表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼侯爵と愛の霊薬  作者: 橘 千秋
第二章
39/57

37話 美の探求者は敵国で暗躍する

本日3話目


 次の日から、ロザリンドの異母弟――シリウスは授業に来なくなっていた。

 そのことに、ロザリンドは疑問が尽きなかった。


 どうしてシリウスはロザリンドの授業を見学しに来ていたんだろう?


 ロザリンドは血縁上彼の姉だが、シリウスとは関係のない人間だと思っていた。

 何故なら、ロザリンドがエレアノーラ学院に送られた時に彼は生まれておらず、シリウスが生まれてからもロザリンドはセルザード伯爵家へ帰ったことは一度もなかった。


 継母によって、育てられた彼がロザリンドを姉だと思う訳がない。

 だから、義務的な付き合い以外で会うことはないと思っていたのだ。



(……でも、シリウスはわたしに会いに来た。わたしのことを慕っている訳でもなかったけれど……)



 知ってしまい、言葉を交わしたのならばロザリンドにとって、シリウスは他人ではなかった。

 どれほど嫌われようとも、彼は弟なのだ。


 だから、ロザリンドはシリウスに謝りたかった。

 たとえその結果、自分という存在を否定されようとも、ロザリンドにとって姉弟は彼しかいない。



「……はぁっ、はぁっ、もう、どこにいるの……?」



 学院中を走って回るが、シリウスは一向に見つからない。

 ロザリンドは貧弱な身体に鞭を打ち、息を乱しながらシリウスを探し続けた。



「こんにちは、美しい人」


「え?」



 突然かけられた声に驚き振り向けば、紅い薔薇を一輪差し出される。

 ロザリンドが訝しんでいると、薔薇を持った青年がクスクスと笑い出す。



「驚いた顔は可愛いね。美しい人には、花がよく似合うよ」


「……ありがとう」



 迷ったが、薔薇に罪はないので、ロザリンドはそっと青年から薔薇を受け取った。


 ふわりと甘い香りが鼻孔をすり抜け、僅かに既視感を覚える。

 確かこの間、ウィリアムからプレゼントされた香水も同じ香りがしたはずだ。



(だめだめ! 今は別居中。愛の充電期間なんだから)



 ウィリアムのことを考えると、胸が苦しくなる。

 どうしてロザリンドに会いに来てくれないのだろう。シャーリーとの関係は? 愛しているという言葉は嘘だったの? 

 ぐちゃぐちゃとした思いが混ざり合い、ロザリンドの眦から涙が零れた。



「ああ、泣かせるつもりはなかったんだ! しかし、君の涙は水晶のように澄んだ輝きに満ちている」


「……ごめんなさい。大丈夫、なんでもないです。気にしないで」



 青年がロザリンドの頬に触れようとしたが、すっとそれを躱すと袖口で涙を拭った。

 気を悪くさせるかもしれないとロザリンドは思ったが、少年は内心を覗かせない微笑を浮かべたままだ。



「君はロザリンド・ヴァレンタイン侯爵夫人?」


「……わたしのことを知っているのですか? 初めてお会いしたのに?」



 ロザリンドは一度見た者は忘れない優れた記憶力を持っている。

 だから、青年とは今日が初対面だと断言できた。



「まあね。会ってみたいと思っていたから」


「……何故?」


「美しい人はそれだけで宝だからだよ! 美しいことは正義だ! どんな人だって、美しさの前でなら跪く。なんと罪深いんだ……!」


「正義で罪? 理論が破綻している」



 突然熱く語り出した青年を不思議に思い、ロザリンドはこてんと首を傾げた。

 青年はそれを見ると、パーッと目を輝かせるが、すぐに咳払いをして真剣な顔を作った。



「まあ、それはそれとしてだね。君はもしかして、シリウスを探しているのかい?」


「彼を知っているの?」


「ああ。僕は他国の出身でね。セルザード伯爵家に滞在しているんだ。今日はシリウスに会いたくて、このエレアノーラ学院に来たし」


「……どうして?」



 青年はセルザード伯爵家と関わりがある。

 そう思うと、ロザリンドの心には青年に対する警戒心を表さずにはいられない。



「シリウスが美少年だからだよ! 男の美は僕自身以外認めないけれど、少年と女性は別だからね!」


「……そうですか」


「シリウスは今、学院にいないよ。僕が乗ってきた馬車で、セルザード伯爵家へ帰った。どうやら伯爵夫人がお怒りのようでね」


「……何故、貴方も帰らずに学院に残っているのですか?」



 この青年は何者なのだろう。セルザード伯爵家に滞在しているということや、紳士的な所作から上流階級の身分であることは明白だった。

 エレアノーラ学院に他国の者を招待したことは、ロザリンドが学園に来てから一度も聞いたことがない。



「しばらく、このエレアノーラ学院を見学させてもらうからだよ。もちろん、女王陛下にも許可はとってある。僕は何も遊びでこの国に来たわけではないから」


(……女王陛下は、何を考えているの……?)



 彼女は物事の先の先まで見通すことのできる、革新的な執政者だ。

 それならば、ロザリンドを学院へ送ったことも、この青年と出会ったことも偶然ではないのかもしれない。



「僕はアルド子爵。フランレシア王国の敵、ベルニーニ神国からやって来た、しがない美の探求者さ。きっと君とは長い付き合いになるだろう。無関係という訳ではないし。だからよろしくね、黄金の聖女殿」



 アルド子爵から差し出された手を、ロザリンドは握ることができなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ