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終焉世界に捧ぐマギアクロス! 〜異世界魔人英雄譚〜  作者: 緑川あそぶ
第1章 侵略されし世界
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第2話 銀髪の少女



「お、お前!? 何者だ!」


アンデッドの内の1体が銀髪の少女に向かって、吠えた。


「名乗っても、意味ないと思うわ」


少女はアンデッドの怒声に怯むことなく、冷淡に答えた。


「どうせあんた達、すぐに消えるから」


少女は、両手に携えた2つの銃をアンデッド達に向けて構え、銃弾を発射した。

銀色の弾丸が軌道を描きながら、アンデッド達に迫る。

アンデッド達はかろうじてそれを避け、少女から距離を取る。


「早くそこの茂みに隠れて! 弾に当たってしまうと危ないから」


少女はこちらに横顔を向け、詩朗達に警告する。

紅色の瞳が銀髪の間からチラリと覗かせた。


「わ、わかった!」


詩朗はベルを連れて、そそくさと茂みに隠れる。

何がなんだか分からないが、どうやら詩朗達の味方をしてくれるようだ。

それまで黙っていたベルが呟いた。


「アニー……! 来てくれたんだ」

「ベル、知っているのか?」

「うん。アニーとは友達なんだ。いつも孤児院に来て遊んでくれるの」

「そうなんだ。なら俺たちの味方か。でも、あの子一人で、アンデッド達の相手して大丈夫なのか?」

「それなら、大丈夫」


ベルは自信を持って、言い放った。


「アニーは、強いから」


詩朗は茂みの向こうで繰り広げられる、アニーとアンデッド達の戦いに視線を移した。

アニーの放った弾丸が、一体のアンデッドの右腕を吹き飛ばした。


「やった!」


詩朗は思わずガッツポーズをした。

だが、肘から先がなくなった右腕に黒い霞が瞬時に集まり、右腕を再生させた。


「ハッ!この程度で倒れると思っているのか!」


右腕を再生させたアンデッドは、アニーに向かって腕を振り上げる。

アニーは左に飛び退き、それを避けると無防備になったアンデッドの背中に銃口を向けた。

しかし、もう一体のアンデッドがアニーの背後から、ラリアットを仕掛ける。

それに気づいたアニーは飛び上がり、空中で後方バク転をしながら、地面に着地した。

すかざず、別のアンデッドが両腕による激しいラッシュを仕掛けてくる。

それをバックステップで避ける、アニー。

アンデッド達は、続けざまに攻撃を繰り出すことで、アニーに反撃のチャンスを与えず仕留める気だ。

防戦一方。

このままでは体力をいたずらに浪費し続けるだけだ。

アニーを後方に大きく飛び退き、距離をとった。

そして、弾丸を2発放った。


「ハッ!そんななまくら玉が当たるかよ!」


アニーから見て、右側のアンデッドが吠えた。

アニーの放った銃弾はそのまま狙いを外れ、闇へと消えていく──はずだった。

突如、弾丸の軌道が逸れ、先程、口走ったアンデッドのこめかみに命中した。

そのまま頭部を撃ち砕き、頭を失ったアンデッドは前のめりに倒れ、やがて黒い霞となり、消えた。

アニー は弾を発射する際、2発目の弾をわざと射線を少しずらして発射した。

そうすることで、1発目の銃弾があらぬ方向へ行くと見せかけて、敵の油断を誘う。

そこに、2発目の弾が1発目の弾をビリヤードの玉のように弾き、弾の軌道を逸らしたのだ。

常人には真似できない、彼女の得意技だった。

アンデッド達も、頭部に攻撃をくらえば再生することはできないようだ。

残るは後一体。

残りの一体は叶わないと悟ったのか、背中を向けて逃げ出した。

しかし、飛び道具を持った相手に背中を見せるなど、愚の骨頂。

アニーは無防備な頭部に狙いを定めると、弾を発射した。

空気を切り裂く音が響きわたり、逃げるアンデッドの後頭部に命中した。

これでアンデッド達は全滅した。

それもたった一人の少女によって。


「す、すげぇ……」


詩朗は目の前で繰り広げられた光景に、思わず感嘆の声を漏らした。


「もう大丈夫よ」


アニーがこちらを振り向いた。

ツーサイドアップに纏めた銀髪が、はらりと舞った。

見た目は詩朗と年齢が近そうだったが、その表情はどこか近寄りがたい雰囲気を纏っていた。

黒くゴシック調の服を纏い、腰にはホルスターと鈍色の金属で作られたようなマッチ箱サイズの小箱が付いていた。

彼女は両手に持っていた銃を腰のホルスターに収めた。

銃といっても、詩朗の知る一般的な銃とは若干形が違っていたが。

白銀の色をした銃身は、リボルバー式の銃に近いものの、肝心の弾を装填するシリンダー部分には、何やら鈍い銀色をした液体が満たされていた。

銃には詳しくない詩朗でも、どうやって弾を発射するのだろうと疑問に思う。

そんな詩朗の疑問も、ベルの「アニー!」という安堵した声にかき消された。

ベルは、茂みから飛び出し駆け出すと、勢いよくアニーに抱きついた。


「良かった……!来てくれたんだね。アニー」

「無事だったのね、ベル。もう、心配したのよ?孤児院の先生に子供たちがいつまでも帰ってこないって連絡があったから、探しに来たらアンデッドに追われているなんて……」


ベルはアニーに抱きついたまま、友人に再開した安堵感からか声を漏らしてすすり泣いていた。

そんな彼女の頭を、アニーは優しく撫でる。


「ところで、ベルと一緒にいるこの人は誰?」


ベルに抱きつかれまま、アニーは詩朗を睨みつけた。


「ま、待って! 怪しい者じゃありません」

「そうだよ。私がアンデッドに襲われている時に彼──詩朗が助けてくれたんだよ」

「あの人が、ベルを? 」

「たまたまうまくいったんだ。たまたまね」


詩朗は少し照れくさそうに笑う。

ベルの話を聞いてひとまず警戒心が解けたのか、アニーは表情を緩め、詩朗に挨拶する。


「警戒してごめんなさい。あ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はアニー・アルジェンタール。この森の近くにあるリンボシティの騎士団に所属していて、ベルの事はよく面倒を見ているわ」

「あ、自分は有木 詩朗って言います。さっきは助けてくれてありがとうございます」

「当然の事をしたまでよ。こちらこそベルを助けてくれた事に感謝するわ」


そう言って、アニーは詩朗に右手を差しだした。

どうやら握手のようだ。

詩朗は女性の手を触るのに少し意識をしたが、応じないのは彼女に失礼だと思い、差しだされた手を握る。


(同年代くらいの女の子の手、初めて触った……。体温以上にあったかく感じる……)


たかだか握手くらいで、意識してしまうなんてどれだけ女性経験ないんだ、我ながら情けないと自嘲する。

握手を解くと、アニーは詩朗の素性を知ろうと質問した。


「聞きたいのだけれど、あなたはどうしてこの森に居たの? この辺りではあまり見かけない顔だし」

「うーん、それが自分でもよく分からなくって……。気づいたらここに居たんだ。」

「よく覚えてないんだって。私と同じように記憶がないみたいなの」

「記憶がないと言っても、自分の生まれとか名前は覚えているんだ。なぜここにいるのか、それだけが抜け落ちたように覚えていないんだ」


アニーは顎に右手を当てて考えると、口を開いた。


「わかったわ。今はベルと一緒にいた子供達も探さなくてはいけないから、後でゆっくり話は聞くわ。何か悪さを企てる人には見えないし」

「そういうことは、ビビってできない質だから、安心してほしい」

「そう。じゃあ、次はベルの番よ。他に一緒にいた子供達はどこにいるの?ベル以外に5人いたって聞いているけど」

「私達は雨が降って来たから、ほら穴で雨宿りをしていたの。そこにアンデッドがいてみんな襲われて……。私だけが隙をついて逃げてきたけど、他のみんなはまだアンデッドに捕まっていると思うの。早く助けないとみんなが……!」

ベルは瞳を滲ませながら、声を震わせて言った。

無理も無い。

今もアンデッド達に友人達が捕まっている状況なのだ。

一刻でも早く助かってほしいはずだ。


「大丈夫。必ずみんなは助け出すから。

でも、その前に騎士団のみんなと合流してからじゃないと。もし、セカンドがいたら私ひとりでは倒せない」

「セカンドって?」


詩朗は疑問を口にした。

それに対し髪をかき上げながら、アニーは答えた。

「アンデッドには強さによって、ファースト、セカンド、サードって言う3つのクラスに分かれているの。さっき私が戦ったのが、ファースト。みんな似たような見た目で単体だと大したことはないけど、一番数が多いの」

「あれでも大したことないのか。俺には十分脅威だったけど」

「まぁ、単純に力も強いし、再生能力もあるから危険なことには変わりないわ。それでも会話はできるけど知能はあまり高くないし、頭を潰せば再生できずに消えるから、きちんとした対抗手段があれば大した敵ではないわ」


彼女はひとしきり答えた後、少しだけ顔を曇らせて再び語り始める。


「……厄介なのがセカンドからね。セカンドはファーストが多くの人間を喰らった時に進化した形態だと言われてるの。知能も戦闘力もファーストを上回り、さらに個体ごとに特殊な能力を備えていてるの。見た目もそれぞれ違って……なんか奇抜」

「そのセカンドってのは、そんなに強いのか?」

「少なくとも私一人では勝てないわ。三人がかりでやっと仕留められる程の強さね。さらに言うと、セカンドは手下としてファーストを率いている場合が多いの。サードに関しては……、私は見た事がないから、詳しくは知らないけど、セカンド以上の力を持っていて、単独行動を好むらしいわ」


その言葉を聞いて、先程のアンデッドが言った事を思い出す。


「そう言えば、さっきの内の一体がなんか言ってたな。頭に怒られるだのどうこうって……」

「うん。私も聞いた」


詩朗の発言に、ベルも同調する。


「もしかすると、その頭ってのは、セカンドの可能性があるわ。サードは群れだって行動しないみたいだし」

「これからどうするんだ?」

「まずは他の自警団のメンバーと合流する。

そこで事情を説明して、他のメンバーと共に子ども達の救出に向かうわ。ベル、そのほら穴の場所は分かる?」

「うん、分かるよ。私が道案内する」

「助かるわ。でも、大丈夫? アンデッドから逃げてきたんでしょ。少し休んだ方がいいと思うけど」

「大丈夫。みんなを助けるためだから」


ベルはそう言うと、微笑む。

だが、やはり疲れがあるからかその表情はどこか力がなく、倒れてしまいそうだ。

自分も疲労が溜まっているのに、友達思いで強い子だなと詩朗は純粋に思った。

アニーは一瞬、迷ったが最終的にベルの意思を尊重して、口を開いた。


「……わかった。でも無理はしないでね。あなたが、そこまで責任を感じる必要はないからね」

「うん。心配してくれてありがとう」


アニーの言葉に再び微笑みながら、返事をするベル。

その顔は先程よりも、少しだけ気力が満ちているように見えた。

2人はそれほどお互いを信頼しているのだろう。

詩朗はそんな2人を見つめながら、「なんかいいな」と思った。

自分よりも年下の子が、頑張ろうとしているのだ。

自分にも何か役割がないか、アニーに声をかける。


「アニー、何か俺もする事はないか?」

「うーん。気持ちは嬉しいけど、あなたの事よく知らないし……。あなたの事は後でゆっくり話を聞くから、騎士団のメンバーに保護してもらわ」

「ま、まぁ。そうだよな……」


無理もない。

アニーからしたら、素性もよく分からない上に戦闘力もなさそうな人間だ。

そんな人間が協力を申し入れても、断るしかないだろう。

自らの身の程をわきまえて、詩朗は大人しく引き下がった。

本当は詩朗自身も何かしてあげたかったが、彼自身特別力があるわけでも、頭がいいわけでもない。

ならば、下手に出しゃばっても彼女たちに迷惑をかけるだけだ。

────自分にできることなど何ひとつありはしないのだから。


「……じゃあ、もうそろそろ騎士団と合流しましょ。時間を無駄にはしたくないし」

「合流といっても、この森の中探し回るのか?何か連絡手段とかないのか?」

「その心配はないわ。こちらの居場所を教えてあげればいいだけ」


アニーはそう言い、右腰のホルスターから銃を引き抜くと 銃の液体で満たされたシリンダー部分をはずした。

そして、それをホルスターと同様に腰にぶら下がっている小さな金属製の小箱に近づけると、

小箱はオレンジ色に光った。

その瞬間、鈍い液体入ったシリンダーは、まるで小箱に吸い込まれるかのように姿をけした。


「えっ!? 消えた!?」


詩朗が驚いていると 、アニーは小箱をコツン、と小指で叩いた。すると、まばたたきをしてる間にオレンジ色の光を放つ小箱からシリンダーが出現した。

先程のシリンダーのように内部は液体で満たされているが、色は鮮やかな赤みがかかっている。

アニーは驚く詩朗を尻目に、取り出したシリンダーを銃に装填した。


「い、今のは……?」


詩朗が疑問を口にすると、アニーはコホン、と咳をたて饒舌に語りだした。


「あなたは記憶をなくしてるみたいだから簡単に説明すると、今のは空間魔法の一種で小さな異空間にものを収納することができるの。で、この箱には空間魔法の術式がかけられていて、

手の動きでものを出し入れできるようになっているの。で、何でこんなものが必要かと私が今手に持っている────〈ディペラート〉って名前なんだけれど、この液体の入った物体……〈アンプル〉って名前だけど、このアンプルををディペラートにセットするとそれに対応した魔法が発動できるの。ただアンプル一個につき、一つの魔法しか使えないから多くの魔法を使うにはそれだけ多くのアンプルが必要で……」

「はい。アニー、ストップ。ストーップ。詩朗が混乱しているよ?ほら、ぐるぐる目が回ってるよ」

「はっ! ごめんなさい。あまり人に自慢する機会がないから、つい……」

「ごめんね、詩朗。アニー、こういう魔道具が好きだから、魔道具について語りだすと性格変わっちゃうんだ」

「ベル……、そういう事はあまり言わなくていいの。あ、ちなみにこの小箱は〈ストレージャー〉って言うのよ」



アニーのマシンガントークから解放された詩朗は、アニーの説明を基に思考を纏める。

要するに、その小箱はテレビに出てくる未来から来た猫型ロボットが有する四次元ポケットめいた物だろう。

それで、アニーが手にしている銃────ディペラートはどうやらシリンダー部分に装填されたアンプルによって発動する魔法が違うそうだ。

そのアンプルを持ち運ぶするための道具があの小箱なのだろう。

詩朗はそう解釈した。


「まぁ、何となくはわかったよ。それで、どうやって仲間を呼ぶんだ?」

「これは、発動すると激しい光を放つの。主に目くらましや陽動に使ったり、上空に向けて放つことで仲間に居場所を知らせたりできるわ」


なんだか照明弾みたいな使い方だと思った。

そう思うと同時に、空間魔法だのアンデッドだのといった単語を聞くと、薄々感じていたがここは……詩朗のいた世界ではなさそうだ。

俗に言う異世界転移というヤツなのかもしれない。

まさかこんな経験を自分がするとは、思っていなかった。

異世界転移なら、転移させた人物がいても良さそうだが、あいにく全く覚えていない。

とりあえず、思考に耽るのは後回しだ。


「じゃあ、気を取り直して、今度こそ……」


アニーは閃光弾を放とうと、ディペラートの銃口を天に向ける。

詩朗とベルは唾を飲み込んで、それを見守り、アニーが引き金を引こうとした────その時。

アニーは突然振り向いた。


「ア、アニー、どうしたの?」


ベルが心配そうに声をかけた。

アニーの目つきが一気に冷たく鋭いものに変わる。

自分と同じくらい見た目の少女がこんな表情をするのかと詩朗を恐縮する。


「……向こうから、何か来る。」


アニーは表情を変えずに小さく呟いた。

やがて、気配の主たちが茂みから姿を現した。

────それは、豹の顔をした怪物が率いる彷徨えるアンデッド達の群れだった。












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