趣味の再開「小鉢植物園(テラリウム)」
テラリウムを「小鉢植物園」と表記したのは作者の創作です(どこかで誰かがそう表記しているかも知れませんが)。
「何ですの? これは……?」
鍛冶場の隅に作った棚に乗る無数の、様々な形や大きさの硝子の器を見てレーチェが言った。メイやユナも器を手に取り、これは何かと話し合っている。
「こんな小さいのは薬入れではないでしょうか」
「でも入り口が広いよね、口が斜めになっているのもあるし……墨入れかな」
後から来たウリスとヴィナーも、そこへ加わって話し始める。
「でもオーディ……旅団長の作る硝子の器って透明度が凄いよね。これ、売り物に出来るでしょ」
とヴィナーが言う。
「おっ、そう思うか。透明度──それも答えの手掛かりだが──答えは絶対に分からんと思うわ」
そう言われると余計に当てたくなったのだろう。「宝石入れ」だの「色の付いた水を入れる入れ物」だの「新しい調味料入れ」だの見当違いな事をずっと話している。
「正解は──その中に「世界」を入れておく為の器だ」
「あなたは何を言っていますの?」
即行でレーチェが言う。
「まあ待て、この器を持って宿舎に行けば分かる」
俺はそう言って綺麗な白い石の粒や、輝石などを持って宿舎の方へ移動する事にした。
旅団宿舎に向かって、ぞろぞろと通りを歩いてやって来ると、花壇の脇でリーファがシャベルを使って、──苔を剥ぎ取っているところだった。
「こらぁぁああぁ! なにしとるかあぁあぁ!」
「わっ! ……なんですか急に、見ての通り苔を取り除こうと……」
「それを取り除くなんて、とんでもない!」
俺は彼女にシャベルを置くように言って、硝子の器に白い石粒を入れて置いた物に。花壇の土(炭を混ぜてある)を少し、その上に苔を一摘み入れて形を整えると、その上に輝石を置き、羊歯や白詰草を入れて見た目を整えた。
「ほら、こんな感じだ」
と皆に見せるが反応は冷ややかな物だった。
「え──と、それが『世界』ですか?」
「苔と綺麗な石? ちょっと何がいいのかわからない」
「苔と雑草じゃないですか」
ひ、酷い……まあ、こんな感想だろうと思ったわ。──建造物に囲まれて、息が詰まる様な経験をした事のある奴にしか、分からん物かもしれないな。
「あら、私は好きですわ。こういった物。小さな硝子の器に観賞用植物を入れるなんて──苔を使うのは初めて見ましたけれど──。なかなか良い物だと思いますわ」
「おぉ……さすがだな! 石の壁に閉じ込められて哀しい幼少期を過ごした者は、この感性が分かるのか!」
「ちょっと、ちょっと! 誰が石の壁に閉じ込められた、哀しい幼少期を過ごしたと言うのですか! そんな事……そ、そんな事ありませんわ!」
後半は明らかに言い淀んでいたが、突っ込まないでおこう。俺は三つの小さな硝子の器に石や土を盛って苔や小さな植物、枯れ枝などを使って飾り付けすると、それぞれ違った小鉢植物園を作って見せた。
「あ、なるほど。観賞用園芸と同じですね」とユナが理解を示してくれた。メイは小さな硝子の器に入った、植物の盛り合わせにしか見えない様子である。
その他の連中も興味はなさそうだ。
「ま、この三つは宿舎の玄関にでも置いておこう。いつかこの良さが皆にも分かるといいな」
俺はそう言ってユナと話しをし、水はどれくらい与えるのかとか、成長したらどうするのかを話し合った──
この物語のシリーズを『方舟大地フォロスハートの物語』としました。ノアの方舟の様な浮島(大陸)ですので。
この物語の外伝や登場人物などの設定をまとめた物を別に投稿しました。
シリーズ名をタッチしてそちらの方も読んでもらえたら嬉しいです。




