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ブクマ、評価ありがとうございます。完了までお付き合いしてもらえると嬉しいです。



 照明魔道具でほの暗く照らされた廊下をゆったりとした歩調で会場となる大広間に向かう。テオドールは普段の外出時よりもゆったりと歩いていた。マリーベルが夜会用の華奢な靴を履いているからでもあるが、緊張をしている彼女に落ち着く時間をつくるためでもあった。左腕にあるマリーベルの手がぎゅっと握りしめられているのに気が付くと、優しく撫でる。


「大丈夫。私がずっと側にいるよ」


 テオドールがそう囁けば、彼女は顔を上げ、ぎこちない笑みを浮かべる。


「テオドール様、ひどい。いきなり王弟殿下の夜会に連れてくるなんて……」


 そう言わるのは覚悟していたのか、テオドールは苦笑いする。


「先に告げて断れるのは嫌だったから」

「う、否定できない」


 マリーベルは情けない顔をする。王宮内にある王弟の離宮での夜会だと聞いていたら、そもそもドレスを受け取らなかったかもしれないと彼女自身思っていた。それに、過保護なエリックがなんだかんだと理由をつけていかせないようにしそうだ。


「いつ来たって緊張するんだ。大丈夫だよ。夜会の方が挨拶だけで済むだろうから気が楽だ」

「そうかもしれないけど……」


 テオドールは足を止めて真正面から彼女を見下ろした。少し不安に揺れる彼女の瞳を見つめ、優しく笑いかけた。


「顔を上げて、笑って」

「バカっぽく見えない?」

「大丈夫。君以上に奇麗な人はいないよ」

「嘘ばっかり」


 ちょっとむくれながらも、テオドールの言う通りに背筋を伸ばし、奇麗に笑って見せる。満足げにその顔を見て、そっと耳元にキスをした。驚きと恥ずかしさに、彼女の頬にぱっと朱が散る。


「じゃあ、行こうか」

 

 テオドールはマリーベルをエスコートして会場となっている大広間に入っていった。


***


 大広間は人が沢山いて、煌びやかだった。艶やかに着飾った夫人たちと令嬢たち、それとエスコートしている男性。皆、とても自信に満ち溢れており、空気が活気づいていた。それぞれが談笑していたが、二人がそろって大広間に入ると、しんと静かになる。

 注目される中、テオドールは気にせず、マリーベルをエスコートした。マリーベルは最初は硬直しているようにも見えたが、すぐに笑顔でテオドールを見つめてきた。


「うふふ、こんなに注目されてお姫さまになった気分よ」

「間違いなく今夜のお姫さまは君だよ」


 そんなことを話しながら、主催者であるテオドールの両親の元へ向かう。テオドールは両親の姿を見つけるとニヤリと笑った。


「本当に連れてきた」


 呆れながらも、満面の笑みで迎えたのがテオドールの父であるレイフ・リンゼイ大公だ。テオドールによく似ていて、マリーベルは驚いた。このまま年を重ねれば彼のようになるのだろうと思えるほど似ているのだ。


「レイフ・リンゼイだ。ようこそ、我が夜会へ」

「お招きありがとうございます。マリーベル・リールと申します」


 テオドールに預けていた手を外すと、一歩片足を後ろに引き、膝を折って優雅に跪礼した。ふわりとドレスの裾が床に広がる。美しい跪礼にリンゼイ大公は目を細めた。


「頭を上げてくれないか。未来の娘に畏まられるのは寂しいからな」

「ありがとうございます」


 すっと膝を戻し、姿勢を正すと、リンゼイ大公のすぐ横にいた大公夫人であるヴィオレッタはマリーベルに手を差し出した。


「ヴィオレッタよ。さあ、こちらにいらっしゃい。皆様に紹介するわ」

「母上、結構です。見世物にするつもりはありませんから」


 母親から隠すようにテオドールはマリーベルの腰を抱いた。ヴィオレッタはくすくすと笑う。


「嫌ね、年を取ってから初恋なんてすると独占欲がすごくて」

「私の事は放っておいてください」


 母親に揶揄われて、テオドールはむっつりとする。マリーベルはつい親子の会話に笑みを零した。


「せめてダンスくらいは踊ってね」

「わかりました。ダンスが終わったら、帰ります」


 テオドールがそっけなく言い放つと、リンゼイ大公が愉快そうに声を上げて笑う。


「つれない息子だ」

「本当ね」


 そんな会話を聞きながらも、テオドールは強引に挨拶してダンスホールへとマリーベルを連れ出した。


「よかったの?もっといて欲しかったみたい」

「いいんだ。母上のあいさつ回りについて行ったらいつになっても終わらない」


 テオドールにリードされてダンスを踊りながら、そんなことを小声で会話をする。そして、テオドールは見せつけるようにダンスホールをくるくる回った。先ほどのリンゼイ大公が言った未来の娘という言葉が効いているのか、品定めするような視線が多い。男性よりも女性の方が穏やかじゃない視線を感じる。

 やだな、と反射的に思うも、これからもっとこういうことがあるのだろうと気にしないことにした。


「ダンス、とても上手だ」

「ありがとう。ダンスの練習はお兄さま方も伯父さまたちも沢山つき合ってくれたから」


 褒められて、嬉しそうにマリーベルは笑った。マリーベルもテオドールとは相性の良さを感じていた。ユリウスもジェラルドもとてもリードが上手だが、テオドールはどこかしっくりくるのだ。上手、下手とかいうのではなく……馴染んでいるような、そんな感じ。

 マリーベルはそこまで思って首を傾げた。


「どうかした?」

「いえ。テオドール様とのダンスは初めてなのに……とても踊りやすくて」

「そうだね。私もそう思うよ」

「不思議。初めてではないみたい」


 そう、初めてではないような。

 不思議な感覚だ。


「相性がいいんだよ」

「ダンスで?」

「きっとこれから沢山あるよ」


 どこか嬉しそうに笑うテオドールにマリーベルも嬉しくなった。一曲だけ、と言っていたが結局二人は3曲踊ってから大広間を後にした。



******



 夜会に二人で出てから、ひっきりなしに夜会の招待状が届くようになった。マリーベルは招待状をテオドールと一緒に広げながらため息をつく。


「こんなに沢山」

「断りの返事を書くのも面倒だな」


 テオドールもうんざりといった感じだが、書くのはマリーベルだ。丁寧に断りの文面を書いていく。最近は雑務が多くて、魔法陣については手が付けられていない。それも気になっていて、マリーベルは返事の書き終わっていない招待状に憂鬱になっていった。


「どうかした?」

「いえ、全然仕事ができないと思って」


 仕事、と聞いてテオドールが笑みを浮かべた。そして宥めるように優しく頭を撫でた。


「結婚して落ち着いてからでも十分だ。時間はたっぷりある」

「でも」

「私には領地がないからな。領地経営の代わりに魔法陣の改良が一生の仕事になる。そうだろう、奥様?」


 茶化すように奥様と言われて、マリーベルの頬が赤くなった。


「もう」

「結婚、早くしたい」


 テオドールが撫でていた頭からするりと髪へと指を滑らせて弄ぶ。


「普通、一年くらいは婚約期間でしょう?」

「領地はないし、屋敷だってすでにある。後は改装くらいだからさほど時間はかからない」

「それでいいの?」


 王族の結婚自体がよくわかっていないマリーベルは首をちょっと傾げた。テオドールは真面目な顔をして頷いた。


「ああ。王位継承権もすでに放棄しているし、領地もない。商売をしているわけではないから、貴族への挨拶回りなんて、母について行けば終わりだ」

「そんな簡単に言って」


 簡単に済まそうとするテオドールに笑ってしまった。この調子だとあまり今までも貴族の付き合いというのをやってきてはいないのだろう。


「大公の三男は適当な方がいいんだ、色々とね」


 含みを持たせた言い方に、意外と難しい立場なのだと理解した。





ただのバカップル。

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