認識と把握②
エレベーターの扉から、黒い何かが入ってこようとしている。
かすかにそれは濡れている。
「もしかして、か、髪の毛?」
もはや、自分の心臓の鼓動や感情を自制することは不可能になっていた。
依然としてコンパスと懐中電灯の調子はおかしい。
「確か聞いたことがある。幽霊のいる場所は特別な磁場があるって...もしかして、エレベーターやコンパスの異変も幽霊がでたからなのか...」
信じたくはなかった。でも、信じざぜるを得なかった。
「幽霊はいる。俺の目の前に。認識と把握をしてしまった...」
そんな俺の悟りを気にせず、幽霊はエレベーター内に入り込んで来ようとする。
ガタンガタンと揺れるエレベーター、パチパチと弾ける蛍光灯、ぐるぐると揺れるコンパス
もう頭はオーバーヒート寸前だ。
これは幻だ。夢だ。そう信じ込んで俺は体育座りになって目を閉じた。
1分ぐらいだろうか...
チーンという音と共に、ゆれも収まっていた。
目を開けるのが怖い。幽霊の番組ならこのタイミングで驚かせにくるからだ。
「でも、このままじゃ、ダメだ。俺は陰キャ。陰の者なんだ。闇は俺の庭だ!」
思い切って顔を上げた。
「い、いない。」
目の前には見たことのない空間が存在していた。
エレベーターがどこについたのか確認するために、エレベーターが現在どこの階にいるのかを示す電灯を見た。
俺は目を疑った。
「どうして、1階よりも左側が光っているんだ。普通は、数字のあるところしか光らないんだぞ。つまり、1階よりも右側しか光らないのに...」
俺は、戻りたくなって2階や3階のボタンを押したが何も反応がない。
どうやら、行くしかないみたいだ。
腹をくくった俺は、真っ暗な空間の中で、光らなくなった懐中電灯を片手に歩き始めた。
とてもここが院内だとは思えないぐらい陰鬱な雰囲気だ。
まるで廃病院のようだ。しばらくさ迷うかのように歩き続けた俺は、あることに気が付いた。
「ん?ある一点だけがスポットライトのように照らされている。」
自然と足が進む。
まるでそこが磁場かのように吸い込まれてしまう。
もう誰も止めることはできない。
もう好奇心は止められないのだ。
たどり着いた。
考えたくもなかった。
どうしてそれがここにあるんだ。
不気味な雰囲気の空間にポツリと置かれている。
それは...
「井戸だ。」
明日も21時に更新します。




