プロローグ
可哀想だなぁと思ってたんだ。
ただ愛されたかっただけなのに。
愛されたことがないからやり方を間違えてしまったたけなのに。
あんなに寂しがりだったのに。
たった一人で孤独に逝ってしまったユーフェミア。
ユーフェミアはいわゆる乙女ゲーの悪役令嬢。
月光のようなプラチナブロンドに夜明けの空のような暁色の瞳を持つ、とびっきりの美少女だけど。
お約束の自己中わがままな女の子。
物心つく前に母親は亡くなり。
父親の侯爵は宰相の仕事と女遊びに忙しく、一人娘のことはまったく眼中になし。
そんな寒々しい家庭環境だったから愛されることも愛することも知らず。
9才のときに父親が再婚したときも、継母ともその連れ子とも打ち解けられなかった。
そのまま15才になり学園に通い始めると同時に、顔も性格も平凡だけど癒し系なヒロインが登場。
義兄も幼馴染みの騎士団長の息子も学園で知り合った王子たちも、みんなヒロインに惹かれてしまう。
焦ったユーフェミアはヒロインに嫌がらせをしまくって。
ヒロインと結ばれた相手に断罪され修道院に送られ。
そこで18才という若さで病死してしまうのだ。
あんなに綺麗で若かったのに。
ああ。あたしがユーフェミアの中に入ってたら。
絶対にあんな結末にはしなかったのに。
あたしは世間一般で負け犬と言われている独身アラフォー女だ。
仕事もやりがいがあって収入も多かったし趣味もたくさんあって家族や友人にも恵まれて。
周りの反応などどこ吹く風とばかり人生を満喫していた。
両親は10年前に亡くなったけど、たくさんのことをあたしに教えてくれたし与えてくれた。
交通事故で突然人生終わっちゃったんだけど、全く後悔とかなかったくらい充実してた。
そんな風に40年近くを、たくましく図太く楽しく生きてきたあたしなら。
幼い孤独なユーフェミアには不可能だったことを可能にできる。
うまく立ち回ることができる。
あたしが今ここにいるのって。
そうゆうことよね。
胸元で握りこぶしをにぎると、鏡の中のユーフェミアそっくりの少女も同じ動きをする。
交通事故で人生終わったはずのあたしがここにいる。
幼いユーフェミアの中に。
目が覚めたらこの状況だった。
鏡に映った自分を見たとき、そこに乙女ゲーのスチルと同じ7才のユーフェミアの姿があって。
瞬時に状況を理解した。
転生ものの小説とかもよく読んでたおかげで。
戸惑いもなくパニックになることもなく全てを受け入れられた。
何よりも嬉しかった。
これでユーフェミアを幸せにしてあげられる。
中身アラフォーの美少女は、胸元で握りしめていた拳を天井に向かって振り上げた。
「よっしゃー!やったるでー!」
その数秒後、何事かと驚いた護衛の騎士やメイドたちが部屋に雪崩れ込んできたのは至極当然のことであった。