メリッサの救いの手と新人の加入
そこへ、管理局の人間が数人やって来た。その中にはメリッサも居た──彼女は「栗毛の駿馬旅団」の冒険者達に呼び掛けると、これから管理局の人間を加えて、旅団の存続について話し合う場を設けたので、そちらに移動しろと説明する。
庭にやって来ていた連中は来たのと同じ様に、唐突に去って行った──二名の若者を除いて。
「僕達は『栗毛の駿馬旅団』の者ではありません。こちらの旅団に入りたいと思い、やって来ました」
少年と少女は俺をまっすぐに見ると、真剣な表情で頭を下げる。
「どうか、旅団に加えて下さい」
よろしくお願いします、と頭を下げる彼らに、ひとまずカムイとメイに相手をさせて、戦う力があるかどうか確認しておくよう言いつけておく。
「それで? メリッサの用件を聞こうか」
俺がそう言うと、彼女は顎に手を当てて、しばし沈思する。
「聞いた話だと、あなたの容態は急を要する危険な状態だという事でしたが……」
「さっきまで火の神の連れて来た治癒師に勁の治療をしてもらっていてな、それでだいぶ楽になった。まだまだ体力や力は戻りそうにないが」
「そうでしたか、それなら良かった。あなたが瀕死の状態だというのに、他の旅団の騒動に巻き込まれる形で入団を迫られては、休むどころでは無いと思って『旅団・冒険者統率機構』の担当者を呼んだのです」
さすがは敏腕局員、お見通しという訳ですか。
「そうか、まあ助かった。ありがとう……しかし、なんだってうちの旅団にまとめて入ろうなどと考えたのか」
俺は宿舎の壁際に置かれた木製の椅子にメリッサと共に腰掛け、入団希望者の少年少女の動きを観察する。
「それは……この前の混沌を打ち払った立役者の多くが『黒き錬金鍛冶の旅団』の団員だったからですよ。ミスランの旅団の間でも、その話で持ち切りになったのではないでしょうか」
一番の話題はオーディスワイアさんの事だった様ですねと、彼女は真剣な表情で語った。
「私も改めて調べましたが、あの『金色狼の三勇士』の二人が今や、この旅団に入っているのですから──いえ、オーディスワイアさんは冒険者では無いですけれど」
頷きつつ、その情報は古いものになるだろうと忠告しておいた。
「どういう事でしょうか」
「今日にでもアディーディンクの奴は管理局からこっちに移るらしい、冒険者として、もう一度リゼミラと冒険する気になったらしいな」
「それは朗報です。ますますこの旅団は勢いづきますね」
彼女は何故か嬉しそうに言う。
俺は「まあ、ほどほどにな」と曖昧に応えるのだった。
「ところで、水の神の住む都市ウンディードに新たに開いた転移門があるのですが、そこで見つかった『水玉葱』という野菜がどうやら、気力の回復に適していると報告を受けたのです。もしかすると、勁の修復にも効果が期待できるかもしれないと思って、お知らせに来たのです」
変わった名前だ……「水玉」なのか「玉葱」なのか、どっちなんだ。
「水の中で成長している玉葱だという事です。水分が多いせいか日持ちはしませんが、甘くて美味しいらしいですね」
「へえ……まあ、この体の状態が良くなるのなら、死ぬほど不味くても食うけどな」
カムイと少年の実戦訓練が終了した。メイと少女の訓練も──と思ったが、こっちは少女が息を切らしている。メイが少女の攻撃を手にしていた木剣で悉く受け流すので、少女はかなりムキになって攻撃していたが、結局一撃を入れる事も出来ずにバテてしまったのだ。
だがどちらも攻撃にも守りにも、しっかりと意識がいっていて、そこそこの戦闘を積んだ様子が窺える。
「よし、休憩だ」
俺はそう声を掛けて立ち上がろうとしてふらついてしまい、メリッサに支えられてしまった。
「……すまん」
立ち眩みがして、そのまま椅子に座り込む。
少年と少女を呼んで、一応の合格を言い渡す。二人はとても喜んでいたが、まずは厳しい訓練を受けてもらって、良しと判断したら下級難度の転移門に冒険に行ってもらう、と説明した。
「正直、まだまだ戦い慣れていない感じだ。この旅団では誰も死なせたくないので、無理はさせないからそのつもりで、だが、死を恐れて仲間と連携も取れない様な臆病者も必要ない。その事は忘れるな」
そう言うと彼らは「はい!」と元気良く応える。
まずは二人に自己紹介をと求めると、少年が口を開いた。
「僕はニオ、こっちはフィアーネ。二人とも十五歳です」
よろしくお願いします、と頭を下げるフィアーネ。フィアーネはニオよりも筋力不足である感じだが、やる気は相当なものがありそうだ──赤毛の短髪に赤みを帯びた薄茶色の瞳。細身だが、身長は百七十センチ近くと恵まれている。
一方ニオは、身長百六十センチ半ばで、体格は良く、腕や肩の筋肉が発達している。灰色に近い銀髪を後方に掻き上げた様な髪型で、体格の割に大人しそうな顔つきだった。




