登場、お嬢の冒険者
ユナの銀の腕輪を昇華錬成した俺は、しばらく燃え尽きていた。もちろん少女が去った後も数人の客が来て、錬成する武器や防具などを置いていったのだが、それに手を付ける事が出来ずにいた。
錬成には多少の魔力を消費するが(しないものもある)、それ以上に精神力を消耗するのだ。身体にのし掛かる倦怠感で、いつもはなんて事のない重さでしかない義足が、今はとてつもなく重い物に感じる──
幸いにも翌日は寂れた鍛冶屋を訪れる人間は居なかったようで、昨日預かった物を集中して錬成する事で、何とかいつも通りの仕事をこなす事が出来た。
しかし、これでいよいよ資金繰りがやばい事になるかもしれなかった、昨日の銀の腕輪に俺が付け足して使った「霊晶石」は、魔晶石と同等の価値がある物だったのだ。
だがもちろん後悔などしていない。あれだけの錬成を成功させる為には必要な事だからだ。
「うにゃぁ?」
鍛冶場の入り口に猫が現れた。どこぞの業突く張りな獣人猫娘ではない、本物の猫だ。
「よ──し、よしよしよし……」
俺がその場に屈み込むと、猫は鍛冶場の中へ入って来た。猫の喉を触ってやって可愛がってやると、喉を鳴らしながら気持ち良さそうにしている──やはり猫はいい。猫嫌いな人間? そんな者は居ない(断言)。
しばらくそうやって猫と戯れていると、身体の疲れが取れていく感じがする──動物磁気とかいう奴だろうか? 小動物の癒し効果は侮れないな……
「ごめんくださいな」
その時入り口から、やたらと高慢ちきな女の声が聞こえてきたのである。
俺は猫を抱いてやると、義足をよっこらしょと言いながら前へ進めて行き、入り口へ向かう。
「どんなご用で──」
「ちょっと、あなた!」
俺の顔を見るなり──というか猫の顔を見るなり女は叫んだ。
「止めてくださらない⁉ 私、猫の目が苦手なんですの!」
なん……だと?
俺は女の──(うぉ⁉ なんだこの女の格好は⁉)目の前に猫を差し出すと、女は「いひゃぁっ!」と変な悲鳴を上げる。
猫は女の嫌がっている姿を見て忍びなくなったのか、俺の手を振り払う様にして地面に飛び降りると、早足に去って行ってしまった。
「まったく……! 猫を私の顔に押し付けようとするなんて……!」
誰もそこまでやっとらんわ、と呟きながらこのエロい格好をした女を、足元から頭の天辺まで舐め回す様に観察してやる。
金髪の長い髪は緩やかに波打ち、薄紫色の瞳を縁取る睫毛は長くすっきりとした切れ長の目を美しく見せ、健康的な肌は艶やかで、口元はぷっくりとした淡い紅色がかった唇。
胸元を覆うぴっちりとした黒い衣服は、こんもりと二つの丘を作り上げていて──思わず握り潰してやりたくなる。
腰は細くくびれていて何とも艶めかしいが、その姿は股間から首まで、黒く薄い布でぴっちりと覆われているだけなのだ。一応上着を纏い肩からぶら下げてはいるが、前が開けており、後ろ姿は想像する限りでは黒い布地に覆われてはいるが、ほとんど形が露になっているはずだ。
(なんなんだこの痴女は⁉ いいぞ、もっとやれ!)
などと思いながら女を見ていると、女はさすがに前を隠すような仕草をして恥じらってみせる。
「な、なんですの……そんなにじっと見て」
「いや、見るだろう。そんなにエロい格好をしている女を見たら……」
俺の言葉に女は顔を真っ赤にすると、「し、失礼な!」と声を荒げる。
「これはエルニスに作らせた特注の防刃服ですのよ⁉ それをエ……エロいだなんて!」
いや、エロいから……と口に出掛けたが、彼女の後方で睨んでいる数名の侍女か、護衛らしい女共の視線を受けて止めておいた。
エルニスとは転移門を潜った先にある異世界の住人で、小さな身体の獣人族、といった印象の可愛らしい亜人種の事だ。彼女らは手先が器用で、様々な物を作る事が出来ると評判なのだ。
この中央都市にある転移門の一つから、彼女らの住む(なんと! エルニスには女性しか居ないらしい)世界へ行き来する事ができるようになって、ある程度物資の流通が行われるようになったのだ。
「この高級な衣服の価値が分からないだなんて」
お嬢様口調のその女はそう言うが、高級なエロい服にしか見えなかった。
ぴっちりと身体の線が出る衣服が無い訳ではないが──これは下着で街を歩くのと何が違うのだろうか? だがこれ以上は突っ込むのを止めておこう、とにかく目の前で美人がエロい格好を見せてくれると言うのだ。
これを「眼福」と言うのですね神様……
さすがの神も、この心の声を聴いたら「私が知るか」と総突っ込みを入れて下さるに違いない。
「それで、ご用件はなんでしょうか?」
俺はちらちらと女の肢体を観察しながら問い掛けた。
「うにゃぁ?」の前に書き忘れていた一文を追加しました。
直接書くとこういう事が起こるので注意しないとですね。申し訳無いです。




