再びの商売敵(?)の少女カーリア
剣を打ち続け赤熱した剣に強化素材を順に加えていく──そうした作業を行って、いよいよ完成に辿り着こうとした時に入り口に立つ少女に気がついた。
「ぉっ⁉ おぅ、なんだお前か──暗がりに立って覗き込んでないで、こっちへ来たらどうだ」
少女に気づき俺がそう声を掛けると、カーリアは店の中に入って来た。俺は汗を拭いながら左脚で鞴を踏んで風を起こす。右脚ばかりを使っていると、炉の熱を受けた義足が熱を持ち火傷するからだ。
「剣を打つのは同じなんだな」
「新しいやり方があるなら試してみたいが……生憎と新しい方法を聞いた事は無いな」
少女は赤々と燃える炎に顔を照らされながら、じっと俺の作業を見てからふと、俺の右脚の合金製の義足に目を向けた。
「あなたの話を詳しい者から聞いた、オーディスワイア」
おや? 今度は名前をちゃんと言えてる──舌足らずな訳では無かったのか。
「以前は冒険者をやっていて、とんちき狼の三勇士と呼ばれていたとか」
「誰が頓痴気だ! 誰が! こんじき狼だ! 金色狼‼」
思わず剣を打つ手に力が入りそうになる。いかんいかん、完成間近で危うく剣を駄目にするところだった。
「こっ、金色狼か。うん、知っていたぞ」
少女はそう言いながら、暑い暑いと作業場から少し後退する。もはや突っ込む気も起きない──、いったい何をしに来たのかと尋ねるとカーリアは言った。
「わっ、私も、実は冒険者を目指したいと思っていてな──だが、父がそれを許さんのだ」
「へえ、どんな冒険者になりたいんだ。やはり魔法使いか」
俺の言葉に少女は首を横に振る。
「剣を持って戦う戦士になりたい」
「……へぇ」
ちらりと少女の首や腕を見る。腕は袖の長い物を着ているので太さは分からないが、手首を見る限りは論外だ。……まだ少女──おそらく十二、十三歳だろうから、まだこれからだと言えるが、実際の所かなり厳しいのではないだろうか。
「剣は重いし、腕力や体力が必要だぞ。それにいっつもそんな童話の中に出て来る様な魔女の格好をしてるじゃないか」
暗に「魔法使いにしとけ」と言ったつもりだったが、彼女は「この格好は趣味だ」ときっぱり答えたのである。
いやまあ、ヒラヒラのスカートで剣を振るってはイケない、という法律は無いだろうが。──言われてみればケツを出している戦士もいるようだし、いいんだろう、たぶん。
「あなたはどうやって冒険者になったのだ、オーディスワイア」
彼女は突然そう言って俺を困らせた。それを話す訳にはいかない──というか、話したところで信じはしまい。……いや、違う、そうじゃない。カーリアは「どうやって」と尋ねたのだ、俺の過去について話せと言った訳ではない。
「あ──そうだな。そのうちにな、今は剣を完成させなければいけないんだ。今日は帰りなさい」
俺がそう言うと「む──っ」とむくれた顔を見せたが、すぐに剣を打つ作業の邪魔をすると父親に怒られる事を思い出した様子で、「わかった」と一言残して去って行った。




