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片脚の無い男と膝枕と

 ぼんやりとした記憶の中で、誰かが俺に何かをしろと言っていた気がする……あれは夢だったようだ。レーチェの柔らかい太股を撫でながら現実を確かめる。


「ちょっ……! な、なにをしていますの⁉ そういった事まで、許可した覚えは無くってよ‼」

 真っ赤になって怒るレーチェ、俺はゆっくりと上体を起こしてぼうっとしている頭の中を整理するみたいに、長椅子に腰掛けて少し考え込む。


「な、なんですの急に──」

「いや、枕が良かったせいか、柔らかい太股に挟まれた夢を見ていたんだ」

「挟んでいません、断じて……!」

 いかん、からかい過ぎたかもしれん。

 レーチェの怒気が、圧力を持って俺を睨みつける。


 俺は逃げる様に立ち上がり、作業台の上に置かれた紙に、今回の失敗と成功の思いつく限りの理由を書き込んで行く。

「もう体調は良くなったのですか? 突然倒れたので、驚きましたわ」

「ああ、悪い──魔法使いや錬金鍛冶が起こす精神虚脱(「気を失うのより一段階危険な状態」といった意味の状態)を起こしたんだ。……悪かった。本当はこんな事になる前に、気づくはずなんだが──」


 言い訳をしても、素人の彼女には分からない事だろう。彼女に背を向けて記録を付けているとレーチェが言う。


「錬成代はそこに置いてありますわ。どうぞご確認を……それと、あなたのその右脚は……」

 机の上には膨らんだ皮袋が二つ置かれていた。どうやら銀貨を用意してくれたらしい、金貨では釣りに使う事ができないから、こちらの方が助かる。


「これか? 大分前に竜の子供に食いちぎら──おっと、俺も昔は冒険者だったが、竜の子供に脚を食いちぎられてな……」

「何故、言い直しましたの?」

「いいんだ、気にするな」

 俺は金額を確認しながら、油断が片脚を失う原因になった事を告白し、冒険先では予期せぬ事が起こる事を、肝に銘じるよう釘を刺す。


「そうですわね──注意致しますわ」

 折角の美脚が無くなったら、膝枕もしてもらえなくなるからな。と冗談で言ったのだが、彼女は真っ赤になって「もう膝は貸してはあげませんわ!」と怒られてしまう。


「いや──それにしても助かったわ、これで当分は、資金繰りに困らなくて済みそうだ」

「……変ですわね。あなたほどの実力があれば、この様なさびれた店でなくとも、もっとましな所に店を構えられたのではなくて?」

 レーチェが言うので、この店がついこの前まで爺さんの店だった事を話して、自分は裏方作業に徹していたと説明する。


「職人同士の気の使い方という訳ですの?」

「そんなんじゃない。俺は各地を歩き回ってその場、その場で仕事を受けて、鍛冶場を使わせてもらっていたから、その習慣が抜けてないだけだ。色々な錬金鍛冶師のやり方を見て学び、自分のやり方を見直したりして、やっとここまでけたんだがな」

 俺の話を聞いていたレーチェは「うんうん」と頷きながら、急に立ち上がってこう言った。


「それならあなた、私の立ち上げる旅団の専属鍛冶師になりなさい!」

 旅団の立ち上げ……その言葉に何か引っ掛かるものを感じたが。

「悪い申し出ではないな。考えておくよ」

 と軽く受け流したつもりだったが、彼女はそうは受け取らなかったらしい。


「絶対ですわよ⁉ その時にはお誘いに来ますわ!」

 彼女は張り切ってそう宣言し、大きなお尻を左右に振りながら、鍛冶場を出て行った──あの格好……流行はやるといいな(ごくり)。

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