2枚のカルテ
特大の花火が上がる、鼻につんと来る煙の匂い、そして花火が弾ける音とカップルたちの歓声が聞こえる。今年も夏が来た。
夏が来た時の人の気持ちは二種類に分かれる。
1つ目は、「ウェイウェイウェイ」と大声で叫びたくなるぐらい夏を楽しみにしている人たちだ。
2つ目は、夏はパリピの庭だとして軽蔑している陰キャたちだ。
結論から言うと俺は、後者の部類だ。どうしてかって...
『プルルルルルルル!!!』
「~さん!」
「~さん!!」
「漢御さん!!!」
「は、はい!」
「あなたいつまでナースステーションで寝ているのよ。こんなに忙しいのに、暑いのはあなただけじゃないのよ。」
あまりの忙しさに、漢御太郎こと俺は夏が嫌いにも関わらず、夏のことを思い浮かべてしまったらしい。
俺の勤務する江後病院は夏が繁忙期です。おまけに暑いときたもんだ。こんなに暑いなら、夏の定番の怖い話でもして涼しくしてほしいところだ。
「ちょっと漢御さん。このカルテを保管室に直してきてくれない?」
いつもなら絶対に断っているけれど、こんなに忙しいなら、保管室に行ってサボってしまえばいいのだ。
「あ、はい。わかりました。」
この江後病院は、日本でも10本の指に入るほど、有名な病院で、とても広い。
「えーっと確か、ここが保管室だっけな。今年はいったばかりだから、まだ病院の構造がよくわからないんだよな。」
新人の癖に、ナースステーションで寝るなんて、態度がデカいだとか思われるかもしれないけど、サボるのは新人の特権だと思う。だって何年も働いている人は、この病院に首輪をつけられた飼い犬のようなものだ、でも俺はまだ首輪をつけられていない。だからサボってもいいんだ。
そんなことを考えている間に、もう15分も経っている。流石にそろそろ戻らないと怒られてしまう。
「急がないと...」
ゴソゴソ...ゴソゴソ...
この音で、なにか変なことを想像した童貞ども、残念!これは物を探している音だ。
ちなみに俺は想像した。
ドタバタドタバタドーン
あるあるだが、しょうもないことを考えている時に限って失敗してしまうものだ。
なんでこんなことを言うのかって?失敗したからだ。
まるでレンガの家のように、隙間なく詰め込まれたカルテのファイルたちが、
匠の手によって何ということでしょう。ぐちゃぐちゃです。
匠こと俺、漢御は床に大量のカルテをばらまいてしまった。
「あーもう最悪だ。適当でいいからさっさとなおさないと。」
必死に集めた。
カルテの日付や分類番号など何も確認せずにただ必死に集めた。
だからこそ、見つけてしまったのかもしれない...
「ん?なんだこれ?」
俺の手を止めたのは2枚のカルテだった。
2枚のカルテは顔も名前も一緒だった。ただ違うのは死因だった。
俺は疑問に感じて注意してカルテを見た。
「ん...珍保子玉太郎か変わった名前だな。
どうして片方は病死なのに、もう片方は事故死なんだ。」
心の奥底で、確認したいという好奇心が生まれたが、首を突っ込んではいけないような気がした。
「忘れよう。それにもう戻らなくちゃ。」
急ぎ足で、保管室をでて、ナースステーションへ駆け出す。
「みんなはこのことを知っているのだろうか。」
しかし、首輪のない野良犬には聞くすべもなかった。
そもそも陰キャの俺が女子に話しかけること自体が無理だ。




