短編『幼馴染な勇者と魔王』
注意事項
・全てタイトルとあらすじ通り
・描写力を上げるために奮闘中
・ガバガバ人称
・どんな話の展開になるかは気分次第
・最終目標は満足できる連載小説を書く
異世界転移――というものを皆さんはご存じだろうか。
分からない人の為に簡単に意味を言うと、読んで字の如く異世界に転移することだ。
何故そんな事を聞いたか? 今回の登場人物に異世界転移をした人がいるからだ。いや、正確には今は人になったと言うべきであろう。
今から始まるお話は、ちょっと加減が分からなくて世界を滅ぼしかけた、元勇者と元魔王の物語である。
▼ △ ▼ △ ▼
雲一つない空。
月が沈んで太陽が昇ると、次第に村の中が明るく照らし出される。
「ん~っあ~」
窓から差し込む朝日に顔を撫でられて起きる少女。ベッドから体を起こすと大きな伸びを一つし、半開きだった目が徐々に開かれる。
寝癖で少しぼさっとしたセミロングの赤い髪。その髪に負けず劣らずな赤い瞳が特徴的だ。
十歳にしては大人びており、少しもちっとした体系を見れば、その可愛さに大抵の男は惚れ込むであろう。
まだ眠いのか、目を擦りながら起き上がると、机の引き出しに手を伸ばす。中から木製の櫛を取り出し、鼻歌を歌いながら軽く髪をすいていく。寝癖が残っていないか念入りに確認をすると、リビングへと向かう。
「おはよう、母さん」
「おはよう、マオ」
少女の名はマオ。この世界に転移してきた元魔王だ。
「朝ご飯は何を作るの?」
「今日は貴方が大好きな肉じゃがを作るわよ」
「母さんの言い方って何か引っかかる」
言い方が気に入らないのか、頬をぷくっと膨らます。マオも本当は母さんが何と言いたいのかを理解している。貴方の彼氏が大好きな肉じゃがを作るわよ。そう言いたいのだと。
けれどそれは、毎日の様に行われる恒例の挨拶みたいなものであり、追及することなくマオは母さんの隣に立って肉じゃがを作る手伝いをする。
家庭は父さんを合わせた三人家族だが、マオが切り分けている野菜の量を見ると明らかに多すぎる。
だが母さんはそれを止めることなく、切りやすいように野菜を洗い、ジャガイモの皮などをむいていく。
トントンと慣れた手つきで切る様は、毎日の練習の成果といえるだろう。
「うわぁ~作りすぎちゃったぁ~」
「あら本当ぅ~これはお隣さんに御裾分けしないとねぇ~」
美味しそうな肉じゃがを作り終えた後、物凄く棒読みで言うマオと母さん。
手元にまるで用意されていたかのような容器に、肉じゃがを取り分けていく。
「行ってきます」
「気を付けて行ってらっしゃい」
マオは肉じゃがを取り分けた容器を持つと、お隣さんに御裾分けするために外に出る。
外はもうすぐ冬になるため風が冷たい。白い息を吐きつつ、十秒ほどで着いた隣の家のドアをノックする。
「あらマオちゃん、いらっしゃい。寒いでしょ。入って入って」
「お邪魔します」
出迎えてくれたのはマオの幼馴染――もとい彼氏の小母さんである。
「今日は何を御裾分けしにきたのかしら?」
「今日は肉じゃがですよ」
「まぁ、それはあの子が喜びそうね」
リビングに向かいつつそんな会話をする。
中に入ると朝食は用意されていたが、まだ誰も席に着いていなかった。
マオが小母さんに肉じゃがを渡すと。
「あの子も父さんもまだ寝ているのよ。丁度起こしにいく所だったから、マオちゃんは将来の旦那さんを起こしにいってあげて」
「もう小母さんったら」
少し嬉しそうに怒ってからリビングを後にするマオ。
既に部屋を把握しているのか、二階の一番奥にあるドアの前に立ち止まるとノックする。
だが返事はない。試しにドアノブをひねってみると、鍵はかかっておらずゆっくりと開いていく。
部屋のベッドの上には、一人の少年がマオに背を向けて寝ていた。
少年の名はユウヤ。この世界に転移してきた元勇者だ。
マオはユウヤに近づくと、すぐには起こさず耳を立てる。ユウヤから聞こえる寝息はわざとらしく、寝たふりをしているのだろうと予想がつく。
「ほらユウヤ、起きなさい」
まずは声を掛けてみたマオだが、ユウヤは寝たふりを続けるつもりかピクリとも動かない。
「起きなさ~い。朝ご飯が冷めちゃうわよ」
マオがゆっさゆっさと揺すると、流石に観念したのか。
「寝させてくれ、俺は今眠いんだよ。それと何で、こんな朝っぱらからマオが俺の家にいるんだ」
「朝ご飯を作りすぎちゃったから御裾分けしに来たら『将来の旦那を起こしてきてあげて』って、貴方のお母さんに言われたからよ」
「お前っていっつも作りすぎて御裾分けにきてないか? それより、何言ってんだよ母さんは……」
二人が住んでいる村は二百人ほどの小さな村で、交流を大切にしている。ユウヤとマオは産まれた日も時間も同じで、小さい頃からしょっちゅう一緒にいる。それは大きくなっても変わらず、その姿を見れば付き合っているのだろうと大体の人は察しが付く。
二人も特に否定はせず、実際付き合っているので間違いではない。そのため、村中で二人は将来結婚すると話が飛躍しているのだ。
けれど村人達は知らない。二人の前世が勇者と魔王であると。
ユウヤは大きなあくびをした後、だるそうにしながらも上体を起こす。
金色でつやがあるマッシュな髪。青く透き通った瞳は一切の濁りがない。ベッドでだらだらしている割に体はしっかりと引き締まっており、それなりに鍛えていると分かる。
このままいてもマオが離れないと観念したのか、ようやくベッドから這い出る。
「ダラダラしてみっともない。あの時の勇者らしさは欠片もないわね」
「お前だって魔王の欠片もないだろ」
「種族が違うんだから当然でしょ」
「はいはい。あれ……」
勢いよく立ち上がると、軽い目まいに襲われて倒れそうになるユウヤ。
それをマオはしっかりと受け止めた。傍から見れば二人が抱き合っているようだ。
「しっかりしなさいよ」
「ああごめん、目まいがしただけだから」
「あらあら。遅いと思って来てみれば、朝からお盛んね」
「小母さん!? これはその……」
丁度そのタイミングを見られてしまい、マオは取り乱す。
「ふふっ、早く下に降りてきなさいよ」
けれど弁解しようとする前に、小母さんは一階に降りて行ってしまった。
ユウヤはその様子を見て溜め息をつく。
「別に付き合っているのは村中で知られているんだから、今更慌てる必要もないだろ」
「そうなんだけど、人族になってから気持ちの変化というか、感情の操作が難しいのよね」
顔を赤くしながらもじもじと言うマオ。
「操作って……素直に感情を出せばいいだろ。俺は今のマオの方が好きだぞ」
ユウヤが何でもないように言ったその言葉を聞いて、マオの心拍数はさらに上がる。
それは魔族の王として君臨していたときには、一度も感じたことがない気持ち。転移をして人族になってからは、感情が豊かになったとマオ自身実感している。そして、ユウヤの事が好きという気持ちも前以上に強くなっているとも。
「俺も腹が減ったし、朝ご飯を食べるか。そう言えばマオ、お前はもう朝ご飯を食べたのか?」
「あっ!まだだった」
――グウゥゥッ
朝ご飯をまだ食べていないことに気付くと、途端にマオのお腹が鳴る。咄嗟にお腹を押さえるが、防ぐことは叶わなかった。
けれどユウヤは特に気にした様子もなく。
「じゃあさっさと食べにいけよ」
呆れたようにそう言って部屋から出た。
置いていかれて慌てて追いかけるマオ。
「肉じゃがを食べた感想を聞いてから家に帰るわ」
「おっ! 今日の御裾分けは肉じゃがか」
▼ △ ▼ △ ▼
この世界において、勇者と魔王の存在を知らぬ者は誰もいない。
勇者―――それは、人族最強の戦闘力を有した人間。
魔王―――それは、魔族最強の戦闘力を有した悪魔。
人族と魔族は互いに知性を持ち、言葉を操った。
だが、決して協力関係を結ぶことはなかった。
どちらが先に仕掛けたかは定かでなく、大きさは様々であるが毎日の様に人族と魔族は衝突していた。
時には人族が勝ち、時には魔族が勝ち……。
そんな争いが少なくとも数百年は続いていた。だが、次第に数と強さで勝る魔族が押し始めた。けれど人族はこの事を予想していた。寿命が圧倒的に短い人族は切り札を――勇者を育てていた。
強い男と女を掛け合わせ、何代にも渡って遺伝子を受け継がせ。
遂に完成した最強の勇者を投入した初めての戦いでは、あれだけ苦戦を強いられた魔族の軍隊をあっさりと押し返した。
その強さは人族の領域を遥かに超え、魔王すら倒せるのではないかと言われた。噂は人族のみではとどまらず、魔族全土にまで広がる。
そしてある時、人族の王はある決断を下す――。
「勇者よ。この長い戦争に終止符を打とうではないか。この聖剣お主に授ける。魔王を打ち滅ぼしてこい!」
「仰せのままに」
そう、最強と言われる魔族の王。魔王の討伐――。
この戦いに勝利すれば、人族の勝利は間違いない。だが逆を言えば、負ければ敗北が確定する。
勇者と呼ばれた男は聖剣を授かり、一人魔王城へと向かった。
いや、勇者の速さに付いて行ける者が、誰一人いなかったと言うのが正しいだろう。
そしてある時、魔王城の一室で不敵に笑う悪魔がいた。
「フハハハハ、遂に勇者が本格的に動き出したか」
「魔王様。我ら四天王も御供します!」
「よい。勇者はどうやら一人でくるそうじゃないか。ならばこちらも私一人で向かおう。何のためにここまで泳がせたと思っている。どちらが最強か、白黒つけてやる」
魔王と呼ばれた女は報告を受け、まがまがしい王座から立ち上がる。
「しかし・・・」
「私が負けるとでも?」
その目は本気だった。例え四天王であろうと、邪魔をする者は全て抹殺するという目。威圧されたのが四天王でなければ良くて気絶、悪くて死んでいただろう。
「いっいえ! そのようなことは!」
「ならば、よいではないか」
その言葉を最後に一人窓から飛び出し、勇者の下へ向かった。
▼ △ ▼ △ ▼
真っ赤に染まった空。そこで対峙する勇者と魔王がいた。
「よお。まさか空の上で会うとはな。この尋常ではない魔力、お前が魔王だな?」
「私を唯一倒せるかもしれないと言われる、勇者が動いたと聞いたのでな。お主こそ中々の魔力ではないか。折角の機会だ、どちらが最強か決めぬか?」
「元よりそのつもりだ!」
勇者は光速で魔王に肉薄し、常人では捉えきるのが不可能な速さで聖剣を振り抜く。
だが、魔王の剣によって防がれる。
「ほう。この聖剣で切れない魔剣がまさかあるとはな」
「こいつは私の血と魔力をたっぷりと吸い込んだ魔剣だ。聖剣ごときで切れるはずがない」
「面白い、初めて全力で戦えるかもしれないな!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう!」
互いに一旦距離を取り、次の瞬間には勇者と魔王の姿は掻き消えた。
いや、違う。剣がぶつかり合う金属音。魔法がぶつかり合う爆発音。光速で飛翔することによって生まれるソニックブーム。
確かにそこに存在している。
全力で戦える相手に初めて出会えた。その気持ちが互いに芽生える。
勇者は代々強い者同士が掛け合わせることによって生まれた。遺伝子もまた、子孫を残すために強い異性を求めていた。
それは魔王も同じであると言えた。
何十、何百年の間トップに君臨し、最早周りは雑魚ばかり。自分はあくまでも傍観と指示に徹し、この勇者が誕生することを待ち望んでいたのだ。
そして悪魔も人間同様、子をなす。魔王もまた、子孫を残すために強い異性を求めていた。
「こんな関係じゃなければ、お前を愛したかもしれないな!」
「動揺を誘っているのか? だが一理あるな。これほど胸の高鳴りが止まらないのは勇者、お前が初めてだ!」
「俺もだよ、魔王!」
いよいよ最終局面に入るのか、魔王は特大魔法を詠唱し始める。
「勇者。お前に私を楽しませた褒美をやろう」
「ほう? どんな褒美だ?」
「見る方が早い。ヒュージ・ミーティアシャワー!!」
魔力で練り上げた巨大な隕石が頭上に多数出現し、落下を始める。しかしその数と速度は、自滅につながりかねない過剰で強力な威力――。
「だったら俺もお返ししないとな。今日初めて使うが、とっておきの禁断魔法を使ってやるよ!」
「禁断魔法だと!?」
禁断魔法はその使用魔力から常人では一生再現が不可能とされているが、理論上では可能だと言われる超高火力魔法。
必要魔力と必要制御能力が特大魔法の比ではない。
だが先ほどまでの戦闘で、この辺り一帯は大量で高濃度な魔力が放出されて歪んでいる。しかも勇者本人の保有魔力も底が知れない。この状況なら――。
「ホーラブル・コンプレーション!!」
辺りに漂っていた高濃度の歪んだ魔力が、勇者の制御によって一瞬で極小まで圧縮される。
それによって、全てを吸い込むブラックホールが形成され――。
ぷつりと意識が途絶えた。
▼ △ ▼ △ ▼
「ここは……何処だ?」
勇者と魔王が目を覚ますと、何もない真っ白な空間だった。
「魔王、どういう状況だ」
「分からない。気付いたときにはここにいた」
二人が所持していた武器は全てなくなっており、詠唱をしても発動しない。つまり、勇者と魔王すらも凌駕する何者かがいることになる。
一時争うことは止め、辺りを警戒する勇者と魔王――。
「どうやら目が覚めたようだね」
突如として二人の目の前に人族の青年が現れた。真っ白なローブを着用し、髪も目も何もかもが白かった。
「今のは……」
「まさか……時空間魔法か?」
時空間魔法――それは勇者と魔王ですら不可能な、一流の研究者ですら解明できていない、おとぎ話に出てくる魔法だ。青年は一瞬にして移動する時空間魔法の一つ、テレポートを使ったように二人は見えた。
「そんなにも警戒しないでくれるかな。取り敢えず、僕の自己紹介をしておこう。僕は君たちの世界を管理している神だ」
「神だと?」
二人は青年の言葉を笑ったりはしない。勇者と魔王の力を封じ、時空間魔法の様なものを使いこなす。寧ろ神であると言われる方がしっくりくる。
「その神が私と勇者に何の用だ?」
「話が早くて助かるよ。君達をここに呼んだのは、あのままだと世界が崩壊しそうだったからだね」
「世界が崩壊だと?」
その言葉を聞いて、勇者は首を傾げる。
「おいおい勇者、君が一番の原因なのに気付ていないのかい。魔王もやりすぎな所があったけど、君の禁断魔法をあのまま発動したら、確実に僕の世界は滅んでいたよ」
「そんなにも強力だったのか」
勇者自身、そこまで魔法の意味を理解していなかった。ただ研究者に「こんな禁断魔法は勇者の君でも多分できないよね」っと、軽く方法を見せられた程度だったからだ。
「まぁ僕の管理が甘かった所もあるよ。禁断魔法の存在も知っていたけど、どうせ出来っこないと思っていたしね。けど出来てしまった。魔王も今まで派手に動かないから見逃していたけど、あんな特大魔法はあの世界では過剰すぎる。だから――」
神は咳払いすると。
「――二人には僕が用意したもう一つの世界で、生まれ変わってもらう」
「もう一つの世界で?」
「生まれ変わる?」
何を言っているのか今一理解できない勇者と魔王。
「まぁ今回は僕のミスだ。初めて作った星だったし、退屈だからって魔族まで作ったがそもそもの間違いだった」
「魔族を作ったのが間違い?」
魔族と言う言葉を聞いて、いち早く魔王が反応する。
「ああ、こっちの話だから気にしないで。君達が転移するのはほとんど今まで通りだが、魔法に関しては大分調整してある。それと一番大きい変化は、魔族がいないことだね。その変わり、他の種族を増やしてみたから楽しんで行ってよ」
神は何でもない事のようにサラッと、とんでもない事を言っていく。
「ちょっと待て、魔族がいないのなら私はどうなるのだ?」
「魔王はそうだね……。勇者と同じ人族にしようか。同じ境遇どうし、すぐ出会えるほうがいいから、それはこっちでやっておくよ。もう時間だから、じゃあね」
再び二人の意識は途切れた――。