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短編『ダンジョンマスターの助手』

 注意事項

・全てタイトルとあらすじ通り

・描写力を上げるために奮闘中

・ガバガバ人称

・どんな話の展開になるかは気分次第

・最終目標は満足できる連載小説を書く

 一歳にも満たない赤ちゃんがいたとする。


 その赤ちゃんは生まれた時に泣かなかった――。

 その赤ちゃんは一月もせず両足で歩いた――。

 その赤ちゃんは数ヶ月で言葉を操った――。

 その赤ちゃんは――。


 さて、こんな赤ちゃんがいたとすれば、誰もが思うだろう。異常であると。

 異常? 何故? 他の赤ちゃんとは違いすぎるから? 原理的にありえないから?

 しかしこれを、普通だと思っていた者がいた。私だ。一歳にも満たない、私自身はそれが普通だと思っていた。

 けれど、今はもう思っていない。


 その日は偶然ドアが開いていて、私は初めて外に出た。行き交う人々の中に、私と同じぐらいの子達は全員親に抱えられていた。話す素ぶりは一切見せず、何も考えていないかの様に何処かを見つめるだけ。

 座って休んでいる親子がいたので聞いてみた。


「何でその子は歩きもしないし、話もしないんですか?」


 質問を聞いた親は私を見るなりギョッとして、子供を抱えて逃げる様に何処かへ行ってしまった。

 その後も色々な親子に聞いてみるが、反応は似たり寄ったり。そして気付いた。私が異常なのだと。

 家に帰ると両親に叱られた。あれだけ家から出るなと言ったのに、変な噂が立ったらどうするのかと。


 それ以来、両親の私に対する接し方が変わった。いや、本当は初めからそうだったのかもしれない。こんな気味の悪い子は育てたくないと。

 そして噂も立ち始めた。あの家には悪魔が住んでいる。人間に化けた魔物が住んでいるなどなど。


 ある日の晩ご飯を食べた後、尋常ではない睡魔におそわれた。抗うすべはなく、私は眠りについた。



 ▼ △ ▼ △ ▼


 目が覚めると――そこはゴツゴツとした洞窟の中。

 壁や天井にアカリゴケが生えている御蔭か、そこまで暗いとは感じない。

 上体を起こして辺りを見渡すと、どうやら通路にいる事が分かった。

 察するに、これは……。


「捨てられちゃった」


 来るのは初めてだが、ここはダンジョンの中であろう。

 ダンジョンの中で死ねば、次第に吸収されて何も残らない。だから証拠も残らない。そんな話を親がしていたのを、こっそり聞いたことがある。


 私みたいな子供であれば、どんな魔物が来ようと殺されてしまうだろう。

 晩ご飯を食べて数時間は経っているだろうし、今は深夜かな。そんな時間に冒険者が迷宮探索をしているとは思えない。


「死んじゃうんだろうな」


 今まで魔物に襲われなかったのは運が良かっただけ。徘徊している魔物が、今も私に一歩ずつ近づいているだろう。どうせなら、痛みを感じないように寝ている時に死にたかった。

 むしろここまで捨てに来たなら、そのまま私を殺せばよかったのに。


 すると突然、辺りが白く光り出して魔方陣が現れた。それはとても複雑で、様々な記号や数字が目まぐるしく変わっていく。

 私を包み込む様に一層光が増し、その眩しさに思わず目を閉じた。

 そして眩しさが収まり、目を開けると――。


「まさか最終確認の最中に、赤ちゃんが捨てられるとはなぁ……」


 一人の男が立っていた。

 茶色い髪の頭をポリポリと掻いて、黒い瞳がこちらを真っ直ぐと見ている。

 辺りを見渡してみると白と黒を基調にした綺麗な部屋で、置かれている家具はどれも高級そうだ。


「つい回収しちゃったけど、どうしようかな」

「あの、ここは何処ですか?」

「え? 君、話せるのかい?」


 私が質問すると、男は大きく目を見開いてまじまじと見てくる。

 ああ、そうか。余りにも突然の出来事で忘れていたが、私の見た目は話すことすらできない赤ちゃんだった。


「はい。さっき貴方が言ったように、私は捨てられました。他の赤ちゃんより発達が大分早いみたいで、それが原因だと思います」

「そうだったのか」


 男は屈んで、私となるべく視線を合わせると。


「このままじゃ話にくいし、一旦ソファに座ろうか。抱っこしても大丈夫かい?」

「一人で歩けるので大丈夫です」


 そう言って立ち上がり、ソファの前までトコトコ歩いてから気付いた。

 ――高い。

 もっと背があれば何てことはないのだろうが、私では座るまでにソファをよじ登る必要がある。けれど体を持ち上げるほどの力もないし。


「……すいません。やっぱり抱っこして下さい」

「ふふっ、いいよ」


 最初から抱っこされておけば、こんなことにはならなかったのに。

 若干の恥ずかしさと後悔をしていると、男が私の脇に手を入れて持ち上げてくれる。

 そのままゆっくりとソファに下ろしてくれた。男は向かいのソファに座る。


「まずは自己紹介からしようか。僕の名前はルクスだ。君は?」

「私はノーラと言います」

「ノーラは捨てられたってことは、もう理解していると思ってもいいかな?」

「はい」

「因みに帰る当てはあるのかい?」

「ないですね……」


 その答えを聞いて、ルクスは暫く考え込んだ後。


「正直に言うと、僕は今回気まぐれみたいな感じで君を拾ったんだ。本当にただの赤ちゃんだったら、もう一度ダンジョンに戻そうかとでも思ったんだけど――」

「思ったんだけど?」

「これも何かの縁かもしれないし、ノーラと一緒なら良い事が起きそうな気がするんだよね。それに一人ってのも寂しいし。そこで提案だけど、僕の助手になってみないかい?」

「え? 助手ですか?」


 助手ってあの助手? 抱っこされないとソファにも座れない私が、ルクスの助手など果たして務まるのだろうか。

 ルクスの目は至って真剣で、嘘を言っているようには思えない。


「私みたいな赤ちゃんでも出来るのですか?」

「ああ。そう言えば、まだ君の質問に答えていなかったね。僕の職業はダンジョンマスター。ここはダンジョンとは隔離された、僕の部屋みたいな場所かな。多くのダンジョンマスターはマスタールームって言っているね」

「ダンジョンマスター?」


 聞けば聞くほど分からなくなる。

 ダンジョンマスターなどという職業は本で読んだことがないし、聞いたこともない。

 意味を理解できなくて首を傾げる。


「ん~言葉だけより、見ながらのほうがいいかな」


 すると、私とルクスの間に数々のモニターや、何やらグラフのようなもの。立体的な蟻の巣が入り組んだような迷路などが表示される。

 モニターにはさっきまで私がいた、ダンジョンのような洞窟の中が映し出されており、魔物が動いているのが見て取れる。


「ダンジョンマスターっていうのはね、ダンジョンを管理している人のことなんだ。自分でダンジョンの罠や魔物を配置したり、層の拡張や装飾なんかを自由にできるんだ。まぁ自由に出来るって言っても、正確にはポイントが無いと出来ないけどね」

「はぁ……」


 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事であろう。

 ルクスが何か手を動かすたび、目の前のモニターなどが変化していく。


「その――ダンジョンマスターの助手っていうのは、何をしたらいいのですか?」

「実はこのダンジョンはちょっとした試作品でね。今日でここを離れて別の場所に新たに造ろうかと思っていたんだ。だからノーラは、ダンジョンを造るときのアイデアとかする感じかな。後は段々決まってくるよ」


 すると、一つのモニターで冒険者と魔物が戦っていた。私が見ているのに気付いたのか、ルクスが手を動かすとモニターが大きくなる。

 冒険者は三人、魔物は一体だ。冒険者はうまく連携を取り、無事魔物を倒せた様だった。


「ダンジョンだから当然こういった事もある。場合によっては、自分が配置した魔物や罠で人が死ぬこともね」

「何でダンジョンを造るんですか?」


 何故わざわざダンジョンという大きな仕掛けを造るのだろうか。別にこんなことをしなければ、誰も死ぬことはないのに。


「その質問に答えるのは難しいね。ノーラはまだ赤ちゃんだから、こんなこと言うのもあれだけど……。その問いを人間でするとしたら『何で貴方は生きているの?』と同じ様なものかな」

「なるほど」


 確かに、何で生きているかといきなり質問されても、具体的な答えは浮かばない。


「まぁ強いて言うなら、他のダンジョンマスターとの競争かな」

「他のって……ああ。ダンジョンって確か、沢山ありますもんね」

「そうだね。ダンジョンマスターもそれと同じ様に沢山いて、毎年何度か集会があったりするんだ。その時に、ポイントが多く稼げるダンジョンマスターほど凄いみたなのはあるね」

「へぇ~」


 私の知らない世界の話なので、次第に引き込まれる。家にいる時もよく、外に出してくれなかったので一日中本を読んだものだ。

 ここでルクスは一つ、大きく咳をすると。


「それで何だけど、僕の助手になったら当然ダンジョンを造る手伝いをする。そしたら人が来て、君の配置した魔物や罠で死ぬこともあるだろう。それでも君は、僕の助手になるかい?」


 死か。でも死って――。


「はい。私はまだ、死と言うものにそこまで思うものはないです。ダンジョンで目を覚ました時も、どうせなら寝ている間に殺してくれれば、何て思っていました。そういった所は未熟で、そもそも帰る場所もないので、是非助手にして下さい」


 ぺこりと頭を下げたつもりだが、ルクスから見たらただ赤ちゃんが首を前に倒した様に見えただろう。


「それならよかった。これからよろしくね。ノーラ」

「はい。よろしくお願いします。マスター」

「別にルクスでいいよ。じゃあ早速次のダンジョンをどうするか意見を言い合おう。僕の中ではもう決めていたんだけど、ノーラが来てくれたからね」

「はい。それじゃあ早速ですが、ルクスの決めていたダンジョンは――」



 ▼ △ ▼ △ ▼


 ――ダンジョン都市ハーフェン。

 この都市を象徴しているのは何といっても、その呼び名にも付いているダンジョンの存在であろう。


 実は元々、ハーフェンにダンジョンは無く、都市というよりちょっとした街ぐらいの規模だった。

けれど五年ほど前に突如として起きた、ダンジョンが構築される際に発生する地震。

 調査の結果、街のすぐ横に地下ダンジョンへの入り口が発見された。


 若いダンジョンは基本的に六層~十層だと言われているが、敵の強さや一層ごとの広さには幅がある。

 調査隊が組まれ、死ぬかもしれない恐怖に怯えながら、中に入った兵士と研究者達は度肝を抜かれた。


 敵がいる訳でもなく、地下の様にゴツゴツしている訳でもなく、迷路のように入り組んでいる訳でもなく、なだらかな地面に草木が生い茂った自然があったからだ。

 上を向くと地下とは思えない青空が広がり、太陽が存在していた。


 このことに一番興奮したのは研究者だ。一般的なダンジョン、特に若い間は地形をそのまま活かし、攻略を困難にするかのような入り組んだ迷路になっている。

 けれどこのダンジョンは、若くして地下とは思えないような空間。草木はまだしも、まるで外にいるかの様に風まで吹いている。


 今までのダンジョンにもこの様な地形はあった。だが、そのダンジョンに共通して言えることはただ一つ。


 高難易度ダンジョン――。


 しかもその深層付近でしか、このような地形は見つかっていない。

 そして一つの疑問が浮かび上がる。何故魔物がいないのか。

 ダンジョンには魔物が必ず徘徊している。安置が存在することもあるが、層全てが安置など聞いたことがない。


 最大限の注意を払い、調査隊は下層への階段を探す。途中で川を発見し、水のサンプルなどを回収していく。

 無事階段を見つけ下層に降りると、突如として風景が変わる。それは一般的な地形をそのまま活かした、若いダンジョンによくある迷路のように入り組んだ構造。

 初めて魔物が出てきたが、それは駆け出し冒険者が相手にするような雑魚だった。

 このまま進めそうな気もするが、調査隊は深追いすることなく一度地上に戻ることにした。

 今回の目的は研究者を入れた軽い調査であり、ここは高難易度ダンジョンなのだから。


 この事はすぐさま報告され、調査を兼ねた攻略隊が組まれるまでにそう時間はかからなかった。

 そして研究者達は、ダンジョンから持ち帰ったサンプルを調べていく。


 持ち帰った土や水を調べた結果、異常は見当たらず魔力の内包量も基準値。それどころか土には多くの栄養が含まれ、ダンジョン内で生活できると判明した。

 一般的なダンジョンは内包魔力が多すぎて毒となってしまうことや、そもそも魔物が出現するので生活出来ないといった問題があるのだが。


 これによってハーフェンは一気に栄えることとなる。一層目で育てた、他とは比べられないほど美味しい食べ物。一級品ともいえる木などの材料――。

 それらを求めて外から多くの旅人や商人、職人がやってきた。

 そして攻略隊として送り込んだ三十人は……五年後の今も、誰一人帰ってこないという。


 ついでと言っては何だが、このハーフェンには変わった少女がいると噂だ。その少女の髪は金色でサラサラとしており、クリッとした大きな瞳は草木のような深い緑色である。

 決まった時間に市場に顔を出して、野菜など買い物をしていく一見普通の少女。

 けれど、その少女を市場以外で見た者はおらず、家すら誰も知らない。興味を持って後を付けた者もいたが、いつの間にか見失うという。



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