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ブクマ、評価、ありがとうございます!



「あはは、流石、エリック叔父上だね。マリーベルが絡むと途端におかしくなる」


 腹を抱えて笑っているのは、年の近い従兄の一人、ジェラルドだ。ネイサンの長男で、すでに魔法学校を卒業し、魔術師団に所属している。二十歳になる彼は学校卒業後、寮で暮らさず、ネイサンの屋敷から職場へ通っていた。ネイサンの屋敷で暮らすことになったマリーベルも顔を合わせることが多くなるのだが、こうしてゆっくりと話ができるのはこの家にきて初めてだった。

 ようやく時間の取れた従兄に王都に出てきたまでの経緯を説明すると大爆笑だ。マリーベルは不機嫌そうにむっと唇を尖らせた。


「笑い事じゃないわよ。あっさりと試験を受けるのを許可したから、おかしいとは思ってはいたのよ。まさか、王都に行く必要があることを考えていなかったなんてね」

「で、どうするんだ?叔父上は納得したの?」


 可笑しそうに笑いながらジェラルドが聞いてくる。マリーベルはため息をついて、テーブルにあるカップを手にした。ふわりと漂う紅茶の香りが気持ちを少しだけ軽くする。


「これって納得なのかな?二週間に一度、領地に帰る約束をしてこちらに出てきたわ」

「二週間に一度か。エリック叔父上が我慢ができる最大期間だな」

「楽しそうだね、ジェラルド、マリーベル」


 マリーエルが苦い顔をして紅茶を飲んでいると、のんびりとした声が扉から聞こえてくる。視線を向けると、仕事帰りなのか、騎士団の制服を着た従兄が立っていた。騎士団の制服がすらりとした背の高さとリール侯爵家の赤い髪に良く似合っている。茶色い瞳は少し足れ目で甘い空気を出しているのが、伯母のエレンによく似ていた。


「ユリウス兄さま」

「ユリウス、久しぶり」


 ジェラルドは軽く手を挙げて挨拶した。ジェラルドはネイサンの長男、ユリウスはカルロスの長男だ。ユリウスはジェラルドよりも5つ年上だが、従兄弟同士の二人はお互いの屋敷を行き来するほど仲が良かった。それに年の離れた従妹のマリーベルのこともよく面倒見てくれる優しいお兄さんだ。面倒見の良さと、穏やかな気質はカルロスから受け継いだものだろう。


「マリーベル、合格おめでとう。君が王都で暮らすなら、うちでもよかったのに」

「いやよ。新婚さんのお屋敷にはお邪魔したくないもの」

「気にしなくても、イザベラなら君をちゃんと可愛がってくれると思うよ?」


 くすくすと笑いながら、ユリウスはジェラルドの隣に腰を下ろした。侍女がすぐにお茶を用意する。


「イザベラ姉さまにはもう十分すぎるほど色々してもらっています」


 マリーベルはイザベラから贈られた大量の衣裳を思い出し、苦笑いをする。イザベラの趣味を全開にしたドレスはどれを選んでもセンスが良く、マリーベルによく似合う。よく似合うのだが、お茶会とかに参加しないマリーベルには正直、着ていくところがない。


「そう?ジェラルドに取られたと、大分悔しがっていたけど?」

「取られたって大袈裟な。でも、マリーベルはリール家の赤の髪に紫の瞳で人形みたいに可愛いから、そう言いたい気持ちはわかる」


 ジェラルドはマリーベルの従姉妹達、つまりユリウスの姉とジェラルドの姉に人形のように着せ替えをされていた小さいころを思い出し、笑う。マリーベルの母が小さい時に亡くなってしまってから、伯父や伯母たちだけでなく、従姉妹達も何かと構ってくれるのだ。その優しさにマリーベルは母がいないことの寂しさを感じたことがなかった。年の離れた可愛い小さな従妹、それが親族の中でのマリーベルの立ち位置だ。


「マリーベルはとても可愛いからね。よくあの叔父上が領地を出ることを許可したと思っていたが・・・」

「そもそも勘違いしていたんだよ、叔父上は」


 ジェラルドが笑ってそう補足する。ユリウスもおかしそうに笑いながら頷いた。


「今頃、我が領地の魔獣は一匹残らずいなくなっているだろうね」

「ううう、否定できないわ」


 エリックが八つ当たり気味に魔獣を蹂躙しているところが無理なく思い浮かぶ。後処理をしている部下たちが大変なことになっているだろう。ああ、冗談じゃないところが、辛い。


「今更、気にしても仕方がないさ。でも、気をつけるんだよ。万が一、君に男でも出来たら、流石に父上でも叔父上を止めることはできないだろうから」

「うっわー、王都の屋敷が壊れそうだ」


 ジェラルドが想像したのか、げっそりと顔色が悪い。


「そこはジェラルド兄さまの魔法で捕縛するなり、なんとかして欲しいわ」

「俺には無理だ。怒り狂った叔父上を止めるのは古龍種を相手にするようなものだ」

「・・・え、お父さまってそんなにすごい人?」


 マリーベルの呟きに、二人は目を見合わせ、ため息をついた。


「うん、気持ちはわかるけどね。マリーベルの前にいる叔父上は脳内お花畑で壊れているから」

「あれを親馬鹿だというんだろうね。・・・私はマリーベルの婚期が心配だよ」

「殺しても死ななそうな奴か叔父上を超える脳筋か、誰かいたかな?」

「それは・・・難しいね」


 勝手にマリーベルの結婚話を進めていく二人に、マリーベルは驚きに目を瞬く。


「え?ええ?恋愛結婚、ダメ?」

「駄目じゃないけど・・・その辺のつまらない男だと叔父上に張り倒されて逃げると思う」

「そうだね。せめて騎士団か魔術師団のエリートぐらいなら・・・」


 二人ともうーんと腕を組み、悩み始める。


「とにかく、好きな男ができたら俺かユリウスに相談しろ。平和的な解決方法を考えるから」

「間違っても叔父上に相談したら駄目だよ。私たちが捕まらないようなら、父上かネイサン叔父上に相談するんだよ」


 ジェラルドから告げられた言葉にただ頷くことしかできなかった。



******


 王都での生活に馴染むまで、さほど時間はかからなかった。小さい頃から優しく接してくれる伯父一家が一緒にいるため、領地とは違う環境でもあまり辛くはなかった。時折、領地にいるエリックが気になったが、手紙を送っているので良しとした。もちろん、二週に一回は領地にも帰っているので今のところ、上手くいっている。


 装飾写本師の見習いが所属する学校の研究室にも通いなれてきた。装飾写本師はあまり人気がなく、同期がいないことで初めの頃は緊張もしたが、年の離れた先輩はとても親切だった。

 装飾写本師のカルロ・ダーシーは伯爵家の当主であったが、とても穏やかなおじいちゃんだった。基本的なことはカルロの後継者でもある助手のソフィアが面倒を見てくれるのだが、時々後ろからマリーベルの写す魔法陣を見ては助言していく。その助言がとても的確で、ここ数週間で以前よりもよくなっていると自分でもわかるほどだ。

 今日も真剣に与えられた魔法陣を書き写していると、ソフィアに肩を叩かれた。彼女はマリーベルの席の向かいに座る。


「マリーベル、来週からテオドール様から教えてもらえるわよ」

「テオドール様?」


 マリーベルがソフィアから思わぬことを告げられて、首を傾げた。誰もが知っている人なのだろうか。


「あら、テオドール様を知らない?」

「すみません。わたし、学ぶために王都に出てきたばかりで」


 申し訳なく思って、肩をすぼめた。


「ああ、そうだったわね。テオドール様は王弟であるリンゼイ大公のご子息よ。跡取りではないから、魔術師団に所属していて魔法の研究をしているのよ」

「わたしみたいな身分の者でも教えてもらえるのですか?」

「テオドール様はあまり身分を気になさらないわ。どちらかというと、研究熱心というか……」


 ソフィアは言葉を濁した。その様子に、なんとなく変わった人なんだろうなと思った。


「何か注意することはありますか?」

「マリーベルは大丈夫だと思っているけど……色目を使わないでね?」

「はい?」


 色目と言われて、驚きのあまりに口が開いてしまった。あまりにも間抜け面をしていたのか、ソフィアは苦笑する。


「うん、やっぱり貴女は大丈夫だと思うわ。テオドール様はね、王族の方だけあってとても端正な顔立ちをしているのよ。しかも跡取りとかではないから、ちょっと頑張ればと思う女性が多いのよね。媚薬を仕込んだり、寝室に侵入したりと結構過激な女性に好かれやすくて」

「……もしかしてかなりの女性嫌い?」

「それなりに恋人はいるようだから、そこまではないとは思うのだけど」


 少し不安に思ったマリーベルは恐る恐る尋ねた。


「もし……もし、嫌われたりしたらどうなるんですか?」

「そうね。最悪はテオドール様しか知らない秘匿技術は教えてもらえないものだと諦めるしかないわね」

「教えてもらえなくても問題はないのですか?」

「まあ、そうね。大丈夫だと思うわ」


 侯爵家に連なるものとしてマナーを習っていたので大丈夫だと思うが、家に帰ったら伯母のクラリッサにもう一度確認しておこうと心に決めた。

 


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