旅団の現在と過去
『火と焔日の神よ、力持つ者、遍く命の保護者、定め印す理の女神よ。今一度我等にあなたのお力を貸し与えて下さい』
錬成台の上に赤い光(微かに暖かい)が広がると、金の指輪に付いた紅玉の中にそれは収まった。翠玉の指輪も紅玉の指輪も、鑑定してみるとなかなかの数値が見て取れた。その事を説明してヴィナーに手渡すと彼女は喜んでそれを指に嵌める。
「お前はまず人に礼を言うところから学び直せ」
俺の悪態にヴィナーは慌てて礼を口にし頭を下げる。
実際彼ら三人が出した素材では金額的に足りないし。他の鍛冶師が、同じ数十個の精霊石を消費した錬成を行っても、俺が施した物よりも魔法効果増幅数値は低い物になっただろう。
多くの錬金鍛冶師は、錬成台に描かれた方陣の意味が分かっていないのではないかとすら思えるのだ。精霊石の配置を考えて置くだけでも、多少は結果が良くなるのだが──彼らの勉強不足にはいずれ、新たな錬成指南書が著されて、己の無知を思い知る事になるだろう。
無論、俺もまだまだ改善すべきところがいくらもあるだろうが。少なくとも、一つ一つの作業を適当な金稼ぎだと考えて行った事は一度も無い。
「ところでお前らは旅団には入っていないのか」
「ええ、僕らはまだまだ駆け出しなので……最近は多くの駆け出しは、いきなり旅団に入ったりはしませんね。噂では若者を食い物にするような旅団もあるとかで、皆慎重になってますね」
「別に、有名所の旅団の入団試験でも受ければいいだろう。『金色狼の旅団』ならおかしな事にはならないだろうに」
俺の言葉にぶるぶると三人が首を横に振る。
「いやいやいや、無理ですよ。あの一流所の入団試験なんて。僕ら駆け出しは、仲間同士で旅団についての情報を交換したりしていますが、試験を受けた仲間の話では、相当厳しい内容だったそうですよ」
へぇ──と生返事しながら考え込む。最近の金色狼でも、そんな事になっているのかと呆れてしまったのだ。若者を育てずに誰を育てるというのか。少なくとも自分が旅団に入っていた頃は、あらゆる旅団が互いに切磋琢磨しながらも、共通の目的を持って探索を行っていたものだが。
俺はぽんと手を打ち、三人に、そのうち新しい旅団ができるかも知れないから、そこに入団しろと言っておく──あのお嬢様がどれくらい真剣に考えているかは分からないがあの性格だ。貴族でもあるらしいし、金策の問題は解決しているだろう。
「新しい旅団ですか……まともな所なんですかね?」
「うむ、それは俺にも分からん」
そう開き直ると三人は揃って「ぇえええぇぇっ」と声を上げた。




