アリスシアとの戦闘訓練
調理場にある帳面を開いて、あんまんについて書いた頁のところに材料の量に関する修正を追記し、その理由も書いておいた。次回に作る時は、より記憶にあるごまあんまんに近づけるはずだ。
「さて、訓練をするか」
木剣と盾を手に庭に出ると、まずは一人で体を動かす。
一通りの動作確認をすると仲間達の戦闘訓練に参加し、実戦的な戦いの練習を開始した。
今日も若手達が宿舎に残って訓練をしている。
剣技の指導をするレオシェルドは若手を数名率いて冒険に出ている。下級の転移門だが、敵の出現率が高い場所に向かって行った。
「実戦を経験しないと掴めない感覚があるからな」
レオの言葉には後進の上達を期待し、それを見守る者として、いつか自分と肩を並べてもっと困難な冒険に向かいたいという──そんな想いがあると感じた。
庭の訓練場に集まっている若手達が木剣などを手に、戦闘訓練を各自が始めた。
数人が交互に相手を変えて戦闘訓練に取り組む中、アリスシアは何故か俺の所にやって来て、訓練相手をして欲しいと頼んできたのだ。
「どうした」
「剣と盾の戦い方を学びたくて」
「それは俺もだ」
真顔でそう答えると彼女は曖昧な笑顔を浮かべ、「そう言わず、訓練に付き合っていただけませんか」と訴えてきた。
アリスシアは長剣と盾以外にも槍を使ったり、あるいは武器と魔法による攻撃の組み合わせを考えているようだった。
「剣による攻撃の最中に呪文を唱え、剣での攻撃から追撃する形で攻撃魔法を使えれば、それで戦い方も変わるぞ。──けど呪文への集中が削がれるから、そうした剣と魔法の両立は難しく、人によってはまったく出来ない」
お前はどうだ? という感じで聞くと、彼女は大きく頷く。
「私はそっちの才能があるみたいで、ほかの旅団の人と冒険に出た時に、その戦い方をして驚かれました。──まあ、私の使う魔法なんて初歩的な攻撃魔法くらいですが」
「へえ──なら試してみるか。どれくらいの感覚で魔法を撃てるのか見てみたい」
俺はそう言うと倉庫から魔法防御に優れた聖銀鉄鋼の盾を持って来る。
「縦斬り、横斬り。その直後に風の魔法を撃ってこい」
「──わかりました」
アリスシアに指示を出し盾を構えると、彼女はすぐに行動に移した。
二回の攻撃を盾で受けると、彼女はその二連撃から流れるように、風の衝撃を撃ち出す魔法を伸ばした手から放ってくる。
──さすがに攻撃しながらの魔法攻撃な為、集中力が削がれて威力は弱まっているようだったが、牽制として十分使えるものだ。
たぶん威力の低さ故に、彼女の能力は他の旅団でも「大した事はない」といった感じで見られてしまったのだろう。
攻撃と魔法の連携を素早く行えるとしたら、彼女の評価は今後変わってくるかもしれない。
「呪文は心の中で詠唱している感じか」
「口で唱えるよりも速くしている感じです。呪文の一節一節を区切って、同時に唱えるみたいな──」
「そりゃ凄い。アディーだってそんな芸当なかなか出来ないと言っていたぞ」
そういやそうした技術はキャスティが得意だった。あの女も初歩的な魔法ならほとんど無詠唱で魔法を使えると言っていたが。
「しかし、変わった魔法の使い方をする……。我流か?」
「いえ──子供の頃にある人から教わって」
俺は納得したような、なんとなく腑に落ちないものを感じながら頷き、今度は彼女の剣技を見てみようと思った。
「よし。じゃあ今度は剣と盾を使った模擬戦な。まずはそちらから全力で斬り掛かってみろ」
俺は革の盾に持ち替え、アリスシアの実力を見極めようと攻撃させてみた。
彼女は素早い動きから鋭い攻撃を三度、四度と繰り出すが、正直言って重さはない。素早い斬りつけをしてはいるが、まだまだ未熟な感は否めない。
しかし────
「……待て。なんか妙な感じだ。その鋭い攻撃の連携──どこかで見覚えがある」
アリスシアの薙ぎ払った剣を盾で受け止めつつ、ひょいっと盾を押し出すようにして彼女の連撃を止める。
流れるような足捌きから踏み込みと同時に放たれる鋭い一撃。相手の重心が一定なので攻撃の瞬間が予測しづらい動きだ。
「リゼミラの動きに近いが──一本の剣だけで戦う定型……」
「子供の頃に会った冒険者に教わったものが、私の剣技の基礎になってますが……」
「う──ん? 誰だったかな……」
「私に剣を教えてくれたのはアウシェーヴィアという女性冒険者です」
「アウシェか! ……なんで教えなかった」
言われてみれば踏み込みと斬り込みの同時性が、アウシェーヴィアのそれに感じがよく似ていた。
「知り合いなんですか?」
「いや、知り合いというか『金色狼の旅団』で仲間だったんだぞ。──聞かされていないのか」
「……それが、自分の事はぜんぜん話されない方だったので。金色狼以外の旅団についても話されていましたし、どこの旅団の所属かはわからなかったのです」
俺は呆れて溜め息を吐いてしまう。
意外なところから仲間の息吹を感じたような、そんな気がしたのだ。
ちょっと話が脱線してしまったかな。メインキャラ以外にも人生があるので、つい書きたくなってしまう。




