リトキスの活躍と仲間達の実力
それにしても猫の体温って意外に高くないか? 胸の辺りが、じんわりと汗ばんで気持ち悪くなってきた。猫は目を瞑ったまま、ぴくりとも動かない。
胸の上で眠るというのは、よほど信頼しているという事なのかもしれないが、暑苦しくなってきた。──早く起きてくれないかな……
空に浮かぶ焔日は、だいぶ傾き始めているらしい、ずいぶん良く眠ってしまったようだ。
そうしていると宿舎の門が開く音がした、どうやら仲間達が帰って来てしまったらしい。
「あれ──団長と猫だ」とメイの声がする。
すると猫が耳をぴくぴくっと動かして目を覚ます。
ぴょんと俺の上から降りると、地面の上で背伸びをし、大きな欠伸をしてユナの元へ歩き出す。
「猫と昼寝ですか?」
脚にじゃれつく猫を撫でながらユナが言った。
「まあな、いつの間にか上に乗られていて大変だった」
そう言うとメイとユナが「いいなぁ──」とハモった。何がいいものか、胸元を見ると汗で湿っている。ウリスとエウラ、リトキス達も側に来ていた。
「おう、ご苦労さん。どうだった? リトキスと魔法の剣は?」
パーティ統率者のエウラに尋ねると、「圧倒的でした」という返事が返ってきた。
危険な「暗黒の大地」ではあるが、魔法の源である魔力に溢れた場所だ。魔法の剣との相性も頗る良かったらしい。
「魔法の刃を剣に纏わせた状態を維持していても、魔力の消費はほとんど無いみたいですね。内包する魔力量によるのかもしれませんが」とリトキスが説明する。
リトキスはこういった事に対する分析力もあるのでありがたい、なにしろ俺が魔法の剣を持って、冒険に出る事が出来ないのだから。
「それで『廃獣グフトアモス』と遭遇してしまったのですが」
廃獣達の中でも危険な奴だ。廃獣と呼ばれる連中は魔法を使わないが、危険な特殊能力を持つ個体が多く。グフトアモスは大きな体に固い皮膚、巨大な角を持ち、体中に生やした魔力鉱石を撃ち出して攻撃してくる上に、それを爆発させる能力があるのだ。
この危険な獣は耐久力も高く、「暗黒の大地」で最も危険な敵の一つとして数えられている。それを相手にリトキスの魔法剣と、連続攻撃する剣技の組み合わせで、難なく勝てたという。
「お陰で大量の魔力鉱石と、魔獣の剛角を手に入れられました」
エウラとリトキスの背負う背嚢から突き出た、捻れた角が、その獣の大きさを物語っていた。メイやウリスらもリトキスの強さに驚いたと語るが、リトキスは違う事で驚いていた。
「それよりも僕はユナ──さんの魔法に驚きましたが。なんでもオーディスワイアさんの錬成品で強くなったとか。噂で聞いた事があるのですが、昇華錬成をした錬金鍛冶師ってもしかして……」
俺はユナに袖を捲って腕輪を見せるよう頷き掛けた、少女は頷き返して銀の腕輪を見せる。
「これが……昇華錬成の──凄い。各属性を示す宝石が入っているんですね」
「それは最初は全部銀製品だったんだ、昇華錬成すると花の装飾部分が宝石へ変化したんだぜ」
俺が解説すると「凄い」と、また繰り返す。
いつまでも少女の腕を掴んで腕輪を調べていたリトキスだったが、相手の困った様子を察し、慌てて手を放すと謝罪する。
「あっと、ごめんなさい。つい……しかし彼女自身の魔法も、正確に敵の動きを牽制して止めたり、不意を突いたりと的確で、前衛としては助かりましたね」
ウリスについても、エウラやメイについてもリトキスは誉め、この旅団の団員は皆、こうなのかと尋ねてくる。
「いや、生憎と俺は冒険に出ないから分からん」
お前から見てどうかは知りたいから、全員と組んでみて今度教えろと言うと、リトキスは少し寂しそうな顔をして「そうでした、もう冒険には行かれていないんでしたね」と呟く。
仲間達の実力を把握したいというのは自分も同じだと言い、リトキスは快く承諾した。




