『土魔法LV8』で地面をならし、周囲に3mの柵を作り出す。
自宅は四角の簡素な建物だが、窓にはしっかり現代のようなガラスが嵌められている。
建物内部にはちゃんとバス、トイレ、キッチンが作られ、建物屋上にタンクも置いて、蛇口を捻ればちゃんと水が出るようになっていた。
下水道もしっかりと整え済みだ。
これら全てオレ自身が『土魔法LV8』で作り出した建築物だ。
オレは腕を組み、ニヤニヤと笑みを零しつつ建物、柵、前庭に設置されたベンチやテーブルなどを眺める。
王都を無事に逃げ出し、『中央大森林』に来た頃は、まだ『土魔法LV1』と低かったためこれほどの物を作り出すことは出来なかった。
しかし、時間を掛けLVが上がるたびに改良したお陰で、これほどの建物を造り出すことが出来たのである。
オレはローンを完遂し、名実ともに我が家を手に入れたサラリーマンのごとく自宅を眺めてしまう。
ちなみに『土魔法LV1』と『土魔法LV8』にはどれほどの違いがあるのか?
これもシュートの記憶によると、以下の感じになるらしい。
LV1 :初心者
LV2 :準見習い
LV3 :見習い
LV4 :見習い脱却
LV5 :一人前
LV6 :プロ
LV7 :一流プロ
LV8 :超一流
LV9 :神技
LV10:神域
以上だ。
あくまで一般的に言われている目安だ。
とはいえ必ずしもスキルにLVがついている訳ではない。
代表的なのは『スキル創造』だ。
これにはLV表記が無い。
「ならLV表記があるスキルを1からではなく、最大値のLV10を『スキル創造』で作り出せないか?」
オレは生活が安定した所で、そんな疑問を抱いた。
早速実験を開始する。
結論から言うとLV10を作り出すことは出来なくないが、現実的にはほぼ不可能だった。
「感覚的だが……『騎士LV10』のスキルを作り出そうとしたら魔力を400億ぐらい要求される感じだな」
『騎士LV2』の場合は魔力10。
『騎士LV3』の場合は魔力100。
『騎士LV4』の場合は魔力1000。
『騎士LV5』の場合は魔力10000――とドンドン上がっていく。
『騎士LV6』から要求される魔力がさらに増大していく感じだ。
「魔力1万前後なら、魔力回復ポーションで回復しながら作り出せるが……魔力400億とか絶対に無理だろ……」
また小説、アニメ、マンガ等によく出てくる『転移』のスキルを作ろうとしたが……こちらは『転移LV1』から魔力1億を要求された。
他にも『時間操作LV1』は魔力1億程度を要求された。
「スキルLV1はかならず魔力1で済む訳じゃないのか」
いくつか検証して逆に作れないスキルも存在した。
「『歌って踊って戦うスキル』は作れない?」
『歌LV1』、『ダンスLV1』を作ることはできる。
しかし『歌って踊って戦うスキル』のように纏めたスキルは作れないようだ。
例外として『身体強化』のような手、足、体などを纏めて強化するスキルは作り出すことが出来た。
逆に『新規で作れたスキル』もある。
例えば『必要な魔力1億に達するまで魔力回復ポーションを飲み、回復し続けるのは不可能だ。だったら、自分の魔力を溜めるスキルは作れないのか?』という発想に至った。
早速『スキル創造』に意識を向けてみる。
最初、『スキル創造』が戸惑うのを感じた。
『スキル創造』がというより――このスキルを作った製作者側、神様的存在が『えぇ……こんな使い方するとか想定していないんだけど』と困惑するイメージだ。
とはいえ『自分の魔力を溜めるスキル』は、それほど難しいモノではない。
『アイテムボックス』のように、『自分の魔力を溜める異空間』があればいいのだから。
暫くして『スキル創造』が魔力100ほど消費して『魔力ボックスLV1』を作り出す。
フレーバーテキストを確認すると――。
『魔力ボックスLV1』――『アイテムボックス』の近似スキル。物の代わりに自身の魔力を溜めることが出来る。LVに応じて溜め込める魔力が増大する。シュートが作り出した新たなスキル。
『魔力ボックスLV1』はオレ自身が新たに作り出したスキルと表示されていた。
「つまり世界で初めてオレは神様以外で『スキル』を作り出したことに成功したってことか! これは凄いことだぞ……」
『魔力ボックスLV1』のように、唯一無二のスキルをオレだけが持つ優越感――というのも魅力的だが注目する点は他にある。
アイデアさえ上手く通れば、自分に有利なスキルを得ることができるということだ。
このアドバンテージは非常に大きい。
実際、新スキル『魔力ボックスLV1』のお陰で、オレは日頃コツコツ魔力を溜めれば本来取得することが出来なかった『転移LV1』、『時間操作LV1』を得ることができる。
戦略、戦術の幅が広がるというものだ。
何より――。
「こういうゲームの裏技、抜け道、バグを探して実行するって滅茶苦茶楽しいな」
前世日本時代、子供の頃、テレビゲームをやる際、普通にクリアーもしたが、他にも自分で探して裏技を見つけたり、友達、雑誌に載っているのを実践するのが非常に楽しかった。
例えばRPGで薬草を99個を所持。
アイテム欄で薬草99個の下に武器を置き、モンスターを退治する。
倒した後、モンスターから薬草を得ると――武器がワンランクアップするという裏技があった。
それを利用してRPG序盤にもかかわらず、最高レベルの武器を調達。武器を装備後、最終ステージまで無双しまくったりした。
他にはキャラクターが画面移動する際、十字キーを連打すると壁抜け出来たり、某モンスターをハンターするゲームで、本来上れない壁の上に昇るバグ技もあった。
壁に上った後、攻撃不可の場所から一方的にガンナーで攻撃してボスモンスターを倒したのは良い思い出である。
こうしたゲームではないが『スキル製造』にも裏技、抜け道、バグがあると知り、ただ必要なスキルを得る『道具』ではなく、興味深い研究対象――俗な言い方をすれば娯楽として色々弄くるのが非常に楽しかった。
お陰で約1ヶ月間、LV上げが楽しかったのもあるが森の奥に引きこもり、人と全く会わず、娯楽もほぼ無いにもかかわらず余り寂しいという感情が湧かなかった。
「とはいえ十分LVも上がったし、そろそろ街に降りるか……。クソ親父達に復讐する計画を立てるためにもいつまでも引きこもってはいられないから――?」
『気配察知LV8』、『索敵LV8』、『直感LV8』などが、キャンプ地からそう遠くない場所で珍しく冒険者達がモンスターと戦闘をしているのを察知する。
しかも気配と直感、感じ取れる身のこなしから、かなり実力が高い者達だと教えてくれた。
「……隠密系スキルのお陰で相手に気付かれることはないだろうから、どの程度の実力があるのか観戦させてもらうか」
平均的な冒険者は知っているが、上位者の実力、ステータスがどれほどかは知らない。
興味本位と現在の自分と比較する物差し代わりとして、息を潜めて観戦することを決定する。
「そうと決まれば、戦闘が終わる前にさっさと出発するか!」
オレはバーバリアンスタイルのまま、再び森林内部へと分け入ったのだった。
☆ ☆ ☆
「姫様の馬鹿ぁぁぁ! 中央大森林中部深部なんて複数パーティー推奨なのに私達だけでとか! どうしてそう後先考えず動くんですか!?」
「……死にたくなかったら手を動かす」
「動かしてますよ! でも、ビックベアーは魔力耐性高いから効果が薄いんです! ていうかA級冒険者でも複数での討伐推奨である災害級モンスターを2人で退治しようとするのがそもそもおかしいんですよ!」
魔術風帽子にマント、手には長い木製の杖を持った少女魔術師の悲鳴と非難が『中央大森林』に響き渡る。
彼女が杖を向けると、氷柱が形成され発射されるが襲いかかってくるモンスター……体長6m、体重15トンはある巨大な体躯の『ビックベアー』には効果が薄く強靱な筋肉と柔軟な毛皮によって弾かれてしまう。
「グオオォオォオオォッ!」
ビックベアーの苛立たし気な雄叫びに涙目を作りつつも髪型はショートで左目を黒革の眼帯で覆った少女魔術師は、牽制のため魔術攻撃の手を弛めない。
『姫』と呼ばれた白い騎士甲冑姿の少女が攻撃主力で、背後に少女魔術師を庇いながらビックベアーと戦闘を繰り広げていた。
銀髪のロング、真っ白な騎士甲冑、肩は露出しているがスカートで、要所要所をしっかり白色の金属で身を守っている。身長は160cmも無いぐらいで、あまり背は高くない。腕や足、腰も細いのに胸だけが大きかった。
だからと言って体のバランスが狂っているわけではない。
むしろ黄金比のように整っていると断言していいレベルだ。
彼女の顔立ちも『スキルLV10』の神域人形師が、命を賭して作り出した最高級人形のように整っている。
肌も未だ誰も触れたことがない新雪のように白く。
赤い瞳と髪の銀、真っ白な肌、鎧などから――雪ウサギのような小動物的印象を受ける美少女だった。
モンスターが跋扈する森で魔物と戦うより、木漏れ日が差し込む庭で瀟洒にお茶会を開いたり、貴族主催の夜会でドレスや宝石を身に纏うほうが相応しい外見である。
だが彼女は3mはある巨大な大剣を握り締め、背後に居る女魔術師から援護を受けつつ、体長6m、体重15トンはあるビックベアーと正面からガチンコで戦っている。
「グオオォオォオオォッ!」
「……そんな攻撃ぬるい!」
ビックベアーは巨体を支えるため6本足だが、そのウチの右前足を『姫』へと振り下ろす。
ビックベアーの巨腕の一振りを彼女は大剣で弾くと、懐に飛び込み切り裂く。
咄嗟にビックベアーが体を捻り回避したせいで傷は浅いが、彼女はさらに前へ、前へと進み確実に致命傷を与えようとしていた。
(正直、どちらがモンスターか分からない戦い方だな)
オレは『気配遮断LV8』、『隠密LV8』などで存在を消しつつ、戦闘の様子を窺っていた。
珍しくこんな奥まで冒険者が入ってきたため『腕に覚えがあるんだろう』と察して、ステータスの数値、スキル数、戦闘観戦をして現在の自分の強さを図る物差し代わりにしようと考えていた。
しかし予想以上の大物が目の前で戦っている。
オレでも知っている著名人だった。
冒険者ギルドである意味、非常に有名な2人組である。
「特徴から考えて……アイスバーグ帝国3女のお姫様とその従者だよな」
アイスバーグ帝国は、この異世界の3割を支配下に置く大国家だ。
彼女はその帝国皇女の3女でスキルに恵まれたため、その力を国家、世界平和に捧げようと冒険者になったらしい。
実際、実力は高く最年少で冒険者A級まで駆け上がった。
最高位のS級昇格も間近という噂である。
さらに容姿も整い、装備品も1級、戦闘能力も高いため他国人である自分でも知っている有名人だ。
……とくに帝国3女の戦闘スタイルが有名だった。
オレは噂を確かめるため『鑑定LV8』を使い彼女のステータスを確認する。
名前:アリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグ
年齢:14歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:50
体力 :2000/2000
魔力 :15/15
筋力:1000
耐久:750
敏捷:100
知力:0
器用:50
スキル:『アイテムボックスLV5』『超怪力LV7』『直感LV7』『マルチウェポンLV5』『頑強LV6』『身体強化LV5』『超回復LV6』『ウォッシュLV8』『大食いLV4』
称号 :アイスバーグ帝国3女
「知力がゼロって……う、噂は本当だったんだ……」
一応フォローするなら、別に『知力が高い=頭が良い』という訳ではない。ある程度は影響を受けるが……。
あくまで『知力』の高さは魔法スキルの威力に係わるステータスだと言われている。
とはいえ産まれたばかりの赤ん坊でも知力は『1』ぐらいあるはずだ。
なのにゼロって……。
知力がゼロの帝国3女。完全攻撃特化で、巨大な大剣を振り回しどんなモンスターも叩き潰す。
ついた2つ名が『白銀の怪力姫』だ。
世界の3割を支配する帝国の姫につける2つ名じゃないだろう。
しかも本人はこの2つ名を気に入っているらしい。
『白銀の怪力姫』という2つ名をつけられて喜ぶ女子って、どんな女子だよ。
魔術師の方も一応確認しておく。
名前はキリリ・マルチネル
年齢は14歳。
ステータスも極一般的な魔術師で、眼帯の下にあるのは魔眼だという以外、とくに変わった所がない少女……。
「んぅ?」
キリリの称号は最初『帝国3女の従者』と書かれていた。
しかし、突然、『帝国3女の従者(帝国1の苦労人)』と隠し称号が表示されたのだ。
自分のステータスで『鑑定』スキルを確認する。
「鑑定のLVが上がって『鑑定LV9』になっている……」
どうやらキリリを鑑定した結果、称号を見破ったのか、隠し称号を持つ者を目にしたお陰か鑑定LVが上がった。
「『鑑定LV9』って、人類最高峰LVだろ」
一般的にLV8が最高位だと考えられている。
過去の文献、記録で伝説の鍛冶師などがLV9に到達したとされているが、ほぼ伝説上の生き物扱いである。
前世日本で言う所のUMA、オーパーツのような扱いだろう。
自分の鑑定LVがそこまで上がったのは嬉しいが微妙に釈然としない。
気持ちを切り替え、改めて2人を観察する。
(上から数えて2つ目のA級冒険者でもこの程度のステータスと実力なのか……)
アリスの筋力は、オレに迫る数値だが、それ以外は圧倒的にこちらが高い。
スキル構成も物理特化だが性能は非常に良く、数も人類最高峰の10に迫るニア・トップの9つも所持している。
なのにビックベアーにこれほど手こずるとは……。
オレにとってビックベアーは、美味しい獲物でしかない。
家の絨毯、敷き布団や掛け布団、バーバリアンスタイル製作&作製LV上げのため毛皮が多数必要だった。
ビックベアーは巨体のため、得られる毛皮の量も多く、魔石も大きめ、肉も意外と美味しかった。
なので個人的に『楽に倒せてLVも上がり、得られる副産物も多い獲物』という認識だ。
そんなビックベアー相手にこれほど苦戦している姿を見せられると、非常に弱く感じてしまう。
「……もしかしてオレは強くなり過ぎたのか?」
考えてみればスキルの構成、性能、数は運の要素が強い。
後から追加しようにもスキルオーブなど早々手に入る物ではないことは、オレ自身よく理解している。
故に結局、『産まれた時にどれだけ有利なスキルを持っているか』という話になってしまう。
しかし『スキル創造』を持つオレは後から好きにいくらでもスキルを追加し、強化することが出来るのだ。
仮に敵と争うことになっても、相手と戦うのに有利なスキルをいくらでも創れて、取り込むことが出来る。
考えてみれば強くなって当然である。
ただスキルによって、これほど差が出たことに少々驚いてしまった。
「グオオォオォオオォッ!」
「きゃぁぁぁぁ!? ど、どうしてもう一体! もう一体ビックベアーが来るのぉぉぉッ!?」
少女魔術師キリリが悲鳴を上げ、突如乱入してきたビックベアーに魔術で攻撃。
足止めしようとするが、毛皮で弾かれ意味を成さない。
『鑑定スキル』で確認すると乱入してきたのは雄だった。
今まで相手にしていたのが雌だ。
奥さんのピンチに夫が駆けつけてきたのだろうか?
アリスと最初のビックベアーとの勝負がもう少しで付きそうだが、その間に魔術師キリリが乱入してきた方に殺害される方が早い。
このまま見捨てるのも寝覚めが悪いのと、一応『鑑定LV9』に押し上げてくれた恩もある。
オレは『早着替えLV5』で、バーバリアンスタイルから、レッサーブラックドラゴンという名のモンスターから作り上げた、黒い革鎧姿に切り替える。
『中央大森林』で採れた黒曜鉱石、ビックベアーの魔石、骨を混ぜて鍛冶スキルで鍛えた黒い大剣を背中から抜き、隠れていた木陰から高速で駆ける。
「助太刀します! その場を動かないで!」
「ひぃ! は、はい! 」
オレの指示に魔術師キリリは、最初こそ驚きで悲鳴を上げたがこちらの姿を確認すると、大人しく指示に従う。
オレは地面に生えた木の根に足を引っかけないよう気を付けつつ、手にした石をスキル『身体強化』で体を強化しつつ投げつける!
狙いはビックベアーの眼球だ。
別に眼球を投石で潰すつもりはない。
ただ一瞬だけ、足止めしてくれればいい。
「グガアァァァァァッ!」
狙い通り、眼球にヒット!
ビックベアーも完全に不意打ちだっため、痛みに顔を押さえる。
オレはその隙に速度を上げ、ビックベアーの巨体を駆け上り勢いを殺さず頸椎へ黒剣を叩き込む。
頸椎の骨と骨の間を見極め、黒剣を振るったお陰でたいした抵抗も無くあっさりと首を切断することに成功する。
いくらビックベアーが巨体で、頑強なモンスターでも首を落とされれば生きてはいられない。
正面から戦わず、奇襲で首を狙えばやはりそれほど倒すのは難しくないのだ。
「び、ビックベアーを一撃でなんて……。しかも格好いい!?」
指示通り、その場を動かず見守っていた魔術師キリリが、驚きと共にオレの容姿について感想をもらしていた。
絶望的な声音を上げていた気がしたが、意外と余裕があったのか?
「…………」
振動音。
視線を向けると、帝国3女のアリスもようやくビックベアーの討伐に成功したようだ。
ビックベアーを倒した後、彼女は大きな赤い瞳をオレに向けていた。
極上のビスクドールのように整っているため、初対面だといまいち表情が読めない。
しかし、彼女の赤い瞳は闖入者であるオレに対して好意的なような気がした。
「……こ、こほん。危うい所を助けて頂き誠にありがとうございます。剣士様、このお礼は街に戻ったら必ず報いさせて頂きます」
少女魔術師キリリ(帝国1の苦労人)が、オレを見て思わず発した『格好いい』発言を恥じて、咳払い。
気持ちを切り替え、丁寧にお礼の言葉を告げてくる。
彼女の気持ちは理解できる。
既に亡くなったシュート母も美人で、父親も性格は最悪だが顔だけは良い。
お陰でこの異世界のオレ自身、黒髪、黒目、日本人よりの容姿だが、両親の外見の影響で非常に整った顔立ちをしている。
さらに命の危機に颯爽と助けに入られたら、キリリのような反応を見せても可笑しくはないだろう。
オレは大人の態度として、彼女の発言を聞き流しつつビックベアーから降りてお礼に対して返答する。
「武者修行中に騒ぎを聞きつけ駆けつけただけですので、お気になさらず」
「いえ、そういう訳にはまいりません。命を助けて頂いたのですから、それに報いるお礼をさせてください。でなければ私達の気が済みませんから」
「本当にお気になさらないでください」
笑みを零しつつ、お礼を受け流そうとする。
下手に帝国皇女達に関わっても良いことはないだろう。
今回助けたのは、あくまで『鑑定LV9』に押し上げてもらったお礼なのだから。
『お礼云々』の押し問答をはぐらかすため、適当な話題を振る。
「自分は先程も口にした通り、LVあげ、武者修行として森に来たのですが、お2人はどうしてこちらに?」
「私達は『中央大森林』の調査に来たのです」
「調査ですか?」
「はい、最近になって森奥地で奇声をあげ飛び回り、高レベル魔物を屠る妖しい影がいると複数の冒険者達から通報がありまして。『魔物災害』の兆候の可能性があると考えた冒険者ギルドから依頼を受け調査に来たのですが……。運悪くビックベアーと遭遇し、逃げ切れず戦闘になったのです」
「そ、それは運の悪い……」
オレは返答しつつ内心で冷や汗を掻く。
(『森奥地で奇声をあげ飛び回り、高レベル魔物を屠る妖しい影』って、どう考えてもバーバリアン衣装を着て飛び回っていたオレのことだよな。オレのストレス発散のせいで彼女達を危険な目に遭わせてしまったのか……)
2人に出会ったのは偶然だが、助けることが出来て本当によかった。
オレの個人的なストレス発散で死亡者が出るなど寝覚めが悪いってモノじゃない。
「…………」
「姫様?」
オレとキリリが会話している最中、帝国3女のアリスは自分が倒したビックベアーを解体し、魔石を取り出していた。
冒険者は倒した魔物の素材をギルドに持ち帰ることで金銭を受け取っている。
『アイテムボックス』スキルを持たない冒険者は、一般的に最も換金性が高い魔石を持ち帰る傾向が高い。
魔石より価値ある部位がある場合はそちらを優先するが。
先程までの騒ぎで、他モンスターが来る前にビックベアーの魔石だけでも得ようとアリスは解体していたようだ。
……少々マイペース過ぎると思わなくもないが。
そんな彼女が魔石を取り出すと、オレ達の方へすたすたと歩いてくる。
戦闘、解体で本来は泥、血だらけになっているはずが、シミひとつない真っ白で綺麗な状態だった。
『ウォッシュLV8』のお陰だ。
彼女を鑑定した『ウォッシュLV8』のフレーバーテキストを読む限り――所持者の汚れを綺麗にするスキル。
つまり、このスキルを持つ者が汚れた場合、自動的に綺麗にするスキルのようだ。
(世界の3割を支配下に置く皇女なのにLV8もあるということは、どれだけ汚してきたんだよ……)
オレが内心で呆れていると、アリスは従者をすり抜け目の前に立つ。
赤い瞳を真っ直ぐ向け、一切の躊躇なく爆弾を投下してくる。
「……『スキル創造』スキルを持つ賢者様にお伝えしたいことがある」
「姫様、突然何を……。『スキル創造』ってなんですか?」
従者のキリリがアリスの発言に首を傾げる。
心底意味が分からないという態度だった。
反対にオレは内心で驚愕し、高速で原因究明を思考する。
(なんでこの娘はオレが『スキル創造』スキルを持つことを知っているんだ!? 鑑定スキルは『ステータス擬装』で誤魔化し済み。見破られることはない。なら帝国経由で情報が入ったのか? いや、ありえない。王都を出てから一度も人が居る場所に出ていない。『スキル創造』所有者だと把握される切っ掛けなど絶対に無い。ならやはり王宮のパーティー会場でスキルに目覚めた時に鑑定スキルで知られてしまったのか?)
思考しつつ、どうにか誤魔化そうと口を開きかけるが、先にアリスが喋り出す。
「……約1ヶ月前、エルエフ王国の子爵嫡男がパーティー会場で廃嫡された。そして、その日のうちに王国から姿を消した噂話が出回ったのを覚えている?」
「ありましたねそんな噂話。噂話というより怪談話に近いですが。スキルゼロだから廃嫡されたのに、貴族街、王都から出た形跡も無く、国外に出た記録も無し。自殺、他殺も疑われましたが遺体も未だに発見されていない。まるで煙のように消えてしまった。そんなことスキルが無いと出来ないはずなの……」
キリリが台詞を言い淀む。
彼女がある可能性に辿り着き、お化けでも見るような視線をオレへと向けてきた。
(しまった! あまりにも完璧に抜け出したせいで噂話になっていたのか!? スキル無しで誰にも悟られず、記録にも残らず王都から姿を消すなどありえない。状況的に自分の味方などありはしないから、必然スキルを作る『スキル創造』に行き着いたわけか!)
また運、間の悪さを上げるなら、自分の廃嫡騒ぎがここまで広がっていたことに驚きを禁じ得なかった。
流石に森に篭もっている間、自分の噂話がここまで広がっていることに気づけるはずがない。
キリリと目が合う。
彼女は噂話を思い出すたび主であるアリスの口にした『スキル創造』の存在に確信を得る。
同時に自身の常識との齟齬を否定し始めた。
彼女は鑑定スキルを使用する。
『ステータス擬装』で『騎士LV4』で擬装、誤魔化し済みだ。
他も一般LVに押さえて表示されているはずだが……。
「黒髪、黒目、14歳、女性のように整った顔立ち、名前はシュート……噂話に上がっていたスキルゼロの廃嫡貴族だったはず。なのにスキルがある?」
彼女は口元を押さえ考え込む。
鑑定を使わなくても現在の彼女の状態が『混乱』だとすぐに分かった。
彼女は1人自問自答する。
「『スキル創造』って……いや、でも、む、昔読んだ古い専門書に理論上は存在するかもしれないとは書かれていたけど、あれは空想上の産物で……。そんな好きなスキルを創造することが出来たとしたら、神の領域じゃない! いえ実質、神様みたいなものよ!」
オレが『どう誤魔化すか』と考え込んでいると、マイペースにアリスが『アイテムボックス』から古びた羊皮紙を取り出し、こちらへ差し出してくる。
「……賢者様、読んで」
「いや、オレは別に賢者じゃないんだが……」
「……頭があまり良くないから、上手く口で説明できない。だから、賢者様にはこれを読んで欲しいの」
アリスはこちらの返答を無視してマイペースに告げる。
ちょっとマイペース過ぎないか?
これ以上の応答は無意味だと諦め羊皮紙を受け取り目を通す。
「…………」
内容を要約すると――。
アイスバーグ帝国は過去、『スキル創造』スキルを持つ、自称賢者によって建国を助けられた。
当時、帝国の前身である国は弱小国家で周辺国から酷い搾取、扱いを受けていた。
老人は死に絶え、大人は絶望し、若者に未来は無く、子供達に笑顔は無かった。
そんな状態を不憫に思った賢者が、『スキル創造』でスキルを作り出し援助する。
結果、弱小国家は大躍進を遂げて、現在の帝国を作り出した。
これが約600年前の出来事だ。
実質、『帝国建国の父』である賢者は一体何者なのかというと……彼は森の奥地で暮らす年老いた老人だった。
彼曰く『スキル創造』の力で酷い目に遭い続けたため、森深くで隠遁生活を送っていた。
その姿からスキルを与えられた者、救われた者達から『賢者様』と崇められるようになる。
以後、老人は力を貸し続け、帝国の基礎を築き上げていった。
老人が調べた限り、過去にも1人『スキル創造』所持者が居たらしい。
記録はほぼ抹消され、老人もスキルを創造して調べなければ見つけられなかったほどだ。
パズルのピースのごとく繋ぎ合わせると、最初の1人も自分のようにろくな生涯を送っていないことが分かった。
オレは歴史上3人目の『スキル創造』スキル所有者になるようだ。
彼の遺言として『『スキル創造』所持者は、その強い力故、様々な者達の欲望によって翻弄される。もし自分以外の能力者を見つけたら、帝国を統べるお主達だけでも味方になって欲しい』と皇族達に願った。
皇族達は帝国建国の父、大恩ある賢者様の願いを叶えるため、脈々とその意思を引き継ぎ続けた。
故に『スキル創造』所有者保護は、帝国皇族に科せられた絶対的な運命だとか。
また『スキル創造』の存在は古い国々、王家の者達なら耳にしたことがあるかもしれない。
伝説に存在するスキル扱いだろうと締めくくられていた。
オレは一通り羊皮紙の内容を読み込むと頭を抱えそうになる。
(まさかオレ以外に過去2人も『スキル創造』スキル所有者が居たなんて……。しかも1人はほぼ記録抹消、2人目もろくな目に遭っていないから森に引き込んでいたとは……2人とも一体どんな目にあったんだよ。いや、落ち着け、問題はそこじゃない)
アリスは『スキル創造』が存在していることを知っている。
さらに貴族を廃嫡されたシュートが、スキルゼロにもかかわらず王都から完璧に姿を消した。
スキルが無い生身でそんなことをおこなうことはほぼ不可能だ。
そしてアリスはスキルを手に入れ、強大なモンスターを倒したオレをその目で確認している。
この状態から、誤魔化し切るのは非常に難しい。
(さて、どうしたものやら……)
頭を抱えているオレとは正反対に、アリスはさらに爆弾を投げつけ場を混乱の渦に追い込む。
彼女はその場に跪くと、先程までビックベアーと戦っていた大剣と一緒にアイテムボックスから取りだした首輪を差し出してくる。
「……自分は帝国の礎を築いた賢者様の遺言に従い恩を返したい。だから、賢者シュート様、どうか剣を捧げさせてください」
「あ、あの、剣は分かるんだけど、この首輪は?」
「……賢者シュート様とは会ったばかり。自分や帝国を信じるのは難しい。だから、信頼を得るため、まず自分を奴隷として縛って欲しい。この首輪は奴隷商に作らせた最高級の隷属の首輪。賢者様の手で嵌めてもらえれば自分は決して裏切らない賢者様の奴隷になる」
信頼を得るため皇女自ら奴隷を希望するとは……。
頭がくらくらする。
(……いや腐っても世界の3割を治める帝国皇女、『スキル創造』所有者を取り込むため自ら奴隷に志願しているのかもしれない。だとしたら、とんだ食わせ者だぞ)
内心でアリスの評価を改め、警戒心を上昇させていると、連続爆弾投下からなんとか復帰した従者のキリリが、貧血をおこしたようにふらふらしながら抗議の声をあげる。
「ど、どこの世界に『自分を奴隷にして』なんて言う皇女がいるんですか!?」
「……?」
「なんで首を傾げるんですか!? 馬鹿姫! 知力ゼロ娘! いつもいつも直感と本能で勝手に動かないでくださいよ!」
「……帝国は受けた恩を必ず返す。けどすぐに信用はされない。だから奴隷として扱ってもらうだけ。何か問題ある?」
「あるに決まっているでしょうがぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁッ!!!」
アリスの真っ直ぐストレートな発言に、従者キリリが魂の叫び声をあげる。
一緒に吐血しそうな勢いだった。
さすが帝国1の苦労人。
このやりとりで確信する。
アリスは本気で恩を返したいらしい。
まるで中身は前世の日本武士のような義理堅さを感じ取った。
お陰で逆にやり辛くなる。
これが『スキル創造』所有者を取り込むための演技なら、対応はいくらでもあった。
しかしアリスは心底善意、大恩を返すための純粋な好意から申し出ているのだ。
キリリではないが、オレ自身も彼女の対応に思わず頭を抱えてしまったのだった。
☆ ☆ ☆
結局、アリスに押し切られ彼女を奴隷に、剣も受け取りオレの騎士として取り立てる。
いくら本人の希望とはいえ、この異世界の3割を支配する皇女に対して、本当にこんなことしていいのだろうか……。
疑問を抱いていると、簡単な自己紹介を終えた後、キリリが申し訳なさそうに声をかけてくる。
「姫様の野生の勘を疑う訳ではないのですが……できればその『スキル創造』の証拠などありませんでしょうか? 分かり易い証拠があると皇帝陛下への謁見の際、お話がスムーズになるのですが……」
ちなみにアイスバーグ帝国首都へ向かい現皇帝との謁見は確定している。
アリスが願い出たとはいえ、オレは実の娘を騎士に取り立て、奴隷の首輪まで付けさせているのだ。
『スキル創造』の話も含めて、謁見しない訳にもいかない。
オレは納得し、分かり易い証拠を提示する。
「キリリさんは、鑑定スキル持ちだよね。なら『ステータス擬装』スキルを一時的にオフにするから、『スキル創造』があるのを確認してくれ」
「『ステータス擬装』スキルですか……分かりました」
キリリは『『ステータス擬装』なんて聞いたこともないスキルで誤魔化しているとか……。第一、本当に『スキル創造』なんて持っているの』と疑わしげな反応だった。
オレは言葉通り、『ステータス擬装』スキルを一時オフ。
その間にキリリが鑑定スキルを使用し……。
「けっぷぅ」
可愛らしい変な声音を漏らす。
彼女は声だけではなく、全身を振るわせながら驚愕する。
「な、ななな、なんですかこのステータスの数字は!? しかも『スキル創造』スキルは確かに存在しますが、それ以上になんですかこのスキルの数は!? 50以上ある上、観たことも聞いたこともないのがこんな沢山……ッ」
「……さすが賢者シュート様、凄い」
「そんなレベルじゃないです!?」
アリスの暢気な台詞に、キリリが鋭いツッコミを入れる。
彼女は青い顔で口元を片手で押さえた。
「本当に『スキル創造』スキルがあるし……。うわっ、こんなの絶対に姫様と同じかそれ以上に胃が痛い厄介事に巻き込まれるってことじゃない。うわぁ……」
彼女は自身の未来を想像し、さらに顔色を悪くする。
キリリの心配する未来をオレ自身、笑い飛ばしたい所だが、恐らく彼女に迷惑を掛けることになると想像が付くため強く否定できなかった。
とりあえず、森を抜け出て街へ戻ることに。
ビックベアーは『アイテムボックスLV8』を持つオレが2体丸ごと収納し、運ぶことに。
『アイテムボックスLV8』までになると容量無限、時間停止機能が付く。
これより上のLV9、10になったらどんな機能が付くのかが謎だ。
収納後、荷物を取りにオレが寝泊まりしている建物がある方角へ3人揃って歩き出す。
「姫様、街に戻ったらすぐに皇帝陛下にシュート様、『スキル創造』、謁見について手紙を出しますが、冒険者ギルドの依頼どうしましょうか」
「……?」
「『冒険者ギルドの依頼なにそれ?』って顔をしないでくださいよ! 私達は森の奥で奇声をあげて飛び回り、高レベル魔物を屠る妖しい影がいると複数の冒険者達から通報があったから魔物災害』の兆候の可能性があると考えた冒険者ギルドから依頼を受け調査に来たんですよね? なに忘れているんですか!」
キリリのツッコミで『……ああ、そういえば』とアリスが思いだした顔をする。
オレは2人の会話を背後で聞きながら、冷や汗を掻く。
(『森奥地で奇声をあげ飛び回り、高レベル魔物を屠る妖しい影』って、どう考えてもバーバリアン衣装を着て飛び回っていたオレのことだよな。ヤバイ、どうやって誤魔化すか……。いや、むしろ2人に素直に白状すべきか?)
胸中で素直に『原因は自分だ』と告白する方に傾き、口にしようとしたが、それより早くアリスが口を開く。
「……騒ぎの原因は恐らく2頭のビックベアー。モンスターの生態は未だ分かっていないことが多い。恐らく、ビックベアーのは、発情……こ、子を成す、そういうちょうど時期だったから奇声が聞こえて、ツガイを求めて移動している姿を遠目から冒険者が魔物災害と勘違いしたと推測できる」
「なるほど、確かにありえる話ですね。ところで、どんな強敵相手にも動揺しないのに、そういう男女の営み系のお話になると恥ずかしがりますよね。姫様はその辺は本当に成長しませんね~。私はそういう所は可愛くて好きですよ!」
「…………」
「痛ッ! ちょ、痛いですよ! 姫様、自分の筋力がいくつあるか考えてくださいよ~」
「……キリリが悪いからお仕置き」
背後で少女達のやりとりが聞こえてくる。
オレは一応、聞こえないふりをしつつ先を進む。
(アリスは戦闘や軽くやりとりした限り、感情をあまり表に出さない無表情系タイプかと思ったが、エッチな話が苦手なのか……)
気付かれないよう背後を振り返ると、普段は真っ白な肌が羞恥心で耳まで赤く染まっていた。
普段の感情を表にあまり出さないのに、エッチな話、事態になると羞恥心から赤くなる。
そのギャップを想像して内心で思わず萌えてしまった。
オレが森の中に作った自宅に到着後、1泊してから街へ戻ることになった。
アリスはともかく、キリリには『こんな森の奥に上下水、シャワー、トイレ、キッチン付きの家があるとか……』と驚愕されてしまう。
1泊後、無事に自宅&荷物をアイテムボックスに回収。
森を抜け出し、近郊の街へと踏み入れる。
子爵嫡男時代、『騎士LV1』のスキルオーブを購入するため冒険者ギルドでカードを作り、ゴブリンなどを狩って魔石集めをしていた。その程度でどうにかなる金額ではなかったが、何かせずにはいられなかったのだ。
しかし、エルエフ王国から着の身着のまま追い出されたため、身分証明書代わりとなる冒険者カードは実家に置いて来てしまった。
今更取りに向かう訳にもいかず、再発行しなければならない。
なので街へは入場料を支払い中に入る予定だったが……
帝国皇女とその従者である2人が一緒だったため、軽く口添えしてもらっただけで問題無く内部に踏みいることに成功。
入場料も支払わず、一般列に長時間並ぶこともなく入ることが出来た。
そのまま真っ直ぐ2人が宿泊している高級宿で一泊。
さすがに同室ではなく、一部屋ずつである。
翌日、オレの冒険者カードの再発行、キリリが帝国首都へ向けて情報を記した速達を送るため冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドでも、罰則金を支払い&小言でも貰って、冒険者カードを再発行すると思っていたのだが……。
「……? 賢者シュート様難しい顔して、お腹が痛いの?」
「いや、大丈夫、痛くない。ただ皇族の権力の強さに驚いているだけだから」
冒険者ギルドは剣、槍を手にした男性、魔術師らしいローブを着た女性、荒々しい態度で昼間にもかかわらず酒を飲み騒ぐ荒くれ共達で賑わっていた。
如何にも『冒険者ギルド』といった感じの光景だった。
そんな中、見た目整った若いオレ達が内部に入ると……受付嬢が取引先会長が来訪したような態度で、すぐさま別室へと案内する。
特別扱いを受ける姿を見ても、冒険者達は誰1人文句も言わず、『当然だ』と言わんばかりの態度で見送っていた。
部屋に通され、お茶と茶菓子を出された後、すぐにギルドマスターが姿を現す。
オレの冒険者カード再発行、帝国首都への速達を二つ返事で了承。
手紙を受け取ると一度部屋を出て暫くすると、冒険者カードを手に戻って来た。
冒険者カードには当時のまま『D』とランクが記されていた。
これほどスムーズに話が進んだのも全てアリス、キリリの帝国3女、冒険者ランクA級の権力&知名度のお陰だ。
ちなみに冒険者ランクは以下のような感じになる。
S:トップ
A:一流
B:プロ
C:一人前
D:半人前
E:駆け出し
以上だ。
オレはまだD――半人前扱いである。
スキルは自己申告のため、冒険者カードに表記されることはない。
一時的にパーティーを組む際、『自分がスキル持ちかどうか』、『スキルがある場合、どんなスキルなのか』を事前に話しておくのが一般的だ。
命を懸ける戦闘のため、隠さず話すことが推奨されているが……一流レベルになるほど自分の手の内を明かすようなマネをしない傾向にある。
逆に大嘘を吐いて自分を大きく見せようとする冒険者も一定数は存在する。
故にトラブルの元にもなりやすい。
話を戻す。
オレはアリスの権力、著名力におののきつつ、冒険者ギルド裏手倉庫へと移動していた。
その移動の際、アリスが心配そうに尋ねてきたのだ。
オレは返答しつつ、裏手倉庫へ向けて歩き続ける。
ちなみになぜ冒険者ギルド裏手倉庫へ向かっているかというと、折角来たので『アイテムボックス』に溜まっている魔物素材を吐き出したかった。
いくら『アイテムボックスLV8』で無限に入って、時間が停止していると言っても邪魔は邪魔だ。
何より手持ちが心許ない――というかゼロのためせっかくだから換金しようと裏手に来たのだ。
実際、昨日宿泊した宿代はアリス、キリリが出してくれている。
彼女達は『気にしないで』と言ってくれているが、男として無視する訳にはいかない。
このままだと帝国首都まで、彼女達に金銭負担をしいることになる。
男のプライドを維持するためにも、ある程度、奇異の目にさらされたとしても現金を得る必要があるのだ。
帝国3女、従者の2人が一緒なら、金額を誤魔化されることもない。
ある意味、ちょうど良いタイミングだった。
裏手倉庫を管理、査定、解体を担当する男達が待機していた。
場合によって大型のモンスターを解体するため、裏手倉庫は体育館並に広い。
男達を代表して、もっとも年上の男性が手揉みしながら挨拶してくる。
「わざわざ裏手まで来てくださってありがとうございますアリス様、キリリ様。それで今度は一体どのような魔物をお仕留めになったのですかい」
「……今日は自分達じゃない。こちらの賢者シュート様の付き添い」
「え? アリス様達じゃなくて、そっちの坊主ですかい?」
年若い、実力高く、見た目も良い常連のアリス、キリリが相手だから下手に出ていた。
なのに今回の相手が、初顔の見た目、筋肉が付いている訳でもない細い男が相手だと紹介され、代表者男性が怪訝な表情を作る。
彼の背後に控える作業員の男性達も――。
「なんだよアリス様達の下男じゃないのか?」
「俺は下男でも、奴隷でもいいからアリス様のお側にいたいよ」
「俺も俺も」
「自分はどっちかっていうとキリリ様かな。あの革眼帯と少女のギャップが最高なんじゃないか」
「あんな奴より、僕の方がずっとアリス様のお役に立てるのに……ギリッ……」
アリス、キリリのファンでもあるらしくヒソヒソ会話を交わす。
最後の男性は殺気まで飛ばしてくる熱狂ぶりだ。
いちいち相手にするのも面倒なため、オレはスルーして代表者と挨拶を交わす。
「数が多いのと、大物も混じっているので少々大変かと思いますがよろしくお願いします」
「はっ! 大物って、これでゴブリンやオークの魔石をじゃらじゃら出されても困るんですがね。裏手倉庫は大物の魔物を解体する場所なんですよ」
「大丈夫です。ちゃんと大物ですから、奥の端から出していきますけどいいですか?」
「別に構わんがその細い体のどこに魔物の素材を隠しているっていうんだ? もしかしてアイテムボックスのスキル持ちか? その力を買われてお二方の目にとまったの――」
台詞を聞き流し、まず『ビックベアー』を出す。
約6m、体重15トンはある巨体が一瞬で姿を現した。
『ビックベアー』に続いて、『レッサーブラックドラゴン』――名前がごついが大きな黒いトカゲだ。革がそこそこ硬く、魔術も弾くため革鎧に適していたから狩ったのだ。
続いて『アースホース』、『ワイバーン』、『コカトリス』、『レッサーサイクロプス』、『ヴァイパーエイプ』、『ウォーロックゴーレム』、etc――狩った中でお金になりそうなモンスターを次々に出していく。
どれも時間が経過しないアイテムボックスに入っていたため、つい今し方に倒したように新鮮だ。
まだ序の口だったが、これ以上出すと倉庫が一杯になってしまうので諦める。
振り返ると代表者男性は顎が外れる勢いで呆然としていた。
「災害級に、準災害級まで……この仕事は長いがこれほど数、質をいっぺんに観たことなんてないぞ……」
アリス、キリリファン達も彼同様に呆然、唖然とした様子でモンスター達を眺めていた。
1人だけ青い顔で絶対にオレと視線を合わせないようにしている男性が居た。
アリスファンで、オレに殺気を向けていた男性である。
(別に殺気を向けられた程度で、喧嘩を売ったり、腹を立てるほど短気でも、チンピラでもないからそんなに怯えないで欲しいんだが……)
内心で溜息をつきつつ、気付かないふりをする。
アリス、キリリなどオレが『スキル創造』持ちのため、『これぐらいは想定の範囲』と驚きは薄い。
オレは彼らの態度変化に気付かないふりをして、代表者に解体と査定を依頼し倉庫を出る。
「後はお任せします。よろしくお願いしますね」
「りょ、了解しました! 誠心誠意、解体と査定に努めさせて頂きます若様!」
『お任せください、若様』
背後から元気の良い返事が聞こえてくる。
オレは彼らの返事を聞きつつ、倉庫を後にしたのだった。
冒険者ギルドにカード再発行のついでに『アイテムボックスLV8』に入っているモンスター素材を卸に行ったのだが、質と量が高い&多すぎたため査定に3日ほど時間がかかった。
総額で白金貨10枚。
日本円で約10億円だ。
思った以上に高値が付く。
買い取り金額を受け取った所で、ようやくアイスバーグ帝国首都へ向けて出発する。
最初、馬車でも借りて向かうのだと考えていたのだが……。
「……馬車? なぜ足の遅い乗り物で移動するの? 賢者シュート様と自分なら走った方が早い。キリリは自分が背負うから」
「いや、オレとアリスのステータスなら馬車より速いけど……」
「……?」
「すみません、シュート様。うちの知力ゼロ姫が……。この娘に帝国の体面とか、周囲に与える影響など今更説明しても遅いんです。第一、姫の言う通り走った方が馬車より速いのも確かなので」
キリリは全てを諦めた表情で謝罪を口にする。
アリスとの間に色々あったんだろうな……。
オレはそれ以上、触れず彼女の提案に従い走って帝国首都を目指す。
確かに彼女の指摘通り、馬車で移動するより、オレとアリスのステータスなら走った方が速い。
世界の3割を支配する帝国3女が馬車も使用せず、座れるように改造した背負子に従者を座らせて、爆走する姿は非常にアレだが……。
効率さえ考えれば、非常に有効である。
『中央大森林』側、国境の街から約3日で帝国首都への正門が近郊まで辿り着く。
馬車なら1週間以上はかかっていた。
わずか3日で来られるのは異常な速度だ。
さすが『敏捷:425(オレ)』と『敏捷:100(アリス)』である。
オレ1人なら『敏捷:425』で一昼夜で来られたかもしれないが。
「しゅ、シュート様、うっぷ、ひ、姫様……ォェ、もう正門も近いので歩いて行きましょう。お願いします……」
「き、キリリの言う通り、ここまで来ればもう正門も目と鼻の先なんだろう? だったら散歩代わりに歩くのもいいんじゃないか?」
「……賢者シュート様が仰るなら」
「あ、ありがとう、おぇ、ございます」
キリリが地獄に仏を見つけたような青白い顔でお礼を告げてくる。
彼女はアリスが背負った背負子に座らされ、ほぼ1日中、上下運動にさらされた。
オレとアリスは耐久が高いためか、単純に走っているからか酔うことはないが、キリリは耐えきれなかったらしい。
さすがにこの3日間『乙女の尊厳』を崩壊させるマネはしていないが、いつもギリギリだった。
今回は疲労が蓄積したのもあり、既に限界一杯。
会話通り、目的地である帝国首都はもう目の前だ。
キリリの『乙女の尊厳』を犠牲にしてまで急ぐ理由はない。
オレ達はのんびり歩きながら正門を目指す。
(しかし今更ながら、皇帝陛下との謁見は憂鬱だな。『スキル創造』はともかく、アリスからの頼みとはいえ実の娘である皇女を奴隷にした奴が、どんな顔して会えばいいんだよ……)
さすがに万能の『スキル創造』さんでも、『実の娘を奴隷にした状態で、父親に会いに行っても問題無いスキル』なんてモノは存在しない。
正門が近付くたび、どんどん胃の辺りが痛み出す。
「……大丈夫、皇帝陛下なら分かってくれる」
隣を歩くアリスが、オレを見上げながら断言した。
どうやら彼女なりの気遣いらしい。
アリスのさらに隣を歩くキリリも体調が戻ってきたのか、気遣いの補足をする。
「姫様の仰る通り、皇帝陛下には既に手紙で事情はお伝えしているので、シュート様もそこまで心配する必要はありませんよ。『頭と心は氷よりなお冷たく、されど名君』と謳われるほどの傑物です。シュート様のスキル、娘が自分で奴隷になったぐらいで慌てる器ではありませんから」
キリリは自慢気に現皇帝陛下を讃える。
彼女の言葉通り、子爵嫡男時代もアイスバーグ帝国皇帝の悪い噂は聞いたことがない。
世界の3割を支配する大国家にもかかわらず侵略行為はせず、弱小国や災害国に支援をおこない、善政を敷いている名君との話を多数耳にした。
それほどの傑物なら、『自分の娘が奴隷にされた』と錯乱し、一方的に襲ってくることはないのか?
「……それにもし皇帝陛下達が大恩も忘れて恥ずべき行為をシュート様にするなら、家族としてケジメをつける」
「姫、姫様……変な気をおこさないでくださいね。これはフリとかじゃないですよ。マジですからね」
キリリがアリスの台詞に真顔で釘を刺す。
アリスは『意味が分からない』と言いたげに可愛らしく小首を傾げた。
「……? 変な気って何? 大恩を忘れた家族を介錯するだけ。大恩を忘れて叛逆するなんて畜生――ううん、モンスター以下。そんなマネ家族にさせられない。大丈夫、最後は自分にもケジメをつけるから」
「全然大丈夫じゃないですよ! その介錯を止めろって話ですよ! 姫としては善意で言ってんでしょうが、それ国家反逆罪、世界に混乱を巻き起こす切っ掛けになるから本気で止めてくださいね!」
アリスとしては家族愛的、裏表は一切無い善意のみの発言だ。
なぜ剣と魔法のファンタジー異世界で、この娘の精神構造だけ日本の武士道精神寄りなんだろう……。
あえて表現するなら『日本武士系女子』とかになるのか?
内容は非常に物騒だが、傍目から見れば若者達がわいわい楽しく会話して歩いているように見えるだろう。
帝国首都正門が肉眼でしっかり確認できる距離まで近付くと、その歩みも止まる。
「キリリさん……寡聞にして知らないんだが帝国首都の正門っていつもあんな感じなのか?」
「……けっぷぅ」
『けっぷぅ』じゃないがな。
しかし、彼女が胃と口元を押さえて奇声を上げる姿から、目の前の光景が異常事態だと理解した。
帝国首都正門は開かれ、出入りを待つ者達が規則正しく並んでいる。
私語はひとつもなく、ピリピリとした空気が遠目でも把握することができた。
理由は正門のすぐ脇にある。
曇りひとつない甲冑姿の騎士達が、100人単位で1人の人物を警護していた。
その人物は黄金の冠を被り、赤いマント、豪奢な衣服、両手は地面に突き立てた剣の上に置かれ、街道を真っ直ぐ見据えている。
金髪で緩くウェーブがかかり、顎先まで伸びていた。鋭い赤い瞳に、顎髭、背丈も高く190~2mはあるだろう。
全体的に細身だが、頼り無いという印象は微塵もない。
むしろ金、銀、鉄、血などを灼熱の炉にくべて、取り出しハンマーで数百、数千回叩き精製した硬い金属のような重厚さを滲ませていた。
そのせいで歳は中年に差し掛かった頃合いだが、老いている印象は一ミリもない。
気の弱い人物が彼に一睨みされただけで意識を失いかねないほど威圧感があった。
「……皇帝陛下、賢者シュート様とお会いするのが待ちきれなかったんだ」
アリスが嬉しそうな声音を漏らす。
オレの想像通り、あそこに立っているのは世界の3割を支配下に置くアイスバーグ帝国皇帝だった。
(なんで皇帝陛下が正門前で待機しているんだよ!? 普通、オレがお城に行って許可を取って謁見するんじゃないのか!? やっぱり娘が奴隷落ちしたのが許せなかったのか?)
「…………」
皇帝陛下がオレ達に気付くと、歩き出す。
慌てて周囲の騎士達も動き出した。
皇帝陛下は真っ直ぐ、1ミリの狂いもなくオレ達の――オレの前へと向かって歩いて来る。
「……『スキル創造』保有者である賢者シュート様であらせられるか」
「は、はい……」
皇帝陛下が目の前に立ち、問い質してくる。
周囲に人が100、1000人単位で居るのに『スキル創造』の名を口に出されたが、雰囲気的に否定することが出来なかった。
彼はオレの返事を聞くと、氷より冷たそうな赤い瞳からハラハラと涙をこぼす。
皇帝陛下は地面にもかかわらず、その場で膝を折り頭を垂れる。
「苦節600年……ようやく我らの悲願を達することができようぞ。ようこそ……ようこそ来てくださった『スキル創造』保有者、賢者シュート様! 我ら約600年の大恩、今こそお返しいたしますぞ!」
「けっぷぅ」
「けっぷぅ」
「……さすが皇帝陛下、帝国皇帝の鑑。格好いい」
オレとキリリは株投機で全財産を擦ってしまったような表情で仲良く揃って『けっぷぅ』と奇声を上げ、アリスだけが嬉しそうに声音を上げた。
この異世界で最も人の出入りが激しいアイスバーグ帝国正門出入口付近で、世界の3割を支配する帝国のトップが、涙を流し、膝をついて頭を垂れるとか。
オレにどうしろっていうんだよ!
この状況に混乱し、何も考えることができずただただフリーズしてしまう。
混乱してばかりもいられない……。
『なぜ世界の3割を支配する現皇帝が、衆目の面前で膝を突き、頭を垂れたのか?』
目の前に跪くご本人に尋ねると、
「帝国が大恩ある賢者様と契った誓い、悲願を今生で迎えられる喜び、感無量! 故にどうして膝を突かず、頭を垂れずに居られましょうか……ッ」
「……さすが皇帝陛下、恩を忘れない生き様、素敵」
実娘のアリスは、オレに跪き頭を垂れる父親に対して心底尊敬した視線を向けていた。
オレは彼女の隣に立つ、キリリに視線を向ける。
(『頭と心は氷よりなお冷たく、されど名君』と謳われるほどの傑物の皇帝がどうして事前の根回しもなく、衆目の面前で跪いているんですかね?)
(私だってわかりませんよ! こんなのを想定しろって方が無理でしょう!?)
オレとキリリはまるで長年連れ添った夫婦か、相棒の如く視線のみで会話を交わす。
スキルの力を一切使わずにだ。
オレとキリリがアイコンタクトでやりとりしていると、皇帝陛下が立ち上がり皆に大声で告げる。
「我がアイスバーグ帝国は、古の盟約に基づき『スキル創造』所持者、賢者シュート様を帝国の賓客として遇する! 我が帝国は賢者様に降りかかる悪意、敵意、害意から国家を挙げて守る所存! もし異存ある者は申し出よ!」
『…………』
魔法や道具、スキルで肉声を大きくしている訳ではない。
なのに皇帝の威厳ある声音は、帝国首都全域に響き渡るように広がる。
皇帝は反論が無いことに満足そうに頷くと、新たに指示を出す。
「ならば歓声をもって賢者様を迎え入れるがいい!」
『お、お……オオオオオオオォオオオオォォォオォぉぉぉぉぉぉッッッ』
その場に居た老若男女全てが、指示通り歓迎の歓声を上げる。
皇帝陛下と娘アリスは満足そうに頷き、オレとキリリは再び遠い目で『けっぷぅ』と仲良く奇声を吐く。
その奇声も歓声に掻き消され自分達の耳以外には届かない。
「賢者様、城まで馬車を準備いたしました。粗末な作りで申し訳ありませぬが、暫くご容赦を。先導は我が責任を持って務めますので」
「……賢者シュート様、こっち」
アリスにうながされ、側に止まった馬車へと導かれる。
オレ、アリス、キリリ、3人で馬車に乗り込む。
全員が座ると馬車がゆっくりと動き始める。
宣言通り、皇帝陛下が馬に乗り、馬車の先導を務めた。
この瞬間、オレは自動的に世界を3割支配する皇帝より1段高い存在だとこの場に集まった人々に対して認知される。
前世日本で例えるなら、総理大臣に車の運転をさせているようなモノだ。
「…………」
……もうどーにでもなーれ☆
☆ ☆ ☆
「いや、『もうどーにでもなーれ☆』って訳にはいかないだろう……」
深夜、オレは与えられた貴賓室ベッドの上にあぐらを掻き、自分自身にツッコミを入れた。
ようやく1人の時間を手に入れたため、すぐには眠らず状況整理の時間にあてる。
急遽行われたパレード後、現皇帝陛下に『どうして根回しもなく、衆目の面前でここまではじけたのか』と問い質した。
(わざと大衆の目の前で『スキル創造』の存在を連呼。帝国の賓客と宣言することで他国の手に渡らないよう既成事実を狙ったのかと思ったが……)
……現実は小説より奇なりだった。
皇帝曰く、『賢者様を取り込む意図は無し』。
『賢者様が望むなら帝国を出て他国に行くのも問題なし。出国手続き、費用、移動手段、人員――望むモノは全て用意する。干渉はしないと約束する』
『仮に娘達、帝国貴族達が賢者様にスキルを望み脅迫や強要をしてきたら切っていい。むしろ皇帝の責として自らの手で首を落とす』と宣言。
一応、口を出してきそうな輩、帝国貴族、有力者達には既に通達済み。もし『スキルを寄こせ云々』と言ってきたら本気で首切りを実行するつもりだ。
アリスも『……皇帝陛下の手は患わせない。自分が切る』と声をあげる。
『さすが我が娘』と皇帝陛下も大絶賛。
……なんだこの親子。
他にも交わした会話を思い出す限り、アイスバーグ帝国は『スキル創造』所有者のオレを囲い込む、利用するつもりは無い。
彼らにあるのは『建国の父』の大恩を果たすという使命のみ。
「例えがあっているか分からないが……昔、ご先祖様を救った神が、再び現代に蘇ったから、過去の恩を返そうとはっちゃけている――そんな感じなんだろうな」
でなければ『頭と心は氷よりなお冷たく、されど名君』と讃えられる人物がこれほど暴走などしない。
前世で例えるなら、神、使徒などが現世に復活。目の前に姿を現したようなものだ。
敬虔な信者であればあるほど、喜びで暴走し、失礼を働いた家族、身内、部下でも殺すと断言する。
崇め奉られる方からすれば、善意からとはいえ予想外の反応過ぎて頭を抱えてしまうのだが……。
「……逆に考えよう。『スキル創造』を所有していると世間にばれたではなく、世界の3割を支配する帝国を全面的に味方に付けたと考えるんだ」
アイスバーグ帝国がバックについてくれたことで、オレの人生を売った父親と婚約者、酒の肴として了承したエルエフ王国への復讐や意趣返しがしやすくなったのは事実だ。
正直、あれだけのことをされて追放されたのだ、このまま放っておくというのはあり得ない。だが、徹底的に潰す等、そこまで強力に復讐することにこだわっている訳ではない。ひどい目に遭わされたから今後のことを考えれば当然やり返す必要がある、ということだ。
さっさと決着をつけて、この異世界を見て回ったり、美味しいモノを食べたり、『スキル創造』の可能性について色々実験・検証した方が絶対に人生は楽しい。
そのためにアイスバーグ帝国が全面的に力を貸してくれるのは非常に有効だ。
「それに過ぎたことを下手に考えて気持ちを沈めるより、前向きになった方が心身共に健康にいいしな」
オレは気持ちを切り替え、天蓋付きベッドの布団へと潜り込む。
明日から、ケジメをつけるため色々動く必要がある。
そのためにも寝不足は厳禁だ。
オレは瞼を閉じて、こみ上げる眠気に身を任せたのだった。
☆ ☆ ☆
いくらアイスバーグ帝国を味方につけたとはいえ、一国に復讐を果たすなど早々簡単ではないと考えていた。
前世日本時代、大国が小国に制裁をしても簡単に潰れたというニュースは聞かない。
攻め滅ぼすなら話は別だが……。
さすがにそんな大量の血が流れる方法を採るつもりはない。
故にどうやって復讐を果たすか思案していたが……オレ自身が想像するよりずっと『スキル創造』のインパクトは強く、各国に衝撃を与えたのだった。
☆ ☆ ☆
エルエフ王国、国王私室。
「馬鹿なありえん! あの偽貴族はスキルゼロだったはずではないかァッ!」
1本で庶民の4、5人の人生が買えるワインを注いだグラスが絨毯の上に零れ落ちる。
運良くグラスは割れなかったが、毛深い絨毯に酒臭いシミが出来上がる。
そんな事実を無視して、エルエフ国王が宰相に喰ってかかる。
『アイスバーグ帝国がスキル創造の存在を発表』。
しかも所有者は元エルエフ王国子爵嫡男シュート・オーリーだった。
「誤報ではないのか? 第一『スキル創造』など、初代エルエフ国王が記し私書に数行書かれているだけのスキルだぞ!? 妄想の類か、伝説、お伽噺ではないのか!」
『初代エルエフ国王私書』所謂、日記である。
当然、目を通すことが出来るのは国王のみ。一般公開などされていない。
その日記に数行、『スキル創造』の存在がほのめかされていた。
初代曰く『賢者がスキル創造によって帝国を影から助け、躍進を許した』と。
興奮したエルエフ国王が、流れる汗を拭い青い顔で否定する。
「お、恐らく誤報ではないと。あの氷帝が民草の目の前で跪き、頭を垂れたと目撃者は多数存在しております。いくら『スキル創造』などという神のようなスキルがあるとはったりをかますにしても利益が釣り合いません」
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な! では本当にあの偽貴族の小僧が『スキル創造』所有者だというのか! この世界を支配する大帝国を築き上げ、支えた賢者と同じスキルを持っていると!」
「お、恐らく……いえ、ほぼ間違い無いかと……」
興奮で赤くなったエルエフ国王の表情が、反転――血の気が引き青くなる。
『血の気が引く』という言葉を文字通り、体で表現する。
エルエフ国王の反応も理解できる。
逃がした魚は大きいという話ではない。
仮に『スキル創造』所有者であるシュートが手元に居れば、世界の3割を支配するアイスバーグ帝国のように大躍進できるのだ。
3割どころではない。
『スキル創造』さえあれば好きなだけスキルが作り出せ、強力な兵隊を作り出すことが可能である。
世界を支配することも可能だ。
むしろなぜ当時、アイスバーグ帝国は世界を支配しなかったと疑うレベルである。
「――せ」
「……はっ?」
「呼び戻せ! 今すぐ偽貴族――いや、シュート・オーリー子爵を呼び戻すのだ! シュート殿が望むなら今すぐ子爵家当主とする。足りぬなら伯爵へ陞爵しよう。娘でも、息子でもいくらでも嫁に出す!」
「し、しかし……あれだけ手ひどく屈辱を与えたのです。今更こちら側に戻るとは……」
「馬鹿者! もっと頭を使え! 貴様の頭は帽子を乗せるための台かなにかか!? 全てはシュート殿の父、裏切り者のオーリー子爵――元子爵の企て! 儂達は最初からシュート殿こそが子爵家当主、エルエフ王国の宝だったのだ! オーリー元子爵を捕らえてもすぐには殺すな。下手に手を出してシュート殿に臍を曲げられたら目も当てられぬからな」
「は、はは! ではすぐに」
宰相は一礼し部屋を出る。
オーリー子爵――エルエフ王国の崩壊はこうして始まったのだった。