表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

574/585

休息、そして

 夕食後の会合ミーティングで俺はしばらく休養を取ると宣言した。

 ユナ、メイ、フレジアの三人にはフレイマの遠征拠点を購入する手続きを頼み、「朱き陽炎かぎろいの旅団」の団長アブサウドに手紙を持って行くよう指示を出しておいた。

「ついでに拠点に必要な物も揃えておいてくれ。資金は渡すし、なんならそのまま拠点を整えて冒険に出てもいい」

「わかりました」

 ユナの返事を聞き、明日からの休日をどう過ごすかな、などと考える。



 * * * * *



 翌日に、予定していた通りにユナ達にアブサウドへの手紙とお金を手配し、三人を送り出すと、鍛冶屋の方に顔を出して、数日休むよう伝えた。

「二人とも明日と明後日は休みでいいぞ」

 定休日の看板を教え、外の掲示板に明日から数日休みにすると書き込んだ。


 そうして俺の休養日が始まったのだが、な──んにもしないでいいとなると、何をすればいいのか分からなくなった。

 仲間達が庭で訓練するのを見守りながら、膝にライムを乗せて日向ひなたぼっこをしたり、それに飽きると旅団拠点を出て、近くの公園の芝生の上で横になったりした。


 暖かい日差しの中で横になっていると、昨日しっかりと睡眠を取れたはずなのに、俺は公園のど真ん中で眠りにいていた。

 どれくらい眠っていたのかと思えば、そんなに長い時間ではなかったらしく、日差しはまだ頭上に輝いていた。


 そして、胸の上がえらく暑くなっていると思ったら、野良猫が一匹、俺の上で眠っていた。

「またお前か」

 茶色い野良猫は目を閉じ、俺の胸の上で前足を畳み、安心しきった様子で寝息を立てている。

 おでこを撫でてやると、猫は目を開けて「ウニャァ」と鳴いて俺の上から降りてくれた。


「またな」

 背伸びしている野良猫に別れを告げ、俺は宿舎に戻ってから大通りの方に行き、食事を店で食べる事にした。


 ミスランの食堂はいくつかあるが、昔からある店が多く、新しい店が出店するのはまれだ。

 変化のない暮らし。

 以前の世界では、気づいた時にはどこかも店がなくなっていて、新しい店に変わっていたりしたものだが。


 フォロスハートでも徐々に、日々の生活に新しい物が加わったり、技術的な進歩が現れてきていた。

 管理局や各地に居る錬金術師や、その他の技術屋のあり方が変わってきたのを感じる。

 今までは自分の得意とする技術を囲い、それを他人に教えまいとする慣習が根付いていたが、管理局からの号令もあり、多くの職人がそれぞれの技術を開示し、全体的な成長に繋がった感じだ。


 ベィンツのような少年が現れたのもいいきざしだ。──そうした変化に自分も貢献できているとすれば、これ以上の事はない。

 技術を高めるのに必要なのは、一人の努力だけでは足らない。全体の、多くの人の協力と共通認識があって初めて成り立つのだ。

 鉄が無ければ剣を打つ事も出来ない。

 鍛冶師に鉄鉱石を採ってくる人材が必要なように、多くの人の存在なしには成り立たない。

 市民、冒険者、管理局の職員、神殿に勤める人。──そして神。


 以前に居た世界よりも遥かに人口の少ないフォロスハートで、新しい何かを期待するのであれば、孤立していてはいけない。

 誰かが誰かを支え、支持し、少ない資源を分け合ってでも生き延びて、新たな時代の為に戦い続けなければ。

 怠惰たいだも悪意も、この世界には必要ない。

 いや、そうした人間の弱さから生まれる全てのものは、どの世界にも必要ないのだ。


 強靭な意志をもって自分の弱さに向き合える者だけが、次の時代への責任ある役割を全う出来る。

 他者を否定するだけの人間性など必要ない。

 そんな弱さはいらない。

 市民は冒険者を、冒険者は市民を支え。

 管理局は市民や冒険者の活動を支え、神殿の神官達はそうした人々を見守り続ける。


 互いの結びつきの中で何を成せるかを考え、行動しなければ、気づいた時には何かを失っているかもしれない。

 例え片腕を失っても、まだ戦い続ける人が居るように、この過酷な世界でも必死で生き抜こうとしている人が居る。

 俺は彼らに報いる為にも、自分の知識や技術を使って新しい物を作り出すべきなのだろう。

 あるいは──────


 おっと、つい難しく考え過ぎた。

 俺にとって世界の問題を考える事は、もはや趣味であり、習慣であるとも言えるほどに身近なものになっているのだ。

「これではおちおち休めないな」

 そんな想いを抱いて苦笑いする。



「はい、おまちどうさま」

 椅子に座って考え込んでいた俺の前に、大きな皿が置かれた。

 そうだった。俺が金色狼の旅団に居た頃に何度も訪れていた料理屋に入って、その頃しょっちゅう食べていた料理を注文したのだ。

 料理を運んで来た女性に見覚えはなかったが、店の雰囲気も料理も、あの頃と変わりがない。


 野菜を細切れにした物がたっぷり入った焼き飯と、その上に焼き揚げされた肉のかたまりを切って載せた皿。

 濃いめの味付けがされた厚切り肉と焼き飯を頬張ると、冒険者として活動していたあの頃の事が思い出されてくる。


 俺の前にはリゼミラとアディーディンクが座り、それぞれが好んで口にしていた料理が置かれ、次の冒険はどこにしようかなどと話し合っていた。


 今は、そんな彼らを送り出す立場になってしまったが。


 その懐かしい味を口にしながら、俺は何か、自分の中に活力が沸き上がってくるのを感じていた。 

オーディスワイアが人々に期待する支えとは、地球での経験が元になっているんでしょう。その中でも環境(気温)の変化に苦しむ農業従事者を見たり、時には自身の職場だった中小企業での経験(大企業にこき使われたり、海外の取り引き先とか価格競争とか)が根深く残っているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ