神アヴロラの巫女
200話目達成ーー!
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フレジアは急に自分に話が振られたと知って、子猫を抱いたまま長椅子の陰に隠れてしまう。
二匹の子猫達は「ニャァ──」と鳴き声を上げながら少女に、自分達も撫でてくれと迫っているみたいに近寄っていく。
「子猫がこんなに人に懐くなんて……動物と相性がいいのかな?」
俺が隠れてしまったフレジアの方を見ながら言うと、ダリアは紅茶を一口飲んでから頷く。
「まあねぇ、昔から小さい動物には好かれ易かったかな。近所に犬を飼っていた人が居たけれど、そこの犬はフレジアを見ると小便をチビるくらい喜んで駆け寄って来たもんだよ」
仲間の下品な物言いに、ラピスは咳払いで伝えようとするが、ダリアには気づいてもらえなかった。
「旅団の冒険に参加するのは歓迎だけど、私らは高いよぉ。最近じゃぁ上級難度ばかり冒険に出てたから、中級だと物足りないくらいさ」
彼女の自信に満ちた言葉に、こちらも少し考えてしまう……リゼミラと組ませれば上級へ行く事も出来そうだと。──しかし、それでは若手の育成が出来ない。
問題は、中級から上級へ段階を上げる時に無理なく行けるかが重要なのだ。安全もさる事ながら、上級でも戦えると自信を付けさせるのが一番の目的になる。
「そうだな……上級に行くかどうかも含めて、今日の夕食後の会議で話し合う事にしよう」
*****
そう話しているところへ、庭で訓練をしていたカムイがやって来た。
「あの……ニャンティル? の使いという方──猫獣人の人が団長に会わせろと言っているんですが」
一瞬なんだ? となったが、おそらくはナンティル、の聞き間違い──というか、言い間違いなのだろうと察した。ナンティルの使い? 本人は来なかったのか──?
色々と考えながら、俺は客間を出ようとする。
「あ──、私らもお暇するよ。それで、どうする? 明日にでももう一度来ようか?」
ダリアが言うと、フレジアは名残惜しそうに子猫を抱き締め、ラピスから子猫を放すよう説得されている。
「……そう、だな。悪いが明日の午前中に冒険の用意をして来てくれるか、今日中に仲間と相談して、上級へ行くかどうかを相談するよ」
それに対してダリアは「了解」と簡潔に応える。
「あんたは体を万全な状態に戻して、早く魔法の武器を造れるようになってくれよな。使ってみたいんだよ、その武器を」
俺は頷き、彼女の真似をして「了解」と応えておいた。
*****
庭に出ると入り口の所に初めて見る猫獣人の娘が二人、立っていた。
どちらも青と薄い紫色の羽織りを身に着けており、神殿付きの巫女を思わせた──彼女らは俺の顔を見ると、丁寧にお辞儀をする。
こちらも慌てて頭を下げつつ、彼女らの仰々しい出で立ちと、ナンティルの組み合わせに混乱しつつ、嘆息し、心の中で呟く──(わけが分からないよ……)
「オーディスワイアさんですにゃ?」
「あ、はい」
近寄った俺に澄んだ声で金色の髪……毛色をした相手が言った。
「私はニャンティルの使いで来た者ですにゃ、彼女はおそらく行商人としてやって来ているとは思いますが──実は、彼女にも色々事情があるのですにゃ──詳しくは本人から聞くといいですにゃ」
こちらの戸惑いを察して言うと、隣の黒い毛色をした──こちらは護衛を兼ねているらしい、腰に帯刀している──女が、懐から書状を出してきた。
「こちらに管理局とのやり取りの概ねの事が書かれていますにゃ、簡単に説明しますと、あにゃたの体を我らの神アヴロラ様が治癒する代わりに、我らアヴロラの民が居るパールラクーンと、フォロスハートの間に恒久的な和平と、魔法の武具の作製に関する情報の開示を約束しましたにゃ」
おやおや、なにやら大袈裟な話になってきたぞ。
「という訳ですので、明日、あにゃたをパールラクーンに連れて行く事になりましたにゃ。急だとは思いますが、あにゃたの体を治す為です。ご理解して頂けたらと思いますにゃ」
「もちろん、体を治せると言うのなら喜んで行きますが……ナンティルはいったい──」
疑問に答えてもらおうと思ったが、彼女はにっこりと微笑んで「明日、ニャンティル本人から聞くといいですにゃ」と返答し、一礼すると去って行った。
宿舎からダリアら三人の冒険者が出て来たので、俺がパールラクーンで治療を受ける事になったと説明し、もし本当に体が治せたなら、魔法の武器を造るのはそう遠くないだろうと話すと、彼女らは喜び、ならこちらも素材などを集めないといけないなと奮起して、旅団の敷地から出て行った。




