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終焉世界に捧ぐマギアクロス! 〜異世界魔人英雄譚〜  作者: 緑川あそぶ
第1章 侵略されし世界
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第15話 戦闘とイブツと襲来


「な、なんだぁ! この小僧、魔人になりやがった! 何者だ、てめぇ」


狼型のアンデッドは、今の詩朗の姿を見て、口をあんぐりと開けて驚いている。


「俺自身もよく分からない。倒させてもらう」


詩朗はすかさずアンデッドに向かって跳び蹴りをお見舞いする。

しかし、当たる直前に狼型アンデッドは水中に飛び込んだかの様に、地面を潜った。

どうやらこいつには地面を潜って移動できる能力を持っているらしい。

街に容易に忍び込めたのも、その能力のおかげだろう。


「詩朗、後ろ!」


ベルが叫んだ後、詩朗の背後から狼型アンデッドが地面から襲いかかってきた。

そのまま発達した鋭い歯で噛みつかれた、

しかし、強固な鎧に阻まれて、噛み付いたはずのアンデッドの歯が逆に粉々になってしまった。


「ぐううっ!!」


詩朗と戦う事は諦め、アニー達を狙う事にしたようだ。

地面へとダイブし、移動を開始する。


「させない!」


詩朗は右腕を上に構えて、腕の周りに黒いドーナツ状の刃を発生させた。


(サークル)!」


詩朗は狼型アンデッドが潜ったであろう地面めがけて、黒い刃を投げつけた。

名前は────今、つけた。


ギュアアアアアア!!!!


空気を切り裂く猛烈な音を轟かせ地面へと潜り込み、地中の狼型アンデッドに命中した。

土の中から黒い血が噴き出し、狼型アンデッドがたまらず地中から飛び出す。


「いっでぇえええ!!!」


アニーはすかさず追撃を仕掛ける。


「粘着弾!」


狼型アンデッドに次々と着弾し、粘着性のある泥が動きを拘束していく。


「詩朗! 鎖でこいつを縛り上げて! 逃げられないように、とどめはささないで」

「わかった (チェイン)!」


詩朗は右腕を長い鎖へと変化させ、狼型アンデッドの身体を縛り上げる。

鎖で雁字搦め(がんじがらめ)にされたアンデッドは、喚き散らかす。


「ちくしょう! 聞いてねぇぞ、魔人が人間の味方しているなんて。何モンだ、てめぇ!」

「こっちも知りたいんだけど……。アニー、こいつはどうするんだ」

「決まっているわ。こいつから聞き出すのよ。こいつらが何をしようとしているか」


アニーがベルの方をちらりと見て、警告する。


「ベル、ちょっと物影に行ってて。ベルには見せられないから」

「う、うん」


アニーの言葉で何となく察したのか、ベルはそそくさと少し離れた建物の影へ移動した。

ベルが離れたのを確認すると、アニーはいきなりディペラートをぶっ放した。

突然の事にびっくりする詩朗。


至近距離で受けた狼型アンデッドの頭部が3分の1ほど吹き飛び、狼型アンデッドはたまらず泣き叫んだ。

いくら再生能力の高いアンデッドと言えども、痛覚まで無くなったわけではない。


「ぐおおおお……、て、てめ、何をしやがる」

「何って、当然の報いでしょ。あんた達が今までしてきた事に比べれば、これでも足りないくらいだと思うけど」

「はぁ? 人間如きが舐めた口を……」


すかさずアニーが弾丸を口に向かって撃ちはなつ。

せっかく再生しかけていた顔も、顎から下が無くなってしまった。


「無駄口をたたいてる暇は無いわよ。あんたが口に出して良いのは、私の質問に対する返答のみ。それじゃあ、まず一つ目、この街に侵入するように指示したのは誰? なんとなく察しはつくけど」

「ぐ……、お……。あ、あのお方、ユ、ユニコール様だ! 」


狼型アンデッドは再生途中のろれつの回らない舌で、何とか声に出した。

アニーは冷淡に言い放つ。


「ユニコール、やっぱり憤怒の魔人の差し金ね。 じゃあ、2つ目。あんたはどうしてベルを狙ってきたの? あんた達が言う『輝きの子』って一体何なの?」

「ぐ……、お、俺も詳しくは知らねぇ!」

「そう。なら、このディペラートの威力をたっぷりと味わってもらうしかないわね」


アニーが冷徹に引き金を引こうとする。

狼型アンデッドは慌てて静止さえようとする。


「本当だ! 俺は何も聞いてねぇ。あのガキを連れてくるよう言われただけだ。まだ何もしてねぇ」


アニーがピクリと眉をひそめる。

全身が小刻みに震え、言葉では出さないが彼女の怒りようが伝わってきた。


()()()()()()ですって……! あんたはそうなるまで、セカンドになるまで、どれだけの人間を喰ってきたと思っているの!」


彼女の怒りはもっともだった。

アンデッドは人を多く喰らう事で、ファースト、セカンド、サードと段々と力を増していく。

目の前のアンデッドはセカンド(クラス)

その見た目だけで、かなり数の人間を喰ってきた事が分かる。

何もしていないわけではないのだ。


「それがどうした! お前らは俺たちに喰われるためにあるんだろうが、この雌豚が! てめぇがこうして粋がっていられるのも隣にいる魔人のおかげじゃないのか! 何の力もない癖に! とっとはなし────」


アニーは自分の中で、何かが切れるのを感じた。

最後まで言い切るのを待たず、アニーはディペラートの引き金を引き、弾丸を何発も撃ち込んだ。

何発も、何発も、まるで雨のように。


「どの口が! 言っているのよ! あんた達さえ、あんた達さえいなければ!」



撃たれた続けた狼型アンデッドはまるで肉切れのようになっていた。

かまわず撃ち続ける。


首と胴体がかろうじて繋がっているだけだったが、それでもまだ死なない。

首と胴体を完全に切断しなければ、アンデッドは滅びるは事はない。

現にアニーに傷つけられた傷口が早くも修復を始めていた。

やがて、撃ち終わるとアニーはぜぇぜぇと肩で大きく息をしていた。


「あんた達さえ、いなければ……、母さんやベルの友達だって、みんな死なずにすんだのに……」


彼女は息も絶え絶えになりながらも呟く。


「自分に力がないなんて、私自身がよく知ってるわよ……!」


アニーは絞り出すように言葉を吐き出した。

それは紛れもない彼女の本心。

アンデッドに勇猛果敢に立ち向かう彼女も、やはり一人の少女なのだ。


「それでも、やれる事があるって、守れるものがあるって思うから、ここにいるの……! 私は魔法が使えないけど、できないからって何もしないままだったら、また大事なものを失ってしまう」


それは少女が背負うには、あまりにも重い決意だった。

化け物達と戦っていくなんて、相当の覚悟が必要なはずだ。

今まで黙っていた詩朗はいたたまれない気持ちになり、アニーの前に出る。


「もういい、もういいんだ、アニー。こいつは、俺がとどめを刺すよ。これ以上やっても無意味だ」


詩朗は腕の手首から鉤爪を出現させると、狼型アンデッドは狼狽えた。


「や、やめろ! お前、魔人の癖に人間の味方をするのか!」

「悪いけど、俺はお前達の味方じゃないよ」

「やめろ、やめてくれ!」

「やめない。お前を倒すにの躊躇はない」


詩朗はゆっくりと近づいていく。

狼型はたまらず叫んだ。


「分かった! 話す! 〈イブツ〉だ! 〈イブツ〉の事なら知っている!」

「詩朗、待って! こいつはまだ殺しちゃダメよ」


詩朗は動きを止めたのを確認すると、狼型アンデッドは勢いよく話し出した。


「お前らは不思議に思っていないか? なぜユニコール様が今まで、積極的に襲わなかったと思う? それは、お前達がユニコール様に生かされているからだよ」

「生かされている……? どういう意味よ!」


言葉の意味が分からず、アニーは叫ぶ。


「俺たち、アンデッドは〈イブツ〉によって、生み出された。俺たちが人間どもを喰らうのは腹が減ってからじゃあない。喰らった人間の激しい情動────、恐怖、苦しみ、悲しみなどの感情を〈イブツ〉に還元するためだ。そうやって還元された情動を糧に〈イブツ〉は育つ。そして育った〈イブツ〉はより多くのアンデッドを生み出すというわけさ」


あまりの事実に言葉の出ない詩朗とアニー。

狼型アンデッドは構わず話し続ける。


「だが、ところ構わず食いまくればいいってわけでもないのが難しいところだ。〈イブツ〉は量よりも質を好む。より恐怖や苦しみを育てるには時間が必要になる。いつ死ぬのか分からない恐怖、脅威がすぐ側にあるのに何もできない苦しみ……、時間をかけて増した情動を喰らうことで俺たちはより強くなり、〈イブツ〉はより育つ!」

「何よ、それ。私達を家畜扱いしてるっていうわけ!?」

「家畜だろうが! だが、それも終わりに近い。何故なら〈イブツ〉は十分に育ちきった。

まぁ、それと『輝きの子』がどう関係するのかは知らんが」


狼型アンデッドが勝ち誇ったように、気味の悪い笑顔を浮かべた。

その時、詩朗の頰をそよ風が掠めた。


(何だ……? この感覚)


普通なら気にも留めないはずだが、何故だが詩朗は嫌な予感がした。

その時、建物の影からベルが飛び出して叫んだ。


「詩朗、アニー! そこから逃げて!」


ベルの声を聞いた瞬間、詩朗は反射的にアニーを抱えて飛び退いた。


ゴオオオオオオ!!!!!


先ほどまで詩朗とアニーがいた場所に突如、巨大な竜巻が上空から降り注いだ。

竜巻が狼型アンデッドの身体をミキサーにかけた様に、ズタズタに引き裂いていく。


「ぎゃあああああ……!!」


断末魔の叫びは竜巻が引き起こす轟音によってかき消されていく。

やがて、竜巻が止むと、狼型アンデッドは塵となって消え失せていた。

危なかった。

ベルの声がなければ、巻き込まれていた。


「お喋りがすぎるぞ……、オルト。何のために貴様を遣わせたと思っている。イラつかせる奴だ」


上から声が聞こえ、声のする方向に顔を向けた。

すると、城壁の上に何者かが立っていた。

その姿を見た瞬間、アニーの顔が絶望に染まる。


「う、嘘。どうして……?」


声の主は一角獣を模した兜、馬の蹄を模した足に全身を輝く黄金の鎧を纏っていた。

その者は詩朗を一瞥した。


「ほう……、お前が虚飾の魔人か。初めて見るな」

「まさか、お前が……!」

「まずは名を名乗らせてもらおうか。憤怒の魔人ユニコール。貴様らは俺をイラつかせるなよ?」


────それが、詩朗が自分以外で初めて対面した魔人の名だった。




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