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井戸  作者: 佐分利
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認識と把握①

病院の噂を知ってから、早くも3か月が経った。

あれほど暑かった毎日も、心なしか肌寒いような気がした。

そんな季節の変化が俺は大好きだ。

日常が変化してこそ、俺は生きていると感じることができるからだ。


しかし、気候とは反比例するように俺の病院での仕事は何の変化もしないつまらない毎日だ。

「こんなことなら、いっそ幽霊が出てくれた方がよっぽどましだ。」



脳裏に3か月前の出来事が蘇る。

「そうだ。そうだ。噂の件は忘れるようにしたんだった。そもそも幽霊はいないんだ。」


そもそも俺は陰キャなんだ。

陰キャは静かに生きるのだ。

光に集まるもののところには決して近づかず、影のできるところに集まるものと過ごす。

残念なことにこの江後病院の影は俺だけみたいだけど...


変化のない毎日になると時間がたつのもあっという間だ。


もう夕方だなんて、いつもなら帰る時間だが、今日は当直の日だから、明日の朝まで病院で過ごさなくちゃいけない。


俺は、夜の病院をパトロールするのは嫌いではない。

むしろ好きだ。誰もいない真っ暗闇で、懐中電灯を片手に歩く俺、なんか探検隊みたいだし!!


「じゃあ、漢御さん!あとはお願いね。」

ナース長がご機嫌にそういった。やけにオシャレをしていやがる。

「あ、はい。わかりました。(こいつ合コンだな。明日は、荒れるな。)」


さて、いまから、俺の当直時の楽しみ方を伝授しよう。

◎当直の楽しみ方

用意するもの:コーラ・ポテトチップス・漫画・コンパス・懐中電灯

①コーラとポテチと漫画をコンビニで買いましょう。

②貪りましょう。

③コンパスと懐中電灯を持って探検に行きましょう。

(注意)ナースコールの存在は忘れずに!!


さぁ、今宵も宴と探検を楽しもう。



宴を始めてからどれぐらい時間がたったのだろう。

もう、コーラもポテチも中身は空っぽだ。

そして、時計の針も空を指していた。


新しい一日が始まる。探検にはもってこいの時間帯だ。


俺は、コンパスと懐中電灯を手にして、ナースステーションを離れた。


響き渡るのは、コツン.コツンという俺の足音だけだ。

この静けさと暗闇に目が慣れてだんだんと周りが見えてくるのがたまらない。

懐中電灯使ってるんだけどね。


今日は探検したことのない場所に行ってみよう。

そのためにも、まずはエレベーターに乗らないとね。

個人的な悩みなんだけど、たまにエレベーターとエスカレーターがわからなくなるよね。

そんなことを言いながら俺は、エレベーターのボタンを電気屋さんにあるパソコンでハッキングごっこをするかのように押しまくった。


「OK complete!!とまぁ冗談は置いといていったい、どこに止まるんだろう。」


ワクワクしながら、エレベーターがどこに動くのか予想している自分がいた。

「あ、そうだ。こういう時はコンパスに聞いてみよう!」

チラっとコンパスを見るが、コンパスは北を指し続けていた。



だめだと思い、ため息をついたその瞬間だった。


ガタンとエレベーターが大きく揺れた。

何かがおかしい。いつもと違う。

さっきまで元気についていた懐中電灯も点滅しだした。

北を頑なに指し続けていたコンパスもグルグルと円を描いている。


揺れ続けるエレベーターの中で、俺は江後病院の井戸伝説の話を思い出した。


「まさか...幽霊の仕業なのか...」





明日も21時に更新します。


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