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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

忘れられない

作者: 須谷

友人からのリクエスト。

同窓会話です。

 なつかしい中学時代の恋心。

なんでそんなものが、24になった今引っ張り出されてしまったのか。

 それは、中学3年生の時に生徒会役員だったやつが突然同窓会を企画しやがったからだ。

そのうえ律儀にもクラスほぼ全員の予定を合わせやがった。

中学校の時から変わらず、そういうところは息ピッタリな3年1組であった。

 …そして要は、俺の好きだった奴は中学3年生の時同じクラスだったやつってこと。で、その人も同窓会に来るってわけだ。

 俺はすきだったと過去形でいいつつも、いまだにその中学生時代の恋心を頭の片隅で引きずっている。

ずっと会っていないから、それがちゃんとした恋愛感情の好きなのかは自分にもよくわからないけれど。

しかし今の自分の恋愛がそいつによって、進んでいないことは紛れもない事実であった。

 だからこそ、あんまり会いたくはなかった。もしまだ好きだったら、余計に恋愛ができなくなってしまうだろうから。

 

 

 はるばる東京から新幹線に乗って京都にやってきた。大学から東京に行ったので、京都に来るのは6年ぶりぐらいだろうか。

 懐かしい京都の空気。ビルも少なくて落ち着く。

 さっそく京都駅から少し電車に乗って目的の駅に行く。会場はその駅から歩いて少しのところにあった。

 会場の居酒屋に着くと早速、中学生のころからやたらとクラスメイトを仕切っていた谷下に声をかけられた。同窓会を企画した張本人である。

どうも昔からこいつがあんまり得意ではないのは、ここだけの話。

「久しぶりやな~、荻!もう皆だいたいそろってんで。」

「おう、ありがとう。」

 谷下もだいぶ年を取ったな~なんて思いながら、店の中へ足を進める。

するとさっそく、俺の好きだった…宮田が目に入った。その周りには、中学時代一緒に遊んだ3人もいる。

 宮田は俺と目があってすぐに、あのころと変わらない楽しそうな声を俺に向けた。

「よ!久しぶりやな~荻!お前も年取ったな!」

へらへらと笑ってくる宮田。

そういえば自分は関東で就職したからすっかり標準語になじんでしまったけれど、こいつらはずっと関西にいるみたいから関西弁だ。

懐かしい雰囲気に、中学校の思い出がよみがえってくるようだ。

 宮田に対して、俺も冗談交じりに返す。関西弁はもううまくしゃべれないから、標準語で。

「お前も歳とってるじゃねぇか。まあ、あれから9年以上もたってるんだもんな~。」

 自分で言ってみて思ったけど、もう10年近くもたっているのだ。

それなのにあの頃のことを昨日のことのように思い出せるのは、ずっと宮田のことを想っていたせいだろう。

 やっぱり好きなんだな~と実感する。

「見事に関東色にそまったな。ま、立ってないですわれよ荻。飲も?」

 俺はそういわれて宮田の隣に座った。

 前には3人の旧友が座っている。こいつらも見ないうちに結構大人っぽくなったなと思っていたら、彼らも俺を見て年取ったなと笑った。

「お前らも人のこと言えないだろ?」

 俺も笑いながら返すと、昔話が始まる。

 

「あのころは結構やんちゃしてたけど、今じゃ酒飲むだけで満足できるなんて、ほんまに年くったって感じやわ。」

 前に座っていた長沢が言った。中学時代いじられキャラだったこいつも、今じゃすっかりただのおやじだ。

皆の発言一つ一つに、年を取ったことを実感させられる。

「本当だよな。中学校の時は走り回って遊んでたわけだけど、今そんなことしたら次の日が怖いよ。筋肉痛になりそうで。」

 14と24じゃ大きな差である。昔は大人になりたいと思ったものだが、今じゃ毎日子どもの体力がうらやましくて仕方がない。

「ほんまやな~。俺も、デスク仕事ばっかで肩こって、そもそも走れるかどうかも危ういわ。腕ふって走るなんてとんでもない。」

 宮田も仕事をがんばっているようだ。みんな一生懸命なんだなと思う。

 もう、会話が年齢しか感じさせない。

 

 30分程度男5人で話していると、いつもクラスの中心にいたような女子3人がやってきた。

俺が苦手とする、きゃぴきゃぴしたうるさい女子である。

「なぁなぁ~、そっちの3人席変わってくれへん?せっかくやし男女混ぜようってことになってんけど。」

 こいつらも根は変わってないな~と思いながら前の3人を見ていると、もちろん彼らは女子には逆らえないからへこへこと去って行った。

 そして代わりに3人の女子が前に座った。

相変わらず俺のとなりは宮田である。

 すると、女子の中の一人、石上が宮田に対して話し出した。

「なぁ宮田~。いま付き合ってる人とかおらんの?」

 やっぱり女子は恋愛の話が好きな生物なのである。

いつもなら面倒くさいなと思うけれど、今日にいたっては宮田の恋愛事情が聴けるということでかなりテンションが上がる。

 なんだかんだ言ってやっぱり宮田がいまだに好きな俺である。

「おらんな…。就職してから少ししかたってへんのに恋愛なんてしてる暇ないねん。」

 その言葉を聞いてひっそり俺は喜んだ。

もっとも、それを口にすることは一生ないのだろうけれど。

「なぁ~あたしいま付き合ってる人おらんねんけど、どう?」

 なんて図々しい女なんだろう。

ちょっといらっときたけど、そこは大人の対応というやつで嫌な顔一つせず聞いてるふりをする。

まあ宮田がどうこたえるかは気になるからいいのだけれど。

「ごめんな~、今は仕事頑張りたいねん。」

 やさしく断った宮田に石上は笑って言う。

「冗談やって~!何真に受けてんの~?」

 絶対本気だっただろうに、そうやって流すのは女のプライドゆえだろう。

宮田もそれを察してか、そりゃそうやんな、なんていいながら笑っていた。

 昔ならこうやって落ち着いた対応なんてできやしなかったんだろうな。

やっぱりみんな大人になったんだなと改めて実感した。


 俺もクラスのいろんな人と話して、同窓会の時間を過ごした。

昔を懐かしみながら過ごす時間はひどく短く感じた。

 あっという間に1次会は終わり3分の1ぐらいの人間が2次会になだれ込む。

宮田がお前も来いよと言うので、俺も2次会に参加することになった。

 さっきとは違い人数が減ったので、特に大人数で集まることもなくみんな自由に話していた。

 そして俺も、成り行きで宮田と二人で飲むことになった。

「人へって静かになったな~。」

率直な感想を漏らすと宮田は笑った。

「昔っからお前ってクラスの真ん中にいるくせに、人と話すの得意ちゃうもんな。」

 中3の時もよくからんでいた宮田は俺のことをよく知っている。

そういえばあの頃、ひっそり宮田に色々と相談したものだ。

口げんかすることも多かったけど、口げんかは宮田としかしなかった。

「そうそう。なんか苦手やねんな…。」

「なぁ荻。お前さっき何も聞かれてへんかったけど、彼女、どうなん?」

 こいつも女みたいな生物らしい。

よく覚えていないけれど、たぶん修学旅行での男子部屋でコイバナを始めたのはこいつだったかもしれない。

「いねぇよ。女は面倒だから、もうすこしあとにしよっかなーなんて考えているところ。」

 本当は宮田のせいだが、それは言わない。

「なあ、それなら俺とかどう?」

「は?」

 突然、宮田は真面目な顔で変なことを言い出した。いつからこういう冗談をいうようになったんだろうか、こいつは。

「何冗談言ってんだよ。」

 冗談だったら怖いから、笑って返す。

でも宮田は、やっぱり真面目な顔をしていった。

「冗談ちゃう。俺は本気や。」

「でも…。」

「俺のこと信じられへん?やっぱおかしいかな、男が付き合ってくれなんて。…気持ち悪いよな…。」

 違う。いやなんじゃなくて嬉しいのだ。9年間引きずっていた思いがようやくはれそうなことが。

だからこそ、むやみに答えて、冗談だったなんて言われるのは嫌だ。

「本当に冗談じゃねぇの?」

 何度も確認する。しつこいほどに。

「俺はいつでも本気やで。」

 冗談ではなさそうだ。

俺は、10年もの間、頭の片隅に残っていた小さな恋心を引っ張り出す。慎重に慎重に。

「…なんで今なんだよ。」

「中学校の時から好きやったけど、引かれるのが怖くて。中学生やで?噂話なんか1日あれば学年中に回ってまう。やから何も言えへんかった。」

 確かに、思春期真っ只中の男というのは噂話が大好きだ。珍しければ珍しいほど、食いついてくる。

 でも、言ってほしかったなぁ…。

「…俺だって好きだったよ。中学校の時、ずっと。」

 言ってしまった。もう冗談だったと言われたとしても、口から出る言葉は止まらないだろう。9年間は長いのである。

 俺は訴えるように、でも声は荒げずゆっくりと、思っていることを口にする。

「お前が頭に残ってて、本当に好きかどうかもよくわからないのに誰とも付き合えなくて。いまさら言うなんてずるいだろ。」

「ごめん、でも俺お前が俺のこと好きだなんて思わなかった。普通に遊んでるだけやと思ってたから。」

 俺もそう思っていた。ずっとそういう関係でいると思っていた。

「なぁ荻。時間かかったけど、まだ間に合うかな?」

 珍しく心配そうな声の宮田。中学生のころじゃ絶対に発することができなかったような、そんな声。

「大丈夫だろ。間に合うんじゃねぇの。」

 宮田を見たら顔が赤い。たぶん俺も結構。

それなのに、すごい真剣な顔をしている自分たち。

すぐに笑いがこみあげてきて、二人で笑った。

「な、宮田。誰も聞いてないよな?」

 今更になって心配になった。

「大丈夫やろ、別に聞かれても。もうしばらく会わへんし。」

「確かにな…。」

 そういえばお互いの想いを知ったのはいいけど、これじゃ遠距離恋愛になってしまう。

「遠距離かぁ…。」

 そうつぶやくと、宮田が言った。

「そういえば、俺。上司に東京飛ばされるって言われてるんよね…。仕事部ぶりが認められてやな。」

「は?」

 本日二回目の”は”である。こいつは今日、俺を驚かせてばかりだ。

「じゃあ…。」

「遠距離ちゃうな。」

 恋が実っただけでも十分だったのに、また近くにいられるなんて思ってもみなかった。

 こんなうまい話があるなんて、世の中捨てたものじゃない。

「よろしくな~、荻!」

 笑顔で言う宮田に、やっぱりおれも笑って返す。

「ああ。できれば末永く。」

 

 俺の恋愛も、やっと動き出しそうだ。



続くかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大好き♡ ほんと好き♡ 暇になったら続き書いてねー♡
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