ふてぶてしい冒険者の剣
「おいおい、爺さん、死んじまったって本当かよ!?」
小さな鍛冶場を清掃していた所に、いきなり飛び込んで来た冒険者の男、床に集めていたゴミに足を思い切り突っ込んで埃を辺りにばらまく。
「あ、すまねぇ……」
男は小声で謝ったが、先程よりも大きな声でこう言う。
「って、そうじゃねえ! 爺さんには予備の剣に錬成強化を頼んでたのに、あれおじゃんかよ!」
あーあー、うるさいなぁこの男。喚くんじゃぁないよ、小さい鍛冶場にデカい声が響くんだ。
俺は撒き散らされたゴミをもう一度集めながら「もうできてるよ。ほら、塵取り持て。話はそれからだ」と低い声で言うと相手は「ぉ、おぅ……」と渋々と塵取りを手にして、その場に屈み込んだ。
剣は出来ていた、俺が強化錬成した物だ。はっきり言ってあの爺さんがやるよりも上等な物になっているはずだ。そんな事は告げずに、ムサい顔の冒険者が出した剣の受け取り証明書を貰い、代わりに預かっていた鋼の剣を差し出した。
「ちゃんと強化してあんのかい」
「愚問だな、気になるなら武器屋に行って鑑定して貰って来い」
俺の強い言葉に男は渋々といった感じで鍛冶場を出て行った──が、床の掃除の前に、壁の煤や黒ずみを落としておくんだったと後悔し始めた午後になって、(その間の客は0)朝に来た冒険者の男が駆け込んで来た。
「おいおいおいおいおい! 何なんだよこれは!」
いや、お前が何なんだよと突っ込んでやりたかったが、何やら興奮した様子の相手を見て黙っていると。
「あんたの寄越した剣、ありゃぁ他の依頼で受けた物なんじゃぁないのかい!?」と言うじゃないか。俺は「生憎だが、その剣の依頼以外は受けてなかったぞ」と返答すると。
「マヂか!」
「大マヂだ」
こんなやり取りになった訳である。
聞くと男は仲間と共に門を潜って(後で説明しよう)冒険に出掛けると、最初は新しく手に入れた「風の精霊の力が宿る魔法の剣」を使っていたが、予備の武器も確かめておこうと使って見たところ……
「俺は確かに斬れ味が良くなるように『鉄歯鮫の歯』を二十枚渡して強化錬成してくれと言ったが、あんたこりゃぁ──『風の精霊剣』よりも斬れ味良くなってんじゃぁね──か‼」
「良かったじゃないか」
俺が感想を漏らすと相手は素っ頓狂な声で「おっ、おう……?」と頷いた。
「いやいや、あんたすげぇ──ぜ⁉ あの爺さんに渡した時は『そこそこ良くなればいいな』くらいに思ってたのによ? まさかあんたみたいなオッサンが居るとは、ありがて──や!」
一瞬、オッサン呼ばわりしたこいつの頭に、踵落としを食らわせてやろうかと思ったが(人に言われると頭に来るものだ)、合金製の義足を脳天に落としたら大事故になりかねないと思い、ぐっと堪える。
「そうか、そいつは良かったな」
俺はふてぶてしい客を適当にあしらうと、お引き取り願った。鍛冶場の掃除はまた違った方法を考えておこう……